清水理史の「イニシャルB」

あの「Linksys」が日本復活! でも「懐かしさ」はなし? トライバンド対応Wi-Fiメッシュネットワークシステム「VELOP」

 LinksysのVELOPは、複数台のアクセスポイントを組み合わせることで、広い範囲をカバーできるメッシュ対応の無線LAN機器だ。設置や設定も手軽にできるが、867Mbps+867Mbps+400Mbpsのトライバンドに対応した製品で、中継用にきちんと帯域を確保できるのが特徴だ。その実力を検証してみた。

ぼくの知っているLinksysとはもう違う

 いやLinksysっていうと、やっぱり、このシルエットのイメージなんだよなぁ。

Linksysのウェブサイト。「ABOUT LINKSYS」のシルエットが懐かしい

 地面をガッツリ掴む4つの足が印象的で、色も黒と青のツートンで、デカデカと「LINKSYS」というロゴが入っている感じ。あのデザインセンスは今見ると、だいぶゴテゴテしていて合体ロボ的というか昆虫的というか、何と表現していいか分からないが、「男の子の好きなモノ」的な独特の世界観があって、僕は好きだった。

 それに比べて、久しぶりとなる日本再参入のタイミングでリリースされた「VELOP」は、「あぁ、もう、ぼくの知っているLinksysはなくなったんだなぁ」と、しみじみと現実を突きつけられる製品。

 もちろん、こっちのデザインの方が、遙かに洗練されているし、部屋に設置したときの印象も断然いい。それでも、どこかに、少しでも、かつてのLinksysっぽさがあるかなと期待していたのだが、そんなものは、一切、影も形もなかった。

 それもそのはずで、Linksysは、2003年の米Cisco Systemsによる買収を経て、今はBelkinの1ブランドとなっており、販売ルートもオンラインストアとApple Store経由のみと、全く別のイメージのブランドとなっている。

 2009年の撤退から、久しぶりの日本市場再参入だが、かつてのブランド力に頼るのではなく、むしろ製品としての完成度を純粋に評価して欲しいという意欲の表れかもしれない。

Linksysから登場したWi-Fiメッシュネットワークシステム「VELOP」

「もうひと声!」と値切りたくなる

 それでは、製品をチェックしていこう。

 VELOPは、最大867Mbpsの5GHz帯×2系統と、最大400Mbpsの2.4GHz帯×1系統に対応したトライバンド対応のメッシュネットワークシステムだ。

 メッシュ対応の製品は、Google WifiやASUS Lyra Miniなど、ここ最近、日本でも新たな選択肢となる製品が投入されている注目のジャンルだ。これまでの無線LANと異なり、建物内に複数台のアクセスポイントを設置することで、より広いエリアをカバーできるのが特徴となる。

今回試用した製品は、上段に2台、下段に1台が梱包された3台パックのセットモデル。1台や2台でも購入可能

 こうしたメッシュのソリューションでは、アクセスポイント同士をつなぐ中継用ネットワークの効率的な確保が大切だ。中継機を使う場合にも言えるが、デュアルバンド対応の製品では、高速な5GHz帯を中継とクライアントの接続で共有したり、混雑している2.4GHz帯を中継に使わざるを得ないことがあり、メッシュと言えども(むしろメッシュだからこそ)、効率的な通信ができない場合がある。

 これに対してトライバンドに対応するVELOPは、高速な5GHz帯を中継専用に確保できる。

 現状、国内で入手可能なコンシューマー向けのメッシュシステムで、トライバンドに対応している製品は少なく、ライバルとなるのは、ネットギアジャパンの「Orbi Micro RBK20」あたりになるだろう。

 実際、VELOPとOrbi Microのスペックを並べてみると、お互いにかなり似通っている。無線LANのスペックもほぼ同じだが、CPUやメモリなどもほぼ同等だ。

Linksys VELOPNETGEAR Orbi RBK20
実売価格4万9480円(3台)2万7201円(2台)
CPUQuad Core 716MHzQuad Core 710MHz
メモリ512MB512MB
対応規格IEEE 802.11ac wave 2/n/a/g/bIEEE 802.11ac wave 2/n/a/g/b
2.4GHz 1-13ch
W52(36/40/44/48)○(867Mbps用)
W53(52/56/60/64)?(確認できず)×
W56(100/104/108/112/116/ 120/124/128/132/136/140)○(中継専用867Mbps)
対応バンド数33
最大通信速度(2.4GHz帯)400Mbps400Mbps
最大通信速度(5GHz-1)867Mbps867Mbps
最大通信速度(5GHz-2)867Mbps867Mbps
ストリーム数22
アンテナ数内蔵内蔵
変調方式(最大速度時)256QAM256QAM
有線LAN1000Mbps×21000Mbps×2
USB 2.0××
本体サイズ(幅×奥行×高さ)78×78×185mm142×61×176.6mm
重量630g476g

