清水理史の「イニシャルB」
2台で家中200Mbps超のメッシュWi-Fiルーター、Synology「MR2200ac」
トライバンドでIPv6 IPoE(DS-Lite)に対応、単体利用もRT2600acとの併用も可能
2019年2月4日 06:00
Synologyから、メッシュネットワークの構築が可能なトライバンドWi-Fiルーター「MR2200ac」が発売された。2018年秋から登場が予告されていた製品だが、ようやく国内での販売が実現したことになる。2台のMR2200ac同士の組み合わせに加え、RT2600acとの組み合わせでもテストしてみた。
トライバンド対応で単体利用も可能なメッシュWi-Fi製品
「もう少し待ってIEEE 802.11axにするか、それとも今メッシュを買うか」
2019年前半のWi-Fiルーター市場は、この選択が1つのポイントになりそうだが、どうやら、今のところは後者の方が選択肢が豊富で、検討対象としても現実的だ。
2018年以降、各社からメッシュ対応のWi-Fiルーター、それも中継に無理のないトライバンドに対応する製品がいくつか発売されてきている。今回、このラインアップに、Synologyの「MR2200ac」が新たに追加され、われわれの選択肢はさらに広がったわけだ。
Synologyと言えば、日本でも人気のNASベンダーだが、そのノウハウを生かしてルーター市場へと参入し、2017年には日本でも「RT2600ac」を発売している。今回の「MR2200ac」は、同社として第2弾となる製品で、最大通信速度は2ストリーム対応の867Mbpsと控えめながら、5GHz帯+5GHz帯+2.4GHz帯のトライバンドに対応しており、複数台を組み合わせて配置することでメッシュネットワークを構成することが可能となっている。
現状、国内で購入可能な主なトライバンドのメッシュ対応製品は、下の表のようになっている。MR2200acの価格は1万6000円前後となっているが、これは1台のみの価格だ。他社製品は、はじめから複数台がセットで販売されているが、本製品は単体での販売が基本となっている。
通常のWi-Fiルーターとして購入した後に、電波が届かないなどの理由でメッシュネットワーク環境へと移行したい場合、1台ずつ追加する形態となっている。2台セットで考えると、価格面では競合と同等だが、何しろ多機能な製品となっているので、機能面まで考慮すれば、コストパフォーマンスは高いと言えるだろう。
実売価格※ | 通信速度 | ユニット数 | |
TP-Link Deco M9 Plus | 3万1632円 | 867+867+400 | 2 |
NETGEAR Orbi RBK50 | 2万8907円 | 1733+867+400 | 2 |
NETGEAR Orbi Micro RBK20-100JPS | 2万2587円 | 867+867+400 | 2 |
Linksys VELOP | 3万4254円 | 867+867+400 | 2 |
バッファロー WTR-M2133HP/E2S | 3万6172円 | 867+867+400 | 3 |
Synology MR2200ac | 1万6548円 | 867+867+400 | 1 |
※2019年1月7日現在。Amazon.co.jp調査
アンテナ内蔵で見た目スッキリ、5GHz帯はW56が中継用?
