清水理史の「イニシャルB」
もはや、もっといい選択肢はある! 鳴り物入りで日本上陸した「Google Wifi」のメッシュを試す
2018年5月14日 06:00
Googleの無線LANルーター「Google Wifi」がいよいよ日本に上陸となった。複数台のアクセスポイントを組み合わせて通信範囲を拡大する「メッシュネットワーク」に対応した製品だ。国内での競合となりそうなTP-Link「Deco M5」とネットギアジャパン「Orbi」と比較しながら、その実力をチェックしてみた。
メッシュ対応製品間で比べてみると……
結論から言ってしまえば、Google Wifiは、製品としては面白いものの、競合と比べると明確なアドバンテージが少ない。
いわゆる3パックメッシュでの直接的なライバルはDeco M5となるが、3パックでの実売価格は1万6000円以上もGoogle Wifiが高い上、機能的にはほぼ同等か、むしろIPSによるセキュリティ機能やアクセスポイントモードでの稼働が可能な点などを考えると、競合のDeco M5の方が優れている点もある。
しかも、もっと範囲を広げれば、超強力なライバルとなるOrbiが視野に入ってくる。2台セットとはなるが、3パックのGoogle Wifiより若干安く手に入るにも関わらず、5GHz帯を2系統使えるトライバンドの恩恵で、メッシュでの接続性能はGoogle WifiやDeco M5より遙かに高い。
海外では、Google Wifiの直接的なライバルは、「eero」や「Luma」などの新興勢となる上、登場も2016年というメッシュ黎明期だったため、アプリの完成度や価格面でアドバンテージがあったGoogle Wifiだが、日本では、機能的にも、価格的にも、性能的にも、よりブラッシュアップされたライバルが、すでに市場に存在する状況となっている。
Google Wifi | TP-Link Deco M5 | NETGEAR Orbi | |
実売価格(税込):1台 | 1万6200円 | 1万821円 | 3万9790円(2台) |
実売価格(税込):3台セット | 4万2120円 | 2万5760円 | 6万6600円 |
CPU | IPQ4019(クアッドコア、710MHz) | IPQ4019(クアッドコア、717MHz) | IPQ4019(クアッドコア、710MHz) |
メモリ | 512MB | 256MB | 512MB |
IEEE 802.11ac | Wave 2 | Wave 2 | Wave 2 |
対応チャネル:2.4GHz 1-13ch | ○ | ○ | ○ |
対応チャネル:W52(36/40/44/48) | ○ | ○ | ○(WI1) |
対応チャネル:W53(52/56/60/64) | ?※ | × | ○(WI2) |
対応チャネル:W56(100/104/108/112/116/120/124/128/132/136/140) | ?※ | × | ○(WI2) |
対応バンド数 | 2 | 2 | 3 |
2.4GHz帯通信速度 | 300Mbps | 400Mbps | 400Mbps |
5GHz帯(WI1)通信速度 | 866Mbps | 867Mbps | 867Mbps |
5GHz帯(WI2)通信速度 | - | - | 1733Mbps |
ストリーム数 | 2 | 2 | 2+4 |
アンテナ | 内蔵 | 内蔵 | 内蔵 |
変調方式(5GHz帯) | 256QAM | 256QAM | 256QAM |
WPS | × | × | ○ |
APステアリング | ○ | ○ | ○ |
バンドステアリング | ○ | ○ | ○ |
MU-MIMO | ○ | ○ | ○ |
ビームフォーミング | ○ | ○ | ○ |
アクセスポイントモード | × | ○ | × |
WAN/LAN | WAN(1000Mbps)×1、LAN(1000Mbps)×1 | WAN/LAN(1000Mbps)×2 | WAN(1000Mbps)×1、LAN(1000Mbps)×3 |
リンクアグリゲーション | × | × | × |
デュアルWAN | × | × | × |
イーサネットバックホール | ○ | ○ | ○ |
イーサネットブリッジ | ○ | ○ | ○ |
USB | × | × | ○ |
Bluetooth | ○(設定用) | ○(設定用) | × |
