清水理史の「イニシャルB」

まさに圧巻!初の「11axルーター」は3Fでも実測800Mbps超、近距離なら有線こそがボトルネックに

国内初の市販モデル、ASUS「RT-AX88U」を対向でテスト

 ASUSから、国内では初となるドラフト版IEEE 802.11axに対応したWi-Fiルーター「RT-AX88U」が発売された。理論値ながら、5GHz帯で最大4804Mbpsの通信速度を実現する驚異的な製品だ。今回は早々に実機を入手できたので、急遽、そのパフォーマンスをチェックしてみた。

リンク速度からして速い! 最大では4Gbps超えも

 今回、試用したASUS「RT-AX88U」は、型番からも分かる通り、次世代のWi-Fiとして登場が待たれていたIEEE 802.11axに対応した製品だ。

 IEEE 802.11axは、その呼称が「Wi-Fi 6」となることも発表されていて、理論上の最大速度は約9.6Gbpsとされる超高速のWi-Fi規格だ。従来のIEEE 802.11acの技術を踏襲しつつ、より効率的な変調方式の採用や、チャネル幅の拡大などで高速化が図られることに加え、電波利用効率の向上によって、同時接続時のパフォーマンスなども向上している。

 今回登場したRT-AX88Uは、11axのドラフト版に対応した製品となるが、技術的にはほぼ完成といっていい段階となっている。4ストリーム、160MHzのチャネル幅、1024QAM変調などにより、ShortGI(800ns)時で最大4804Mbpsの通信速度を実現可能となっている。

ASUSのドラフト版IEEE 802.11axに対応した「RT-AX88U」。今回のテストでは2台を使い、対向による通信で11axの真の実力を測ってみた

 とまあ、細かい話をし出だすとキリがないので、まずは実際にどれくらいの速度でリンクするのかを見てみよう。

 現状はIEEE 802.11axに対応するWi-Fi子機が存在しないため、その実力を発揮させるには、RT-AX88Uを2台利用するしかない。今回のテストでは、片方をアクセスポイントに、もう片方をメディアブリッジモードに設定してテストを実施した。

 次の表が、実際のリンク速度と、無線通信機器が受信する信号強度を表す「RSSI」の値を示したものだ。

RT-AX88U同士のリンク速度とRSSI
1F2F3F入口3F窓際
リンク速度(Mbps)3602.9245017291088.9
RSSI-29-58-66-71

 1階では3602.9Mbpsと3Gbps超えを実現できており、2階でも2450Mbps、さらに3階入口でも1729Mbps、より遠い3F窓際でも1088.9Mbpsと、すべてのフロアで1Gbps以上でリンクすることを確認できた。当たり前だが、今までに見たことがないリンク速度だ。

 アクセスポイントと同じ1階の部屋では、置き場所を工夫すると、次の画像のように4537Mbpsでリンクできた。このように4Gbps越えも決して夢ではなく、今までのWi-Fiよりも数段上の速度を実現できている。

筆者宅では最大で4537Mbpsでのリンクを確認できた

もはやギガビット有線LANさえもボトルネックに

 続いて、iperf3によるテストを実施してみた。比較対象としてギガビット(1Gbps)の有線LAN、さらに867MbpsのWi-Fiを内蔵するMacBook Airでの値も掲載している。

 なお、RT-AX88Uは、背面の有線LANポートがすべて1Gbpsとなるため、有線を含めたエンドツーエンドでの通信速度の最大値は1Gbpsまでとなる。少々、残念ではあるが、実際の運用では、複数台のPCで1Gbpsの通信を同時に行っても、無線側の帯域に余裕があるため、速度が落ちにくいことがメリットになるだろう。

1F2F3F入口3F窓際
有線LANDOWN933
UP941
RT-AX88U×2DOWN920915863505
UP919884815533
RT-AX88U+MacBook AirDOWN655500453139
UP59236826866.6

