中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」
ニュースキュレーション[2020/10/22~10/29]
行政のデジタル化を推進――菅総理大臣所信表明演説 ほか
2020年10月30日 12:00
1. 行政のデジタル化を推進――菅総理大臣所信表明演説
10月26日、菅内閣総理大臣が国会において所信表明演説を行った。
新型コロナウイルス感染症の拡大によって、日本のデジタル化への遅れが浮き彫りになったことを背景に「今後5年間で自治体や行政のデジタル化を進め、『役所に行かなくても手続きができる』『テレワークの導入で地方にいても都会と同様に仕事ができる』『都会と同じ医療や教育が受けられる』といった社会を実現したい」(ITmedia)と述べた。さらに、デジタル庁の設置、マイナンバーカードを今後2年半でほぼ全国民に普及させること、保険証や運転免許証とマイナンバーカードの統合、GIGAスクール構想の実現、ロボット技術による自動化などを進めるとしている。
また、萩生田文部科学大臣は紙の教科書に代わるデジタル教科書について、「教科ごとに授業時間の2分の1未満としている使用の基準を緩和することを検討する」(NHK)と述べた。
そして、経済産業省は新型コロナウイルス感染症の拡大で打撃を受けているイベント主催者や参加者を支援するための「Go Toイベント」の実施にあたり、参加事業者の募集を始めた(ITmedia)。その対象としては、オンラインイベントなども含まれる。
このように、国の施策として、デジタルの活用ということが積極的に取り組まれている。一方で、こうしたデジタル化の動きに取り残される人がいないようにするための具体策も同時に必要とされる。
2. 携帯電話料金値下げをめぐる各社の動き
菅総理大臣が携帯電話料金の値下げを打ち出したことから、総務省や携帯電話事業者の間では動きが活発化している。
まず、総務省は「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」を発表した。武田総務大臣は「料金」「競争促進」「乗り換えの円滑化」を3本柱とする具体的な取り組みについて示した。そして、「日本社会全てが本気でモバイル市場を見つめていなかったのではないか。それに対して、問題提起をして、多くの国民が携帯電話に対する考え方をあらためて考え直した。良いきっかけになったのではないか」と述べた(ケータイWatch)。
さらに、総務省は「競争ルールの検証に関する報告書 2020」を発表した(ケータイWatch)。これは、1年前に改正された電気通信事業法を踏まえ、4月から進めてきた検証をまとめた報告書だ。改正された電気通信事業法では、「携帯電話端末への割引が上限2万円」「中途解約時の違約金の上限が1000円」とされているが、報告書では今後もルールを守るための体制強化が必要だとして指摘している。また、KDDIやソフトバンクがサブブランド、MVNOによる安価なプランがあるものの、「新たな囲い込みの手段として利用される」「特に独立系MVNOとの公正な競争環境の阻害要因となる可能性がある」として今後の検証のポイントとしている。さらに、eSIMを活用する上での障壁となる課題があるのであれば、解決するための検討が必要だともしている。
加えて、総務省の有識者会議「電気通信市場検証会議」内の検討部会「競争ルールの検証に関するワーキンググループ」では、MNPで他社へ乗り換えする際に、一切の勧誘行為(引き止め)を禁止する方向での検討がなされているようだ(ケータイWatch)。
早速、ソフトバンクとワイモバイルが来春からNMPによる転出手数料を無料にする方針を発表し、NTTドコモやKDDI(au、UQ mobile)は、対応を検討するとコメントした(ケータイWatch)。
これまでのところの動きを総合すると、大手通信事業者は主にこれまでに準じる料金プランと、サブブランドによる安価な料金プランを提示し、各社間での移行が物理的なSIMを使わずに(eSIMで)、いつでも行えるようにするというところが落としどころか。通信事業者としては、通信品質と料金だけでなく、移行を促すためのマーケティング施策はもちろん、独自コンテンツやサービス、あるいは決済システムとの連携による経済圏構築による訴求をすることになるか。
3. Content Authenticity Initiative――画像ソースや編集情報を埋め込む取り組み
画像や動画などの真正性を担保し、フェイクを抑止する仕組みはアプリケーションでも興味深い取り組みが進んでいる。そして、いよいよ実装が始まっている。
Content Authenticity Initiativeには、アドビ、ニューヨークタイムズ、Twitter、マイクロソフト、BBC、Qualcomm、Truepic、WITNESS、CBCらが加盟している。クリエイターやツール、編集過程の情報、例えば誰がどこで撮影した写真や動画なのか、どのような編集を加えたのかという記録をコンテンツに埋め込むことで捏造を防ごうとする取り組みである。こうすることで、誰もがコンテンツのソースや編集過程を知ることができるようになり、そのコンテンツが信頼できるかどうかの判断を助ける。さらにはその情報を追跡できるプラットフォームも開発中だとしている(CNET Japan)。
