清水理史の「イニシャルB」

3万円台の10GBASE-T対応NAS、ASUSTOR「AS4002T」 十分な速度を得るにはRAID 0の選択もやむなしか?

 ASUSTORのAS4002Tは、実売3万円台ながら、10GBASE-T対応のLANポートを標準搭載するコストパフォーマンスに優れたNASだ。大容量ファイルの読み書きに有利な10Gigabit Ethernet(GbE)によるファイル共有環境を手軽に構築できる製品だが、果たして、その実力はどれほどのものなのだろうか?

魅惑の10GbE環境へようこそ現状の10GBASE-T対応NASの中ではダントツに安い

 その実売価格は、2018年7月24日時点のAmazon.co.jpで税込で3万9800円。

 もちろん、HDDレスのモデルなので、ドライブの費用をプラスして考える必要があるが、仮に4TBのWD Redを2台使ったとしてもプラス3万円前後で済むので、トータルの価格は7万円前後。

 現状の2~4ベイで、内蔵またはオプションで10GBASE-Tに対応する価格がリーズナブルな製品を下の表にいくつかピックアップしてみたが、比べてみると、その安さが際立つ。

 いやあ、10GbEのネットワークストレージの敷居をここまで下げたのだから、今回登場したASUSTOR AS4002Tの功績は、実に大きい。

ASUSTOR「AS4002T」。実売3万円台ながら、10GBASE-T対応のLANポートを標準搭載。10GbE接続用のCAT6aケーブルも同梱される

 10GBASE-T対応ネットワーク製品は、ここ1年ほどで、ぐっと低価格化が進んできたものの、そうは言ってもNICは1万円超え、スイッチも4~5万円と、法人ならまだしも、個人で手を出すには、まだ敷居が高かった。

 しかしながら、今回のAS4002Tの実売価格は、他社の売れ筋2ベイNASと比べてもプラス1.5~2万円前後の価格差しかない。ASUSTORのNASは、もともと価格に対してハードウェア性能が高い傾向にあるが、今回のモデルは10GBASE-Tに対応し、輪をかけてコスパが高いという印象だ。

 現状、NASの売れ筋モデルがコスパ重視のエントリーモデルであることを考えると、AS4002Tは、標準でメモリを2GB搭載する上、リンクアグリゲーション(LAG)対応1000BASE-Tの2ポートを標準搭載するなど、ミドルレンジと言ってもいいくらいの性能を備えている。

 これなら、もう少し予算をプラスして、より高性能なNASを手に入れたいというニーズにも無理なく応えられるレベルであり、本製品の購入をきっかけに、スイッチやNICなど、家庭内のLAN環境を思い切って10GBASE-T対応へと整備しようかという気にもさせてくれる製品となっている。

ASUSTOR AS4002TQNAP TS-253Beバッファロー TS5210DN202NETGEAR ReadyNAS 524X
実売価格3万9800円5万8121円7万2380円6万2700円
CPUMarvell ARMADA7020 1.6GHz(デュアルコア)Celeron J3455 1.5GHz(クアッドコア)Alpine AL314 1.7GHz(クアッドコア)Pentium D1508 2.2GHz(デュアルコア)
メモリ2GB4GB(最大8GB)4GB(ECC)4GB(ECC)
HDDベイ222(2TB搭載)4
USBUSB 3.1×2USB 3.0×5USB 3.0×2USB 3.0×3
eSATA---1
LAN1000Mbps×21000Mbps×21000Mbps×21000Mbps×1
10GbE10GBASE-T×110GBASE-T×110GBASE-T×1
消費電力19.5W(稼働時)20.42W(稼働時)85W(最大)88W(動作時)
サイズ(幅×奥行×高さ)170×114×230168×105×226170×170×230185×239×194
重量1.6kg1.66kg4.8kg4.53kg

※オプション「QXG-10G1T」(1万4800円)で10GBASE-T×1を追加可能

工具不要でホットスワップ可能な2つのベイを搭載

 それでは、実機を見ていこう。

 本体は、2ベイのスリムな筐体だ。従来モデルは、ダイヤモンドプレートと呼ばれる格子状の細かなラインが本体に刻み込まれていたが、本製品ではダイヤモンドのカットを思わせる立体的な造形が採用されており、シンプルながら高級感を感じさせる印象に変わった。

