清水理史の「イニシャルB」

11axルーターは「予想を超える売れ行き」国内で初めて発売したASUSに今後の展開を聞く

 昨年12月、ASUSから国内初となるIEEE 802.11ax(Wi-Fi 6)対応Wi-Fiルーター「RT-AX88U」が発売された。その実力は、以前の本連載でレポート済みだが、このタイミングでの発売は大きな決断であったと考えられる。その裏話や11axの今後の展開について、ASUSに話を聞いた。

11axルーターへの市場の反応は予想以上にポジティブ

 「日本では、予想以上の売れ行きです」。

 ASUSTeK APAC Product Mgt Product DirectorのRichard Chen氏(以下、Richard氏)は、日本でのRT-AX88Uの展開に、かなりの手応えを感じているようだった。

ASUSTeK APAC Product Mgt Product DirectorのRichard Chen氏

 国内でのRT-AX88Uの発売は2018年12月末だったが、それから1カ月足らずで、すでに予定していた数百台を売り切ってしまう勢いで、早くも販売店から追加の注文が入っているというのだから、驚くほかない。

 クリスマスプレゼントやお年玉で買うとは到底考えられないジャンルの製品で、実売価格も4万9000円とかなり高価。しかも、現状は、まだIEEE 802.11axそのものがドラフトで、対応するクライアントが存在しないという状況を考えると、「製品としては興味深くても、購入にはややネガティブにならざるを得ないのでは?」というのが個人的な感想ではあった。

 だが、どうやら市場のユーザーは、我々の想像を遙かに超えるレベルで、IEEE 802.11axに対して大きな期待を抱いていると考えられそうだ。

12月の発売以来、すでに数百台を出荷したASUSのIEEE 802.11ax(Wi-Fi 6)対応Wi-Fiルーター「RT-AX88U」

 ちなみに、Richard氏が担当するAPAC(アジア太平洋地域)での販売台数は「万単位」とのことで、やはりグローバルでのビジネスは桁が違うと感じさせられた。それでも同氏としては、まだ満足できるレベルではないようで、今後も、さらなる拡販に力を入れていくとのことだ。

 国内での今後の販売がどう推移していくのかも楽しみだが、今回のRT-AX88Uに関しては、同社がこれまで培ってきた「先進的なASUS」という取り組みと、市場へのいち早いアプローチが功を奏したという印象だ。

「IEEE 802.11ax」の最大通信速度は11acの2.5倍以上

 とは言え、まだ多くのユーザーにとっては馴染みが薄いIEEE 802.11axだけに、まずは規格としての特徴からおさらいしていこう。

 Richard氏はIEEE 802.11axの特徴を次のように語ってくれた。「その特徴はいくつかありますが、ひとつは超高速通信が実現できることです。これまでの弊社の11acルーターで、5GHz帯の最大通信速度が2167Mbpsだったのに対し、160MHz幅と1024QAMの採用などで4804Mbpsへと向上したことで、理論上は2.5倍以上のスピードが見込めることになります」。

 IEEE 802.11axで、まず目に付くのはこの点だろう。Wi-Fiの速度は、IEEE 802.11acで、すでにギガ越えを実現しているが、これがさらに倍以上になることで、10Gbpsの世界へと次第に近づきつつある。このインパクトはやはり大きい。

複数デバイスでの効率的な同時通信が11axでの真の価値

 ただし、IEEE 802.11axの特徴は、それだけに留まらない。大きいのは、どちらかというとRichard氏が説明してくれた次の点だ。

 「11axが注目されるもうひとつの特徴は、OFDMAとSpatial Reuse機能によってデバイスが混雑した環境下での品質が向上し、体感スピードが改善されることで、OFDMAはそのキーになる技術です。11acまでの規格では、チャンネルごとに1つのクライアントデバイスのデータを運んでいましたが、OFDMAでは複数のデバイスのデータをまとめて一緒に運ぶことで、最大で4倍ほどの効率化を実現できます。一方、Spatial Reuseは、同時通信を実現できる技術です。今までは同じ通信エリアにほかの機器の通信がある場合は、その通信が終わるまで待つ必要がありました。11axで採用しているCSMA/CAの技術により、ほかの無線通信の伝搬状況を把握し、通信に影響を与えない場合に同時通信が可能となります」。

 現状は、最大速度に注目が集まりがちだが、IEEE 802.11axの真の価値は、後者の同時通信の部分だ。MU-MIMOも上りに対応するなど、たくさんのデバイスがつながる環境での同時通信の快適さが数段向上するというわけだ。

世界初、国内初の11axルーター市場投入への強い熱意

 このように、いいことずくめのIEEE 802.11axだが、現状はドラフトで、正式な規格策定はまだ先となる。こうした技術を製品化するにあたって、どのような苦労があったのだろうか?

