清水理史の「イニシャルB」
PCIeで広がるNASの可能性 10GbE、Wi-Fi、SSD……、QNAPのホーム向け2ベイ「TS-251B」
2018年9月25日 06:00
QNAPの「TS-251B」は、2ベイのホーム向けNASながら、PCIeスロットを搭載することで、ネットワークの10GbE化やWi-Fi対応、SSDによる階層化ストレージなどが利用可能なNASだ。拡張次第でワンランク上の性能を入手可能な同製品の実力を検証してみた。
PCIeはもはやNASの重要な選択基準のひとつ
NASを選ぶとき、どんな点に注目しているだろうか?
ベイの数は基本中のキホンとして、CPU? メモリ? それともUSB?
もしも、これから製品を選ぶのであれば、PCIe拡張スロットの有無も、これら選択基準のひとつとして考えるようにした方がよさそうだ。
これまで、PCIe拡張スロットと言えば、一部のハイエンドモデルにしか搭載されていなかった。しかし、この1~2年で徐々に搭載モデルが増え、ついに、今回QNAPから登場したTS-251Bで、ホームユーザー向けモデル、しかも2ベイの小型な製品にまで搭載されるようになった。
これにより、PCがそうであったように、NASも、さまざまな拡張の手段を手に入れたことになる。
ネットワークを10GbE化して転送速度を向上させるもよし、SSDキャッシュや階層化ストレージを構成するもよし、Wi-Fiに対応させることでワイヤレスで利用するもよし、USB 3.1に対応させるもよしと、さまざまな拡張が可能だ。
同様の拡張性は、ほかのNASベンダーも提供しているが、コンシューマー市場向けにそうした製品を提供しているベンダーは、まだ少ない。
10GbE関連製品やSSDの低価格化が進みつつあることを考えると、購入時のスペックだけでなく、購入後にいかに機能を拡張できるかが、今後のNAS選びの重要な基準となりそうだ。
コンパクトなのにPCIeスロット搭載、豊富なインターフェースを拡張できる
それでは、実機を見ていこう。
まずは筐体だが、ホームユーザー向けとあって、白をベースにした清潔感のあるデザインになっている。筐体そのものは、黒を採用していた「TS-253Be」と共通でサイズも変わらないが、色が白になっただけで、ずいぶんとやさしい感じに変わるものだ。
HDDは、一見分解して装着するタイプのように見えるが、前面左側の白い部分のパネルがマグネットによって取り外せるようになっており、これを外すとHDD装着用のトレイが姿を表す。
HDDトレイは、このデザインのモデルに共通して搭載されるスクリューレスのもの。側面のアタッチメントによって、手軽にHDDを固定できる。内部のPCIeスロットにアクセスするにはドライバーなどの工具が必要だが、一般的な利用であれば、工具不要ですぐに初期セットアップが可能だ。
インターフェースは、前面にUSB 3.0が1ポートあるが、ほかは背面に集中している。ギガビット対応のLANポートが1つ、USBは2.0が3つで3.0が1つ、このほか4K出力にも対応するHDMIポートとオーディオ(出力×2、入力×1)、さらに起動やシャットダウンなどのタイミングを音声で伝えるスピーカーも搭載される。
注目のPCIeスロットは上部に搭載されており、背面のネジを2カ所取り外すことでアクセスできる。いわゆるロープロファイルのカードが搭載できるが、固定方法が異なるため、ブラケットは専用のストレート形状のものが必要となる。
装着可能なカードは、QNAPの純正オプションだけでなく、TP-LinkのWi-Fiカードや、10GbEに対応するMellanoxのSFP+カードも存在する。
QNAPの純正オプションには以下のようなものがあり、ネットワークの強化からストレージの拡張まで、さまざまな用途で利用可能だ。
型番 | 概要 |
QWA-AC2600 | 1733+800Mbps対応のデュアルバンド無線LANカード |
QXG-10GF1T | 10GBASE-T対応のネットワークカード |
QM2-2P10G1T | M.2 SSD(NVMe)×2+10GBASE-T×1のコンボカード |
QM2-2S10G1T | M.2 SSD(SATA)×2+10GBASE-T×1のコンボカード |
QM2-2S | M.2 SSD(SATA)×2搭載可能なカード |
USB-U31-A2P01 | USB 3.1拡張カード |
QM2-2S10G1TでSSDと10GBASE-Tを拡張する
では、拡張スロットの実力を検証してみよう。