Google Wifi | TP-Link Deco M5 | NETGEAR Orbi | |
ウェブブラウザー設定 | △(ステータス表示のみ) | × | ○ |
スマートフォン設定 | ○ | ○ | ○ |
帯域制御(QoS) | ○ | ○ | ○ |
DLNA | × | × | × |
Sambaファイル共有 | × | × | × |
FTPサーバー | × | × | × |
プリンター共有 | × | × | × |
TimeMachineバックアップ | × | × | × |
IPS | × | ○(HomeCare) | × |
ペアレンタルコントロール | ○ | ○ | ○(Circle with Disney) |
ゲストアクセス | ○ | ○ | ○ |
VPNサーバー | × | × | ○ |
※注 Google Wifiの対応チャネルは、仕様では明らかにされていない。ただし、起動時の挙動を見ると、1分間のDFSチャネルサーチを実行している様子が見られないため(電源オンから30秒ほどで起動完了)、W53/W56には対応していないと考えるのが妥当だ。
トライバンドへの対応が、メッシュのメリットを最大化する
メッシュネットワークのメリットは、複数のメッシュポイント(MP)間を無線で中継することで、手軽に無線LANの通信エリアを拡大できる点にある。
この恩恵は、Google WifiでもDeco M5でも確かに受けることはできる。メッシュネットワークは、1台のアクセスポイントのみでカバーし切れない環境において、ユーザーに余計な設定や知識を強いることなく、無線LAN通信可能なエリアを拡大できるいいソリューションだ。
しかしながら、その拡大されたエリアでパフォーマンスが最適化されるかというと、必ずしもそうではない。同じメッシュでも、デュアルバンドとトライバンドの間には、大きなパフォーマンスの差が生まれてくる。
後述する実際の通信性能を見ると、筆者宅での一例ではあるが、デュアルバンド(Google WifiやDeco M5)は家中を100Mbpsでカバーできるシステムに過ぎないが、トライバンド(Orbi)なら家中を300~400Mbpsでカバーできる。
そもそも、複数のMP間を無線で繋ぎつつ、クライアント接続も無線で受け付けようという製品が、2.4GHz帯×1、5GHz帯×1のデュアルバンド2系統しか使用できないという時点で無理がある。さらに言えば、MU-MIMOに対応する効果も、866Mbpsでは限界がある。
もし、速度はさほど気にせず、接続可能なエリアを重視してカジュアルに使いたいなら、Google Wifi(やDeco M5)は悪くない選択肢と言える。しかし、今の時点であれば、僕なら間違いなく、デュアルバンドのメッシュに投資するようなことはしない。これは、同様のソリューションである中継機でも同じだ。
なお、メッシュと中継機の違いはルーティングだ。メッシュの仕組みについては、Deco M5のレビューで解説しているが、簡単に言えば、複数のMPを結んだ複数の通信経路のうち、どれが最短かを計算したり、中間のMPがダウンした場合に迂回できるようにするものだと考えればいい。
底面に有線LANと電源のケーブルを接続
それでは、Google Wifiの実機をチェックしていこう。本体は、円筒状で清潔感のある白にワンポイントの「G」が控えめに刻印されたデザインになっている。
直径と高さは106.1×68.7mmで、ライバルとなるDeco M5(120×38mm)よりも、やや背が高い。
実際に設置してみると、シンプルなデザインで好印象だ。本体の中間にLEDが配置されており、起動中は白く点灯(トラブル時は赤)するが、これは後述する設定アプリによって輝度を調整したり、オフにすることもできる。寝室などに設置する場合でも安心だ。
インターフェースは、底面に隠されるように、USB Type-Cの電源ポート、1000Mbps対応のWAN、LANポートが各1つずつ配置されている。なお、本体側面に何も記載されていないボタンがあるが、これはリセットボタンで、押しながら電源を入れることで工場出荷状態に戻すことができる。
メッシュ構成の場合、ルーター機能を利用する親機(MPP:メッシュポータル)と、無線で中継する子機(MP:メッシュポイント)に役割が分かれるが、MPとして利用する場合、底面のポートはどちらもLANポートとして利用可能で、MPPとして利用する場合のみ片側がWANとなる(地球儀のアイコンがある方)。
