清水理史の「イニシャルB」
メッシュWi-Fiはトライバンドへ! 867+867+400Mbps対応のTP-Link「Deco M9 Plus」
2018年12月3日 06:00
TP-Linkから、トライバンド対応のメッシュWi-Fiシステム「Deco M9 Plus」が発売された。クライアント接続用と、AP間中継のバックホール用へ同時に利用できるよう、最大867Mbpsの5GHz帯を2系統備えることで、ほかのメッシュ製品や中継機でありがちな帯域の共有を避けられる製品だ。その実力を検証してみた。
メッシュ製品選びの2つの条件「トライバンド」と「2パック」
これからメッシュWi-Fiシステムを購入するのであれば、個人的には、「トライバンド」と「2パック」、この2つの条件を満たす製品を強くお勧めしたい。
“トライ”とは、Wi-Fiの通信に利用できる無線帯域の数のことだ。Wi-Fiで利用する電波には、2.4GHz帯と5GHz帯の2種類があり、それぞれを1系統ずつ利用できる製品がデュアルバンド。2.4GHz帯の1系統に加え、5GHz帯を2系統の計3系統を備えるのがトライバンド製品だ。
アクセスポイントが1台だけならデュアルバンドでも十分だが、メッシュ(中継機も)の場合、アクセスポイント同士の間を無線で接続する必要がある。この接続を“バックホール”と呼ぶが、デュアルバンドの場合、2.4GHz帯と5GHz帯でクライアントを接続してしまうと、クライアント接続にも利用するいずれかの帯域をバックホール用にも共有しなければならない。
バックホールは、言わば幹線道路なので、この車線が少なかったり、制限速度が低かったり、道路脇の店舗に出入りする車で渋滞したりする可能性があると、意味がないわけだ。
トライバンドは、この幹線に専用の5GHz帯を割り当てられるのがメリットで、言わば、都市間をつなぐ高速道路を利用できることになる。
もう1つの条件である2パックは、メッシュを構成するユニット(アクセスポイント)の台数だ。メッシュWi-Fiシステムの登場時には主流だった3パックの構成は、床面積が広く部屋数も多い米国向けで、日本の住宅事情に合ったものではない。
メッシュの場合、ユニットの台数が増えれば、それだけ管理すべき接続ルートの数も増え、バックホールに使う帯域のやりくりも必要になる。例えば、A-B-Cと3台のアクセスポイントがつながる形態なら、アクセスポイントBは、AとCに対して2系統のバックホールを用意しなければならない。この場合、トライバンド対応製品ですらも、1系統の帯域をバックホールとクライアントで共有しなければならなくなる。
日本の狭い住宅では、こうした構成は過剰になるケースが多く、かえって速度低下を招く場合もあり得る。部屋数が多く、壁が鉄筋で電波が通りにくいマンションなどであれば3パックが必要となるケースも考えられるが、通常は2パックで十分だ。もし、どうしても必要なら、後から台数を増やせばいい。
2つの条件は満たすが、「TP-Linkらしさ」が足りない
この2つの条件を踏まえた上で、あえて言わせて欲しい。
「どうした? TP-Link」
TP-Linkから新たに登場した「Deco M9 Plus」は、筆者がメッシュのスタートラインと考える、トライバンドと2パックの条件を満たした製品だ。
従来モデルでデュアルバンドの「Deco M5」とデザインはそっくりだが、利用できる帯域が867Mbps(5GHz帯)+867Mbps(5GHz帯)+400Mbps(2.4GHz帯)のトライバンドへ新たに対応し、パッケージも2台のユニットで構成された2パックが基本となっている。
このため、製品だけを見たときに全く文句はない。筆者が疑問に感じているのは価格についてだ。
同社はこれまで、同スペックの製品を市場のライバル製品より低価格でリリースすることで、そのコストパフォーマンスの良さが評価されてきたメーカーだ。もともと、品質的な高さに定評があったが、何よりも「この値段で出されると他社は困るだろうなぁ」という価格設定で、市場を沸かせてきたのが特徴的だった。
しかしながら、本製品に関して言えば、そうした「コスパの良さ」が薄い……。現状、国内で入手可能なトライバンド対応のメッシュ製品の価格をざっと調べてみたのが次の表になる。
実売価格 | 速度(Mbps) | ユニット数 | |
TP-Link Deco M9 Plus | 3万6700円 | 867+867+400 | 2 |
NETGEAR Orbi | 3万3491円 | 1733+867+400 | 2 |
NETGEAR Orbi Micro | 2万3900円 | 867+867+400 | 2 |
Linksys VELOP | 3万4973円 | 867+867+400 | 2 |
バッファロー WTR-M2133HP/E2S | 3万3463円 | 867+867+400 | 3 |
Linksysの「VELOP」のトライバンドモデル)と比べても若干高いし、バックホールが1733MbpsのNETGEAR「Orbi」や、3パックのバッファローの「WTR-M2133HP/E2S」が同価格帯となる上、下位にあたる「Orbi Micro」の方が、1万円以上も安い。
