清水理史の「イニシャルB」
こんな無線LANルーター見たことない! 円盤状+可動式アンテナのバッファロー「WTR-M2133HP」
2018年1月15日 06:00
バッファローから、極めて個性的なデザインを採用した無線LANルーター「WTR-M2133HP」が登場した。お皿と言おうか、パラボラアンテナと言おうか、とにかく今までに見たことがないデザインの製品となっている。その実力を検証しつつ、「どうしてこうなった」のかを同社に聞いた。
挑戦的な外観の理由とは……
スタイリッシュとも言えるし、違和感があるとも言えそう……。
正直なところ、バッファローから登場した「WTR-M2133HP」の評価は、見た目も中身的にも、個人的にはちょっと悩ましいものだ。
「何があった? バッファロー」というのが率直な感想だが、海外製品が「ゲーミング」という方向で無線LANルーターの新たな価値を見い出そうとしているのを考えると、国内ベンダーの雄として、無線LANルーターの新たな価値観を模索しようという姿勢は、素直に評価したい。
が、これが果たして万人に受け入れられるのかは、今後の市場の反応を見るしかなさそうだ。
バッファローから登場した「WTR-M2133HP」は、例えるなら「お皿」のようなユニークなデザインの無線LANルーターだ。
円盤状の筐体の中央に、これまた「マウス」と言おうか「リモコン」と言おうか、独特なかたちの外部アンテナが配置されており、とにかく他にはない独特な形状となっている。
株式会社バッファローの副島直樹氏(ネットワーク事業部ネットワーク事業課コンシューママーケティング係長)によると、「(電波的に)いい場所に置いてもらえて、かつ邪魔にならない」ことを目指したものだと言う。
「ん?」と思うかもしれないが、具体的には、こういうことだ。
購入した無線LANルーターで、最適な電波状況を実現しようと、お父さんが試行錯誤の末に設置場所を決め、アンテナの向きを細かく調整したとしよう。しかし、翌日になると、お母さんが、真っすぐになっていないアンテナを見つけて、一本ずつ直してしまう……。
こうした状況に対して「どうすればお母さんにアンテナをいじられずに、かつ電波的に良い場所に置いたままにしてもらえるか?」を検討した結果、WTR-M2133HPのデザインが誕生したと副島氏は語ってくれた。
それにしても思い切ったデザインだ。副島氏によると「『円盤』や『お皿』など、いろいろな例えがなされていますが、イメージは掛け時計です。時計であれば、普通に壁に掛けてあっても違和感を感じません。それと同じように、普通にポンと置いてあっても、なるべく違和感がないデザインを考えました」という。
無線LANルーターのデザインは、海外勢を中心に、非日常的で、ある意味SF的な「ゴツ」いものへと向かいつつあるが、それとは対極の「生活」を大切にしたコンセプトのデザインと言えそうだ。
副島氏は、こうも語る。「無線LANルーターは、かつてマニア向けの製品だった時代もありましたが、スマホが普及し、誰もが毎日使うようになった今、『日用品』というか、『文具的』というか、コモディティな製品となりつつあります。こうした状況の中で無線LANルーターが、どうすれば多くの人に受け入れられるかを検討した結果が、このWTR-M2133HPになります」。
間違いなく、今までになかった新しいスタイルの製品と言えるが、発想としては決して奇をてらったものではなく、現代のライフスタイルを慎重に考慮したものと言えそうだ。
866Mbps×2+400Mbpsのトライバンド対応
スペック的には、ミドルハイとでも言ったところになるだろうか。最大通信速度は2ストリームのIEEE 802.11acで866Mbpsでありながら、5GHz帯×2、2.4GHz帯×1のトライバンドに対応している。
通常、トライバンドに対応する無線LANルーターは、各メーカーのハイエンドモデルとして位置付けられることが多く、通信速度も4ストリームの1733Mbpsあるいは2133Mbpsクラスになることが多いが、本製品は5GHz帯の最大速度を866Mbpsに抑えつつ、トライバンドを実現した製品となっている。
ちなみに、トライバンド対応の製品は、バッファローとしては初のモデルだ。副島氏によると、「今後、バッファローのすべてのモデルがWTR-M2133HPのデザインを継承するわけではないが、同社のひとつの方向性を探る試金石とでも言ったところになる」とのことだ。
トライバンドは、言わば3車線の道路のようなものだ。PC、スマホ、ゲーム機、スマートテレビなど、家庭内に無線LAN機器が数多く存在する場合、車線が多い方が同時により多くの機器を通行させることができる。場合によっては、1車線をテレビなど特定の機器だけの専用道路にすることで、高帯域が必要な4Kなどの動画ストリーミングを快適に伝送することもできる。
