清水理史の「イニシャルB」
NASにメモリ増設でアプリが軽々動作! QNAP「TS-251B」を8GB化してスナップショットも贅沢三昧
2GBだとスワップで苦しい!?
2018年12月17日 06:00
テックウインドから、QNAPの「TS-x51B/x53B/x53Be」シリーズ用で、センチュリーマイクロ製の増設メモリ「DDR3L-SO1866-8GB-KIT」が発売された。PCには大容量メモリが当たり前の時代だが、多彩な役割が求められるNASにも、今や大容量メモリは必須のアイテムだ。実際に、メモリ増設の手順を紹介しながら、どれくらいメモリが必要なのかをチェックしていこう。
2GBじゃ足りないかも?NASにどれくらいメモリが必要か?
これはなかなか難しい問題だ。
おそらく、シンプルにファイルを共有したり、バックアップ先としてのみ使うのなら、メモリはさほど必要にならない。1GB以下でも何とかまかなえるだろう。
しかし、最近のNASは非常に多機能で、さまざまな機能を使えるようになり、バックアップやビジネスアプリ、サーバーアプリなど、多彩な役割が求められる存在だ。使い方によっては、多くのシステムリソース(CPUとメモリ)が要求されることもある。例えば、同じバックアップでも、単純にPCのデータをコピーするだけならさほどリソースは必要ないが、NAS自体のバックアップを何世代にもわたって保管したり、クラウドサービスと連携して双方向にデータを同期するような機能を活用すると、必要なシステムリソースが次第に膨れ上がっていくことになる。
それでは、現状のNASに、標準でどれくらいのメモリが搭載されているのだろう?
ざっと調べてみた限りでは、以下の表の通りだ。QNAPの2ベイ製品に絞って調べたが、ホームユーザー向けの製品では、ローエンドからミドルレンジで1~2GB、ハイエンドのモデルで4~8GBといったところだ。
モデル | 標準搭載量 | スロット数 | 規格 |
TS-228A | 1GB | - | DDR4 |
TS-231P2 | 1GB/4GB | 1 | DDR3 |
TS-251B | 2GB/4GB | 2 | DDR3L |
TS-253B | 4GB/8GB | 2 | DDR3L |
正直、1~2GBもあれば十分に思えるかもしれない。しかし、詳しくは後述するが、実際に使ってみると、2GBでは足りなくなる可能性が高い。
特にQNAPの製品のように、さまざまな用途に使えるNASであれば、最低でも4GB、できれば8GBへ増設しておいた方が、後々、メモリ不足に悩まされる心配がなさそうだ。
メモリ容量による制約を知る
それでは、NASに大容量メモリが必要な理由を、まずはスペック上の制約から確認していこう。
QNAPのNASでは、いろいろな機能が利用可能になっているが、その中の一部には、メモリ容量によって機能的な制約が加えられるものがある。
例えば、SSDキャッシュが代表的だ。SSDキャッシュは、以前はハイエンドNAS向けの機能であったが、TS-251Bのような2ベイのNASでも、拡張スロットに対応カードを装着することで利用可能になってきている(詳細は過去の連載記事『PCIeで広がるNASの可能性 10GbE、Wi-Fi、SSD……、QNAPのホーム向け2ベイ「TS-251B」(2018年9月25日)』を参照)。
高速なSSDをキャッシュとして利用することで、アクセス速度を向上させることができるが、実はキャッシュとして設定できるSSDの容量は、メモリ容量によって制約を受けてしまう。その具体的な条件は次の表の通りだ。
キャッシュ | 必要メモリ容量 |
512GB | ≧1GB |
1TB | ≧4GB |
2TB | ≧8GB |
4TB | ≧16GB |
つまり、前述したTS-251Bには、2GB搭載モデルと4GB搭載モデルの2種類があるが、2GB搭載モデルでは、いくら大容量のSSDを装着したとしても(拡張カードには2枚のM.2を装着できる)、SSDキャッシュには512GBしか割り当てられないことになる。
もちろん、こうした課題を解決するために、キャッシュではなく階層化ストレージの機能である「Qtier」を使う手もある。ただ、メモリ容量は、取得できるスナップショットの数にも同様に影響を与える。
