清水理史の「イニシャルB」

MAP-E/DS-Liteに対応した新世代Atermのフラッグシップ ワイドレンジアンテナで無線性能も向上した「Aterm WG2600HP3」

 NECプラットフォームズから、Atermシリーズのトップモデル「Aterm WG2600HP3」が新たに登場した。新世代Atermとして、ハードウェア、ソフトウェアともに大幅に手が加えられているが、中でも注目は、IPoE方式のIPv6、およびIPv6上でIPv4接続を実現するMAP-EとDS-Liteに対応した点だ。実際にDS-Liteのtransix環境で使ってみた。

フラッグシップらしい進化見た目も、中身も大幅進化――。

 NECプラットフォームズから登場した「Aterm WG2600HP3」は、控えめな型番変更からは想像できないほど、大きな改良が加えられた新世代Atermシリーズのフラッグシップモデルだ。

 無線LANルーターは、ここ数年、無線側の機能や性能を中心に進化してきたが、有線側の機能に大きな変化はなかった。

 そんな中、回線の混雑による速度低下の問題から、従来のPPPoE接続によるインターネット接続環境から、IPoE方式のIPv6、およびMAP-E(v6プラス)やDS-Lite(transix)によるIPv4インターネット接続サービスに移行するユーザーが増えてきた。

 Atermシリーズは、この6月から7月のタイミングで市場に投入されたAterm WG1200HP3、Aterm WG1900HP2、Aterm WG2600HP3の3つが、こうしたIPv6による新しいインターネット接続環境に対応している。

 しかしながら、今回取り上げるフラッグシップのWG2600HP3は、これらIPv6でのインターネット接続に対応しただけでなく、アンテナや無線LAN設定など、プラスαの改良が施されており、フラッグシップに相応しい完成度の製品となっている。

 実売価格は1万5659円(2018年7月12日現在、amazon.co.jp調べ)で、ほかのモデルに比べると高価ではあるが、後述するコストの掛かり具合を考慮すると、メーカーとしては、実はもう少し高い値段で売りたかったのではないかと思えるほど手が込んでいる。市場での注目度も高いそんな製品の実像に迫ってみよう。

最大1733Mbpsに対応したNECプラットフォームズのフラッグシップモデル「Aterm WG2600HP3」。IPoE方式のIPv6、およびMAP-E(v6プラス)やDS-Lite(transix)によるIPv4インターネット接続サービスに対応

Aterm WG2600HP3だけのワイドレンジアンテナを搭載

 それでは、その進化内容を具体的に見ていこう。下の表は、従来モデルである「Aterm WG2600HP2」とスペックを比較した表だ。

Aterm WG2600HP2Aterm WG2600HP3
実売価格(税込)1万1588円1万5659円
対応規格IEEE 802.11 ac wave2/n/a/g/b
2.4GHz帯対応チャネル(1-13ch)
W52対応チャネル(36/40/44/48)
W53対応チャネル(52/56/60/64)
W56対応チャネル(100/104/108/112/116/120/124/128/132/136/140)
対応バンド数2
通信速度(2.4GHz帯)800Mbps
通信速度(5GHz帯-1)1733Mbps
通信速度(5GHz帯-2)×
ストリーム数4
アンテナ内蔵内蔵(ハイパワーシステム+ワイドレンジアンテナ)
変調方式(最大速度時)256QAM
WAN1000Mbps×1
LAN1000Mbps×4
USBUSB 3.0×1×
本体サイズ(幅×奥行×高さ)38×130×181mm38×129.5×170mm
重量0.6kg0.6kg

 スペックは、従来モデルとほぼ共通となっており、4ストリームで最大1733Mbpsを実現する5GHz帯と、最大800Mbpsの2.4GHz帯のデュアルバンドに対応している。

 筐体は大幅に変更され、奇をてらったところのない落ち着いたデザインになった。重量は従来モデルとほぼ同じだが、サイズは若干小さくなっている。

正面
側面
背面

 スペックで注目したいのは、USBとアンテナ部分だ。従来モデルはUSB 3.0を搭載しており、本体に接続したストレージのデータを共有することなどが可能だったが、今回のWG2600HP3は、USBポートそのものがなくなっている。

 機能が削減されたことは残念ではあるが、NASの普及もあり、必ずしも通信機器がファイル共有の役割を担うことも多くはないので、ここはさほど気にする必要はないだろう。

 一方、アンテナ部分については、かなり進化したものとなっている。

 ハイパワーシステムは、無線回路や無線制御などの設計をゼロベースで見直すことにより、より遠くまで電波が届くようにしたものだ。同時期にリリースされたWG1200HP3とWG1900HP2でも同様の設計となっており、新世代Atermシリーズ共通の特徴となる。

