コミュニケーションの仕組みを良くしたい
コミュニティーエンジン代表取締役/CEO 中嶋謙互氏(後編)


3度の留年のわけ

コミュニティーエンジン代表取締役/CEO 中嶋謙互氏

 大学は2001年に卒業し、その前の2000年に起業しています。卒業するまで3度留年しているのですが、理由は試験に出られなかったためでした(笑)。卒業論文代わりのプログラムは、4年目には書き上げていたんですけど。3度の留年にはそれぞれ理由があって、1度目は1年生の時に英会話教室に通っていてそちらを優先したため、2度目は本を書いていて、3度目は起業していたからでした。

 1年生の時は、全日制の英会話教室ECCに通いました。「大学に行ったら英語ができないとどうにもならないのでは」と思い、通い始めたのです。

 2年のときは、Javaの本を書いていました。ソフトバンクの編集長と知り合って書くことになったのです。プログラムはひとつ間違ったら大変なことにもなりかねませんが、書籍はひと文字くらい違ってもさほど問題にはならないので、ある意味楽でしたね(笑)。ただ、おまけとしてテストプログラムを付けていて、かなり手をかけた本だったので大変でした。

 3年目に起業しました。4年めには、すでに単位は9割方とっていたのですが、体育や語学などが残っていました。仕方がないので、妹にバイト代を払って出席してもらいました。性別は違っても、あまり問題なかったですね(笑)。妹には、授業中にあてられたら「わからない」と答え、配られたものは持って帰るように頼みました。

「君は起業するしかないよ」

 大学時代は、大阪のゲーム会社でオンラインゲームを作るバイトをしていました。先輩に「手が足りないので手伝え」と言われて始めたのです。プレイステーションのゲームの他、96年に「LIFESTORM(ライフストーム)」のJava版、97年にWindows版を作り、それぞれ数万本ずつ売れました。その頃はMMORPGは日本中で2本くらいしかなく、テレホーダイでユーザーが増えつつある時代でした。

 2000年、在籍していた会社が詐欺事件に巻き込まれて破綻してしまいました。僕が作ったJava版の方のファンがエニックスにいて、一緒に仕事をする話になっていたのに、続けられなくなってしまったのです。

 今後どうするかを、エニックスに相談しに行った時のことです。予算と日程などの必須条件を出したところ、「やりたいことを全部実現するためには、エニックスの社員になるのではなく起業するしかないね」と言われてしまいました。

 僕は、何の仕事を誰とするかを自分で決め、やったらやっただけの見返りがほしいと思っていたのです。この時の起業をきっかけに東京に来るようになり、ますます卒業できなくなってしまったんですよね(笑)。これが3度目の留年の原因です。両親には「1回就職しろ」と言われたのですが、無視しました。

 就職した経験がないので、最近まで大企業で働く人の気持ちがわからなかったんですよ。言っていることは頭ではわかるのですが、女性の気持ちが男にはわからないのと同じかなと思っていました。ただ、経験を積んだ最近になって、スタッフやクライアントの気持ちがだいぶわかるようになってきました。今は、大企業に入社した経験がないと大企業のお客様と話せないということはないと思っています。

創業、オリジナルゲームの完成

コミュニティーエンジンのトップページ
http://www.ce-lab.net/

 机が2つ並んだオフィスでの、たった2人での起業でした。もうひ とりは、Windows版「LIFESTORM」を一緒に作ったプログラマーです。もともと彼は僕が作ったJava版のファンで、「作者に会わせてくれ」と帰りの電車賃も持たずに身ひとつで来たような人です。筋金入りのハッカーでパソコンも自作しており、やってきた週から開発チームに入っていました(笑)。

 2004年には、自分が企画して社内で開発したおもちゃの自然で遊ぶオンラインゲーム「gumonji(グモンジ)」を出しました。副産物として生まれた開発ツールを売りつつヒットを目指したのですが、ヒットしませんでした。このように自社でオリジナルで作ったものもいくつかありますが、それ以外はお客様と一緒に作っています。お客様のものは完成して黒字化しているものが多く、立ち上げ屋みたいな仕事をしています。

人を増やす難しさ

 2005年から2008年にかけて、開発プロジェクトの数が増え、ミドルウェアの販売も好調な時期がありました。この時には、仕事の量に合わせて、プログラマー以外にも、さまざまな専門のスタッフを急激に増やしました。ところが人数の増加に対応した組織的な体制の準備が間に合わず、各種の専門職を活かしきれませんでした。

 そのときはゲーム以外の開発もやっていたのですが、今はオンラインゲームのサーバーに特化して、仕事の内容に合わせた人数、30人弱程度に落ち着いています。社員の人数はかなり減ったのですが、会社の仕事を絞って集中することで、売上は減りませんでした。この状態で当面は組織全体の能力を高めてゆきたいです。

