清水理史の「イニシャルB」
11ax+メッシュ+2.5GbE=最強Wi-Fi! ASUS「ROG Rapture GT-AX11000」を試す
さらにゲーム向けOC機能も
2019年5月31日 11:00
ASUSから、ゲーミングルーター「ROG Rapture」シリーズの最上位モデル「GT-AX11000」が登場した。Wi-Fi 6ことIEEE 802.11ax対応のWi-Fiルーターは、同社からはすでに「RT-AX88U」が販売されている。
本製品はゲーミングルーターとして位置付けられた製品で、ゲーム向けの各種機能が搭載されるほか、5GHz帯×2+2.4GHz帯×1のトライバンド対応や、2.5Gbps対応の有線LANポート搭載も果たした注目の製品だ。
最大4804Mbpsの11axとトライバンドに対応
今後、国内でもいろいろな製品が登場してくることが予想されるが、本稿を執筆した2019年5月上旬の時点で、国内で入手可能なもののうち、最新かつ最強のコンシューマー向けWi-Fiルーターが、このASUS「ROG Rapture GT-AX11000」だ。
ASUSと言えば、2018年末に国内のコンシューマー向け製品としては初となるIEEE 802.11ax対応ルーター「RT-AX88U」を発売したことが記憶に新しいが、早くもこれに続く新製品、それも、よりハイスペックなゲーミングルーターを投入したことになる。
RT-AX88Uと、今回登場したGT-AX11000の違いは以下の通りだ。ポイントは、トライバンド対応によって5GHz帯が2系統となった点、最大2.5Gbps対応の有線LANポートを備えた点、そして「GPN(ゲーマープライベートネットワーク)」などのゲーミング向けの機能が搭載されている点となる。
GT-AX11000 | RT-AX88U | |
実売価格 | 発表後に追記 | 4万7180円 |
CPU | BCM4908(1.8GHz、4コア) | ← |
メモリ | 1GB | ← |
Wi-Fi | IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/b | ← |
バンド数 | 3 | 2 |
最大速度(2.4GHz帯) | 1148Mbps | ← |
最大速度(5GHz帯-1) | 4804Mbps | ← |
最大速度(5GHz帯-2) | 4804Mbps | × |
チャネル(2.4GHz帯) | 1~13 | ← |
チャネル(5GHz帯-1) | W52/W53 | W52/W53/W56 |
チャネル(5GHz帯-2) | W56 | × |
ストリーム数 | 4 | ← |
アンテナ | 外付け×8 | 外付け×4 |
DS-Lite(IPv6接続) | × | ← |
MAP-E(IPv6接続) | × | ← |
WAN | 1000Mbps×1(デュアルWAN対応) | ← |
LAN | 2500Mbps×1、1000Mbps×4 | 1000Mbps×8 |
USB | 3.1×2 | ← |
動作モード | RT/AP/Media Bridge | ← |
Wi-Fi 6ことIEEE 802.11axの最大速度は、規格上は9.6Gbps(1024QAM/160MHz幅/8ストリーム時)とされているが、本製品がサポートするのは最大4804Mbpsまで。1024QAMの変調方式と、160MHz幅の利用は同じだが、MIMOによって多重化されるストリーム数が4までとなるためだ。また、11acと異なり、11axは2.4GHz帯も利用可能だが、その場合の速度は最大1148Mbpsとなる。
注目すべきは、トライバンドへの対応だ。2.4GHz帯×1、5GHz帯×2の同時通信が可能で、1148Mbps+4804Mbps+4804Mbpsの通信が行える。ちなみに、型番の“11000”は、これらの値の合計を切りのいい数字に丸めたものだ。
トライバンドのメリットは、用途によって5GHz帯の帯域を使い分けることができる点にある。本製品がゲーミングルーターであることを踏まえれば、例えば5GHz帯-1にPC、もう一方の5GHz帯-2にゲーム機といったように帯域を使い分けることで、同時通信時の干渉を避けることができる。
11axの真骨頂は、同時利用時の高スループット
11axは、OFDMAに対応しているため、もともと同時通信時のスループットが下がりにくいというメリットがある。従来の11acまでは、通信に利用する帯域(チャネル全体)を1ユーザーが占有していたが、OFDMAではチャネルを細かく分割したサブキャリアを複数のユーザーで共有できることが、スループットが下がりにくい理由だ。