 もう1つの「ワイドレンジアンテナ」は、現状、WG2600HP3だけに搭載された特別な機能だ。

 言葉で説明するのはややこしいので、同製品のウェブページに掲載されているワイドレンジアンテナのイラストもぜひ参照してほしいが、要するにアンテナの特性を変更することで、無線LAN子機側の角度による受信感度を均等にする技術だ。

 電波が飛ぶ方向をX、Y、Z軸で考えたときに、従来モデルは基板全体で3直交するように調整されていた。

 これに対してワイドレンジアンテナでは、基板上に配置されている各アンテナに無給電アンテナやダイポールアンテナをプラスすることで、それぞれのアンテナごとにX、Y、Z方向(実際にはXYZ方向×2+XY×1+XZ×1)に電波が飛ぶように調整されている。

 これにより、端末の向きによる受信感度の違いを均等化できる。例えば、スマートフォンを縦方向に使っているときは受信感度が高いが、動画などを再生するために横向きにすると感度が落ちて、動画が途切れてしまうといったことがあるが、各方向に電波を飛ばせるワイドレンジアンテナなら、こうした現象も最低限に抑えられる。

 どこまで効果があるかは、環境や利用する端末によっても異なるので何とも言えないが、後述するiPerfによるベンチマークテストでは、値のばらつきが少ないという印象を受けた。各フロアで速度を測定する際に、測定するタイミングによって微妙にノートPCの角度が変わり、置き方や液晶の角度によって速度に違いが出ることがあるのだが、今回は、こうした現象がなかった印象がある。

 ワイドレンジアンテナは、端末の角度による違いを吸収できるだけでなく、スループットそのものを底上げする効果もあり、その恩恵は大きいと言えるだろう。

バンドステアリングとオートチャネルセレクトが進化

 続いて機能面の違いを見ていこう。以下の表は従来モデルとの比較だ。

Aterm WG2600HP2Aterm WG2600HP3
MU-MIMO
ビームフォーミング
バンドステアリング○(任意の端末を固定可能)
オートチャネルセレクト△(2.4/5GHz帯起動時のみ)○(2.4/5GHz帯動作中対応)
TVモード
IPv6 IPoE/IPv4 over IPv6×
IPv6 RA RDNSSオプション×
IPv6ブリッジ
Wi-Fi設定引越し
こども安心ネットタイマー
見えて安心ネット
ファイル共有/メディア共有×

 こちらもほぼ共通だが、バンドステアリングとオートチャネルセレクトが進化していることが分かる。

 バンドステアリングは、2.4GHz帯と5GHz帯の混雑状況をチェックすることで、端末が接続する帯域を自動的に切り替える機能だ。例えば、2.4GHz帯での接続中に、接続している端末が多く混雑していることを検知した場合、2.4GHz帯から5GHz帯へと接続先を自動的に切り替える(移動する)ことができる。

 この機能自体は、従来モデルでも提供されていたが、WG2600HP3では、特定の端末を特定の帯域に固定することが可能となっている。

 例えば、PCやゲーム機などを空いている5GHz帯だけでつながるようにしたり、逆に速度をさほど要求しないスマートスピーカーなどの機器を2.4GHz帯に固定しておくことなどが可能だ。

バンドステアリングは標準では無効になっている。有効化することで、効率的な帯域の使い分けができる
バンドステアリングを有効にすると、見えて安心ネットの設定画面から端末ごとの接続周波数帯域を固定できるようになる

 オートチャネルセレクトは、2.4GHz帯や5GHz帯から、空いているチャネルを自動的に選択する機能だ。従来モデルでは、起動時に2.4GHz帯と5GHz帯をサーチできた上、一部モデルでは動作中にも2.4GHz帯のチャネルをサーチできた。今回のWG2600HP3では、さらに動作中の5GHz帯のサーチが追加され、起動時と動作中どちらでも、2.4GHz帯と5GHz帯の両方でチャネルをサーチできるようになった。

 前述したアンテナ技術もそうだが、これらの機能の進化によって、より接続の安定性が向上することになる。

オートチャネルセレクトは、標準では起動時のみ有効となる。[使用する(拡張)]に切り替えると、動作中のチャネル変更もサポートされる

特に中距離が高速、通信の安定性も良好

 では、具体的にどれくらいの速度が出るのだろうか?