今回、使用したのは、SATA SSD用のM.2スロット×2と10GBASE-Tのネットワークの両方を拡張することが可能なコンボカード「QM2-2S10G1T」だ。ここに、Western DigitalのM.2 SSD「WD Green WDS240G1G0B」を2枚装着した。
この状態で、PCからCrystalDiskMark 6.0.1および10GBのファイルコピー(Robocopy使用)を実行し、転送速度を計測してみた。
なお、詳しくは後述するが、TS-251Bに限らず、QNAPのNASではSSDを3種類の方法で利用することができる。下のテストでは、SSDを明示的にアクセス可能な通常のボリューム(RAID 1)として構成してある。
まず、CrystalDiskMarkの値だが、1Gbps接続の場合には、ネットワークがボトルネックとなり110MB/s程度が限界になる。10Gbps化することで、シーケンシャルで700MB/sオーバーと、これを突破できていることが分かる。
HDDとSSDとの比較では、リードは変化がないものの、ライトではSSDのRAID 1で320MB/s、RAID 0で524MB/sと、大きく値が向上している。
ただし、実際のファイルコピーでは、そこまで10GBASE-TやSSDの効果は現れない。以下は、Robocopyコマンドを使って、同じPCから10GBのファイルをコピーしたときの結果だ。
NAS→PC | PC→NAS | ||
SSD | 10Gbps(RAID 0) | 462.59 | 256.52 |
10Gbps(RAID 1) | 436.32 | 153.59 | |
HDD | 10Gbps | 154.28 | 124.01 |
1Gbps | 106.45 | 106.72 |
まずは、HDDを利用した場合、1Gbpsよりも10Gbpsの方が速度は当然向上しており、読み込みで1.5倍、書き込みで1.2倍程度となる。HDDが2台だけでは、ストレージ側の性能を向上させるにも限界があり、ここがボトルネックになっていると考えられる。もちろん、1Gbpsのときよりも、確実にファイルコピーで待たされる時間は減るが、単純に10GbE化するだけでは効果は少ない。
一方、SSDを併用すると、この結果が一気に向上する。読み込みの速度は400MB/sオーバーとなり、書き込みもRAID 1で150MB/s、RAID 0で250MB/s前後にまで向上する。
TS-251BのPCIeスロットは1つしかないので、10GbEかSSDかどちらか一方だけを選ぶのではなく、やはりコンボカードを使って、双方を一気に拡張するのがお勧めだ。
SSDの活用方法は3種類。おすすめは最新ファームでのオーバープロビジョニング
先のテストでは、SSDを通常のボリュームとして構成したが、実際の運用を考えると、この方法はあまり効率的とは言えない。
確かにHDDよりアクセスは高速化されるが、容量が限られるため、NAS本来の目的である大容量データの保管やバックアップといった用途には適していない。
上で少し触れたが、QNAPのNASでは、SSDを以下の3種類の方法で利用できる。
- 通常のボリューム
- SSDキャッシュ
- Qtier 2.0におる階層化ストレージ
大容量データの保管と速度を両立させるのであれば、SSDキャッシュもしくは階層化ストレージでの活用がお勧めだ。
主に読み込みだけを高速化したいのであれば、SSDキャッシュの選択がいいだろう。書き込みキャッシュも構成はできるが、読み込みキャッシュならRAID 0で運用することもできる(書き込みはRAID 1必須)。さらにキャッシュ方式(LRUかFIFO)や、キャッシュするデータの種類(ランダムのみかシーケンシャルも含むか)も選択できる。
Qtier 2.0による階層化ストレージは、エンタープライズ向けのストレージ製品で活用されている技術だ。ストレージを「超高速」「高速」「容量」という3階層に分類し、NAS側でデータの保存先を自動的に振り分けてくれる機能となる。
SSDを利用する場合、超高速のSSD、容量のHDDの2階層で、高速は使われない状態となるが、これで頻繁にアクセスされるデータはSSDに、あまりアクセスされないデータはHDDにと、自動的に保存先を振り分けてくれる。
Qtierを利用する場合、データがSSDに保存されるので、RAID 1での運用が必要となるが、これで大容量データの保存と高速なアクセスを両立させることができる。