正面
背面
側面

 本体前面のパネルはマグネット式で、取り外しが可能。デザイン面だけでなく、フロントからのほこりの侵入を防止する実用的な面も備えている。

 この前面パネルを取り外すと、HDDの脱着が可能だ。HDD装着用のトレイは工具不要のスクリューレスで、側面のアタッチメントでHDDを固定する方式。HDDの取り付けはとてもカンタンだ。

前面カバーを取り外すとホットスワップ可能なHDDトレーが現れる
HDDはドライバーレスで固定可能
検証ではデータセンター向けの「WD SE WD4000F9YZ」を利用した

 また、同社製のNASは、HDDを取り外し可能なストレージとして扱うことができる「MyArchive」という機能に対応しているのも特徴だ。当然、NASの動作中にHDDを取り外すホットスワップにも対応している。

 2つのベイに搭載したHDDをRAID 1構成とする一般的な使い方も可能だが、1台をメインに利用し、もう1台をバックアップや保管用のデータを保存するMyArchiveとし、必要に応じて脱着しながら使うこともできる。

 この機能は、ASUSTORのNASを選ぶ理由の1つとして大きな説得力を持っているが、2ベイの本製品で利用する場合は、初期設定時にHDDの初期化方法を工夫する必要がある(詳しくは後述)。

ASUSTORならではの機能「MyArchive」を利用することで、1台を脱着可能なストレージとして利用することもできる

PCでもスマホでもセットアップはカンタンRAID構成の表記や既定値には違和感

 セットアップは簡単だ。ネットワーク内のPCからウェブブラウザーでNASの管理画面にアクセスしてHDDの初期化などの初期設定を実行するか、Android/iOS向けの「AiMaster」アプリを利用してスマートフォンからセットアップを実行できる。

 なお、製品にはセットアップ用CDも同梱されているが、今さらPCを使ってCDでセットアップするのも時代に合っていない。AiMasterアプリを利用するか、PCでもせめて「http://start.asustor.com」からセットアップを開始することをお勧めしたい。

 それから、筆者がASUSTORのNASをレビューするたびに指摘しているが、初期設定時のHDDの初期化方法の選択肢が「最大容量」と「バランスが取れている」という表記になっていること、そして標準の選択肢が「最大容量」になっていることは、個人的にどうしても納得できない。

 「最大容量」がRAID 0、「バランスが取れている」がRAID 1を表しているのだが、この表現では、何がどう違うのか分からない人が多いだろう。データの安全性の面からは、RAID 0の「最大容量」が標準で選択されていることも、あまり好ましくない。

スマートフォンでもアプリを利用して簡単に初回セットアップが可能
「最大容量」はまあいいが、「バランスが取れている」は分かりにくい。RAID 0が標準で選ばれているのも疑問だ

 しかしながら、後述するベンチマークテスト結果を見ると、「うーむ、リスクを取ってでもRAID 0にする選択も、ナシとは言い難い……」と思うところもあり、ちょっと悩ましい。

 ちなみに、前述したMyArchiveを利用する場合は、初期設定で「カスタムセットアップ」を選択した上で(初期設定後にボリュームを作り直してもいい)、ボリューム設定のRAIDレベルで「Single」を選択する必要がある(その後、ストレージマネージャでMyArchive用のボリュームを新たに追加する)。せっかくの機能なのに使い方の敷居が高い点は、何とかすべきだろう。

MyArchiveを使うには、カスタム設定を選択し、ボリュームをSingleで構成。設定画面で、MyArchive用ボリュームを後から追加する必要がある

実際のコピー速度は150~170MB/sほど

 それでは、気になるパフォーマンスをチェックしていこう。

 今回のテストでは、RAID 1で構成したAS4002Tを、ネットギアジャパンの10GBASE-T対応スイッチ「XS505M」に接続。ASUS製の10GBASE-T対応NIC「XG-C100C」を搭載したPCから、共有フォルダーに対してCrystalDiskMark 6.0.1を実行した。