PCやスマートフォンなど、クライアント側の機器のほとんどが866Mbps対応であることを考えると、最大通信速度の高さよりも、使える帯域が多い本製品のようなスペックの製品の方が、実用的と言えるだろう。
W52/W53とは回路を独立、W56の性能をフルに発揮
ただし、トライバンドと言っても、本製品は少々特殊だ。2系統ある866Mbpsの5GHz帯は、1系統はW52/W53専用(内蔵アンテナ使用)、もう1系統はW56専用(外部アンテナ使用)となっている。通常は、2系統の5GHz帯それぞれで、W52/W53/W56を選択できるので、利用する周波数帯域が最初から限定されている点はやや珍しい。
この点について、副島氏は技術的な解説をしてくれた。「WTR-M2133HPは、内部にW52/W53と2.4GHz帯の兼用のアンテナを2本、外部にW53専用アンテナを2本(中央のモジュールに2本を内蔵)搭載しています。一般的な無線LANルーターでは、W52/W53とW56で内部の回路を共有することがありますが、本製品では、外部アンテナのW56用に独立した回路を用意し、アンテナも指向性にして、W56の性能をフルに発揮できる設計にしてあります」という。
IEEE 802.11acの普及に伴って、自宅の近辺でも5GHz帯のSSIDを見かける機会が多くなったが、それでもW56の帯域を使っているケースは少ない。こうした空いている帯域を活用しつつ、さらに指向性のアンテナを利用することで、ピンポイントで高いパフォーマンスを発揮できるように工夫しているわけだ。
見た目にもインパクトのあるデザインだが、きちんと無線LANの性能を発揮させるための設計である点も注目だろう。
このほか、自動的に空いている帯域を選択して接続できるバンドステアリングに対応するほか、電子レンジなどの干渉を検知して回避する干渉波自動回避機能などを搭載しており、無線LAN系の機能は充実している。
ほかにも4K動画配信を優先する「4Kモード」を搭載したアドバンスドQoSに対応していたり、「v6プラス」などのIPoE方式のIPv6環境での利用にも対応している。また、「キッズタイマー」や「i-フィルター for BUFFALO」などの子ども向けの制限機能にも対応する。
最近流行のIPSこそ搭載していないが、機能的には十分と言ったところだろう。
国内トップメーカーならでは、安心の使いやすさ
実際に使ってみると、さすが国内メーカーと感心させられる部分が多い。
付属の取扱説明書は古典的な冊子タイプだが、これがよくできている。初期設定の手順で、最初に既設の無線LANルーターからの引っ越し方法が紹介されていることには驚いた(新規での設置方法は次章に掲載)。
現状、多くのユーザーが無線LANをすでに利用しており、実際にWTR-M2133HPを設置する場合、旧製品の設定を引き継ぐ方が効率的だ。こうした国内の利用状況をよく理解している証拠だろう。
実際の引っ越しも、ボタン1つでできるため簡単だ。同社の無線LANルーターには、既設の無線LANの情報(SSIDやパスワード)を引き継げる「無線引っ越し機能」が搭載されているが、これにより本体のボタンを操作するだけで、無線LANルーターの置き換えが可能だ。
スマートフォンの接続やインターネット接続の初期設定でも迷うことがない。例えば、iPhoneを接続する場合、本体のボタンを押してAOSS2による接続設定を開始後、設定用のSSIDに接続し、本体のセットアップカードに記載されたAOSS2アクセスキーを入力することで、無線LAN設定を実行できる。安全性と手軽さをうまく両立させた完成度の高い方法だ。
インターネット接続も、前述した通りIPv4 over IPv6やv6プラスなどの方式にもきちんと対応している。海外メーカーはもちろんだが、国内メーカーでも、これらの方式に対応していない製品も多い。こうした環境まできちんと網羅しているあたりはさすがだ。
実際に製品を利用するユーザーの姿がよく見えている証拠と言えるだろう。
思い通りにならないアンテナ調整と帯域使い分け
このように、ユーザーに余計な配慮をさせることなく、手軽に使えるWTR-M2133HPだが、個人的には、この手軽さにかえって戸惑いを感じさせられるシーンがいくつかあった。
まずは設置場所の問題だ。
前述したように、本製品の中央部分には可動式の外部アンテナがあるが、この可動域は前後0~90°と横方向0~270°に限られる。
例えば、リビングの棚に設置したいと考えた場合、インテリアとしても考えるなら、当然、円盤の正面が見えるように棚に立てかけたいところだが、そうすると外部アンテナの可動域が限られてしまう。