Qtierは、SSDを装着後、既存のHDD上のボリュームをアップグレードすることで移行できるので、設定も手間が掛からない。
他社製NASではサポートされない高度な機能なので、せっかくQNAPのNASを使うなら、この方法で活用するのがお勧めだ。
なお、本稿執筆時点ではベータ版となる最新OS「QTS 4.3.5 Public Beta2」を利用すれば、「SSDプロファイリングツール」というアプリを利用し、SSDのオーバープロビジョニングを設定できる。オーバープロビジョニングは、新しいデータの書き込みを一時的に保存する領域のことだ。通常はSSDのコントローラーが使用する領域のことを指すが、NASのシステムで使うエクストラ領域をソフトウェア的に一定容量確保することで、書き込みのパフォーマンスを最適化することができる。
具体的には一定時間のテストを実施して、装着されたSSDのデータを収集する。その後、要求されるIOPSを入力すると、オーバープロビジョニングに必要な容量を表示してくれる。SSDをより有効に活用したいのであれば、最新ファームウェアでの利用をお勧めしたい。
無線LANを拡張すればアクセスポイント化も可能
続いて、無線LANカードを試してみよう。
ほかのNASでも、USBポートに無線LANアダプターを装着すれば、NASを無線LANでネットワークに接続することができるが、TS-251Bでは、PCIeが利用できるため、より高速な無線LAN規格に対応できる上、NASをアクセスポイントとしても構成できるのが特徴だ。
純正オプションの「QWA-AC2600」は、5GHz帯が1733Mbps(4ストリーム)、2.4GHz帯が800Mbpsに対応したデュアルバンド無線LANカード。PCIeスロットに装着後、背面にケーブルを取り付け、4本の外付けアンテナにつなぐことで、高速かつ安定した無線通信を実現できる。
なお、QWA-AC2600は、QTS 4.3.5以降のみでのサポートとなっている。本稿執筆時点(2018年9月10日)では、4.3.5はPublic Beta2の段階だが、テストにはこれを用いている。
利用方法は2通りあり、既存のネットワークにNASを無線で接続する場合は、コントロールパネルから接続先のアクセスポイントを選択するだけとなる。NASを設置したい場所に有線LANケーブルを敷設できない場合は、この方法が適している。無線LANとはいえ5GHz帯なら1733Mbpsの通信ができるため、設置場所や環境にもよるが、1Gbpsの有線LANに近い速度でNASを利用することが可能だ。
一方、アクセスポイントとして構成することで、PCやスマートフォンの親機となることもできる。
こちらは少々設定が必要となる。本稿執筆時点では、AppCenterから「Wireless AP Station」をダウンロードできなかったため、「Container Station」をインストール後、同社のサイトから「Wireles AP Station」のパッケージをダウンロードして手動でインストールした。正式リリース後には、AppCenterからダウンロードできるようになることだろう。
設定は簡単で、ウィザードを利用して、アクセスポイントを作成する。インターフェースにQWA-AC2600(2.4GHz帯と5GHz帯を個別に選択可能)を選択し、SSIDとパスワードを指定すればいい。
本格的な無線LANルーターに比べれば機能的には簡易になるが、既存の無線LANルーターと置きかえてNASに1本化したり、既存の無線LANルーターはそのままに2台目のアクセスポイントとして無線LANのエリアを広げるために活用できる。個人での用途を考えると、10GBASE-Tのカードを装着するより実用的かもしれない。
いろいろなニーズに対応できる2ベイNAS
以上、QNAPのTS-251Bを実際に使ってみたが、PCIe拡張スロットを搭載しているおかげで、いろいろなニーズに対応できる製品という印象だ。
10GBASE-TとSSDを組み合わせることで1Gbpsの壁を越えたり、無線LAN化することでケーブルの呪縛から解き放たれたりと、使い方や環境に合わせて進化させることができる。
これまでのNASは、さほど容量は必要なかったとしても、機能や性能を考えると4ベイ以上のNASを選んだ方が有利だったが、本製品は2ベイでもいろいろな機能を諦める必要がない。家庭やSOHOの環境でも、10GやSSDを活用したいという場合に、お勧めしたい製品と言えそうだ。
(協力:テックウインド)