中島由弘の「いま知っておくべき5つのニュース」

ニュースキュレーション[2022/4/14~4/21]

フィッシング報告数、Emotetの相談件数がいずれも急増 ほか

eHrach/Shutterstock.com

1. デジタル社会の次の課題はキャッシュレスに向けた構造改革

 QRコード決済をはじめとし、キャッシュレス化は順調に普及を遂げているように思える。ただ、大手チェーン店が中心であり、クレジットカードを含めたキャッシュレスがどこの店でも使える一般的な支払い方法とはまだまだいえる状況ではない。公正取引委員会と経済産業省は「キャッシュレス決済サービスの手数料にメスを入れようとしている」と報じられている(日経XTECH)。記事によれば、「国内加盟店が支払う決済手数料の引き下げを阻む要因とにらんでいるのが、日本の銀行やクレジットカードの国際ブランドが設定している業者間の手数料だ」という。

 また、デジタル庁が開催した「第4回デジタル社会構想会議」では、楽天グループの代表取締役会長兼社長の三木谷浩史氏が、モバイルOSやキャッシュレスを取り巻く現状について意見を提出したと報じられている(ケータイWatch)。まず、OSについては、AndroidとiOSのアプリストアが市場を独占し、30%の手数料を得ていることを問題視している。そして、キャッシュレスについては「キャッシュレス決済に対する優遇税制やマイナンバーと銀行口座、クレジットカード番号の紐づけ」「納税手続きや公金収納をデジタル化・キャッシュレス化する『ゼロキャッシュ・ガバメント』といったキャッシュレス化のさらなる推進」を求めたとしている。

 こうした一連の動きから、今後の政策の注目点はフィンテック、キャッシュレスに向けた構造改革というところか。

 そして、この「デジタル社会構想会議」では「2021年末に策定した政府全体のデジタル政策の方向性を示す『重点計画』を6月までに改定する方針を示した」と報じられている(ITmedia)。「ウクライナ情勢などを踏まえた『安全保障に必要なデジタル政策』や、ブロックチェーン技術を基にした新しいインターネット技術『Web3.0の研究』などを盛り込む方向だ」としていて、現下の状況を踏まえたアップデートを行うものとみられる。

ニュースソース

  • キャッシュレス手数料は「まだ下がる」、公取委と経産省が銀行と国際ブランドに照準[日経XTECH
  • デジタル重点計画6月改定 安全保障対応など盛り込む方針[ITmedia
  • 高額なアプリ手数料など負担に、モバイルOS寡占状態の問題を訴え――デジタル庁の会合で楽天・三木谷氏[ケータイWatch

2. フィッシング報告数、Emotetの相談件数がいずれも急増

 フィッシング対策協議会が2022年3月のフィッシング報告状況を発表している。それによると、3月のフィッシング報告件数は8万2380件で、前月より3万3769件と大幅に増加している(INTERNET Watch)。また、情報処理推進機構(IPA)はマルウェア「Emotet」に関する相談がこの1月から3月までに656件あったと発表した(ITmedia)。これは昨年10月から12月までの前四半期の12件に対して、約54.7倍の増加となっている。

 フィッシングの主な手口は「コロナワクチンナビ」(INTERNET Watch)、「mixi」(INTERNET Watch)、「So-net」(INTERNET Watch)、「NHK」(INTERNET Watch)、「ZOZOTOWN」(INTERNET Watch)、「国民年金」(INTERNET Watch)などをかたるものが報じられている。いずれも、多くの人が心あたりがありそうな用件をかたっている。かつてのフィッシングよりもかたるブランドや用件が巧みになっていて、まさに巧みにユーザーの心理を突いている。日々、こうした情報に触れ、事前にこうした手口を知っておくことで、安易にメールに誘導されないように留意をすべきであろう。

 こうした状況を踏まえ、経済産業省では「サイバー攻撃被害に係る情報の共有・公表ガイダンス検討会」を開催する(経済産業省)。現状では、サイバー攻撃被害組織等の現場にとっては情報共有に慎重になるケースも多く、「どのような情報を、どのタイミングで、どのような主体と共有すればよいか」の判断が難しいとされている。そこで「サイバー攻撃被害に係る情報の共有・公表ガイダンスを策定」すべく、官民の多様な主体が連携する協議体である「サイバーセキュリティ協議会」の運営委員会の下に、「サイバー攻撃に係る情報の共有・公表ガイダンス検討会」を開催するとしたということだ。現在、企業規模やセキュリティへの意識差により、被害に遭っても発表をされていない事例もあるのではないかとも考えられ、こうした基準が策定されて、一定のルールのもとでの情報公開・共有が進めることは重要だろう。

ニュースソース

  • 3月のフィッシング報告数は前月から約3万件の大幅増加、「えきねっと」などJRグループをかたる詐欺の手口に注意 フィッシング対策協議会が月次の報告状況を発表[INTERNET Watch
  • 1~3月のEmotet相談件数は計656件 前四半期から約54.7倍と“爆増” IPAが報告[ITmedia
  • 「コロナワクチンナビ」をかたり偽サイトへ誘導、件名「【重要】自衛隊 大規模接種センターの概要 予約サイト案内(予約・受付案内)」の不審なメールに注意 ワクチン接種の予約手続きを装う手口[INTERNET Watch
  • mixiをかたるフィッシング、件名「[mixi]私たちはあなたのアカウントの使用を制限しています」のメールに注意 偽サイトに誘導してカード情報や個人情報を詐取[INTERNET Watch
  • So-netをかたるフィッシング、件名「【So-net】お支払い期限を過ぎています」のメールに注意 支払いが失敗したとして偽サイトでカード情報を詐取[INTERNET Watch
  • 件名「【NHK】ご利用手続きメール」などのメール、NHKをかたるフィッシングに注意 存在しない「NHKインターネットアカウント」の登録を要求し、個人情報やカード情報を詐取[INTERNET Watch
  • 件名「ZOZOTOWNカスタマーサポートセンターよりご連絡」のメール、ZOZOTOWNをかたるフィッシングに注意 偽サイトに誘導して個人情報などを詐取[INTERNET Watch
  • 件名「国民年金(基礎年金)アカウント停止通知」のメール、日本年金機構(ねんきんネット)をかたるフィッシングに注意 偽サイトに誘導して個人情報やカード情報を詐取[INTERNET Watch
  • サイバー攻撃被害に係る情報の共有・公表ガイダンス検討会を開催します[経済産業省

