清水理史の「イニシャルB」
タッチですぐにWi-Fiへつながる! 店舗でフリーWi-FiをNFC/QRコードで提供できる「Wifi Porter」
2019年5月20日 06:00
お店の客やオフィスの訪問者、自宅に来た友だちなどに、どうやってWi-Fiを解放するか? これはなかなか難しい問題だ。そこで試してみたのが、フォーカルポイントから発売された「Ten One Design Wifi Porter」だ。店舗などで利用すれば、既存のアクセスポイントはそのままに、タッチやQRコードでWi-Fiの接続情報を提供できる。
フリーWi-Fi提供は、キャプティブポータルやアカウント認証機能がなくてもOK
想像してみよう。
もしも、あなたがカフェのオーナーになったとしたら、どうやって顧客にWi-Fiを解放するだろうか?
え? 解放しないって?
いやいや、ファミレスやファストフード店はもちろん、競合となりそうな周囲の店が軒並み無料でWi-Fiを解放していることを考えると、さすがに味と愛想に自信があったとしても、それだけで勝負しようというのは限界があるだろう。サービスの一環としてのWi-Fi提供は、今や欠かせないところ。
しかし、実際にWi-Fiを解放しようとすると、そこにはいろいろな壁がある。
おそらく、SNSの活用やレジなどのために、店舗にインターネット回線とWi-Fiは導入されているはずなので、ゲスト用のネットワークを作成すること自体は、さほど難しくない。
ゲスト用ネットワークで設定できる機能は機種によって異なるが、家庭用のWi-Fiルーターでも、ネットワークの分離機能を備えたゲストネットワークくらいなら構築可能だし、もう少し高性能な製品になれば、認証用のキャプティブポータルやFacebookなどと連携したアカウント認証ができたり、接続状況やトラフィックのレポートを把握し、想定外の使い方をしているユーザーを強制的に切断することなどもできる。
もちろん、こうした機能を持った機種を選択し、その機能を適切に設定することも重要なのだが、実は、もっとシンプルで、悩ましい問題が1つある。
それは「接続用のSSIDとパスワードを、どうやって顧客に知らせるのか?」ということだ。
方法1:印刷して壁やテーブルに掲示する?
この方法はシンプルだが、SNSで拡散されれば顧客以外にも使われそうなので、頻繁に変更する必要がありそうだ。何より、店の雰囲気も損ねる。
方法2:Wi-Fiの利用をご希望の方は従業員にお聞きください?
面倒だと感じる顧客も多そうだし、従業員の手間も増えるので、あまり好ましくはなさそうだ。
方法3:一般的な公衆無線LANのようにSSIDとパスワードを公開し、ユーザー認証をかける?
それができる機器を利用していればいいが、そうでなければ投資が大きくなる。
理想としては、以下のような条件を満たすことだが、一般的なWi-Fiルーターでは、なかなか難しいだろう。
・顧客がセルフで自由につなげられる(従業員の手間にならない)
・顧客だけに接続情報を開示する
・店の雰囲気を損ねない
製品によっては、スマホ用のアプリから、接続情報をメールやSNSで共有したり、接続用のQRコードを表示することもできるが、アイドルタイムならまだしも、ピークタイムがある飲食店で、それをやるのも難しい。
セキュリティを確保するための機能は豊富だが、「接続のための情報を特定の相手だけに提供する」ということは、意外に難しいのだ。
NFC搭載スマホでタッチするだけ!
