清水理史の「イニシャルB」

そのサーバー、NASの仮想マシンで動かしませんか? NASにメモリを増設し、2020年サポート切れの「Windows Server 2008 R2/2008」を移行しよう

8GB化したQNAP NASの仮想マシンでWindows Server 2016を動かす

 2020年1月14日と言えば、Windows 7の延長サポート終了日であることが知られているが、実はサーバーOSのWindows Server 2008 R2/2008も、同じ日に延長サポートの終了日を迎える。中小企業や部門用のファイルサーバーやアプリケーションサーバーとして使われているWindows Server 2008 R2/2008を、メモリを増設したQNAP NASの仮想マシンを用い、Windows Server 2016に移行するのはいかがだろうか。

QNAPの4ベイNAS「TS-453Be」。仮想マシンを動かすことができる

サポート切れのWindows Server 2008 R2/2008をNASの仮想マシンで2016へデータベースやアプリサーバーの役割もNASに一元化

 「時代はクラウド」とは言いつつ、まだまだ現場レベルでは、フロアに置かれたサーバーでファイルを共有したり、業務アプリを動かしたりしているケースは少なくない。

 こうした環境に徐々に忍び寄っているのが、2019年7月9日、および2020年1月14日のタイムリミットだ。前者はSQL Server 2008 R2/2008、後者はサーバーOSであるWindows Server 2008 R2/2008の延長サポートが終了する日なのだ。

 延長サポートが終了すると、更新プログラムの提供が停止するため、仮に製品に不具合や脆弱性が発見されたとしても、基本的には修正されずに放置されることになる。共有ファイルや業務アプリのデータが多数存在するサーバー製品が、何の対策もなしに放置されれば、万が一、マルウェアに感染したり、攻撃のターゲットにされたりしたときに、その影響も大きくなる。

サーバー製品のサポート終了日
製品サポート終了日
Windows Server 2008 R2/20082020年1月14日
SQL Server 2008 R2/20082019年7月9日

 マイクロソフトではその影響の大きさを考慮し、Azure上に移行した場合には3年間無償で、オンプレミスサーバーの場合でも有償で、SQL Server 2008 R2/2008とWindows Server 2008 R2/2008のセキュリティ更新プログラムを受け取れる「延長セキュリティ更新プログラム」の提供をアナウンスしている。だが、いずれは完全に移行することが避けられない。であれば先送りせず、今の段階で対処しておく方が賢明だろう。

 では、こうした社内のサーバーについてどう対処すればいいのだろうか?

 単純にサーバーOSを入れ替えたり、クラウドに移行したりと、その方法はいくつか考えられるが、ここで検討してみたいのが、NASへの移行だ。

 QNAPの4ベイNAS「TS-453Be」などの製品は、ファイルサーバーとして利用できるだけでない。「Virtualization Station」と呼ばれる機能を利用することで、NAS上で仮想マシンを稼働させることができる。

正面
背面
側面

 Windows Serverをファイルサーバーとして使っているなら、NAS本来の用途でもあり、そちらへ移行するとして、NAS上でWindows Serverの仮想マシンを稼働させれば、データベースやアプリケーションサーバーの役割を担わせることもできる。

 さらにNASが持つ管理機能やスナップショットなどをうまく使えば、管理を一元化したり、万が一の不測の事態に仮想マシン上のサーバー環境を元に戻したりすることもできる。

 では、具体的にどのようにNASでWindows Serverを稼働させればいいのか、その例を見ていくことにしよう。

NASのメモリは2GBでは足りない!まず8GBへと増設しよう

 仮想マシンを動作させるための「Virtualization Station」は、QNAPのNAS向けに提供される無料のアプリだ。

 すべてのQNAP NASに対応しているわけではないが(対応機種はこちらを参照)、「App Center」から「Virtualization Station」のアプリをダウンロードすることで、簡単にNASへインストールできるようになっている。

 ただし、ひとつ注意点がある。NASに搭載されているメモリの容量だ。Virtualization Stationのシステム要件は2GB以上のメモリとなっているが、同時に実行できる仮想マシンの数とメモリ容量の目安が、機種ごとに公表されている。今回利用するTS-453Beであれば、同時実行数は2、メモリ容量は8GBが推奨されている。

 さらに、仮想マシンとしてWindows Server 2016を稼働させる場合のシステム要件は2GB(GUI操作可能なデスクトップエクスペリエンスの場合)となっているが、実際問題として、この上で業務アプリなどを稼働させることを考えると、4GB以上のメモリを割り当てておきたいところだ。

 このため、まずはNASのメモリを増設しておくことを強く推奨したい。QNAPのNASの場合、フロントベイから簡単にメモリスロットにアクセスできるので、メモリを簡単に増設できる。

 QNAPのTS-x251B/TS-x53B/TS-x53Beシリーズ用の増設メモリ「DDR3L-SO1866-8GB-KIT」がテックウインドから発売されているので、これを追加で装着しておくといいだろう。