いや、もちろん、価格だけがTP-Linkの特徴ではない。当然、品質に見合う価格設定がなされていて、実際に機能的な部分や同社のメッシュ製品のラインアップを見ると、確かに、これくらいになるのだろうという価格には収まっている。
Deco M9 Plus | Deco M5 | Deco M4 | |
ユニット数 | 2 | 3 | 2 |
実売価格 | 3万6700円 | 2万6780円 | 1万2981円 |
CPU | クアッドコア | ← | ← |
メモリ | 512MB | 256MB | 128MB |
Wi-Fi | IEEE 802.11ac wave2 | ← | ← |
その他 | Bluetooth 4.2/ZigBee HA 1.2 | × | × |
バンド数 | 3 | 2 | 2 |
最大速度(2.4GHz) | 400Mbps | ← | 300Mbps |
最大速度(5GHz-1) | 867Mbps | ← | ← |
最大速度(5GHz-2) | 867Mbps | × | × |
アンテナ | 内蔵×8※1 | 内蔵×4 | 内蔵×2 |
LAN | 1000Mbps×2 | ← | ← |
USB | 2.0×1(将来対応) | × | × |
動作モード | ルーター/アクセスポイント | ← | ← |
イーサーネットバックホール | ○ | ← | ← |
TP-Link HomeCare | ○ | ← | × |
最大カバー範囲 | 420平方メートル | 510平方メートル※2 | 約260平方メートル |
最大接続数 | 100台以上 | 100台以上 | 100台 |
※1 Wi-Fi×6+Bluetooth×1+Zigbee×1
※2 2パックの場合は350平方メートル
デュアルバンドの従来モデル「Deco M5」に対し、トライバンド化されただけでなく、メモリ増量と、スペックからは読み取れないがが、おそらくCPUも強化されていて、処理能力が向上している。さらに、BluetoothとZigbeeに対応することで、電球などのスマートホーム関連の機器のハブとしても利用可能だ。
他社のメッシュ製品に対しても、トレンドマイクロの技術を採用した「TP-Link HomeCare」により、フィルタリングやIPS/IDS、ペアレンタルコントロール機能が搭載されている。
Decoシリーズ内での位置付けを考えても、普及モデルとして、2パックで1万2981円とTP-Linkらしい価格面でのインパクトがあるデュアルバンドの「Deco M4」というラインナップがある以上、3台あるラインナップで価格差を付けるとすれば、自然に3万円台中盤という値付けが見えてくる。逆にDeco M9 PlusをOrbi Microと競合できる価格に落としたら、M5とM4は投げ売りせざるを得なくなってしまうだろう。
なので、実売3万6700円という価格は、妥当と言えば妥当なのだ。
しかし、しつこくて申し訳ないが、インパクトが、ねぇ……。もう少し、何とかならなかったのかなぁ……。個人的には、この点だけはとても残念だ。
M5と同じデザインながら、筐体は少し大きめ
それでは、製品を見ていこう。
冒頭でも触れたように、Deco M9 Plusの見た目は、従来モデルのDeco M5とほぼ同じだ。ホワイトの落ち着いた色合いながら、らせんを描くような独特のスタイルとなっている。
ただし、並べて見ると、Deco M5よりもサイズが一回り大きく、さすがに+1帯域分の機器やアンテナが多く収められていることが伺える。若干、設置面積は広くなってしまったが、置き場所に困るというほどではない印象だ。
Decoシリーズでは、LANポートにWAN、LANの区別がないのも特徴だ。ルーターにつないだ方がWAN、PCなどのクライアントをつないだ方がLANと、自動認識されるようになっている。初期セットアップで、どちらのポートにつなげばいいかに迷わない上、つなぎ間違えもない、とても優れた仕組みだ。
インターフェースは、1000Mbps対応の有線ポート2つに加え、USB 2.0ポート、電源ポートが用意される。
USBポートは搭載されてはいるものの、現状は用途がない。将来にはファームアップにより利用可能になるようなので、ファイル共有やデバイスの接続などに使えるようになる可能性がある。
なお、電源は、従来のDeco M5シリーズはUSB Type-Cポートが使われていたが、本製品は汎用的な電源コネクタに変更されている。
セットアップは、従来モデル同様、スマートフォンのアプリから実行するタイプだ。電源投入後、LEDが青く点灯したタイミングで、Bluetooth経由でスマートフォンに接続してセットアップする。インターネット接続は自動認識となる上、無線のセットアップも、必要なのはSSIDとパスワードのみ。どの帯域を使うか、メッシュをどう構成するかといったことは、すべて機器任せとなる。
メッシュのメリットは、無線のカバー範囲の広さではあるが、こうした手軽さも大きなメリットと言えるだろう。