次の表は、メモリ容量とスナップショット数の関係だ。スナップショットは、ストレージの現在の状態を履歴として保存する機能で、定期的に取得しておけば、誤操作で削除したファイルや、間違って編集してしまったファイルを、元に戻すことなどができる。
NAS CPU | 搭載メモリ容量 | 最大スナップショット数(NASごと) | 最大スナップショット数(ボリューム/ブロックベースLUNごと) |
AMD | ≧1GB | 32 | 16 |
≧2GB | 64 | 32 | |
≧4GB | 1024 | 256 | |
Annapurna Labs | ≧1GB | 32 | 16 |
≧2GB | 64 | 32 | |
≧4GB | 256 | 64 | |
Intel | ≧1GB | 32 | 16 |
≧2GB | 64 | 32 | |
≧4GB | 1024※ | 256 | |
Marvell | ≧1GB | 32 | 16 |
≧2GB | 64 | 32 | |
≧4GB | 256 | 64 | |
Realtek | ≧1GB | 32 | 16 |
≧2GB | 64 | 32 |
※TS-x51/x51+シリーズは、最大1024ではなく、256
スナップショットの数は、CPUプラットフォームによっても異なるが、メモリ容量によっても違いがある。例えば、2GBでは最大で64までのスナップショットしか保管できない。仮に毎日スナップショットを取得したなら、約2カ月分だ。ホームユースであれば、これくらいでも足りるかもしれないが、オフィスで利用する場合は、やや心許ない。
TS-x51/x51+シリーズのように、そもそもスナップショットを利用するのに4GB以上のメモリが必要になる場合もあるので、最低でも4GB以上のメモリを搭載しておくのが得策と言えそうだ。
なお、こうしたメモリ容量による制約は、ほかにもいくつかある。例えばFTP接続の最大数も、メモリ1GB以下が256、2GBで512、3GB以上で1024となっている。
これらはスペックでも脚注で表記されているため、ついつい見逃してしまいがちだ。しかし、実際に運用する段階では、大きく影響してくる部分なので、しっかり確認しておくか、面倒ならとりあえずメモリを増設してしまうことをお勧めする。
TS-251Bを8GB化してみよう
それでは、実際にTS-251Bのメモリを増設して8GB化してみよう。
まずは、使えるメモリのタイプを確認する必要がある。冒頭で掲載した表の通り、QNAPのNASはモデルによって装着できるメモリが異なる。DDR4の場合もあれば、DDR3の場合もあり、モデルによっては低電圧版のDDR3Lが必要になる。今回試用したTS-251Bも、末尾に「L」が付く低電圧版のDDR3Lで、しかも1866MHzに対応するメモリが必要になる。
また、こうした規格の違いもやっかいだが、メモリを装着する場合、NAS側の保証の問題も十分に配慮しよう。販売代理店やモデルによって保証される内容や年数に違いがあるが、PCショップなどで購入できる一般的なメモリを装着すると、こうした保証の対象外になってしまう可能性が高い。
このため、NASでは、純正のメモリを増設するのが基本だ。今回、取り上げたTS-251Bであれば、対応する純正メモリはセンチュリーマイクロ製で、型番は「DDR3L-SO1866-8GB-KIT」となる。
似た製品に、TS-x51+/x53Aシリーズ用の「DDR3L-SO1600-8GB-KIT」があるが、メモリの動作クロックが異なるので、間違えないように注意しよう。
実際の装着は、さほど難しくない。
フロントベイのカバーと内部のHDDトレイを取り外すと、正面から覗き込んで右側に、2本のメモリスロットと純正のメモリ(ここでは2GB)が姿を現わす。
2ベイモデルなので、作業スペースが若干狭いが、指をうまく中に入れて両脇のノッチを外し、純正メモリを取り外す。
純正メモリが装着されていた奥側のスロットにキットのうち1枚を装着し、もう1枚を手前側に装着すれば完了だ。若干窮屈だが、慎重に作業すれば、誰でも簡単に増設できるだろう。
8GBの効果を見る
それでは、8GB化した効果を見てみよう。
まずは、セットアップ直後のメモリ消費量を見てみよう。最低限のアプリ(9本程度)がインストールされた状態では、922MBほどだ。
