清水理史の「イニシャルB」
そのデータ、墓場まで持っていくつもりかい? だったらオレにまかせな! アイ・オー・データ機器「LANDISK HDL-TAシリーズ」
2018年7月23日 06:00
アイ・オー・データ機器から、エントリーモデルに位置付けられる新型NAS「LANDISK HDL-TA」シリーズが登場した。基本性能が向上し、新たにDLNAメディアサーバーにも対応したが、何と言っても注目は「じぶんフォルダー」と呼ばれる特殊なフォルダーだ。管理者でも開けず、HDDの取り外しやバックアップでも開けない究極のプライベートフォルダーを、開発中の試用機で試してみた。
「(本当の)じぶん(と向き合うための)フォルダー」アカウントはユーザーみずから作成。
作成したフォルダーはadminでも開けない。
もちろん、強制的にパスワードを変更することも不可。
ケースからHDDを取り出しても暗号化されているから解読不可能。
バックアップ機能の対象としても選択できない。
たとえ、すべての権限を有する管理者であっても侵すことができない絶対的な秘密のフォルダー。そんな「じぶんフォルダー」を作成できるNASが、今回、アイ・オー・データ機器から登場したLANDISK HDL-TAシリーズ(以下HDL-TA)だ。
1TBモデルの参考価格で1万6500円(税別)のエントリーモデルながら、新機能「じぶんフォルダー」を使うことで、上記のような万全のプライバシーを確保できるようになっている。
これは家族にも、いや、家族だからこそ、見せられない……。
写真なのか、動画なのか、テキストなのかは分からないが、そんなデータは誰にでも、必ずあるものだろう。
しかし、自分が元気なうちはいいが、万が一、PCやスマホを自らの手で操作できなくなったときに、果たして、そのデータはどうなるだろうか?
従来のNASでは、たとえ個人用のホームフォルダーを作成して、そこにデータを保存したとしても、管理者アカウントであれば、強制的にアクセス権を取得したりアカウントのパスワードをリセットすることで、データを覗き見することは不可能ではなかった。
「ここに思い出が詰まっているはず」なんてつぶやきながら、家族がNASの管理画面を覗き込んでいる姿を想像すると、ゾッとしかしないが、今回登場したHDL-TAでは、こうした管理者権限を無邪気に振りかざされても、まずデータを参照することはできない仕様になっている。
クラウドストレージサービスを使ったとしても、実際に見られることはないものの、他人の手にデータを委ねる不安はあるし、メールアドレスなどを使ってパスワードをリセットすることも不可能ではない。これに対して、HDL-TAは、もっと「自分の机の引き出し」に近い感覚がある。
もちろん、“誰にも見られない”ということは、パスワードを忘れてしまうと、自分ですらデータにアクセスできないことになる。しかも、このフォルダーはバックアップ機能の対象外となっているため、NASのHDDが故障すれば、一緒にデータが失われてしまう可能性が高い。
とは言え、「見られたくないデータ=大切なデータ」とも言い切れない。
「じぶんフォルター」には、もちろん自分専用という意味もあるのだが、個人的には「(本当の)じぶん(と向き合うための)フォルダー」と解釈し、それに相応しいデータのみをひっそりとしまい込んでおくために活用すべきだと考える。
フツーのNASとしての完成度も高い
じぶんフォルダーの機能だけにフォーカスしてしまうと、どうも特殊な製品のように思えてしまうが、データの共有やバックアップなどを想定した普通のNASとしても、HDL-TAは高い実力を備えた製品となっている。
まず外観だが、よく見ると、縦置きと横置きの違いはあるものの、同社が販売しているオーディオ向けのNAS「Soundgenic」シリーズとそっくりだ。
仕様や機能の違いはあるものの、本製品もファンレスとなっており、Soundgenicの流れを汲んだものとなっている。実際に電源をオンにして稼働させたり、HDDにアクセスしてみても動作音は非常に静かで、まったく気にならない。本体に耳を近づければ、「カリカリ」と、かすかなアクセス音がたまに聞こえてくるくらいだ。
最新のNASは、低価格製品でも静音性が高いが、それでもファンがあるモデルだと、独特の音が気になることがある。
一方、本製品は本当に静かで、リビングなどに設置しておいても、まったく音が気になることはない。なかなかよく出来た製品だ。
インターフェースは、ギガビット対応の有線LANポート×1、USB 2.0ポート×1というシンプルな構成。ボタンも電源ボタンとリセットボタンのみとなっている。
搭載HDDはシングルドライブ構成となっており、容量の違いによって、1TB、2TB、3TB、4TBの4モデルが用意される。今回試用したのは1TBのモデルだが、4TBでも参考価格が2万6600円(税別)と、コストパフォーマンスが高い。
機能的には、ファイル共有が可能なことに加え、エントリーモデルながら新たにDLNAサーバー機能も搭載している。標準で有効になっており、「disk1」フォルダーに保存した動画などをDLNA対応のテレビなどからネットワーク経由で再生できる。試しに、ビデオカメラで撮影したMP4動画をソニーのテレビ「BRAVIA」から再生してみたが、スムーズに視聴することができた。
セットアップはPCでもスマホでも非常にカンタン
エントリーモデルということで、セットアップの手軽さも気になるところだが、使って見た印象としては、とてもカンタンだ。
スマートフォンを利用する場合は、「Remote Link Files」というアプリをダウンロード後、本体に添付されているQRコードを読み取ることで初期設定が行える。今回、iPhoneを使ってセットアップしてみたが、NASにアクセスするための証明書のインストールと有効化、管理者パスワードの設定など、いくつかのステップが必要だったが、基本的にはアプリの指示に従っていけばいいだけなのでカンタンだ。時間も約10分前後で設定が完了した。