なお、細かな点だが、Deco M5では、MPP/MPどちらとして利用する場合でも、2ポートあるLANポートのどちらがLANで、どちらがWANであるかを意識する必要はない。インターネットに接続されている方をWANと自動的に判断するため、ケーブルをどちらのポートにつなぐかを全く意識しなくて済む。
初期セットアップはBluetoothでスマートフォンと接続
Google Wifiのセットアップには、スマートフォンを利用する。あらかじめGoogle WifiアプリをインストールしてGoogleアカウントを登録し、セットアップを開始すると、Bluetoothによって設定対象の機器を自動的に検出する。
その後、本体底面に記載されたQRコードをカメラで読み取る。これにより、「1111HW000JP,000000000000,setup00000,abcdefghi」のように、シリアル番号、MACアドレス、ネットワーク設定、コード設定の値が読み込まれる。おそらく、この値を確認することで、不正な設定を防ぐ意味合いがあるのだろう。
アプリでのセットアップは、インターネット接続の確認(必要に応じてセットアップ)、識別するための設置場所、Wi-Fiネットワーク名(SSID)、パスワード設定という流れになる。1台目のMPPに続いて、2台目以降のMPも同じ流れで追加していけば、自動的にメッシュが構成される。
メッシュのメリットは、こうした手軽さだと言えるが、しかし、中継機も現在ではAPステアリングやバンドステアリングなどに対応している。かつての中継機のようにSSIDを使い分けたり、中継にどの帯域を使うかも意識しなくて済み、かなりカシコイ。仕組みは違えど、最新の中継機の使い勝手はかなりメッシュ的とも言える。
話を戻そう。Google Wifiの設定自体はとても簡単だが、難点はクライアントの接続が手動でのパスコード入力のみとなる点だ。WPSやQRコードによる設定はサポートされないため、PCやスマートフォンを接続する場合、初期設定で設定したSSIDを選択し、パスワードを入力しなければならない。
自分で設定した値なので、手動でも苦労することはなさそうだが、こうした方式にすると、パスワードが単純になってしまうこともよくある。
Bluetoothでの設定は確かに手軽ではあるが、実質的に初期設定のみ。しかもQRコードと併用するわけで、QRコードやアプリから認証キーを使うバッファローの「AOSS2」やNEC Atermシリーズ「らくらくQRスタート」などと比べて、大きく手間が減るのかと言われると疑問だ。
ただし、この点は競合のDeco M5も同じだ。Deco M5ではQRコードの読み取りが不要だが、設定の流れもほとんど同じで、WPSをサポートしない点も共通する。初期設定の容易さという点では、ほぼ互角と考えていいだろう。
ちなみに、Google Wifiは、2台以上のメッシュ構成で利用する場合、「NATモード」でしか利用できず、ブリッジモードは選べない。Deco M5も、発売直後は同様だったが、後のファームウェアアップデートにより、アクセスポイントモードでもメッシュの構成が利用可能になった。Google Wifiの方が海外での発売は先なので、その時間は十分にあったはずだが、サポートしないということは、その必要性がないという判断なのだろう。
確かに、Deco M5も、ルーターとして稼働させないと、トレンドマイクロのセキュリティ機能(IPSなど)を利用できない。アクセスポイントモードをサポートしている点はDeco M5の特徴だが、結果的にフルに機能を活用しようとすると、2重ルーター構成で使わざるを得ないのは、どちらも同じということになる。
メッシュ構成や、各端末の速度をアプリで確認可能
Google Wifiの特徴の1つは、アプリの完成度が高い点にある。前述したBluetooth経由での初期設定もそうだが、設定後にメッシュの接続状況をテストしたり、クライアントの速度をリアルタイムに表示することができる。
ネットワークチェックを実行すると、インターネット回線側の速度、MP間の通信品質、クライアント端末の速度がチェックされる。また、設定画面で端末を選択すると、無線LANで接続されている端末が一覧表示され、各端末の通信速度をリアルタイムで確認することができる。また、端末がどのMPに接続されているのかも確認できる。
