清水理史の「イニシャルB」
高性能Wi-Fiアンテナもセキュリティ機能もIPv6 IPoEも引っ越しも! いろいろ入ってコスパが高いエレコム「WRC-1167GST2」
2018年9月10日 06:00
エレコムから、実際の利用シーンで求められる数々の機能を搭載しながら、実売7000円前後とリーズナブルなWi-Fiルーター「WRC-1167GST2」が発売された。“実用性”に長けた同製品の実力を検証してみた。
実用性を重視する国内メーカー勢
機能の多さ、という点で考えれば、海外メーカーの製品は確かに優秀だ。
しかし、実用的な機能がどれくらいあるか? と言われると、話がちょっと変わってくる。
もちろん、海外メーカーのものにも、日本の通信事情を考慮したWi-Fiルーターはあるが、IPoE IPv6のような日本で普及しつつある通信方式がサポートされているかというと、必ずしもそうとも言えない。
これに対して、国内メーカーの製品は、こういった国内の通信事情に敏感だ。今年に入って、各メーカーから続々とIPv6 IPoEに対応したWi-Fiルーターがリリースされ始めている。
今回、エレコムから登場した「WRC-1167GST2」も、そんな国内の通信事情を考慮したWi-Fiルーターだ。
無線LANのスペックは、最大867Mbpsの5GHz帯(IEEE 802.11ac/n/a)と最大300Mbpsの2.4GHz帯(IEEE 802.11n/g/b)のデュアルバンドとなっており、実売7000円前後の価格と相まって、ミドルレンジに位置するモデルだ。
しかしながら、先にも触れたIPoE IPv6インターネット接続と、MAP-E方式の「v6プラス」やDS-Lite方式の「transix」によるIPv4接続にも対応しており、これらのサービスに移行した際のインターネット接続も問題なく可能となっている。
このようなIPoE IPv6環境への移行はもちろんだが、単純に既存のWi-Fiルーターを買い換えた場合に便利な「らくらく引越し機能」も搭載されている。現行のSSIDやパスワードをそのまま引き継げるため、Wi-Fiルーターを交換しても、PCやスマートフォンといったクライアント側の設定変更は不要だ。
現状、Wi-Fiルーターの購入を検討するのであれば、この2つの機能は必須とさえ言える。そう言った意味では、リーズナブルな価格設定ながら、この条件が満たされているWRC-1167GST2は、注目度の高い製品と言っていいだろう。
特徴的なカバーでスッキリデザイン、DXアンテナの技術で通信も良好
それでは、実際に製品を見ていこう。
本体は、シンプルなデザインで、アンテナ内蔵のスッキリとした形状と、落ち着きのあるブラックのカラーで、良い意味であまり主張のない印象だ。
最近は、メッシュ対応製品の多くが採用している円形のデザインなど、見た目にも凝ったWi-Fiルーターがいくつか登場しつつあるが、本製品は、極力存在感を消そうという方向性に思える。
特徴的なのは本体前面のカバーだ。一番下に電源用の穴は空いているものの、このカバーによって通信中などに点滅するLEDが目立たないように工夫されている。いっそのことLEDごとなくすか、ソフトウェアで制御すれば? と思うかもしれないが、万が一のトラブルの際などにはカバーを取り外すだけで、すぐにLEDを確認できるので、普段は存在を目立たせず、いざというときも困らない、よく考えられたデザインだ。
ただし、例えば初期設定の際に、「らくらく引越し」機能を使って既存のルーターの設定をコピーしようとすると、WPSの状態をLEDで確認しなければならない。カバーが付いたままだと、これが確認できないのが難点だ。初期設定のタイミングだけは、カバーを外しておくことをお勧めする。
インターフェースは側面に集中しており、一番上から「ルーター」や「アクセスポイント」などの動作モード切り替えスイッチ、WPSボタン、リセットボタン、そしてギガビット対応のWAN×1、LAN×4のポート類が搭載されている。
