清水理史の「イニシャルB」

最大1300MbpsのUSB 3.0接続無線LAN子機、TP-Link「Archer T9UH」 3ストリーム+フレキシブルの恩恵は長距離で意外に大きい

 TP-Linkから3ストリームのIEEE 802.11ac(最大1300Mbps)に対応したUSB 3.0接続の無線LAN子機「Archer T9U」が発売された。デスクトップPCの無線LAN化や、内蔵無線LANのスペックが低いノートPCの強化に役立つ製品だ。その実力を検証してみた。

数少ない3ストリーム1300Mbps対応のUSB子機

 PCにも、スマホにも、ゲーム機にも。ほとんどの機器に無線LANが内蔵されるようになった現状を考えると、USB接続の無線LAN子機を購入するのは、比較的、限られたケースになることだろう。

 自作PCなどのデスクトップPCでは、PCI Expressスロットを消費することに抵抗がなければ、無線LAN用の拡張カードを使う手もあるし、子機(コンバーター)モードを備えた中継機や無線LANルーターを購入して、コンバーターとPCの間だけ有線LANで接続するという手もある。

 かつて、PCに無線LANが内蔵されていなかった時代なら選択肢としてあり得たが、今となっては、USB接続の無線LAN子機を積極的に選ぶ理由が、さほどなくなりつつある。

 そんな中、TP-Linkから新たに登場したのが、今回取り上げる「Archer T9UH」だ。

USB 3.0接続で、3ストリーム1300Mbpsの通信に対応した無線LAN子機TP-Link「Archer T9UH」

3ストリーム11ac対応の数少ないUSB 3.0接続無線LAN子機

 実売価格で6180円(2018年7月30日Amazon.co.jp)と、決してリーズナブルな価格の製品ではないが、3ストリーム対応で最大1300Mbpsの通信を実現可能な、現状では数少ないUSB 3.0接続のIEEE 802.11ac対応無線LAN子機だ。

 筆者が知る限り、現状、国内で入手可能な3ストリームの1300Mbpsに対応するUSB 3.0接続の無線LAN子機は、ASUSの「USB-AC68」と本製品くらいで、非常に珍しい存在となる。

 現状、ノートPCやスマートフォンに内蔵されている無線LANは、2ストリーム対応の最大866Mbpsがほとんどだ。これはアンテナを内蔵できるスペースが限られることも理由となっている。最近になって、IEEE 802.11ac wave 2の「HT160」に対応することで、1733Mbpsを実現可能な製品が、ようやく登場してきたところだ。

 HT160は、以前の本連載でも取り上げた通り、利用する帯域幅を従来の80MHzから160MHzまで広げることで、2ストリームの場合で1733Mbpsの速度を可能とするものだが、対応する製品が、ノートPCでは現状はゲーミング向けなどに限られる上、対応するアクセスポイントもネットギアジャパンの「Nighthawk X4S R7800」くらいしか存在しない。

 そう考えると、対応アクセスポイントも多く、USB接続で、実効はともかく有線LANを越える1300Mbpsの通信を手軽に実現できそうなArcher T9UHは、極めてニッチな分野ではあるものの、注目の製品と言えそうだ。

サイズは結構大きい、本体は折りたたみ式

 それでは、実際に製品を見ていくことにしよう。

 本体は、USB接続の機器としてはなかなか大きめで、サイズは100.53mm×36.6mm×14.3mmほどもある。

 USB 3.0登場当初の大容量USBメモリが、確か、これくらいのサイズ感だったような気がするが、一般的なUSBメモリと比べると、3~4本分をまとめたくらいのボリュームがある。

手に持ってみると結構大きい
折りたたみ式のアンテナを備える

 本体は折りたたみ式となっており、跳ね上げた側に4つのハイゲインアンテナが内蔵されている。このため、基本的には開いて使うことになり、水平近くまで広げると、長さは15cmほどにもなる。