 下のグラフは、木造三階建ての筆者宅で、1FにWG2600HP3を設置し、各フロアでiPerfによる速度を計測したものだ。

AtermWG2600HP3
1F657
2F460
3F入口238
3F窓際50.4

※検証環境 サーバー:Intel NUC DC3217IYE(Core i3-3217U:1.3GHz、SSD 128GB、メモリ 4GB、Windows Server 2012 R2) クライアント:Macbook Air MD711J/A(Core i5 4250U:1.3GHz、IEEE 802.11ac<最大866Mbps>)※アクセスポイントモードで検証(WAN回線は接続していない状態)

 結論から言うと、かなり速い印象だ。もっとも遠い3F窓際の50.4Mbpsもなかなか優秀だが、2Fの460Mbpsや3Fの238Mbpsがかなり速い。バリバリの長距離というよりは、中距離が手厚いイメージだろうか。

 また、先に触れたように、通信の安定性がかなり高い印象を受けた。ワイドレンジアンテナの恩恵だと思われるが、値に大きなバラツキがなかった。

 なお、筆者宅の回線の影響の可能性もありそうだが、ルーターとして使用した際に計測がうまくいかなかったため、今回、テストはAterm WG2600HP3をアクセスポイントモードにした状態で計測していることをお断りしておく。

次期ファームウェアでは「つなぐだけ」でOKに

 従来モデルと比べたときの機能的な違いをさらに掘り下げて行こう。この点での最大のトピックは、やはり、冒頭でも触れたIPoE方式のIPv6、およびMAP-EやDS-Liteへの対応となる。

 対応するサービスについては、こちらで接続確認済みリストとして公開されているので、事前にチェックしておくことをお勧めする。筆者も経験したがv6プラスの場合は、フレッツジョイントがネックになってうまく接続できない場合もあるので、環境によっては注意が必要だ。

 今回は、筆者宅で利用しているtransix環境で検証してみた。

 接続設定は、基本的に自動的に実行されるが、今回評価したファームウェア「1.0.0」では、多少の工夫が必要となる。

 パッケージには、IPv6環境で使う場合の設定の用紙が同梱されており、将来のファームウェアアップデートでは、電源オンで自動的に設定が実行されるようになる予定とされているが、今回試用した初期ロットでは、本体の「らくらくスタート」ボタンを押しながら電源ケーブルを接続し、本体の「Active」ランプが緑点滅したら離す(約1分)という操作が必要と記載されていた。

 ボタンを押している1分間もなかなか長いが、その後、自動判別から設定、再起動などが完了するまでも、そこそこ待たされる。ただ、この方法に従ってセットアップを行うことで、見事にtransix環境であることが判別され、自動的にインターネットに接続できる状態になった。

ボタンによる自動設定で、自動的にtransixでの接続が完了した
もちろん、手動設定でもOK。その場合も、動作モードで[transix]を選ぶだけと簡単だ

 管理画面にアクセスするためのパスワードや、無線LAN接続のパスワードは背面に記載されているため、変更することをお勧めしたいが、実質的には極端な話、設定画面を一度も見ずに初期設定を完了させることが可能だ。

 PCやスマートフォンからの無線LAN接続も、WPSによるボタン設定はもちろんのこと、同梱のQRコードやNFCタグによって手軽に設定できるため、設置してから使い始めるまでの敷居はかなり低い。

 今後のファームアップデートで、電源オンのみでtransixの接続設定ができるようになれば、本当に「つなぐだけの設定レス」と言えるようになりそうだ。

 このほか、RDNSSオプションで、Android端末などDHCPv6未対応機器に、DNSv6サーバーのアドレスが設定されるようになっているなど、IPv6環境への対応が進められている。

IPv6のLAN側設定。RAオプションによるDNSv6サーバーアドレス通知(RDNSS)に対応。通知アドレスは標準ではグローバルアドレスだが、リンクローカルアドレスも選べる
DHCPv6に対応しないAndroid端末でも、RAでDNSv6サーバーのアドレスを取得可能

 また、将来的に「IPv6 High Speed」と呼ばれる機能に対応予定になっている点にも注目だ。対応時期は10月の予定となっている上、技術的にも企業秘密ということで、その詳細は明かされていないのだが、IPoE IPv6、およびIPv4 over IPv6の処理が高速化され、v6プラスやtransix環境でのパフォーマンスが向上するとされている。このあたりにも注目だ。

フラッグシップらしい性能、らしくない手軽さ

 以上、NECプラットフォームズのAterm WG2600HP3を実際に使ってみたが、IPoE IPv6、およびIPv4 over IPv6環境での利用に適した製品だ。

 現行のファームウェアでは、ボタン押しながらの設定が必要だが、それでも設定画面を一切表示することなく、DS-Liteのインターネット接続を完了させることができた。

 「よく分からないが速いらしい」ということでv6プラスやtransixに加入したユーザーでも、迷うことなく、すぐにインターネット接続ができるのは大きな魅力と言える。

 また、現状、WG2600HP3のみに搭載されているワイドレンジアンテナをはじめとした無線性能改善の効果も大きく、かなり安定して高速な通信ができる印象がある。1万円以上の無線LANルーターはなかなか手を出しにくいが、本製品は、その価値があるだろう。

 フラッグシップモデルというと、敷居が高いように思えるかもしれないが、高い性能を誰でも使いこなせるので、誰にでもお勧めできるモデルと言えそうだ。

Amazonで購入

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。