※検証環境 サーバー:Intel NUC DC3217IYE(Core i3-3217U:1.3GHz、SSD 128GB、メモリ 4GB、Windows Server 2012 R2) クライアント:Macbook Air MD711J/A(Core i5 4250U:1.3GHz、IEEE 802.11ac<最大866Mbps>)
※iPerf3実行時のパラメーター:iperf3 -c [サーバー] -i1 -t10 -P10 (-R)

 結果を見ると、まさに圧巻のスピードだ。1階での920Mbpsという速度は、完全に有線LANの上限に達してしまっていることが分かる。もはや、「有線並」ではなく、完全に「有線越え」だ。

 驚くべきは、ある程度までの距離があっても、その「有線越え」の状況が変わらないことだ。下りは2階でも900Mbpsを超えており、有線LANにもっと帯域があれば、おそらく1Gbpsを超えていたことがうかがわれる。

 3階まで離れると、さすがに有線がボトルネックとなることはないが、通信状況のいい入口付近では800Mbpsを超える速度が実現できている。感覚としては有線での通信と全く変わらない印象だ。

 さらに、あまり性能の高くないWi-Fiルーターでは、通信がたびたび途切れることさえある3階の窓際でも500Mbps越えと、かなりの速度で通信できている。

 ここまで速いと、「さすがax」と恐れ入るしかない。

 なお、今回のテストは基本的にRT-AX88Uを2台使ったが、参考として、RT-AX88UにMacBook Air内蔵のWi-Fi(2ストリーム867Mbps)で接続した際の結果も掲載している。実は、この結果もかなり良好なものだ。特に下りの結果がいい。そして、表には掲載していないが、3階窓際でも最も遠い、外からの電波の影響を一番受けやすい場所でもテストしてみたのだが、139Mbpsで通信できていた。11axに対応しない既存のWi-Fi子機でも、高速化を期待できる。

ファイルコピーなどの実環境でも有線と無線の区別が付かない

 最後に、1階の同一フロアのみとなるが、1GBのファイルをコピーした際の速度(robocopyを使用)も計測してみた。

ファイルコピー
サーバー→PCPC→サーバー
有線LAN941.7903.9
RT-AX88U×2915.5904.8
RT-AX88U+Atheros QCA64x4A504.5560.3

※リンク速度:3629.6Mbps、RSSI -30dBm
※robocopy実行時のパラメーター:robocopy -is [コピー元][コピー先][ファイル]

 有線LANとRT-AX88U×2は、値としてもほぼ一緒だが、コピー中の待ち時間や転送の様子も、全く区別が付かない印象だった。しばらく使っていると、「あれ? 有線でつながってたっけ?」と勘違いするほど快適だ。

 MacBook Airの867Mbpsでの結果も、500Mbps越えと優秀ではあるのだが、有線でのコピーと比べると、コピーの進捗を示す値がゆっくりと切り替わる上、途中で転送がもたつくシーンがたびたび見られるなど、その挙動が「無線的」であるのだが、RT-AX88U×2の場合は、こうしたもたつきすらも一切なく、まさに“よどみなく”転送されるというイメージだ。

 今回は、実際にテストできなかったが、先のiperfの結果を見ると、2階程度なら有線並の速度を実現できる。距離がある程度離れた場所でも、有線と同じ感覚で使えることが十分に想定できる。

 以上、登場したばかりのIEEE 802.11ax対応Wi-FiルーターであるASUS「RT-AX88U」を試してみたが、その実力は、想像以上に高い印象だ。

 現状、Wi-Fiは11acのメッシュ製品に注目が集まっているが、ピークパフォーマンスは比べものにならないほど高い。その上、今回は検証していないが、OFDMAの採用やMU-MIMOの拡張(接続台数増、上りへの対応など)によって、複数台を接続した場合の性能向上も期待できる。

 最終的に結論を出すのは、11axに対応した子機が市場に出てきた段階で、さらなる検証を行ってからとしたいが、これからWi-Fi製品を購入する場合は、かなり魅力的な選択肢と言えそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。