 違うのは価格とサイズだ。VELOPは今回試用した3台セットは実売で4万9480円となるが、Orbi Microと同じ2台パックも用意されており、こちらは3万2980円となっている。

 販売ルートがApple Storeなどに限られるため、価格競争が激しくないという理由もありそうだが、Orbi Microと比べてしまうと若干高い。せめて、もう1割ほど安ければ、完全なライバルと言えただろう。

 ちなみに、機能的には、ペアレンタルコントロールやQoS(3台まで優先設定可能)、ゲストアクセスなどを備えているものの、VPNサーバーなどの付加的なものは搭載しておらず、あくまでも無線LAN環境にまつわる基本的な機能の提供のみに限られている。

 インターネット接続では、DHCPやPPPoEでの接続に対応しているが、現在、普及が進んでいるIPoE IPv6とMAP-EやDS-Liteとの組み合わせによる接続には対応していない。ブリッジとして利用することもできるので、ルーター機能は既存の通信機器に任せ、純粋に無線LAN環境の構築に利用するのがお勧めだ。

 デザインは、冒頭でも触れた通り、非常にシンプルで清潔感があるものとなっている。トライバンド対応の製品は、デュアルバンド対応製品に比べてサイズが大きくなりがちだが、本製品は、若干高さがあるものの(と言っても185mm)、スリムな筐体が採用されているため、設置面積はあまり必要としない。

正面
背面
底面

 ケーブルも底面へ接続できるようになっている上、電源スイッチやリセットスイッチなども底面に隠されているため、見た目はなかなか凝っている。

 ちなみに、有線LANポートは2つ用意されているが、それぞれWAN/LANの区別なく利用できる。同じ仕組みはTP-Link Deco M5でも採用されているが、どこであろうと、つなげば自動的に認識してくれるので、初心者でも安心して使えるだろう。

 ほかの製品との違いになりそうなのは、WPSボタンが搭載されていない点だ。WPSがサポートされないのではなく、WPSによる接続設定はスマートフォンのアプリから実行するようになっている。思い切った仕様だが、アプリは初期設定や管理に使うので、実質的には困らない印象だ。

設置場所をアドバイスしてくれる

 初期設定は、PCからも可能だが、基本的にはスマートフォンのアプリ(Linksysアプリ)を利用する。

 本体の電源を入れると、上部のLEDが紫色に点滅するので、この状態でアプリを起動すると、自動的に近くのVELOPを検出して初期設定を実行できる。

 とは言っても、設定項目はシンプルで、SSIDとパスワードを設定し、「リビングルーム」や「主寝室」といった選択肢から設置場所を選べばいい。2台目、3台目がある場合は、同じ設定を続けて繰り返すだけだ。

 管理者パスワードの設定などは不要なのか? と疑問に思ったが、パスワードはPCからウェブブラウザーで管理する場合にだけ設定するようになっている。PCからの場合は、本体底面に記載されているコードを利用してアクセスし、パスワードを初期設定することになる。PCで管理をしなければ不要なのだ。

アプリを使って初期設定。最低限の設定ですぐに使える。メッシュは、こうした手軽さも特徴の1つ
アプリから設定や管理、現状の把握などができる
管理者パスワードは、PCからブラウザーでアクセスする際に、初期設定のものから変更する必要がある

 2台目、3台目をセットアップする際は、それぞれの設置場所が適切かどうかを自動的にテストできるようになっている。これは、Spot Finderテクノロジーと呼ばれる機能によるもので、例えば、「少し離れすぎです」といったようなアドバイスが表示される。