11axの真骨頂は、このOFDMAによる同時利用時のスループット低下を抑えられる点にあり、さらにMU-MIMOの上りにも対応していることで上りの割り込みによる低下も抑えられる。しかし、11ax対応クライアントが普及していない現時点では、まだこうしたメリットのすべてを享受することはできない。
物理的に周波数帯を分けるトライバンドは、こうした状況への現実解であり、PCもスマホ、ゲーム機、スマートスピーカーなど、さらに言えばこうしたWi-Fi子機群だけでなく中継機も、といったように、スループットやレイテンシーを犠牲にしたくない端末が複数存在する場合に、効果を発揮する。
もし例えるなら、東名と新東名、2つの高速道路を使い分けられるようなものだろう。
2.5GbpsのWAN/LAN両対応ポートを搭載
では、早速、実機を見ていこう。
デザインは、同社がすでにリリースしている11ac対応のゲーミングルーター「ROG Rapture GT-AC5300」に似た印象だ。
本体は、幅、奥行きともにほぼ同サイズのスクエアな形状で、角が斜めにカットされた幾何学的なデザインと、天面中央の“REPUBLIC OF GAMERS”のロゴが印象的な製品となっている。
アンテナは前後左右に各2本ずつ、計8本もある。箱から取り出した後に自分で取り付けるタイプで、正直8本ともなると、取り付けは面倒になってくるが、内蔵に比べて感度に優れ、角度も調整できるためWi-Fi子機のある方向へ調整しやすい。
そして、インターフェースは豪華だ。
背面に2ポートあるUSBポートは、いずれもUSB 3.1(Gen1)対応となっている上、ネットワークポートも1Gbps対応のWANポート×1、1Gbps対応のLANポート×4までは普通だが、加えて最大2.5Gbpsに対応したWAN/LANポートも1つ用意される。
有線LANでも、10GBASE-Tに加えて5Gと2.5Gのマルチギガに対応したNICやスイッチ、NASなどが増え、コンシューマー向け製品で1Gbpsから10Gbpsへの移行が進みつつある。そして、ようやく市販ルーターにも、この流れが訪れようとしている(なお、auひかりの10Gbps回線向けのレンタルルーターとして、10GBASE-T対応製品がすでに存在している)。
「10Gbpsじゃないの?」という声が聞こえてきそうだが、本製品が採用している1.8GHzの64ビットクアッドコアCPU「BCM4908」では、2.5Gbpsまでしかサポートされない。10Gbpsとなると、システム全体のスループットの向上や熱対策なども必要になるので、いきなり一足飛びに10Gbpsにまで対応するのは難しいのだろう。
とは言え、これにより、せっかくの11axの高速なギガビットを超えるWi-Fi性能を、システム全体で活かせるようになるわけだ。
この2.5GBASE-T対応ポートは、LAN/WANのいずれでも利用できるため、LANポートを10Gbps対応のNASと接続してバックアップ用途やファイル共有に活用しても、10Gbps対応の光回線を契約してWAN側を接続してもいい。このいずれかの方法で活用するのがいいだろう。
WANとして使うには、デュアルWANの構成が必要だが、設定そのものはGUIで簡単に設定可能で、高速なネットワーク環境を容易に構築できる。
「Boost」キーでAdaptive QoSを有効化、ゲームのパケットを優先処理
ゲーミングルーターとして注目なのは、本体側面に搭載されている「Boost」キーだ。
このキーには、「LED(LEDのオン/オフ)」「DFS Channel(DFSチャネルを含めてチャネルを検索)」「AURA RGB(LEDの色や光り方を設定)」「Game Boost」という4つの機能のいずれかを割り当てられる(詳細はこちらを参照)。このうちGame Boostを選択すると、ボタンを押したタイミングでAdaptive QoSが有効化され、ゲーム向けのパケットを優先的に処理できるようになる。
もともとゲーミングルーターなので、接続端末のうちゲーム機やゲーミングPCの通信の優先順位を上げたり、ゲームのパケットを優先処理するための機能が搭載されている。さらに、「GPN」と呼ばれるゲームネットワークに最適化されたVPN機能も利用できる。
ゲーム中の切迫した場面でこのボタンに手を伸ばす余裕はないかもしれないが、いざというときには、ネットワークの処理を一時的に高速化できる。ゲームのために、できることはすべてやりたいというユーザーには、なかなか興味深い機能だろう。
非ゲームユーザーにもお勧めのセキュリティ機能
ゲーミングルーターというと、ゲームをあまりしないユーザーとは無縁に思われがちだが、実際には同社製品の機能をすべて含む最上位モデルという位置付けになる。
前述したハードウェア的なメリットから、ゲームをあまりしないユーザーにも十分にお勧めできる製品であるが、ソフトウェア面からも、一般的な用途向けとしてお勧めできる。
