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手書きでマッピングできる! OSMの現地調査用地図印刷ツール「Field Papers」がリニューアル

 フリーな地理情報データを作る世界規模のプロジェクト「OpenStreetMap(OSM)」の現地調査用地図印刷ツール「Field Papers」がリニューアルした。

「Field Papers」トップページ

 同ツールは、PCや携帯端末が手元になくてもマッピングを行えるように、編集や修正を行うための紙地図を印刷するためのツールで、2012年5月に提供開始された。

 OSMは、Wikipediaのように、不特定多数の人が自由に地図データを編集できる仕組みになっており、それを編集するにはウェブブラウザー上で使える「iD」や「Potlatch」、デスクトップ向けの「JOSM」などのエディターを利用する。通常、エディターで地点情報を登録する場合は単体のGPSロガーやスマートフォンのロガーアプリなどを使用する必要があるが、GPSロガーを使わずに位置情報を記録する方法もある。それが、今回紹介するField Papersを使う方法だ。

 Field Papersは編集したい地域の地図を印刷用に出力できるツールで、ウェブブラウザー上で動作する。出力した紙地図に情報を書き込んで、iDやPotlatchなどのエディターに簡単に読み込ませることも可能だ。今回のリニューアルでは、出力用紙サイズが従来のレターサイズに加えてA3/A4も選択できるようになったほか、日本語を含む複数言語もサポートした。また、動作の安定化も図られている。

 地図の出力方法は、まず、Field Papersのトップページで「あなた自身の地図帳を作る」を選び、「Where in the world is your atlas?」の画面で地名を入力する。この際、英語表記だけでなく日本語表記でも検索可能で、検索結果として地図上に印刷範囲が表示される。上部のプルダウンメニューでは印刷用紙のサイズが選択可能で、「Letter」「A3」「A4」から選択できる。その横の選択項目では、「Landscape」(横)と「Portrait」(縦)を選択できる。

 マウスを使って地図上の枠線左上を掴んでドラッグすると印刷範囲を動かすことが可能で、枠線右下を掴んでドラッグすると印刷エリアの大きさを調節できる。また、枠線の下部と右横の「+」「-」をクリックすることで印刷するページ数を変更できる。

日本語での地名入力も可能
印刷範囲が表示
マウスドラッグで印刷する範囲を指定する
印刷するページ数を調節可能

 上部メニューでは地図の表示スタイルも選択可能で、デフォルトの「OpenStreetMap」のほか、「Black & White」(モノクロ)や「Satellite」(衛星写真)などさまざまな表示スタイルを選べる。なお、この中には、4月にネパールで発生した地震による被災状況を反映したクライシスマッピングの特別レイヤーも含まれている。

Black&White
Satellite

 これらの項目をそれぞれ選択し、「次へ」をクリックすると地図帳名およびテキストの記入欄が表示されるので、ここに必要事項を入力する。この際、「プライベート」にチェックを入れると出力した地図が一般公開されず、アドレスを知っているユーザーのみがアクセス可能となる。

 次にレイアウトを選択する。「地図のみ」と「マップ+メモ」のいずれかを選択可能で、UTMグリッドを入れるかどうかも選択できる。最後に「終了!」を押せば、レンダリングを経て地図が出力される。地図はPDFファイルの形でダウンロード可能できる。

地図名などを入力
レイアウトを選択
レンダリング中
ダウンロード可能となった地図
PDFファイルに出力可能
1ページごとに地図を出力
編集ツールで読み込むことも可能

 出力した地図に情報を書き込んだら、次はその地図のアップロードを行う。アップロードする際は、スキャナーを使って紙をスキャンするか、またはデジタルカメラで撮影を行う。アップロードする画像ファイルを用意したら、トップページ上部のメニューから「アップロード」を選んでファイルをアップロードする。「Field Papers」で印刷した地図には、位置を判別するためのQRコードが入っており、アップロードの際はこのQRコードを用いて位置を判別する仕組みとなっている。

 アップロードした地図はField Papersのサイト上で公開される。ほかのマッパー(OSMの地図編集者)が投稿した地図を見る場合は、トップページ上部メニューの「見る」をクリックする。ここでは、ほかのマッパーがField Papersを使って出力した地図を見られるほか、「スナップショット」をクリックすることにより、ほかのマッパーが手書き編集してアップロードした地図を見ることもできる。投稿は世界中のさまざまな地域から行われており、これらの地図を見て回るだけでも面白い。

ほかのマッパーが出力した地図のリスト
投稿された地図

 もちろん、スナップショットに登録されたファイルを選んで、「Edit in iD」「Edit in Potlatch」のリンクをクリックすることで、それらのエディターから投稿ファイルを参照することもできる。この機能を使うことにより、ほかのマッパーがエディターを使ってデータ編集を行うこともできる。

 つまり、エディターを使ってのデータ編集は、必ずしも投稿した人が行う必要はないということだ。この点について、OSMの活動を支える法人組織「オープンストリートマップ・ファウンデーション・ジャパン(OSMFJ)」の古橋大地氏(OSMFJ理事/青山学院大学教授/マップコンシェルジュ株式会社代表)に聞いてみた。例えば、「自分はエディターの使い方がよく分からないから、ひたすら手書きしてアップロードすることで貢献します」という姿勢で利用しても構わないのだろうか?

 「Field Papersだけを公開して、後は人任せというやり方も歓迎しています。そのような行為は通称“アップ逃げ”と呼ばれていますが、遠慮なく“アップ逃げ”してください!」(古橋氏)とのこと。なお、印刷した地図への情報の書き方については、現状は特にルールは決められてはいないが、ほかのユーザーが見ることも考慮して、できるだけきれいな字で記述してほしいという。

 なお、Field Papersの日本語化にあたっては、現在、古橋氏が代表を務めるマップコンシェルジュ株式会社のメンバーが中心となってボランティアで行っている。Field Papersの日本語化はまだ完全ではなく、古橋氏は「日本語化の作業は誰でも参加可能です。ぜひ一緒に改善していきましょう!」と呼び掛けている。

 Field Papersを使えばGPS機器や携帯端末を使うことなく手書きで地点情報を収集できるため、エディター操作のスキル不要でOSMに参加することが可能となる。子供の地理教育をはじめ、さまざまな活用方法が考えられるツールとして注目だ。OSMの編集をしたことがないという人は、まずはこのField Paperを使って地図を印刷し、身近な情報を書き込んで投稿してみてはいかがだろうか。

片岡 義明

IT・家電・街歩きなどの分野で活動中のライター。特に地図や位置情報に関す ることを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから法 人向け地図ソリューション、紙地図、測位システム、ナビゲーションデバイス、 オープンデータなど幅広い地図関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報ビッグデータ」(共著)が発売中。