それでは、製品を見ていこう。ほかのメッシュ対応製品のように個性的な筐体ではなく、パネル型とでも言おうか、また少しテイストの違った形状となっている。
サイズとしては、199×65×154mm(幅×奥行×高さ)なので、コンパクトというわけではないが奥行きが短く、アンテナも内蔵されているため、壁際などに設置すれば邪魔に感じることはないだろう。
見た目は、色合いこそ黒で落ち着いているが、正面のロゴが大きく、前面下部の三角形のデザインも人によっては個性的に感じるかもしれない。個人的には、何となく“STAR WARS”を感じてしまった。
インターフェースは、いずれもギガビット対応のWAN×1ポート、LAN×1ポートに加え、USB 3.0×1ポートを背面に装備する。メッシュ対応製品は一般的に有線LANのポートが少ないが、本製品は単体の無線LANルーターとして使う可能性もあるので、LANポートはもう少し多い方がありがたいかもしれない。
スペックは、先にも少し触れたが、2ストリーム対応で最大867Mbpsの5GHz帯が2系統、最大400Mbpsの2.4GHz帯が1系統のトライバンドとなる。同社製のRT2600acと比べると最大通信速度は低いが、5GHz帯を1系統多く備えているあたりが、メッシュ対応製品らしい特徴となる。
なお、2系統ある5GHz帯は、片方がW56、もう片方がW52/W53と、5GHz帯のチャネルを使い分ける方式となっている。また、W56側で利用可能なチャネルは100/104/108/112の4つに限られる。このあたり、W56を中継用に使おうというメッシュでの利用を想定した構成と言えそうだ。
RT2200ac | RT2600ac | |
実売価格 | 1万6548円 | 2万4984円 |
CPU | IPQ4019(クアッドコア、717MHz) | IPQ8065(デュアルコア、1.7GHz) |
メモリ | 256MB | 512MB |
無線LAN | IEEE 802.11ac(wave2)/n/a/g/b | ← |
バンド数 | 3 | 2 |
最大速度(2.4GHz) | 400Mbps | 800Mbps |
最大速度(5GHz-1) | 867Mbps | 1733Mbps |
最大速度(5GHz-2) | 867Mbps | × |
チャネル(2.4GHz) | 1~13 | ← |
チャネル(5GHz) | W52/W53/W56※ | ← |
ストリーム数 | 2 | 4 |
アンテナ | 内蔵 | 外付け×4 |
DS-Lite(IPv6 IPoE) | ○ | ← |
MAP-E(IPv6 IPoE) | × | ← |
WAN | 1000Mbps×1 | 1000Mbps×1(デュアルWAN対応) |
LAN | 1000Mbps×1 | 1000Mbps×4 |
USB | 3.0×1 | 2.0×1、3.0×1 |
動作モード | RT/AP | RT/AP/WDS |
イーサネットバックホール | ○ | ← |
最大カバー範囲 | 185平方メートル | 278平方メートル |
最大接続数 | 90台 | 100台 |
※W56は100/104/108/112の4チャネルのみ使用可能。5Hz-1がW56、5Hz-2がW52/W53
将来的にはWPA3やMAP-Eでの利用も
初期設定は、スマートフォン向けのアプリ、もしくはPCからウェブブラウザーで実行可能となっている。
設定は、画面上の指示に従って設定していけば簡単で、メッシュネットワークの構成でも、追加したいアクセスポイントを自動的に検出できるようになっていて、苦労しない印象だ。
インターネット接続に関しては、すでにDS-Liteには対応しており、初期設定のウィザードでは選択できないものの、セットアップ後に設定画面で「DS-Lite」を選択するだけで簡単に接続することが可能だ。以前はDNSの設定やAFTRの手動設定が必要だったが、現在は自動で設定される。
残念ながら現時点では、IPoE方式のIPv6で使われているもう1つのIPv4実装方法で、v6プラスで利用されている「MAP-E」には対応していないが、Synologyによると、現在、対応を進めているとのことだ。今後、数回以内のファームウェアアップデートで対応するという。
海外メーカー製のルーターで、こうした国内の通信事情まで考慮してくれるのは珍しい。同社は昨年、日本法人を設立したが、この効果が発揮されているのだろう。
なお、本製品は、従来のWPA2に代わるセキュリティ方式となるWPA3にも対応しているが、WPA3に関しては、現状、クライアント側の対応が追いついていないため、現時点では、ほぼ利用できない。