10Gbps対応のインターネット接続サービスも登場しつつあることを考えると、将来的にはネットワークポートも10Gbps対応になる可能性はある。ただ、現状は1Gbpsで十分だし、最大867Mbpsの無線性能を考えても、この構成で問題ないだろう。
アンテナは、867Mbps(5GHz帯)、300Mbps(2.4GHz帯)という速度からも分かる通り、いずれも2ストリーム対応の2本となるが、どちらも本体に内蔵されており、スッキリとしたデザインにも寄与している。
このアンテナは、同社のグループ企業であるDXアンテナと共同で設計されたものだ。見た目からは分からないが、全方位に最適な位置や角度に配置されている。過去の本連載でも、同様にDXアンテナの技術を取り入れたモデルを試用したが、実際に使って見ても通信状況は良好だったので、この恩恵は確かにありそうだ。
実際の機器開発が海外に委託されることの多い現状を考えると、アンテナの設計やチューニングにまでこだわるメーカーは非常に数が少ない。アンテナ内蔵へのこだわりも、こうした技術に自信がある現れとも言えるだろう。
トレンドマイクロのセキュリティ技術を搭載
もうひとつ、エレコム製の無線LANルーターで特徴的なのは、トレンドマイクロのセキュリティ技術を搭載し、しかも標準で有効になっている点だ(最長5年間もしくは、同社が告知した日付までの利用可能。ただし、2026年2月末日を超えることはない)。
同機能は、本家トレンドマイクロ製の「ウイルスバスター for Home Network」や、ASUS製ルーターの「Ai Protection」などでも採用されている機能で、「悪質サイトブロック」「脆弱性攻撃ブロック」「情報漏洩ブロック」の3つから構成されるセキュリティ機能だ。
フィッシングサイトなどの悪質なサイトへのアクセスを遮断する機能は、一部のウェブブラウザーなどにも搭載されているが、こうした機能だけでなく、ネットワーク機器の脆弱性を狙った攻撃による外部からの通信や、ネットワーク内の感染端末が外部へと通信する内容をルーターがチェックして、遮断することができる。
企業向けのUTMなどで実現されている機能を家庭向けにしたようなものと言えるが、これにより、PCやスマートフォンはもちろん、スマートスピーカーやネットワークカメラ、レコーダー、ゲーム機など、エンドポイントではセキュリティ対策が難しい各種の機器を保護できる。
普及価格帯の無線LANルーターでありながら、こうした機能までをサポートしている点は、大きなメリットと言えるだろう。
ここまでの内容をまとめると、WRC-1167GST2は以下のような機能に対応している。
- IPoE IPv6+IPv4(MAP-E/DS-Lite)
- 引っ越し機能
- 高度なアンテナの技術
- トレンドマイクロのセキュリティ技術
前2つは国内メーカー製ルーターでは標準的な機能となりつつあるが、海外メーカーではまだ未対応の製品も多い。高度なアンテナ技術は、国内メーカーでもかなり数が限られる(同社とNECプラットフォームズ)。トレンドマイクロのセキュリティ技術は、海外メーカー製ルーターでは搭載機種もあるが、国内メーカーではあまりない。
つまり、イイトコドリをした製品という印象なのだ。無線LANのスペックに不満を感じなければ、機能的にはかなりお得な製品と言える。
つなぐだけ、カメラ向けるだけ、ボタン押すだけ
セットアップは、かなりよくできている。
試しに、筆者宅で運用しているtransixの環境で、既存の無線LANルーター(Synology RT2600ac)から、らくらく引越し機能を利用しての移行を試してみた。
手順としては下の通りだ。
- WRC-1167GST2のWANポートに回線を接続して電源オン(RT2600acは電源オンのまま)
- WRC-1167GST2のWPSボタンを長押し(LED確認のためカバーを外しておく)
- RT2600acのWPSボタンを押す