一方、PCの場合は「LANDISKコネクト」というアプリを利用が用意されており、エクスプローラーのネットワークから、自動的に検出されたLANDISKにアクセスし、そこからアプリをダウンロードすることでセットアップを開始する。
アプリをPCにインストールすると、エクスプローラーのナビゲーションパネルに「LANDISK」という項目が追加され、これを選択することで、エクスプローラー上からIPアドレスの設定や「じぶんフォルダー」の作成などができるようになる。
スマートフォンとPC、どちらからでもセットアップはカンタンで、設定後の利用も迷わずできる印象だ。
肝心の「じぶんフォルダー」だが、スマートフォンから作成する場合は、まずブラウザーでNASの設定画面にアクセスする。
通常のNASなら、ここで管理者としてログインすることになるが、冒頭でも触れたように、「じぶんフォルダー」は管理者でなくても作成できる。ログイン画面に表示された「じぶんフォルダーアカウント作成」をタップし、任意のユーザー名とパスワードを指定すればいい。
その上で、Remote Link Filesの設定画面で、作成したじぶんフォルダー用のアカウントとパスワードを設定し直せば、通常の「disk1」という共有フォルダーに加えて、じぶんフォルダーが表示されるようになる。
もちろん、設定画面にアクセスすれば、誰でも自分フォルダーを作成できてしまうので、その運用方法は家族で話し合っておく必要があるかもしれない。家の無線LANを共有した友人なども、この機能を使えてしまうため、場合によっては、無線LANのゲスト用接続先からLANへのアクセスを禁止したり、外部から設定画面にアクセスできないように配慮しておく必要もあるだろう。
また、Remote Link Files(や後述するFotoclip)などのスマートフォンアプリでは、みずからのじぶんフォルダーのみが一覧表示され、ほかのユーザーのじぶんフォルダーは表示されない仕様になっている。しかし、PCから共有フォルダーを表示した場合には、ほかのユーザーのじぶんフォルダーも一覧表示される。アクセスしようとするとアカウントが要求されるので内容は参照できないが、じぶんフォルダーを作成したことは、ほかのユーザーも判断できる。
スマートフォンの写真を自動的にバックアップできるようにする
このように作成したじぶんフォルダーには、PCやスマートフォンから自由にデータを保存できるが、「Fotoclip」という無料アプリで、スマートフォンの写真のバックアップ先としても指定できる。
Fotoclipアプリでは、セットアップ時にNASが自動的に検出されるので、じぶんフォルダーのアカウントでログインすると、バックアップ先にじぶんフォルダーを選択できる。これで、Wi-Fi環境に限られるものの、スマートフォンで撮影した写真が自動的にNASへバックアップされるようになる。
ただし、前述したように、じぶんフォルダーはバックアップの対象とならないため、万が一にも写真が失われては困るという場合は、じぶんフォルダーへのバックアップはお勧めしない。
また、あくまでもバックアップであり、元の写真がスマートフォン上に残る点にも注意したい。本当に他人に見られたくない写真ならば、バックアップ後に端末から削除しておきたいが、その削除は手動で行う必要がある。
なお、Fotoclipの設定では、「この端末内の写真を縮小」という設定も行える。これを有効にすると、端末の写真をNASへバックアップ後に、オリジナル写真を端末から削除し、その代わりに容量を小さくした縮小版の写真データを端末内に保存することができる。
プライバシーではなく、単純に容量の節約のためにスマートフォンの写真をNASへバックアップしたい場合は、この設定を有効にしておくといいだろう。
USBハードディスクへのバックアップ
シングルドライブのHDL-TAでは、データの定期的なバックアップが欠かせないが、バックアップの設定も簡単だ。
USB接続の外付けハードディスクを本体背面に接続後、設定画面からフォーマット(FAT32とNTFSを選択可能)し、バックアップ元とバックアップ先や、実施のスケジュールを指定することで、自動的にバックアップを行えるようになる。
ただし、冒頭で触れたように、じぶんフォルダーはバックアップ対象として選択できない。じぶんフォルダーのデータを二重化したい場合は、PCなどから手動で別のメディアにじぶんフォルダーのデータをコピーしておく必要がある。
しかしながら、別のメディアにデータがあれば、そこから第三者にデータを見られてしまう可能性があるので、そもそもじぶんフォルダーに保存する意味がなくなってしまう。じぶんフォルダーに保存する以上、データが失われることを恐れてはいけない。
話を元に戻そう。バックアップについては初回のみフルバックアップが実行され、次回以降は世代を指定可能で、変更部分のみがバックアップされる。
この方式の場合、復元するときに、指定した日付の中に目的のデータが見つからず、復元したいデータを探して、いろいろな日付のバックアップを開き直さなければならないことがあるが、HDL-TAではシンボリックリンクを活用することで、最新日付のバックアップデータを開けば、以前にバックアップされたータをそのまま参照可能となっている。
使い方次第で便利な「じぶんフォルダー」
以上、アイ・オー・データ機器のHDL-TAシリーズを実際に使ってみたが、「じぶんフォルダー」という発想は、なかなか面白いと感じた。
データが失われるリスクはあるものの、あらゆる方向性でデータのプライバシーを守る工夫がなされている。使い方に注意が必要なので、賛否両論ありそうな機能ではあるが、個人的には、徹底した割り切りを高く評価したいところだ。
もちろん、じぶんフォルダー以外の基本的な部分の完成度も高く、以下のようにパフォーマンス的にも十分なので、実用性は非常に高い。海外製のNASのような多機能さはないが、むしろ使い方に迷うことなく、シンプルに運用できるのが美点だ。価格もリーズナブルなので、NASの入門用としてお勧めできる製品と言えそうだ。