なお、Deco M5とDeco M9 Plusでは、同じアプリを利用できるが、メインの機種がどちらかによって、アプリの画面構成が若干変わる。Deco M9 Plusをメインにした場合は、スマートホーム関連のメニューが追加され、照明機器などを追加するための設定が可能になる。
家中くまなく300Mbpsの速度も夢じゃない
気になるパフォーマンスだが、トライバンドのメリットが最大限に活かされている印象だ。
次のグラフは、木造3階建ての筆者宅にて、iPerf3による速度を計測した結果だ。1階にメインとなるアクセスポイントを設置し、2階へもう1台、3階へさらにもう1台と、設置台数を変更しながら、各階で速度を計測してみた。比較対象として、トライバンドの中継機(RE650)を利用したケースも計測している。
1F | 2F | 3F入り口 | 3F窓際 | |
Deco M9×2+Deco M5×3 | 504 | 103 | 116 | 94.5 |
Deco M9×2+Deco M5×1 | 503 | 139 | 162 | 103 |
Deco M9 Plus(2台) | 517 | 296 | 287 | 274 |
Deco M5(3台) | 484 | 116 | 129 | 124 |
Aterm WG2200HP2+TP-Link RE650 | 523 | 101 | 90.1 | 127 |
※検証環境 サーバー:Intel NUC DC3217IYE(Core i3-3217U:1.3GHz、SSD 128GB、メモリ 4GB、Windows Server 2012 R2) クライアント:Macbook Air MD711J/A(Core i5 4250U:1.3GHz、IEEE 802.11ac<最大867Mbps>)
結果を見ると、やはりDeco M9 Plusの速度が非常に高い。中継機やDeco M5を利用した場合も、家中で100Mbpsの通信なら実現できるので実用上は問題ない。しかし、Deco M9 Plusであれば、1階で500Mbpsオーバー、2階以上では300Mbpsを少し欠ける速度を実現できており、家中どこでも300Mbps近い速度で通信が可能だ。
さらに言えば、中継機やM5のケースでは利用が1台なら問題ないものの、台数が増えてくると1台あたりが使える帯域が乏しくなってしまう。M9 Plusのように300Mbps近く実現できていれば、複数台での利用も問題ない。さらに、ネットワーク経由で高画質の動画を再生するようなシーンでも、通信の途切れなどが問題にならない。
Decoの場合、各アクセスポイントとの接続に、どの帯域が割り当てられているかをアプリなどから判断できないため、これは想像でしかないが、2系統あるうちの1系統がバックホールとしてきちんと活用されていると考えてよさそうだ。
ちなみに、1階にM9 Plus、2階に2台目のM9 Plus、さらに3階にM5という構成も試してみたが、こちらはM5×3の構成と大差ない印象だった。さらに、Deco M9 PlusとDeco M5を計5台設置する構成(1階にM9 Plus+M5、1階にM9 Plus+M5、3階にM5)も計測してみたが、こちらも3台構成とおおむね変わらない結果となった。
ただし、5台構成の場合、通信タイミングによっては200Mbpsを超えるケースも見られたほか、100~200Mbpsの間で速度が変化しやすい傾向も見られた。通信のタイミングにより経路が変わっていることが推測できる。
家の構造や部屋の広さ、接続台数などによっては、ユニットを増やした効果も出ると考えられるが、少なくとも筆者宅の場合は、2台で十分というより、むしろ2台以上では実力が活かせないという結果となった。
速度は素晴らしいが高価、セールを待ちたい
以上、TP-Linkのトライバンド対応メッシュWi-Fiシステム「Deco M9 Plus」を実際に試してみたが、トライバンド製品らしく非常に高速で、かつ安定性も高い製品と言える。筆者がこれまでテストした無線LAN製品の中でも、1~2を争う性能の製品だ。現状の無線LANの性能に不満を持っている場合は、購入を検討する価値が十分にある。
しかしながら、冒頭でも触れたように、TP-Linkの製品ながら価格面でのメリットがあまりない。今回はほとんど触れなかったが、スマートホームハブの機能を持つことから、対応するスマートLEDなどと組み合わせて使うことで、その真価を発揮できる。ただ、そういった使い方をしないなら、単純にその分のコストが割高に感じられてしまう。
使いやすさや性能を考えると、非常にお勧めできる製品ではあるのだが、個人的には、もう少し価格が下がるタイミングを待ちたい印象だ。あと1万円とは言わないまでも、もう数千円安くなってくれれば、購入の決心もしやすいだろう。
【記事追記 12月4日11:10】
本記事は、執筆時点の11月26日時点でのにAmazon.co.jpで販売価格(3万6700円)に基づいています。他製品に比べて、コストパフォーマンスの点が劣る点を指摘していますが、12月4日時点の販売価格は3万2612円となっており、Linksys VELOPよりコストパフォーマンスは高いと言えます。