社長の役割、社員の役割

 コミュニティーエンジンという社名の「エンジン」とは、「中心になるようなソフトウェア」という意味です。オンラインゲームは、使っているうちに自然と仲間になったり親しくなったりします。そこで「コミュニティー」をつけて、「仲間になったり、使っている間に賢くなったりを実現するソフトウェア」という意味を込めています。

 今の僕の仕事は、経営的なことと開発業務と半々ですね。世界中の人にツールを使ってもらうことはまだ厳しく、1人では到底実現できないことがわかっているので、社員みんなで向かっていきたいと考えています。

 昔は、全員が腕のあるプログラマーでなければいけないと考えていたんです。でも、そういう人ばかりを採用できませんし、そういう人だけではうまくいかないですよね。腕のあるプログラマーをサポートする人が必要です。

 同時に、違うプラットフォームでミドルウェアを提供し続けるのには、少なくともすご腕のプログラマーが4~5人は必要です。さらに、その4~5人が気持ちよく仕事するためには、細かい事務仕事をしてくれる人がたくさん必要です。たとえば、医者1人が気持ちよく仕事ができるようにするためには、スタッフが複数必要ですよね。

 個人的には、土日だけで作れるようなオンラインゲームを作って、みんなを一泡吹かせてみたいですね。ただ、会社としては今はしません。趣味でやっているとはいっても、社長がやっているということで内外に与える印象が強いので、「そういうことを会社としてやりたいのだ」と誤解されるからです。

オンラインゲーム開発ツールで世界進出を目指す

コミュニティーエンジンのオンラインゲーム開発ツール、「VCE」の利用イメージ

 ゲームを作る場合に、世界は水平分業ですが、日本は全部自分でやろうとします。たとえば、ゲームの地形を作るためのマップ作成ツール、配置ツール、人工知能、デザインツールなどは色々なところが出していますが、それらの既存のツールをうまく組み合わせて少しでも早く出そうとするのが海外です。ただし、そういう方法論では、ゲーム同士が似てしまう場合があるので、日本はそれを嫌ってゲームごとに一から開発し直しているんですね。これは効率が悪いんです。

 日本の携帯電話は、性能は高いのに世界に進出できませんでした。日本のやり方では、機種ごとにバラバラなためテストのコストが高くつきます。しかし、もし統一性が高いプラットフォームが出れば、ツールは対応しやすいしテストのコストも安いし、いいことづくめだと思うんですよね。けれどそれをしない日本は、ゲーム作りにおいてもガラパゴス的だと思います。

 今後は、ジャンルごとに専用化されたツールを作り、それごとにシェアをとっていきたいですね。まずは、オンラインゲームという用途で、世界進出していきたいです。ゲームでできた開発ツールがかなりあるので、それを世界中で売るための算段をしているところです。

コミュニケーションの仕組みを良くしたい

「僕らの仕事はコミュニケーションの仕組みを作る仕事で、そういうところで役に立つソフトウェアが作りたい。」

 お客様のための開発に失敗しないツールに手応えを感じています。最初に作ったネットワークミドルウェアVCEが今の会社のメインプロダクトですが、評判はいいです。「ゲームがスムーズに作れて、ユーザーが増えてもダウンせずにゲームできている」と評価されています。世の中のネットワークゲームの半分が完成までいかないのですが、うちのお客様はほとんどが全員完成までいっています。リピートして使っていただけており、他社に移っても使ってくれています。

 ただ、まだ唯一絶対の「それがあるからこそ初めてできるもの」ではないんですよね。今後は、コストダウン、リスク削減ツールとして、イノベーションが生まれるような製品を作りたいですね。そして、たとえニッチでも確実に一部の人が楽しめる、今までにない何かが作りたいです。大規模な同時プレイのオンラインゲームでその道があるのではないかと思っています。

 「人間の意識がひとつになる時がくる」という話があります。みんなをつなげられたら、人の頭を使って考えられるし、争いがなくなります。「貧困を減らせばテロが減る」と言いますが、貧困を減らすのはソフトウェアの仕事だと思います。つまり、コミュニケーションの仕組みが良くなればいい。

 ゲームのユーザー同士は、仲良くなったり、共同体意識が芽生えたり、相手を好きになったりします。知らないと基本的には嫌いになりますが、知ったら好きになるものです。僕らの仕事はコミュニケーションの仕組みを作る仕事であり、そういうところで役に立つソフトウェアが作りたいんですよね。


関連情報

2009/12/22 06:00


取材・執筆:高橋 暁子
小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三 笠書房)などの著作が多数ある。 PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っ ている。