こうした細かな状況確認は、国産の無線LANルーターなどではあまり注力されてこなかった機能だが、競合のDeco M5には同様の機能が搭載されており、インターネット回線側の速度チェック、クライアントのリアルタイム速度表示などに対応している。MP間の接続状況もチェック可能だが、各端末が接続するMPの確認だけはできない。
ペアレンタルコントロールも高度な設定が可能だが、上には上が……
Google Wifiには「ファミリーWi-Fi」という機能が搭載されており、「papa」などのラベルを作成し、そこに端末を登録することで、複数端末のインターネット接続を一括で停止したり、複数のスケジュールで無線LAN接続のオン/オフ、Googleセーフサーチのオン/オフを設定することができる。
従来の無線LANルーターでも、ペアレンタルコントロール機能として提供されてきた機能だが、旧来のペアレンタルコントロールでは、端末(MACアドレス)ごとに設定しなければならないため、PCやスマホ、タブレットのように、個人が複数の端末を利用する現状では、使いにくい面があった。
これに対してGoogle Wifiは、ラベルを利用することで、複数の端末に対して特定のルールをまとめて適用できるのがメリットだ。利用時間設定も複数登録可能で、就寝時間や勉強時間などの制限を、目的ごとに柔軟に設定可能になっている。
Deco M5でも同様にプロファイルベースの管理が可能で、さらにプロファイルごとにコンテンツフィルタリングも行えるなど、より高度な設定が可能になっているが、利用時間の設定に関しては、Google Wifiの方が柔軟だ。
とは言え、この分野に関しては、上には上がある。ここまであまり触れてこなかったが、NETGEARのOrbiでは、2018年初頭に提供されたファームウェアで、「Circle With Disney」という強力なペアレンタルコントロールに対応した。
Circle With Disneyは、単純にアクセスを禁止するのではなく、子どもとの対話の中で、許可と禁止をうまく使い分けることができる非常に優れたシステムとなっている。例えば試験前など、一時的に使いたい複数のスケジュールを使い分けたり、お手伝いをした子どもへの報酬として、アクセス時間を延長することなどもできる。
Google WifiのファミリーWi-Fiは、国産ルーターのペアレンタルコントロール機能に比べればよくできてはいるが、やはり「禁止」がベースになっている。これに対して最先端のフィルタリングは、むしろ、いかに「許可するか」という発想に切り替わっている。Google Wifiの発想もこれに近いとは言えるが、機能的には物足りない。
ゲストネットワーク機能と、クラウドサービスによるLAN内デバイス操作
続いて、ゲストネットワーク機能について見ていこう。この機能は、自宅に友人を招く機会が多い人には有効な機能だ。Google Wifiでは、ゲストネットワークを1つ作成可能となっており、このSSIDとパスワードをメールやSNSアプリなどで手軽に共有できる(Deco M5ではシェイクでの共有も可能)。
ゲストネットワークでは、基本的にインターネット接続のみが可能となっており、LAN側端末へのアクセスは禁止される。ただし、共有可能にしたいデバイスを一覧から選択することで、特定の端末へのアクセスのみを許可することが可能だ。
また、「On.Here」と呼ばれるクラウドサービスによって、ゲストに利用を許可したデバイスの操作ができる。「Phillips Hue」などのスマートホームデバイスにも対応している(海外モデルではZigbeeへの対応も謳われているが、国内向けには特にアナウンスされていない)ようだが、今回は手元になかったため、すべての機能を試したわけではない。だが、ゲストに対してAmazon Fire TVのリモート操作を許可することなどは可能だった。
メッシュネットワークでは中継ロスが速度に悪影響
続いて、パフォーマンスをチェックしていこう。今回、Google Wifiに加え、本文中でもたびたび触れてきたTP-Link Deco M5、NETGEAR Orbiも一緒にテストした。Google WifiとDeco M5は、1FにMPP、2FにMP1、3FにMP2を設置し、2FのMP1と3FのMP2をそれぞれオフにした場合もテストした。Orbiは2台セットなので、1FにMPPを、2Fと3FのそれぞれにMPを設置した場合で比較している。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | |
Google Wifi(1Fのみ) | 598 | 254 | 214 | 25.2 |