続いて、App Centerから、アプリを20本ほど追加してみた。20本というと多く思えるかもしれないが、「Cloud Backup Sync」や「Connect to Cloud Drive」「Gmailバックアップ」などのクラウド系アプリ、「Music Station」や「Download Station」などのマルチメディアアプリ、「Security Counselor」や「Malware Remover」などのセキュリティ系アプリ、「Qfiling」「Qsearch」「OCR Converter」などのファイル管理系アプリなので、一般的な利用シーンなら入れておきたい定番的なアプリとなる。
この状態にあると、メモリ使用量は一気に上がり、約2GBにまで達した。やはりアプリを追加すると、その分、メモリは多く消費される。アプリを大量にインストールしたい場合、標準の2GBでは、この段階で限界が見えてきてしまう。
さらにアプリを追加していこう。次に、通常のアプリよりもメモリを消費する可能性が高いコンテナ系のアプリを追加してみた。
今回のTS-251Bのように、「Container Station」(Dockerによる仮想化)に対応しているモデルでは、コンテナを使って、より高度なアプリを実行できる。試しに、コンテナを使うアプリの「Notes Station 3」と、さらに前述のContainer Stationからイメージを指定してダウンロードできる「WordPress(WordPress+MariaDB)」と「Ubuntu」を起動してみた。ただ、予想ほどメモリ消費量は多くなく、この状態でトータルで2.44GBとなった。
最後に、スナップショットを使ってみた。スナップショットサービスを追加するだけでは、ほとんどメモリを消費しなかったため、データを少しずつ増やしながら、20履歴ほどスナップショットを手動で取得してみたところ、最終的なメモリ消費量は2.76GBにまで増えた。
スナップショットは数が増えると、やはりメモリを少しずつ消費していく。最大スナップショット数以下で運用する場合でも、メモリ消費量には注意が必要と言えそうだ。
まとめると、以下のグラフのようになる。アプリを追加したり、スナップショットを増やしていくだけでメモリ消費量は増え、システムリソースを圧迫していくことになり、2GBでは早々に限界が訪れる。ただ、そうはいっても8GBであれば、余裕で処理可能だ。
使用状況 | メモリ消費量 |
セットアップ直後 | 922MB |
アプリ追加(合計29個) | 2.08GB |
コンテナ3つ追加 | 2.44GB |
スナップショット有効化 | 2.44GB |
スナップショット20履歴取得 | 2.76GB |
なお、この構成のまま、TS-251Bをシャットダウンし、メモリを標準の2GBにした状態が次の画面だ。大量のアプリがあり、なおかつスナップショット数が多くても、一応、2GBのメモリで運用することができている。
しかし、画面右側に注目して欲しい。8GBのときには一切使われていなかったスワップメモリが、メモリ2GBの環境では1.24GBほど発生している。
この影響は、実は非常に大きく、管理画面にログインしたり、各種アプリを開いたり、設定から設定項目を表示しようとしただけでも、HDDがガリガリと音を立てて、しばらく待たされるようになる。
8GBのときには何をするにはキビキビとした印象だったのがウソのようで、まさに「もっさり」という表現がピッタリくる動作になってしまった。実際に使ってみると、メモリ容量の数字以上に、8GB化の効果を実感できる印象だ。
メモリはできれば8GBで
以上、新たに発売された「DDR3L-SO1866-8GB-KIT」を使って、2ベイNASのQNAPのTS-251Bのメモリを8GBに増設してみた。
結果は、予想以上に効果がある印象だ。無理に負荷をかけたというよりは、使いたいと思うアプリを追加したり、普通はこれくらい必要だと思われる程度のスナップショットを保存しただけでも、8GB化の効果を実感することができた。
多機能な点がQNAPのNASの特徴であるが、その多機能さを活かすには、最低でも4GB、できれば8GBのメモリを搭載しておくことを強くお勧めしたいところだ。
(協力:テックウインド)