 メッシュでパフォーマンスを出すためには、設置場所の調整が非常に重要となるが、この機能によって、それをある程度判断することが可能だ。

通信状況を自動的に判断して、設置場所をアドバイスしてくれる
「完璧です」と表示されれば、その設置場所で問題ない

 また、メッシュでは、設置場所に応じて選ばれるアクセスポイント間の接続方式や利用帯域が、通信のパフォーマンスや安定性に重要な役割を果たすが、こうした設定は、同社が「Intelligent Meshデザイン」と呼ぶ技術により、すべて自動的に実行されるようになっている。

 例えば、3台のアクセスポイントがあったとき、1台を中心にしたスター形に接続されるのか、3台が数珠つなぎにつながるのかといったトポロジー、さらに2系統の5GHz帯と1系統の2.4GHz帯をどのチャネルでどの用途に使うのかが、自動的に判断されるわけだ。

 これは、メッシュシステムならではのメリットでもある。難しいことを考えずとも、設置するだけで最適な構成が自動的に適用されるため、無線LANに関する知識が全くなくても快適な環境で利用可能だ。ファームウェアのアップデートも、アプリを使って3台まとめて実行できる上、夜間に自動的に更新することもできる。

画面下部に接続先のアクセスポイントが表示される。筆者宅で試した際は、2階と3階のアクセスポイントが、ともに1階のアクセスポイントに接続された。1階→2階→3階とデイジーチェーンでつながるかと思ったが、意外にそうでもない
どの帯域、どのチャネルを使ってアクセスポイント間を接続するかは完全にシステム任せ。最適化を実行することで、チャネル設定を見直すことはできる
ファームウェアの更新はネットワーク内のすべてのアクセスポイントに対して一度に実行可能。3台個別に管理する必要はない

 ただし、こうした設定を、ある程度ユーザー側で管理できる方が個人的には好ましいと考えている。現在、アクセスポイントがどこにつながっているかや、どのチャネルを選択しているかはアプリで確認できるが(チャネルは「チャネルファインダー」で最適化を実行すれば確認できる)、ユーザーが任意のトポロジーや帯域、チャネルを設定することはできない。

 基本的には、機器任せで難しいことを考えたくない人向けの製品なので、ある程度制御をしたいのであれば、別の製品を選んだ方がいいだろう。

普通の家庭なら2台で十分

 パフォーマンスは悪くないが、筆者宅では2台構成がベストだ。下のグラフは、木造3階建ての筆者宅の各フロアにVELOPを設置し、iPerfによって速度を計測した結果となる。

1台(1Fのみ)2台(1F+2F)3台(1F+2F+3F)
1FUP498498487
DOWN522538538
2FUP215273271
DOWN204212258
3FUP82.7247137
DOWN49.3242130
3F端UP10.9147142
DOWN19196132

※検証環境 サーバー:Intel NUC DC3217IYE(Core i3-3217U:1.3GHz、SSD 128GB、メモリ 4GB、Windows Server 2012 R2) クライアント:Macbook Air MD711J/A(Core i5 4250U:1.3GHz、IEEE 802.11ac<最大866Mbps>)

 1階に1台のみ設置した場合、1階と2階に2台設置した場合、3台を各階に設置した場合で比較してみると、ほかのメッシュシステムのときもそうだったが、やはり2台構成のときがもっとも良好な結果が得られた。

 特に、もっとも遠い3階端では、1台では20Mbpsが限界だったが、2台のときは最大196Mbpsで通信できている。よほど広い間取りでもない限り、3台使う必要はないだろう。

 なお、1台のみの場合で3階の結果が予想以上に低くなっているが、これはクライアントが2.4GHz帯で接続しているためだ。VELOPでは、2.4GHz帯と5GHz帯のSSIDが共通で、電波状態などによって、どちらで接続するかが自動的に選択される。筆者宅でテストした限りでは、距離が離れるとかなりの確率で2.4GHz帯を掴む傾向が見られた。環境にも依存するが、本製品の特性なのかもしれない。

メッシュシステムの導入を検討しているなら選択肢としてアリ

 以上、LinksysのVELOPを試してみたが、さすがにトライバンド対応だけあって、十分なパフォーマンスを備えた製品と言えそうだ。

 セットアップも手軽で、メッシュで悩みがちな設置場所の選択も適切にアドバイスしてくれる。とにかく、難しいことを考えたくないというのであれば、本製品は非常に適した選択肢だ。

 ただし、個人的には、設定の自由度が低いのが好ましくないし、価格も競合に比べて若干高い点が気になる。このあたりが気にならないなら、積極的に選ぶ価値はあるだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。