Google Wifi(1F+2F) | 603 | 106 | 102 | 83.8 |
Google Wifi(1F+3F) | 612 | 89.3 | 107 | 106 |
Google Wifi(1F+2F+3F) | 617 | 105 | 106 | 113 |
Deco M5(1Fのみ) | 622 | 190 | 191 | 24.1 |
Deco M5(1F+2F) | 618 | 178 | 169 | 128 |
Deco M5(1F+3F) | 609 | 190 | 146 | 135 |
Deco M5(1F+2F+3F) | 623 | 151 | 157 | 128 |
Orbi(1F) | 623 | 216 | 169 | 19.7 |
Orbi(1F+2F) | 622 | 387 | 346 | 250 |
Orbi(1F+3F) | 618 | 354 | 384 | 428 |
※検証環境 サーバー:Intel NUC DC3217IYE(Core i3-3217U:1.3GHz、SSD 128GB、メモリ 4GB、Windows Server 2012 R2) クライアント:Macbook Air MD711J/A(Core i5 4250U:1.3GHz、IEEE 802.11ac<最大866Mbps>)
値を見ると、Google WifiとDeco M5は、ほぼ同等の結果となった。Deco M5の値の方が若干高いが、これは2.4GHz帯が400Mbps(Google Wifiは300Mbps)であることが影響していると考えられる。
メッシュの場合、中継に5GHz帯と2.4GHz帯のどちらが使われるかは、MPP-MP間の通信コストの比較によって自動計算されるため、ユーザーは知り得ないが、Google WifiもDeco M5も2.4GHz帯を使っているように見え、その中継の速度差が、結果の違いに表れていると考えられる。
Google Wifiの結果に注目すると、メッシュ構成ではなく1台のみで利用したケースで、2Fと3F入口の結果が高いことが分かる。これは、メッシュや中継機ではよくあることだ。冒頭で、電波が届くエリアが最適化されることと、パフォーマンスが最適化されることは違うと述べたが、これがまさにその状況を表している。
1台の場合、遠い3F窓際は25Mbpsと遅いが、2Fと3F入口は200Mbpsと非常に速い。一方、2台構成や3台構成では、遠い3F窓際でも100Mbps近い速度が得られる一方で、2Fや3F入口でも100Mbps前後と、速度がふるわない。
これは明らかに中継のロスだ。実際の経路を確認する術がないので推測になってしまうが、おそらく、クライアントの接続にも中継にも同じ5GHz帯を利用したことで帯域が半減しているか、中継に2.4GHz帯を利用しているかのどちらかだろう(後者が有力)。
2.4GHz帯は、もはや混雑によってまともなパフォーマンスが得られる状況にはないので、メッシュや中継機のバックホール(基幹)に用いるのは、あきらめた方がいい。しかしながら、デュアルバンドのGoogle WifiやDeco M5では、使える帯域が2つしかないため、2.4GHz帯を使わざるを得ないことになる。
要するに、Google WifiもDeco M5も、1台では遠くまで電波が届かず、かといって2台、3台と増やした場合、通信エリアは広がるものの、近距離での速度は遅くなると考えていい。
ちなみに、筆者宅のように3階建てでも狭い住宅には、3台は明らかに過剰な印象で、実質的に2台で十分と言える。むしろ、3台設置した場合、中継による無駄な周波数帯域の消費とボトルネックが発生するため、環境によっては、2台の場合よりも速度が低下する可能性もある。
Google Wifiアプリのセットアップ画面でも、「2部屋ほど離れた場所」というメッセージが表示されるので、この時点で「あぁ日本じゃ厳しいな」と分かる。日本の住宅で使うなら、2台構成で十分だろう。
一方、トライバンド対応で、1733Mbpsの5GHz帯(W56)をバックホール専用に使えるOrbiの結果は圧巻だ。サテライトを2Fに設置した場合でも、3F窓際で250Mbpsと圧巻の速度が実現できるが、3Fにサテライトを設置すると、もっとも遠い3F窓際で400Mbpsを越えるという驚異的な結果が得られた。