操作としては、たったこの3ステップだ。LEDで正常動作を確認後、移行元のWi-Fiルーター(RT2600ac)の電源をオフにしておけば、設定は完了となる。
インターネット接続環境を自動的に認識してtransixのDS-Liteで接続された上、無線LANのSSIDやパスワードもそのまま引き継ぐことができた。
唯一の注意点は、引き継ぐ無線LANの設定項目が限られる点だろう。今回、RT2600acでは、2.4GHz帯と5GHz帯で別々のSSIDを設定していたが、このうち引き継がれたのは、WPSで接続できる2.4GHz帯側のみで、5GHz帯側のSSIDの設定は引き継がれなかった。
前述したように、WRC-1167GST2も5GHz帯と2.4GHz帯のデュアルバンド対応だが、バンドステアリング(2.4GHz帯と5GHz帯で同じSSIDを使って最適な方に自動接続する)がオンになっており、RT2600acの2.4GHz帯のSSIDとパスワードが、WRC-1167GST2のSSIDの情報として設定された。
移行元のルーターでバンドステアリングを利用している場合は問題ないが、2.4GHz帯と5GHz帯でSSIDが分かれている場合は、WPSで接続できる側の情報のみが移行される点に注意が必要だ。
とは言え、これは設定の移行にWPSを利用している以上は仕方がない仕様で、筆者が知る限りでは、ほかのメーカーの製品でも、ほぼ同じ状況と言える。片方だけ移行できるだけでも、ありがたいと思うしかないだろう。
iPhoneならQRコードを読むだけ
もうひとつ、「よくできているなあ」と感心したのは、QRコードの扱いだ。
前述したように「らくらく引越し機能」で環境を移行してしまうと使う機会がないのだが、新規でセットアップをした場合(で、しかも初期設定のSSIDとパスワードを変更しない場合)は、付属のセットアップシートに記載されているQRコードを使って、無線LANにカンタンに接続できる。
接続できる環境はiPhone(iOS11以降)のみとなるが、標準のカメラアプリを使って、このQRコードを読み取ると、それだで無線LANの接続設定がスマートフォンに適用することができる。
同様の方式はネットギアジャパンのWi-Fiルーターでも採用されているが、iPhoneユーザーには非常にありがたい機能で、こういったあたりも、うまくイイトコドリをしている印象だ。
パフォーマンスも十分
さて、気になるパフォーマンスだが、ミドルレンジの無線LANルーターとしては、十分な性能と言えそうだ。下のグラフは、木造3階建ての筆者宅の1階にWRC-1167GST2を設置し、各階でiPerfの速度を計測した結果だ。
Down | Up | |
1F | 631 | 413 |
2F | 334 | 227 |
3F入口 | 215 | 127 |
3F窓際 | 65.3 | 29 |
※検証環境 サーバー:Intel NUC DC3217IYE(Core i3-3217U:1.3GHz、SSD 128GB、メモリ 4GB、Windows Server 2012 R2) クライアント:Macbook Air MD711J/A(Core i5 4250U:1.3GHz、IEEE 802.11ac<最大866Mbps>)
全体的に下りよりも上りの速度が落ちる傾向が見られるが、3階の入口付近で200Mbpsオーバーは立派な結果で、もっとも遠い3階窓際でも65.3Mbpsが実現できているので、実用性は十分と言える。
現状、ほとんどのクライアントが867Mbpsまでの対応という状況を考えると、申し分のない性能で、一般的な利用であれば不満を感じることはないだろう。テスト時の値のばらつきもあまり見られず、電波の安定性も高いと言えそうだ。
以上、エレコムのWRC-1167GST2を実際に試してみてたが、価格を考えると、相当にお買い得な製品と言える。国内の通信事情に対応している上、トレンドマイクロのセキュリティ技術が使えるし、安定性も高く、セットアップも容易だ。かなりバランスのいい製品で、個人的にもお勧めできる製品と言える。