仮に、棚の裏側に、つまり壁側の部屋にアンテナを向けたいとすると、足を使わず上向きに設置するしかない。実用性を重視するか、インテリアとしての見た目のよさを重視するかが悩ましいところだ。
また、特定の方向に外部アンテナを向けたとしても、その機器が外部アンテナを使ってくれるとは限らない。
前述したように、本製品では帯域ごとに利用するアンテナが分けられており、W52/W53は円盤部分に内蔵の全方向アンテナを、W56は可動式の外部アンテナを利用する。
その一方で、バンドステアリングの機能によって、接続する端末は通信状況がよい帯域に自動的に接続する仕様になっているため、外部アンテナを向けた方向にある機器がW56で接続されるとは限らないのだ。
実際、筆者宅の1階にWTR-M2133HPを設置し、3階に設置したノートPCにアンテナを向けてみたが、3階に設置したノートPCはW56どころか、5GHz帯でも接続されず、2.4GHz帯で接続されてしまった。これでは、せっかくの指向性アンテナを3階に向けた意味がなくなってしまう。
本体の詳細設定画面で、端末ごとにどの帯域に優先的に接続するかを設定できるようになってはいるのだが、ここでW56を選択しても、実際には2.4GHz帯で接続されてしまったので、ハードウェア的な機能とソフトウェア的な制御がうまくかみ合っていない印象だ。
WTR-M2133HPと対象となる機器の距離が近い場合でないと、うまくアンテナの向きと利用帯域がマッチしない可能性が高そうだ。
副島氏によると、2.4GHz帯やW52/W53など、別の帯域にほかのクライアントが接続されていれば、3階の端末がW56で接続される可能性が高くなるとのことだ。WTR-M2133HPでは、電波状況だけでなく、トライバンドの各帯域の混雑状況をチェックして、最適な帯域にクライアントをつなぎ分けるようになっている。
今回のテストでは、1台しかクライアントを接続していなかったため、3階では2.4GHz帯でつながってしまったが、実際に複数台のクライアントを接続している場合は、W56を効率的に使ってくれる可能性もありそうだ。
なお、現状のファームウェアでは、帯域ごとにSSIDを個別に設定することはできない。2.4GHz帯、W52/W53、W56でSSIDを使い分けることができれば、アンテナを向けた機器にW56のSSIDを割り当てることができるが、本製品がターゲットとしている一般的な家庭環境で、帯域ごとにSSIDを使い分けるのは、やや難易度が高いだろう。
マニア的には自由度の低さが気になるが、本製品のメインターゲットである一般ユーザーからすれば、むしろ「帯域」だの「SSID」だのを意識せずに済む方が効率的だろう。
このほか、本製品には、ビームフォーミング機能も搭載されているので、接続した機器の方向に向けて電波の方向を調整することができる。このため、わざわざ外部アンテナを調整する必要もなさそうだが、「指向性アンテナの方が、より的確にターゲットに電波を届けられる(副島氏)」とのことだ。
ちなみに、通信速度は以下の通りだ。バンドステアリングの影響で、筆者宅では3階で2.4GHz帯で接続されてしまったため、参考程度に考えて欲しい。
WTR-M2133HP | |
3F窓際 | 13.9 |
3F階段付近 | 119 |
2F | 264 |
1F | 406 |
※検証環境 サーバー:Intel NUC DC3217IYE(Core i3-3217U:1.3GHz、SSD 128GB、メモリ 4GB、Windows Server 2012 R2) クライアント:Macbook Air MD711J/A(Core i5 4250U:1.3GHz、IEEE 802.11ac<最大866Mbps>)
悩ましい…実に悩ましい……
以上、バッファローのWTR-M2133HPを実際に使ってみると同時に、いろいろな疑問を同社に聞いてみたが、最終的な評価は、とてもしにくい。
セットアップの完成度、バンドステアリングによる帯域の使い分けなど、ユーザーに難しいことを意識させずに快適に使えるような工夫が各所にちりばめられている点は高く評価したいし、正直、筐体がちょっと大きすぎる印象もあるが、奇抜に思えるデザインも「なぜこうなったのか」という理由を聞けば、納得できる部分も多い。
しかしながら、個人的には、もう少し設定の自由度を高くしておいて欲しかった印象で、ちょっと息苦しく感じてしまう。
もうしばらくすると、専用の中継機も登場する予定で、その組み合わせでは、外付けの指向性アンテナの威力がもっと発揮しやすくなる可能性も高いので、個人的には、後日、再検証したい印象だ。