鉄筋コンクリートなど、5GHz帯の電波が通りにくい環境では、5GHz帯を中継に使うメリットが薄れる可能性はあるが、やはりメッシュや中継機のソリューションでは、単純に使える「車線」が多いトライバンドが有利だ。
家中100Mbpsじゃ困るのか? 4本同時の動画再生でテスト
前述のように、iPerfによるスループットのテストを実施すると、デュアルバンドのGoogle Wifiよりも、トライバンドのOrbiの方が優れているという結果になる。
では「100Mbpsじゃ困るのか?」と言われると、実はそんなことはない。家中100Mbpsの速度で通信できる環境が整っていれば、現状は、少なくとも日常的な利用で困ることはないだろう。
実際、1F、2F、3FにGoogle Wifiを設置した状態で、1FではPCでAbema TVを、2FではAmazon Fire TVのVideo LAN PlayerでNASに保存した動画(ビデオカメラで撮影したMP4)と、PCからSMBでNASの共有フォルダーに保存した動画、iPhoneでAbema TVを同時に再生するというテストを実施してみた。
同じテストを数回繰り返したが、すべての端末でスムーズに動画が再生され、映像、音声ともに途切れることはなかった。数Mbpsほどのトラフィックであれば、数台の端末で同時に再生しても、全く問題ないと言える。
今後、よりリッチなコンテンツ(4K動画)の再生や、IoTの普及により接続台数が増えた場合は、違った結果になる可能性もある。だが、通信速度をそれほど気にしないのであれば、Google Wifiを選んでも困ることはないどころか、家中のさまざまな地点での接続性は確実に改善されるはずだ。
メッシュのメリットかデメリットか? 接続の速度と安定性はトレードオフ
なお、同じテストをOrbi(1Fと2Fに設置)でも実施した。こちらも問題なく再生できたが、どこにある端末をどの周波数帯でつなぐか、という特性の違いが現れて面白かった。
Orbiでは、1FのPCは1Fのルーターに、2FのFire TV、PC、iPhoneは2Fのサテライトに接続され、端末が接続に利用する周波数帯も、すべてが5GHz帯だった。
一方、Google Wifiでは、1FのPCは1FのMPPにつながったのは当然としても、2Fの端末は接続先も帯域もバラバラになった。Fire TVは2.4GHz帯で3FのMP2に、PCも3FのMP2に接続されたがこちらは5GHz帯で、iPhoneは2FのMP1に2.4GHz帯で接続された。
2FのFire TVとPCから、2FのMP1と3FのMP2までの距離はほぼ同等だが、床を経由する3FのMP1があえて選択される上に、中継に利用するかもしれない2.4GHz帯も積極的に利用されることが分かった。
Orbiは2台構成だからという理由もあるが、Google Wifiはメッシュの特性を積極的に活用していることが推測される。こういった辺りは、アルゴリズムの違いがハッキリ現れて興味深い。
しかしながら、わざわざ2Fから3Fを経由することで、確実に中継が増えることを考えると、その成否の判断は難しい。おそらく、システムとしては接続安定性を重視し、電波信号の強度が高い方に接続することを選択したか、もしくは3FのMP2に2台、2FのMP1に1台+3Fの中継というように、通信を適切に分散させることを選択したかのいずれかだと考えられる。
こうした接続形態は、ピークパフォーマンスを追求する場合は不利になることが多い。ただ、安定性を重視する場合はメリットになることもある。メッシュのデメリットでもあり、メリットでもあると言えるだろう。
なお、Deco M5でも同じテストを実施したが、こちらはアプリ側で接続先を判断する手段が存在しないため、どのような接続形態になるのかは明らかにできなかった。PCとFire TVは、いずれも2.4GHz帯で接続されていることがクライアント側の接続情報画面で確認できたが、接続先が2Fなのか3Fなのかまでは不明だった。
ただし、2FのFire TVとPCで、同時に動画を再生すると、まれに(2分半の動画で1回あるかどうか)、再生が瞬断される現象が見られた。おそらく、どちらも同じ2.4GHz帯で、同じ2FのMP1に接続されていることが原因ではないかと考えられる。
前述したように、Google Wifiでは、2FのFire TVは2.4GHz帯で3FのMP2に、PCも同じ3Fだが5GHz帯で接続されていたこともあり、こうした瞬断現象は見られなかった。筆者宅での一例に過ぎないが、接続形態によっては、Deco M5と比較してGoogle Wifiの方が、より安定して通信できる可能性がある。