このほか、ファームウェアが共通となるため、基本的な機能は上位モデルのRT2600acに準じるが、完全に同じではない。最新版のファームウェア「SRM 1.2」については、こちらの記事を参照してほしいが、RT2600acで利用可能なIDS/IPS機能の「Threat Prevention」には非対応となる。また、ハードウェアスペックの違いから、「Cloud Station」や「VPN Plus Server」での接続数が少なくなっている。
IDS/IPSが必要な場合は、MR2200ac×2の構成ではなく、RT2600acをプライマリのルーターとして稼働させ、そこにMR2200acをメッシュポイントとして、後から追加する構成とするのがいいだろう。
MR2200ac×2で家中どこでも200Mbpsオーバー
それでは、気になるパフォーマンスをチェックしていこう。
テストは、いつも通り、木造3階建ての筆者宅でiPerfを使って計測したが、今回は、RT2600ac×1、MR2200ac×2の3台を使って、かなり多くの組み合わせでテストしてみた。表とグラフがかなり大きくなるが、結果は次の通りだ。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | ||
MR2200ac×1 | 上り | 503 | 204 | 134 | 48.3 |
下り | 648 | 382 | 282 | 104 | |
MR2200ac+MR2200ac(2F) | 上り | 457 | 279 | 306 | 197 |
下り | 593 | 267 | 267 | 252 | |
MR2200ac+MR2200ac(3F) | 上り | 447 | 183 | 231 | 183 |
下り | 580 | 173 | 209 | 194 | |
RT2600ac×1 | 上り | 595 | 262 | 179 | 28.9 |
下り | 652 | 366 | 281 | 88.2 | |
RT2600ac+MR2200ac(2F) | 上り | 590 | 292 | 235 | 142 |
下り | 638 | 182 | 179 | 173 | |
RT2600ac+MR2200ac(3F) | 上り | 600 | 143 | 273 | 147 |
下り | 645 | 233 | 235 | 225 | |
RT2600ac+MR2200ac(2F)+MR2200ac(3F) | 上り | 571 | 293 | 204 | 134 |
下り | 615 | 157 | 206 | 206 |
※検証環境 サーバー:Intel NUC DC3217IYE(Core i3-3217U:1.3GHz、SSD 128GB、メモリ 4GB、Windows Server 2012 R2) クライアント:Macbook Air MD711J/A(Core i5 4250U:1.3GHz、IEEE 802.11ac<最大866Mbps>)
ざっくり言えば、ベストはMR2200acを2台組み合わせ、1階と2階にそれぞれ設置したケースだ。
MR2200acは、単体でもかなり優秀な製品で、1階で648Mbps、3階の窓際でも104Mbps(いずれも下り)を実現できている。しかし、2階にMR2200acを1台追加することで、2階こそ382Mbpsから267Mbpsへとダウンしてしまうものの、最も遠い3階窓際が104Mbpsから252Mbpsへと大幅に向上された。
これにより、筆者宅の場合、家中のどの部屋からでも、ほぼ200Mbpsオーバーで通信できるようになった。メッシュの場合、中継によるロスなどで、このように中間地点での速度低下が発生する可能性はあるものの、全域にわたって通信速度を均一化できるのがメリットだ。
RT2600acとMR2200ac1台の組み合わせでは、2階ではなく3階にMR2200acを設置した方が、最終的な速度は向上した。しかし、RT2600ac×1+MR2200ac×2の3台構成は、やはり筆者宅では過剰で、逆に全体的なパフォーマンスが低下する傾向が見られた(詳しくは後述するがスター型接続となった)。通常は2台の組み合わせで十分だろう。
メッシュの「もやもや」感を解消
さて、このようにメッシュ構成で十分な性能を発揮できるMR2200acだが、Synologyらしい特徴として、構成されたメッシュを「見える化」できるのも、大きなポイントだ。
従来のメッシュ対応製品の中には、接続状況を把握できないものが多く、「これ、基幹にどのチャネル使ってんだろう?」と、個人的には「もやもや」感がたっぷりあったのだが、MR2200acでは、この感覚を見事に払拭してくれている。
SRMの設定画面を表示すると、現在、メッシュに参加しているアクセスポイントが何GHzの電波で接続されているかが簡単に確認できる上、それぞれのアクセスポイント間が実効で何Mbpsで接続されているのかをテストすることもできる。