 比較のために、1Gbps環境、10Gbps環境のJumbo Frameなし(標準)、Jumbo Frame 9000、の3つの環境でテストを行った。

RAID 1構成時、10Gbps、Jumbo Frameなし
RAID 1構成時、10Gbps、Jumbo Frame 9000
RAID 1構成時、1Gbps、Jumbo Frameなし

 結果を見ると、10Gbps、Jumbo Frame 9000時のシーケンシャルで1000MB/s越えと、NASとは思えないほど高い値が出ており、10GbEの威力を発揮できているかのように見える。

 しかしながら、実際にPCからNASに対してファイルをコピーしてみると、そこまで高い速度が出ないことに気が付く。PC環境やネットワーク環境の影響があるにしても、ファイルコピーでは平均的に150MB/s前後の速度しか出ないのだ。

 以下の各画像は、13.1GBのファイルをAS4002Tにコピーし、Windows 10のダイアログボックスで転送速度を確認したときのものだ。

164MB/s
147MB/s
RAID 1構成時の読み込み(NAS→PC)速度(10Gbps、Jumbo Frame 9000)。
RAID 1構成時の書き込み(PC→NAS)速度(10Gbps、Jumbo Frame 9000)。
309MB/s
289MB/s
RAID 0構成時の読み込み(NAS→PC)速度(10Gbps、Jumbo Frame 9000)。
RAID 0構成時の書き込み(PC→NAS)速度(10Gbps、Jumbo Frame 9000)。
(参考)RAID 0構成時のCrystarlDiskMark 6.0.1(10Gbps、Jumbo Frame 9000)

 結論から言うと、HDD構成がボトルネックになっているようだ。RAID 0を選択した際は、読み込みも書き込みも安定して300MB/sを実現できているが、RAID 1を選択すると、開始直後の数秒は一時的に200MB/sを越える速度が出ることはあっても、だんだんと速度が低下し、最終的には150MB/s前後で落ち着いてしまう。

 4ベイのAS4004Tであれば4台のHDDでRAID 5を構成できるため、さらに速度が上がる可能性はあるが、2ベイのAS4004TでRAID 1を選択した場合は、正直なところ、1Gbpsと比べても「気持ち速いかな」という程度で頭打ちになってしまう。

 このため、本製品でネットワークの性能をフルに発揮させるには、リスクを承知でRAID 0を選択するか、容量は限られるが低価格化が進んできたSSDを搭載するという選択になりそうだ。データを保管するというよりは、共同作業のための高速なワークドライブという使い方であれば、その選択もありだろう。

10GbE入門用にはアリだが

 以上、ASUSTORのAS4002Tを実際に試してみた。リーズナブルな価格設定によって、10GBASE-T NASというジャンルを広めることになりそうな点は、大いに評価したいところだ。

 しかしながら、RAID 1構成を選択すると、ベンチマークの結果ほどは、普段使いの速度が向上しない点が気になった。それでも1Gbps環境と比べれば、確実にファイルコピーなどの待ち時間を短縮することができるが、そこまで大きな差として現れないのは残念だ。

 せっかく10GBASE-Tに投資するのだから、せめて普段のファイルコピーでの待ち時間が、1Gbpsの半分ほどにはなって欲しいところ。

 今回は価格重視で2ベイモデルを取り上げたが、実質的にはHDDを4台搭載可能で、RAID 5構成が可能なAS4004Tの方が、10GBASE-Tとのバランスはいいのではないかと想像できる。

 なお、今回は触れなかったが、アプリを追加することで、クラウドサービスとのデータ同期ができたり、VPNサーバーやRADIUSサーバーとして稼働させたりすることもできる。競合製品と比べると、数は多くないが、NASとしての使い方の幅を広げることは可能だ。

 価格を考えると、なかなかお買い得な製品と言えそうだが、10GbEの速度を活かすには、RAID 0の選択が必要な点が悩ましいところだ。

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清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。