テックウインドのQNAPのTS-x251B/TS-x53B/TS-x53Beシリーズ用の増設メモリ「DDR3L-SO1866-8GB-KIT」
フロントベイから本体内右側のメモリスロットへ簡単にアクセスできる

Virtualization StationをNASにインストールしてOSを導入

 それでは実際に、Windows Serverを仮想マシンとして稼働させてみよう。

1.Virtualization Stationの準備

 「App Center」から「Virtualization Station」をインストールし、初期セットアップを実行する。メモリを増設しておいたおかげで、システム最小要件をクリアしていることが確認できる。「仮想スイッチ」に「!」マークが付いたが、これはインストールウィザードの流れの中で、自動的に作成できるものだ。

App Centerから「Virtualization Station」をインストール
初期設定で動作環境のチェックが実施される

2.仮想スイッチを確認する

 作成された仮想スイッチを「コントロールパネル」の「ネットワークと仮想スイッチ」から確認しておこう。これは、仮想マシンのネットワークを接続する仮想的なスイッチングハブだ。TS-453Beには、物理的なネットワークアダプターが2基搭載されているが、このうちの1つに仮想スイッチが接続され、さらに仮想スイッチに仮想マシン(の仮想アダプター)が接続される。要するに、現実世界のネットワークと仮想マシンの世界をつなぐ中継地点となるのが、この仮想スイッチということになる。

仮想スイッチの作成直後
仮想スイッチに仮想マシンを接続した状態

3.仮想マシンの作成

仮想マシンの設定をする

 Virtualization Stationで、「VMの作成」をクリックして仮想マシンを作成する。OSの種類や割り当てるCPUコア数、メモリ容量、インストールに使うメディア(あらかじめISOファイルをNASの共有フォルダーにコピーしておく)、接続先の仮想スイッチなどを指定する。ここで割り当てるメモリ容量をケチると、仮想マシンのパフォーマンスが落ちるので、潤沢に割り当てるのが理想だ。

4.仮想マシンに接続する

 仮想マシンを作成できたが、まだ1回も起動しておらず、Windows Serverもインストールされていない状態だ。起動は、ここから電源ボタンをクリックしても行えるが、OSのインストール作業が必要なので、ディスプレイのアイコンをクリックして仮想マシンに接続する。

作成した仮想マシンが一覧に追加される。ディスプレイのアイコンをクリックして仮想マシンに接続
仮想マシンの画面をブラウザー経由で表示できる。接続しただけでは起動しないので、「スタート」をクリックして起動する

5.Windows Serverをインストール

Windows Serverをインストール

 Windows Server 2016のメディアをセットすれば、自動的にインストーラーが起動する。あとは、物理マシンと同様にWindows Serverをセットアップしていけばいい。

6.サインインする

 Windows Serverが起動したら、左側のメニューを表示して、[Ctrl+Alt+Del]のキー入力を仮想マシンに送信してサインインする。通常のマウス操作やキー入力はシームレスに行えるが、こうした特殊キーの入力は、メニューからシミュレートする必要がある。

Ctrl+Alt+Delを送信してサインインする
Windows Serverが利用可能になった

業務アプリの管理なら十分に実用レベル8GBなら仮想マシン1台を動作可能

 このように簡単な作業で、QNAPのNAS上でWindows Serverを動作させることが可能だ。実際の操作感は、一瞬操作が遅れて付いてくる仮想マシンらしい感覚はあるが、業務アプリの管理などであれば、十分に実用可能なレベルだ。

 ただし、メモリの使用状況をチェックしてみると、アプリを起動しないOSだけの素の状態で、すでに53%に達している。さらに業務アプリなどをインストールするのであれば、もう少し仮想マシンにメモリを割り当てておきたいところだ。ただ、NAS側でメモリ使用状況をチェックしてみると、こちらも75%近くにまで達していた。

 現状は、スワップこそ発生していないが、これ以上仮想マシンにメモリを割り当てると、ファイルサーバーとしての動作にも影響が出かねない。このため実質的には仮想マシンを1台動作させるのがギリギリという印象だ。

 中小規模の環境であればTS-453Beでも問題なさそうだが、さらに多くの仮想マシンを稼働させたいような場合は、より大容量のメモリを搭載できる上位モデルを使った方がよさそうだ。

仮想マシンのメモリ使用状況。OSだけをインストールした素の状況で4GBの53%ほど
NAS全体のメモリ使用状況は、8GBのメモリで75%にまで達している。実運用を考えると、TS-453Beで起動できる仮想マシンは1台までだろう

「ファイルサーバー兼〇×サーバー」の移行先に

 以上、サポート終了を迎えるWindows Server 2008 R2/2008やSQL Server 2008 R2/2008対策を想定し、QNAPのTS-453Be上でWindows Server 2016を仮想マシンとして動作させてみた。

 メモリの増設は必須となるので、この点にさえ注意すれば、セットアップは予想以上に簡単で、移行先としては合格点と言えるだろう。「ファイルサーバー兼〇×サーバー」環境の移行先として、検討してみてはどうだろうか?

(協力:テックウインド)

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。