 「1年前には、11ax規格に対応したチップセットは世の中にありませんでした。開発中には仕様変更が何度かあり、ハードウェア、ソフトウェア両面の開発において難しい場面がありました。中でも最も苦労したのは、チップセットベンダー側のリソースに限りがある中で、やり取りに多くの時間を要した点です。しかし、最終的には世界初の11axルーターとして、10月からグローバルで販売を開始しました」と語ってくれた。

 国内での販売についても「どこよりも早く、年内に発売したいとの思いがあり、認証とローカライズをかなり短期間で進めることで、年内発売を実現できました。一般消費者向けルーターとしては、(1月下旬の時点でも)まだどこのメーカーも発売していません。最初に発売することで、ASUSが常に最先端で革新的な企業との印象を持ってもらいたい、との思いが強くありました」とのことだ。

 ASUSは、マザーボードなどで常に先進的な取り組みをしてきたメーカーとして、国内での認知度も高いが、通信機器メーカーとしてもかなり先進的な取り組みをしてきており、今では他社での採用例も見られるデュアルWANやセキュリティ機能などを積極的に搭載してきた。後のトレンドとなる開拓者というイメージだが、今回のRT-AX88Uでも、こうしたASUSイズムで先行しているという印象だ。

既存のIEEE 802.11acクライアントも速くなる

 とは言え、現状でネックになるのは、せっかく親機側が高速なIEEE 802.11axになっても、そこにつながるIEEE 802.11ax対応クライアントが存在しない点だ。

 この点についてRichard氏は、「11acのときには、クライアントデバイスがどんどん対応していき、一気に“11acが当たり前”という時代になりました。2019年後半には11ax搭載製品一色になるだろうとの予想もありますが、私たちとしても12月ごろに11axが正式規格となった際には、市場でもかなり本格的に普及しているだろうと考えています。ちょうど先日、11axを搭載した子機Qualcommの次期プロセッサーである「Snapdragon 855」が発表されたように、今後は多くのスマートフォンに搭載され、普及していくと思っています」と、今後の展開を予想してくれた。

「RT-AX88U」の製品パッケージ。11ac対応のWi-Fi子機との接続も高速化される

 RT-AX88Uに真の実力を発揮させるには、まだしばらく時間がかかりそうだが、実は現状のIEEE 802.11acクライアントとの組み合わせでも、通信の高速化は十分期待できる。

 以前の本連載で検証した際も、クライアントにIEEE 802.11ac対応のMacBook Air 2013を使った場合に、もっとも離れた地点(3階窓際)での計測において、iPerfによる速度が139Mbpsと、かなり高速だった。

 Richard氏によると「社内のテストでも11axルーターを使うことによって、11acのスピードが速くなる実証ができている」とのことだ。もちろん環境に依存するが、現状でも既存のWi-Fi環境の快適化に一役買う可能性が高い。

 このほかにも、「RT-AX88Uには、通信範囲をおよそ120%ほどブーストするRangeBoostが搭載されているので、広範囲の通信が期待できます。また、11axでは、従来のチャンネルを分割し、細かなサブチャンネルに分けて利用できます。複数ユーザーでの同時通信に利用することもできますが、ほかのユーザーとの干渉を避けたサブチャネルを選択可能で、結果的に広いカバレッジを提供できます(Richard氏)」とも説明してくれた。

 従来のIEEE 802.11acに比べ、同じ場所、同じ端末であっても、通信状況が改善される可能性が高いと言えそうだ。

広くカバーするメッシュと、より高速な11axの共存も可能

 Wi-Fiをめぐる現在の状況では、IEEE 802.11axより、むしろメッシュの方が話題となっている。ASUSでも、「Lyra」と呼ばれるメッシュ対応製品をラインナップしているが、こうしたモデルとの関係は、どうなっているのだろうか?