実際に、筆者宅の接続状況をチェックしてみたのが次の表だ。印象としては、5GHzを積極的に使う傾向が見られる。環境によって異なる可能性もあるが、結果的に、筆者宅ではアクセスポイント間の基幹にも、クライアントの接続にも2.4GHz帯は一切使われなかった。
接続/周波数 | 上り | 下り | |
MR2200ac+MR2200ac(2F) | 1F-2F 5GHz-1 | 215.23 | 219.57 |
MR2200ac+MR2200ac(3F) | 1F-3F 5GHz-1 | 221.83 | 217.61 |
RT2600ac+MR2200ac(2F) | 1F-2F 5GHz | 286.45 | 280.59 |
RT2600ac+MR2200ac(3F) | 1F-3F 5GHz | 280.27 | 278.16 |
RT2600ac+MR2200ac(2F)+MR2200ac(3F) | 1F-2F 5GHz | 207.4 | 226.25 |
1F-3F 5GHz | 308.19 | 276.66 |
※RT2600acはデュアルバンドなので5GHz帯域は1系統のみ。今回5GHz-1はW56が割り当てられた
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | |
MR2200ac+MR2200ac(2F) | 1F 5GHz-1 | 2F 5GHz-2 | 2F 5GHz-2 | 2F 5GHz-2 |
MR2200ac+MR2200ac(3F) | 1F 5GHz-1 | 3F 5GHz-2 | 3F 5GHz-2 | 3F 5GHz-2 |
RT2600ac+MR2200ac(2F) | 1F 5GHz | 2F 5GHz-2 | 2F 5GHz-2 | 2F 5GHz-2 |
RT2600ac+MR2200ac(3F) | 1F 5GHz | 3F 5GHz-2 | 3F 5GHz-2 | 3F 5GHz-2 |
RT2600ac+MR2200ac(2F)+MR2200ac(3F) | 1F 5GHz | 2F 5GHz-2 | 3F 5GHz-2 | 3F 5GHz-2 |
※RT2600acはデュアルバンドなので5GHz帯域は1系統のみ。今回5GHz-1はW56が割り当てられた
もちろん、距離が離れているケースやクライアントの数が多いケースでは、2.4GHz帯を使った方が効率的な場合もあるが、2.4GHz帯はそもそも速度が遅い上、混雑によってまともなスループットは期待できないので、2.4GHz帯を避けるのは賢いと言える。
過去、筆者がテストしたメッシュ対応製品の中には、逆に2.4GHz帯を積極的に使おうとするものもあり、こうした製品は全体的なスループットが低い傾向があったが、こうした点が見られないのは好印象だ。
なお、RT2600ac+MR2200ac(2F)+MR2200ac(3F)の組み合わせでは、「1階のRT2600ac←→2階のMR2200ac」「1階のRT2600ac←→3階のMR2200ac」というように、2階、3階、どちらのMR2200acも1階のRT2600acに接続するスター型の接続になった。
Synologyのメッシュシステムでは、スター型に加え、デイジーチェーンもサポートしており、環境によっては、「1階のRT2600ac←→2階のMR2200ac←→3階のMR2200ac」という数珠つなぎに接続される場合もあるとされているが、これは自動構成となっているようで、今回はスター型が選択された。
RT2600acの5GHz帯は1系統なので、スター型の場合、5GHz帯を2つのMR2200acで共有することになり、あまり効率的とは言えない。おそらく1733Mbpsの帯域を867Mbps+867MbpsのMU-MIMOでうまく使い分けているのではないかと推測される。
いずれにせよ、帯域や実効速度に加え、こうしたアクセスポイント間の接続形態がきちんと見えるようになっている点は、Synology製品らしい特徴と言えるだろう。
Synologyらしいメッシュ製品
以上、Synologyのメッシュ対応トライバンドWi-Fiルーター「MR2200ac」を実際にテストしてみたが、メッシュとしての使いやすさを備えてるのはもちろん、5GHz帯を積極的に使うことでパフォーマンスも高く、なかなか優秀な製品と言って良さそうだ。
個人的には、メッシュの接続形態がきちんと把握できるのが好印象で、今まで感じていたメッシュの「もやもや」が解消されている点を高く評価したい。こうしたこだわりは、実にSynologyらしく、好印象だ。
なので、メッシュ対応Wi-Fiルーターとしては、非常にお勧めできる製品ではあるのだが、やはり最終的なネックは価格となる。MR2200ac×2で約3万円、RT2600ac+MR2200acで約4万円という価格は、なかなか個人ユーザーでは踏み込めない。
豊富な機能を考えれば、十分にお買い得なのだが、もう少しお財布に優しいとありがたい印象だ。