IPv6、リモートでの設定、DHCP/DNSサーバー設定などにも細かな違いが
さて、このほか実際に3製品を使い比べてみて、気付いた点にも触れておこう。
まず、IPv6に関してだが、Orbiは自動検出となっており、ISP側が対応していれば自動的に利用可能になる。一方、Google WifiとDeco M5に関しては、標準では無効化されており、手動で有効化する必要があった。
続いて、クラウドサービスの活用についてだが、Google Wifi、Deco M5はクラウド経由での設定に対応しており、アプリをインストールしたスマートフォンさえ手元にあれば、外出先からでも設定変更が可能になっている。例えば、Google WifiのファミリーWi-Fiで、子どもの端末の無線LAN接続をリモートからオン/オフするといったこともできる。
Deco M5に関しては、LAN側の設定が固定されており、LAN側のIPアドレスは「192.168.0.x」でDHCPサーバーの設定も変更できない(特定の端末に固定でIPアドレスを割り当てることは可能)。一方、Google Wifiは、LAN側のアドレスやDHCPの設定もすべてカスタマイズ可能だ。こうした柔軟性が高い点も、Google Wifiのメリットだ。
Deco M5は、トレンドマイクロのセキュリティ技術を用いた「Home Care」の機能として、新しい端末がネットワークに参加したときに、アプリに通知する機能が搭載されている。子どもが勝手に端末やゲーム機などを接続したことを検知したい場合は、この機能は便利だ。Google Wifiには、こうした端末の接続を検知して通知する機能はない。
このほかGoogle Wifiは、DNSサーバーのアドレスが標準で「8.8.8.8」に設定されている。ISPが混雑している場合や、問い合わせ先情報がISPのDNSにキャッシュされていない場合は、GoogleのDNSを参照した方がレスポンスがいいこともあるが、一般的なウェブサイトであれば、ISPのDNSサーバーをそのまま利用しても問題ない。設定は変更できるので、必要に応じてISPの値にするのもいいだろう。
ほかにも、まだ違いはありそうだが、とりあえず筆者が気付いた点は、これくらいだ。
電波環境は改善できるが……
以上、Google Wifiを競合機と比べながらチェックしてみたが、正直、無条件にお勧めできるほどの製品ではない。
メッシュで広い範囲をカバーできるの確実である上、競合に比べて設定の柔軟性が高く、速度や接続先などの情報が把握できるのはGoogleらしいと言える。デザインもほかの製品に比べて洗練されている。
しかしながら、いかんせんコスパが悪い。ほぼ同等の機能のDeco M5との価格差が大きい上、1台だけの価格を考えても、バッファロー「WSR-2533DHP」、NECプラットフォームズ「Aterm WG2600HP2」、エレコム「WRC-2533GST」などの1733Mbps対応無線LANルーターの方が安い。1733Mbps対応ルーターは、単純にピークパフォーマンスも高いが、MU-MIMOで使える帯域も多い。
現状、高性能な無線LANルーターで電波が届かない場所があるというのなら、メッシュを選択するのも1つの方法だが、前述したように3台の構成は過剰で、よほど広いエリアでなければ2台で十分と言える。それならメッシュである必要性は低いので、1733Mbpsの親機と中継機という組み合わせでもいい。
ただし、仮に価格がDeco M5と同程度にまで下がったとすると選択に迷う。IoT機器の脆弱性などにも対応できるIPSが必要ならDeco M5、設定変更や接続情報の詳しさ、接続の安定性(あくまでも今回のテストに限れば)を選ぶならGoogle Wifiということになるだろう。
しかしながら、無線LANは、2018年の後半には、より高速なIEEE 802.11ax対応製品の登場も予想されており(Qualcommのチップは2018年第2四半期にサンプル出荷予定)、大幅なスピードアップと複数台接続時の効率化が実現されることが明らかだ。特にOFDMAの効果は大きいことが予想される。
このタイミングで、わざわざ日本の住宅事情には過剰な3パックメッシュに、しかも競合より高い費用を投じるのはお勧めできない。日本では「Googleの無線LAN」という目新しさが先行しているが、もっと冷静に競合との機能や価格を比べて製品を選ぶべきだろう。