付属のクレードルに装着したところ

 PCのUSBポートに直接接続することも可能だが、サイズが大きく、隣のポートを塞いでしまうこともあるため、基本的には同梱される据え置き用クレードルを使うのがお勧めだ。USBケーブルの長さも1mほどあるので、アクセスポイントからの見通しがいい場所など、通信環境に応じた設置場所を選べるようになっている。

 対応プラットフォームは、Windowsのほか、10.7~10.12の各Mac用OS、Linuxにも対応している。Windows 10向けのドライバーも提供されているが、基本的にはつなぐだけで自動的にドライバーがインストールされ、使えるようになる。なお、Mac用OSではドライバーとユーティリティのインストールが必須だ。

PCに直結すると、結構はみ出す

長距離の速度改善に効果的、通信速度の上限は劣る

 それでは、気になるパフォーマンスをチェックしていこう。下のグラフは、木造3階建ての筆者宅の1Fにアクセスポイント(今回はSynology RT2600acを使用)を設置し、各フロアでiPerfによる速度を計測した結果だ。

Archer T9UH(1300Mbps)Macbook Air内蔵(866Mbps)
1F298622
2F282337
3F入口289257
3F窓際21446

※検証環境 サーバー:Intel NUC DC3217IYE(Core i3-3217U:1.3GHz、SSD 128GB、メモリ 4GB、Windows Server 2012 R2) クライアント:Macbook Air MD711J/A(Core i5 4250U:1.3GHz、IEEE 802.11ac<最大866Mbps>)

 結果を見ると、1階の速度が298Mbpsで、3ストリームの1300Mbps対応にしては思ったほど最高速度が高くない。というか、866Mbps対応であるMacbook Airの622Mbpsにも大きく劣ってしまっている。

 USB 2.0で接続されてしまったのではないかと疑って、Windows搭載の別のPC2台ほどで試してみたが、そちらでもやはり上限は300Mbpsほどだったので、ピーク性能としては、このあたりが限界なのかもしれない。

 しかしながら、注目は長距離の結果だ。2階は若干負けているが、3階では完全にノートPC内蔵の無線LANを逆転しており、もっとも遠い3階窓際では、ノートPC内蔵の無線LANが46Mbpsほどでしか通信できないところ、本製品では214Mbpsと非常に高い速度が実現できている。

 同じノートPCで、3階窓際で200Mbps越えというのは、筆者宅の場合、中継機やメッシュシステムを使った場合の速度と同等であり、何の中継もなしのアクセスポイント単体で、これを実現できているのは、非常に素晴らしい結果だ。

 これは、3ストリームの恩恵もあるが、設置の自由度が高いことも影響していると考えられる。前述したように、本製品はPCに直結するとほかのUSBポートの利用を制限する場合があるため、今回のテストでもクレードルを使っている。これにより、見通しのいい場所に本製品を設置できるわけだ。

 今回のテストでは、どの場所でも最大まで開き、まっすぐ立てた状態で計測している。本体を折り曲げることで、アクセスポイントの方向に角度を調整することも可能なので、こうした点が長距離でのパフォーマンスの高さにつながっているのではないかと考えられる。

 正直、近距離の性能はがっかりだが、環境に依存するため一概には言えないものの、長距離での利用環境を想像以上に改善できる可能性もありそうだ。

もう少し安いとうれしいが、長距離での通信性能を向上できる

 以上、TP-LinkのUSB 3.0接続の無線LAN子機「Archer T9UH」を実際に試してみたが、なかなか興味深い製品だ。

 近距離の速度がふるわなかったのは、もしかすると筆者宅の環境が影響している可能性もあるが、長距離の性能がすこぶる良好だ。実効で200Mbpsをコンスタントに実現できれば、一般的なインターネット接続の利用には、まず困ることはない。

 しかしながら、実売価格で6000円となると、実際に購入するかどうかは、かなり躊躇する。もう少しプラスして、コンバーターモードを備えた無線LANルーターを購入するのも手だし、デスクトップPCならPCI Expressの子機も価格的には同程度だ。

 USBによる手軽さに魅力を感じるのであれば、デスクトップPCの無線LAN化などに、本製品を選ぶのもひとつの手だろう。

Amazonで購入

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。