そんな中、フォーカルポイントから発売された製品が、「Ten One Design Wifi Porter」だ。
NFCタグを内蔵したシンプルなデバイスで、ここにWi-Fiの接続情報を格納しておき、スマートフォンをかざすだけでWi-Fiへ接続できるようになっている。
NFCを利用したWi-Fi接続は、NECプラットフォームズのAtermシリーズでも採用されているが、このWifi Porterの特徴は、とにかく使い方がカンタンなことだ。
ゲスト用Wi-Fi提供者の操作
Wi-Fiを提供する側は、初期設定が必要になる。NFCに対応した管理用のAndroidスマートフォンを用意し、「Wifi Porter」アプリをインストールする。
アプリの指示に従ってスマートフォンをWifi Porterにかざし、接続先として登録したいWi-Fiネットワークを選択する。
その後、設定用の管理端末を現在のスマートフォンのみに制限するかどうか、iPhone向けの機能(現状はベータ)を有効にするかを選択する。さらに、接続後に利用者の端末に表示するウェブページを必要に応じてカスタマイズし、後述するQRコード設定用のPDFを必要に応じて印刷する。
最後に、もう一度、スマートフォンをWifi Porterにかざせば、設定完了だ。
なお、登録するネットワークを選択する画面に一覧表示されるのは、当該スマートフォンが過去に接続したことがあるSSIDだけなので、あらかじめ、一度は管理用スマートフォンをゲストネットワークに接続しておく必要がある(もちろん、その場で手動設定もできる)。
ゲスト用Wi-Fi利用者の操作
利用者の操作はシンプルだ。店舗のカウンターなどに置いてあるWifi Porterを見つけて、スマートフォンをかざすだけでいい。Wi-Fiへ接続するかどうかを確認するメッセージが画面に表示されるので、「接続」をタップすれば自動的に接続される。実にシンプルだ。
この方法は、先に挙げた条件を満たす。
顧客はかざすだけの完全セルフで接続ができるし、接続に必要なSSIDやパスワードはNFC経由でスマートフォンなどの端末へ直接届けられるため広く開示する必要がない。Wifi Porter自体は、木目のシンプルなデザインのデバイスであるため、店舗の片隅に設置しておいても、全く雰囲気を損ねることがない。
NFC非対応のスマホはQRコードのスキャンで
とは言え、すべてのスマートフォンがNFCに対応しているわけではない。iPhoneも、設定画面の記述によると、2018年以降に発売された機種はかざすだけで設定できるが、それ以前の機種はNFCでは設定できない(iPhone Xで試したが、NFCはNGだった)。
このため、NFCに対応していないスマートフォン用として、QRコードでの設定も利用可能となっている。先のアプリでWifi Porterの設定ウィザードを最後まで進めると、QRコードがプリントされたPDFが出力されるので、これをスマートフォンから直接、またはPCなどにメールで転送して印刷する。
印刷後、切り取り線に従ってQRコード部分を切り取り、Wifi Porterの背面にはめ込んでおけば完了だ。
そして、NFCに対応していないスマートフォンなどの端末をゲスト用Wi-Fiへつなぎたいときは、Wifi Porterをクルリと裏返して、カメラからQRコードを読み取ればいい。
Androidスマートフォンの場合、利用するアプリによっては読み取った情報をWi-Fiの接続情報として認識しないこともあるが、iOS 11以降のiPhoneであれば、標準のカメラでQRコードを読み取ればWi-Fiへ接続できる。
PCは? という声が聞こえてきそうだが、QRコードが印刷された用紙には、SSIDとパスワードも記載されている。これを使って、手動でWi-Fiへ接続してもらうという形態になる。
個人的には、SSIDとパスワードは明かさない方がいいのではないかと思えるが、PCの接続を考えると仕方がない。誰もが見られるとは言え、普段は裏返して置いておけるのが、せめてもの救いだろう。
NFCタグとQRコードを自作するより楽
このように、Wifi Porterは、店舗やオフィスなど、不特定多数の人にWi-Fiを解放したい場合に適したソリューションと言える。提供者の負担も少ない上、利用者も複数の方法で接続できるので、利用する価値はありそうだ。
もちろん、自分でNFCタグを購入したり、QRコードを生成したりして、Wifi Porterとほぼ同じことを実現することは難しくない。腕に自信があれば、100円ショップなどで購入できる材料を駆使して、同じようなケースを作成することもできるだろう。
しかし、Wifi Porterのメリットは、NFC、QRコード、手動接続という3つの接続方式を一連の流れで設定できる上、見栄えのいい(自作感のない)ケースを利用している点にある。
余計な手間なく、店舗のWi-Fi環境を整備したいというニーズには、ある程度コストをかけてでも、導入する価値のある製品と言えるだろう。