ASUSのルーターならではのセキュリティ機能「AiProtection」は、トレンドマイクロの技術を利用したIPS/IDSの機能(パケットを検査して攻撃を遮断する)が利用できる上、アクセス先を解析してフィッシングサイトなどの悪質なサイトにアクセスしてしまう危険も防止できる。マルウェアに感染したデバイスを検知して外部アクセスをブロックしたり、ペアレンタルコントロール機能を使って、子供の利用を制限することもできる。
11axによる高速な無線環境が必要な場合はもちろんだが、単純にネットワーク環境を快適かつ安全に使いたいという場合にも、適した製品と言えるだろう。
Wi-Fiの基本性能は超優秀、11axはもちろん11ac端末でも高速
さて、気になる無線性能をチェックしていこう。
せっかくなら、2台使って2.5Gbpsの有線LANと4804Mbpsの11ax対応Wi-Fiを組み合わせた実力を検証してみたかったが、今回は発表間もないこともあり、検証機を1台しか用意できなかった。このため、iPerfによる無線速度テストでは、対向通信を行うためにRT-AX88Uを利用している。RT-AX88Uは有線が1Gbpsまでなので、上限が1Gbpsとなっている点をあらかじめお断りしておきたい。
とりあえず、1Gbpsの有線LANでNASを接続し、NAS上で稼働させたiPerf3サーバーに対して、クライアントから速度をチェックしてみたのが以下のグラフだ。木造3階建ての筆者宅の1階にGT-AX11000を設置し、各階で速度を計測(パラメーターは「-i1 -t10 -P10」)。クライアントには、11ax対応のRT-AX88U(最大4804Mbps)と、11acの2×2に対応し、最大通信速度867Mbpsの「Macbook Air(2013)」を利用した。
3F窓際 | 3F入口 | 2F | 1F | ||
GT-AX11000+MacBook Air(867Mbps) | 上り | 111 | 258 | 394 | 603 |
下り | 464 | 172 | 621 | 667 | |
GT-AX11000+RT-AX88U(4804Mbps) | 上り | 275 | 471 | 752 | 912 |
下り | 444 | 679 | 763 | 935 |
結果は、やはり良好だ。前回、RT-AX88Uを計測したときと比べると、リンク速度が全体的に低かったため、計測時の周囲の電波状況があまり好ましくなかったと予想できるが(連休中の計測のため周囲の利用者が多かった可能性が高い)、それでも、11acでは考えられないほど高速だった。11axでの接続時(GT-AX11000+RT-AX88U)は、1階ではもちろん1Gbpsの有線がボトルネックになる速度を実現でき、もっとも遠い3階の窓際でも444Mbpsで通信できた。
1階から2階などフロアをまたがるような環境を無線で接続するのも、これなら全く違和感がない。そろそろ、本格的に有線LANケーブルを配線するための工事をしなくて済むようになりそうだ。
また、RT-AC88Uのレビュー時もそうだったが、本製品でも従来の11acクライアントの速度が良好だ。Macbook Airでも、最も遠い3階窓際で172Mbpsで通信できており、長距離での利用が非常に安定かつ高速にできる。
既存のWi-Fi環境を高速化できる可能性が高い点も、本製品の大きな魅力となる。現状、中継機などを利用している場合は、大元の親機を本製品に変えることで、中継の速度が向上し、全体的な快適さが向上する可能性も大きい。
ちなみに、本製品に限らず、ASUSのWi-Fiルーターはメッシュに対応しているため、同じASUSの製品との組み合わせであれば、メッシュ環境での利用も可能だ。
さすが最上位モデルの完成度、価格だけの価値はある
以上、ASUSから新たに登場したIEEE 802.11ax対応のトライバンド対応ゲーミングルーター「ROG Rapture GT-AX11000」を実際に使ってみた。さすが最上位モデル、とうならせられる完成度だ。
MAP-EやDS-Liteに対応していないため、IPoE IPv6環境のIPv4環境に対応できないこと、5GHz帯-1がW52/W53のみ、5GHz帯-2がW56のみの対応となっていることなど、注意が必要な点はあるが、一般的な環境ではさほど意識しなくていいので、無線環境を大きく改善できる非常に優れた製品と言える。
価格が高いのは欠点だが、11axをトライバンドで使えるのは非常に大きな魅力。中継機を併用したり、メッシュ環境で利用したりするのにも適している。応用が効くというか、万能性が高いというか、ニーズや設置環境に合わせて、どうにでもなる点も秀逸だ。価格だけの価値のある製品と言えるだろう。