 Richard氏は、「どちらかというとメッシュは広いエリアのカバー、IEEE 802.11axは高速な通信とIoT機器など多くのデバイスの収容に適しています。しかし、IEEE 802.11axとメッシュは排他的な関係にはありません」と説明する。

 「昨年12月、弊社のAiMeshが進化し、RTシリーズとLyraシリーズが相互に接続できるようになりました。IEEE 802.11ax対応のRT-AX88UもAiMeshに対応しており、既存のRTシリーズやLyraと組み合わせて、メッシュでの利用が可能です」とのことだ。

 現状、すでにASUSのWi-Fiルーターを利用しているなら、例えば追加購入したRT-AX88Uを基幹として利用し、AiMeshで既存のルーターをメッシュネットワークに追加すれば、既存の資産を無駄にすることなくネットワークを拡張できる。もちろん、RT-AX88Uを購入後、どうしても電波の届かない場所が出てきたときに、RTシリーズやLyraを追加することも可能だ。こうした柔軟なネットワーク構成が可能な点も、大きな魅力と言えるだろう。

 このほか、ゲーミング用途での利用も想定されている。「RT-AX88Uを含む弊社ルーターの上位機種では、ゲーミングの利用も想定していて、QoSやWTFastなどゲーマー向けの機能にも対応します。今後は、スマートフォンをプラットフォームとしたプロ向けのゲームなど、Wi-Fiにおいても、高速で安定した通信の需要も高まってくると想定しています」とRichard氏は言う。

 なお、日本では、IPv6を利用したインターネット接続への移行が進んでおり、ルーターにはDS-Lite(transix向け)やMAP-E(v6プラス向け)といった技術の搭載が、ひとつのトレンドとなっている。現状、同社製のルーターは、これらに対応していないが、もちろん同社内でも検討課題となっているとのことだ。

今後、国内で発売予定の11axルーターなどもチラ見せ

 最後に、今後、日本での投入も予定されている新製品をチラ見せしてくれた。海外モデルとなるため、電源は入れることができなかったが、実機を手に取って見ることができた。

 「GT-AX11000」は、「ROG」ブランドのIEEE 802.11ax対応ゲーミングルーターだ。4804Mbps×2(5GHz)+1148Mbps(2.4GHz)のトライバンド対応に加え、有線LANも最大2.5Gbpsに対応しているのが特徴だ。

「GT-AX11000」の背面

 ユニークなのは、側面の「Boost Key」ボタンで、動作速度を一時的に向上させることができる点だ。具体的には、CPUを10%ほどクロックアップすると同時に、QoSを有効化してゲーム向けのパケットを優先的に処理できるようになる。

 通信機器でもクロックアップができるようになるとは、まさか思っていなかったが、Richard氏によると「現状のルーターでも、自宅で複数台のPCやスマートフォンを同時に使っていると、CPU負荷が高くなることは珍しくありません。こうしたときにBoost Keyボタンでクロックアップすれば、快適な処理が可能になります」とのことだ。

CPUのクロックアップとQoS有効化を同時に行う「Boost Key」ボタンについて解説するRichard氏

 もう1台は、Alexaスマートスピーカー一体型のメッシュWi-Fiルーター「Lyra Voice」だ。パッと見はスピーカーにしか見えないが、最大転送速度867Mbpsの5GHz帯×2、同400Mbpsの2.4GHz帯×1のトライバンドに対応したWi-Fiルーターとなっており、既存のLyraシリーズやRTシリーズのAiMeshに接続し、メッシュネットワークを構成できる。なお、単体でもWi-Fiルーターとして動作可能だ。

 「当初は単体のルーターとして発売することを検討していましたが、ユーザーの用途を考えると、リビングや寝室などさまざまなところに設置して、家電などをコントロールできる方が便利だということになり、メッシュ対応の製品として開発をしました(Richard氏)」とのことだ。

メッシュWi-FiルーターとAlexa対応スマートスピーカーを一体化した「Lyra Voice」

 最後は、最大転送速度4804Mbpsの5GHz帯×1(IEEE 802.11ax)、867Mbpsの5GHz帯×1(IEEE 802.11ac)、400Mbpsの2.4GHz帯×1(IEEE 802.11n)のトライバンドに対応した小型Wi-Fiルーター「RT-AX92U」だ。11axは1系統のみだが、小型なためメッシュでの組み合わせや、子機側としてイーサネットコンバーターのように使うといった用途も想定できそうな製品となっている。

11ax対応の小型Wi-Fiルーター「RT-AX92U」。海外では2台セットが販売されている

 いずれも昨年のCOMPUTEX TAIPEIで発表されたもので、国内での販売も視野に入っているという。今後の展開が楽しみだ。

 以上、国内初となる市販のIEEE 802.11ax対応ルーター「RT-AX88U」を発売したASUSに話を聞いたが、同社としても想定以上の反応に驚きを隠せない一方、今まで進めてきた先進的な取り組みが、市場に認知されつつあることに自信を持っているようだ。

 今年は間違いなく、IEEE 802.11axが話題の中心となるだけに、他社の動向も気になるが、今のところ同社の先手先手の攻勢が功を奏しているように見える。二の矢、三の矢も着々と準備されているので、今後の展開にも期待できそうだ。

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(協力:ASUS JAPAN株式会社)

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。