3. 「メタバース」をめぐる各社の動き

 メタバースをめぐる動きが引き続き活発だ。

 これまで任意団体として活動していた「メタバース推進協議会」がこの3月末に一般社団法人に移行した。活動の目的を「メタバースを巡る文化やコミュニティーの形成とビジネス促進に向けた業界ルール作りを目指す」こととしている(ITmedia)。

 ただし、すでにメタバースに関する業界団体はいくつかが旗揚げしている。2021年12月にはブロックチェーン事業者を中心に「日本メタバース協会」が、2022年3月にはパナソニックやKDDI、HIKKY、クラスターなどが参加する「Metaverse Japan」が、4月にはソフトバンク系列会社や日本マイクロソフト、電通、凸版印刷などが参加する「日本デジタル空間経済連盟」の立ち上げが発表されている。それぞれの組織の背景は異なるものの、これだけ「乱立」すると、目指す「業界ルール」の実現に向けた調整も難しくならなかとも感じる。

 サービスもいくつか発表されている。KDDIは美術館や博物館、展覧会など向けて、スマートグラスとXR技術を活用する「auビジュアルガイド」の提供を開始した(CNET Japan)。北海道札幌市で開催中の「バンクシー展 天才か反逆者か」展において体験できる。

 ブイキューブは個室型VR空間「メタキューブ」のコンセプトモデルを発表した(Impress Watch)。これは同社の防音個室ブース「テレキューブ」を活用し、「室内の壁面に映像コンテンツを投影することで、ゴーグル型のVRデバイスなどを装着せず、臨場感あふれるVR・メタバース空間を体感できる」ことを特徴としている。

 さらに、大和ハウス工業はアバターを使って「担当者と見学者がコミュニケーションを図りながら仮想空間上の住宅展示場を自由に見学できる『メタバース住宅展示場』」を公開すると発表した(CNET Japan)。

 これらはいずれも特定の施設内での利用を前提としたもので、擬似「体験する」ことが重視される用途でのユースケースということができよう。

ニュースソース

  • スマートグラスで新たな美術鑑賞を--KDDI、美術館・博物館向けにガイドサービス[CNET Japan
  • 個室ブースがメタバース。ゴーグル要らずの「メタキューブ」[Impress Watch
  • 大和ハウス、「メタバース住宅展示場」を公開--アバターになって見学[CNET Japan
  • 「メタバース推進協議会」発足 文化形成とルール作り目指す 業界団体は乱立状態[ITmedia

4. ネットフリックスの成長に変調? 課題は「ただ乗り」世帯への対処、そして広告付きプランも

 ネットフリックス社が2022年度第1四半期(1月~3月)の決算を発表した。それによると、有料会員数が前期比で約20万件減少し、2億2164万件になったということだ(Impress Watch)。その要因としては、「ロシアによるウクライナ侵攻で、ロシアでのサービスを停止。70万の会員減となったこと」としている。同社によれば、「今後の成長も見込んでいるが、複数の市場ではコロナ禍での増加の反動」も見られるとするとともに、「アカウントを同居家庭以外でも共有している例が1億件以上ある」という「ただ乗り」ユーザーへの対処、競合との競争環境の激化などが課題だとしている。

 一方で、今後の施策として「広告付きの低価格プランの計画」も明らかにしている。「今後1~2年で実現していく」というが、ユーザー数の獲得という意味においては、ライトユーザーの取り込みも必要というわけだ。

ニュースソース

  • Netflix、ついに広告ありのプランを検討。ロシア撤退で会員減[Impress Watch

5. 楽天創業25周年――サステナビリティ、環境保護を意識した経営を目指す

 楽天グループ創業25周年を記念するレセプションパーティーが開かれ、岸田文雄総理大臣、林芳正外務大臣、後藤茂樹行厚生労働大臣らが駆けつけたと報じられ、政界との結び付きを印象付ける場になったと報じられている(ケータイWatch)。

 また、三木谷氏は「今後は、サステナビリティ、環境保護を意識した経営を目指す」と述べた。そして、現在注力しているモバイル事業について「国内で携帯電話事業を展開する楽天モバイルであり、もうひとつが、楽天モバイルの完全仮想化ネットワークをソリューションとして、海外事業者へ外販する楽天シンフォニー」の二本柱について、「この第1四半期(2022年1月~3月)で赤字のピークを迎え、これからは徐々に損失を圧縮し、黒字化へ向かっていく」という見通しを示した(ケータイWatch)。さらに、プラチナバンド(800MHz帯周辺を指す)の割り当てを強く求めるメッセージを出していくとしている(ケータイWatch)。

ニュースソース

  • 楽天25周年レセプション、岸田首相や林外相がメッセージ[ケータイWatch
  • 楽天の三木谷氏が語る、2030年の展望とモバイル事業に見出す未来[ケータイWatch
  • 三木谷氏、楽天モバイルのプラチナバンド要望に「他社より低コストで展開できる。ナンバーワンになるため活用したい」[ケータイWatch
中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。