アドビが開催したプラベートカンファンレス「Adobe Max 2020」では、Photoshopでこれに準拠したデータを付与し、クリエイティブコミュニティのBehanceで公開すると、画像に付加された情報を閲覧できるようにしたと発表した。今後、他のCreative Cloudのアプリでも順次サポートする予定だとしている。
ニュースソース
- Photoshop、画像ソースや編集情報の埋め込みに対応--捏造防ぐイニシアチブの一環で[CNET Japan]
4. ブロックチェーンによる新たな取り組み事例
ブロックチェーンの技術を応用する新たな取り組み事例が報じられている。
慶應義塾大学と企業5社は次世代デジタルアイデンティティ基盤の実証実験を開始する。名前、住所、年齢などの各種属性の登録、卒業証明書、研修修了証などの各種証明書のスマートフォンへ向けた発行、記録されている情報、発行された証明書の真正性の確認を行うことで、就職時の大学と企業との間でのやり取り、転校や編入での効率化、さらには国際的な標準仕様に適合することで、国際間での情報連携にもつなげることができるとしている(NTT西日本)。
不動産テックの分野では、LIFULLが不動産クラウドファンディング事業における利便性と安全性の向上を目指し、Securitize Japanとの協業でSTO(セキュリティトークンオファリング)プラットフォームの提供を開始する(CNET Japan)。
NTTデータ、三菱商事、三菱UFJ銀行、豊田通商、東京海上日動火災保険、兼松、損害保険ジャパンは貿易情報連携プラットフォーム「TradeWaltz」を運営する株式会社トレードワルツへの出資に合意したと発表した。すでに2017年8月に業界横断のコンソーシアムとして発足していて、デジタル技術を活用した貿易業務の処理効率化、安全性の向上などについて議論を重ねてきた。TradeWaltzはその検討を踏まえてNTTデータが開発したシステムである。今後、実用化ができれば「貿易に関わるすべての業務を一元的に電子データで管理することができるようになり、貿易業務の作業量を“最大50%程度”削減できる見込み」(coindesk)としている。
通貨としてのブロックチェーンの試みをしているのはトヨタ自動車の子会社であるトヨタシステムズだ。仮想通貨交換業者のディーカレットとともにデジタル通貨の実験を行う。このデジタル通貨はトヨタシステムズ社内の福利厚生の手続きで使用する(ITmedia)。この実験を踏まえ、企業間取引でのデジタル通貨の活用へと結び付けたい考えだ。
ニュースソース
- 慶應義塾大学、次世代デジタルアイデンティティ基盤の実証実験を開始[NTT西日本]
- LIFULL、ブロックチェーン活用で不動産クラウドファンディングを安全便利に[CNET Japan]
- NTTデータ、三菱UFJ銀など7社が貿易取引をブロックチェーンでデジタル化する新会社に出資[coindesk]
- トヨタ子会社がデジタル通貨の実験 社員2500人が日用品などオンライン購入[ITmedia]
5. 動画によるメディア消費が急増
新型コロナウイルス感染症の拡大による巣ごもりにより、世界的に動画コンテンツの消費動向にも変化が見られる。
動画配信クラウドサービスを提供する米国ブライトコーブ社が発表した2020年第2四半期の「ブライトコーブ・グローバル・ビデオ・インデックスレポート」のメディア&エンターテインメント版によると、「2020年第2四半期は、(世界の)ニュースとエンターテインメントコンテンツの消費が第1四半期(23%)からほぼ2倍(40%)となり、2020年の上半期を2019年と比較すると、全体の視聴数は30%以上の増加を示しました」としている。そのうち、「日本の動画視聴回数は、2020年第2四半期に36%増加し、4月には最大の伸びを見せました。コネクテッドTVは286%の成長を見せたものの、動画視聴シェアとしては10%未満という結果になりました」としている。
また、視聴に使用するデバイスはスマートフォンが圧倒的で、スマートフォンによる動画視聴回数は「4月に50%増、2020年第2四半期全体では33%を上回る大幅な増加」であり、「動画視聴回数のシェアとしてもスマートフォン(59%)は最大」であるとしている。
電通報でも「『テレビのネット接続率』が50%を超えた!その意味は?」と題する記事を掲載している(電通報)。これは日本の独自調査として、サイバー・コミュニケーションズ(CCI)が「2019年12月」(コロナ禍以前)と「2020年6月」(コロナ禍以後)に行った、国内動画配信サービス利用実態調査をもとにした分析だ。記事によれば、動画視聴のデバイスはテレビがタブレットを抜き、PC、スマートフォンに続く第3位に浮上している。動画視聴の場所が家庭内のリビングになり、テレビのインターネット接続率が上昇をしているという。視聴するコンテンツはサブスクリプション型の動画配信サービスが主で、YouTubeなどのユーザー投稿型の動画配信サービスはまだそれほどは多くないという。
しかし、今後はこうした視聴スタイルの変化が消費者の可処分時間の配分、消費支出の変化をはじめ、メディアの影響力などにも変化を生じさせる可能性もありそうだ。
ニュースソース
- 「テレビのネット接続率」が50%を超えた!その意味は?[電通報]
- 4月~6月、動画によるメディア消費がほぼ2倍に・・・スマートフォンの利用が顕著[Media Innovation]