清水理史の「イニシャルB」

実測1.6Gbps! 超高速Wi-Fi 6の世界へようこそ 4万円で世界が変わる「Aterm WX6000HP」

NECプラットフォームズのフラッグシップWi-Fiルーターを試す

 NECプラットフォームズからWi-Fi 6に対応したWi-Fiルーター「Aterm WX6000HP」が発売された。「安定通信」が特徴のNECプラットフォームズらしい質実剛健なモデルだが、その実力は高く、インターネット接続、もしくはLAN内のNASなどへの接続で、実測最大1.6Gbpsと軽く有線の壁を越えてくる。アンテナ内蔵なのに長距離でも安定して速く、見た目によらぬ「豪腕」という印象だ。

分かってる人が積極的に選ぶアンテナ内蔵モデル

 「Wi-Fi 6にしたいけど、あのゴツいアンテナはどうも……」。

 もし、そう考えているなら、この「Aterm WX6000HP」はお勧めの1台だ。

 デザイン的な観点で、アンテナ内蔵ならではのスッキリ感が演出されているのはもちろんだが、その内蔵されているアンテナがスゴイ。

NECプラットフォームズの「Aterm WX6000HP」

 「3直交アンテナ」と言っても、すぐにはピンと来ないだろうが、ただ外部のアンテナを筐体内部にしまい込んだだけでない。内蔵だからこそできる複雑なアンテナの構造が実現されていて、内部の主要なアンテナ1つずつが、X軸、Y軸、Z軸方向の3方向へ電波を送受信できるようになっているものだ。

 Wi-Fi 6ことIEEE 802.11axでは、実機ベースで最大4804Mbps(規格上の最大値は9.6Gbps)の通信に対応している。Wi-Fi子機側は現状、PCでは2402Mbps、スマートフォンでは1201Mbpsが最大の通信速度となっているが、こうした高い速度で通信するには、電波をいかに効率的に送受信できるかがカギになる。

 このため、外付けアンテナでは、Wi-Fi子機の設置状況(相対的な位置や方向)に向けてアンテナの向きを適切に調整しないと、真の実力を発揮させるのが難しい。

 これに対してAterm WX6000HPは、内部のアンテナが3直交、つまり多方向をカバーする構造となっている。なので極端な話、Wi-Fi子機が同一フロアにあろうが、上や下の階にあろうが構わないし、スマートフォンなどを持ち歩いたり、縦横どちらの向きにしても、自動的に電波を最適な状態で送受信ができる。

 本製品では、「安定通信」がセールスポイントの1つとして大きく訴求されているが、この凝ったアンテナ構造は、その拠り所の1つだ(ノイズを抑える仕組みなど、ほかの工夫についてはこちらのインタビュー記事を参照)。

 要するに、Aterm WX6000HPでは、アンテナを「ただ内蔵」しているのではないわけだ。

 これまで、パフォーマンス重視のWi-Fi 6ルーターには「見た目には多少目をつぶってアンテナ外付けの製品を選ぶ」というイメージがあったが、本製品に関しては、むしろ、こうしたアンテナ内蔵についての事情を分かっている人が積極的に選ぶ、ツウ向けのモデルという印象を受ける。

Wi-Fi 6でPCもスマホも同時通信を快適に

 それでは、製品をチェックしていこう。

 まずは、対応する規格だが、本製品は、Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)対応の2.4GHz+5GHzのデュアルバンドルーターとなる。

 IEEE 802.11axの規格に関する技術的な部分はほぼ固まっており、Wi-Fi機器の互換性を認証するWi-Fi AllianceでもWi-Fi 6の認定プログラムを開始している。本製品も正式にWi-Fi 6の互換性が認定された「Wi-Fi 6 CERTIFIED」の製品であり、安心して利用することができる。

 Wi-Fi 6対応の製品は、スマートフォンやPCなど徐々に増えてきており、国内では利用者が多いiPhone 11シリーズもWi-Fi 6対応となっている。Wi-Fi 6の実力をフルに発揮させるには、Wi-Fiルーターだけでなく、スマートフォンやPC側の対応も必要だが、今後はWi-Fi 6が当たり前の時代になることは間違いないだろう。

Aterm WX6000HPAterm WG2600HP3
実売価格(税別)4万980円1万4980円
Wi-Fi対応規格IEEE 802.11ax/ac/n/a/g/bIEEE 802.11ac/n/a/g/b
バンド数22
最大速度(2.4GHz)1147Mbps800Mbps
最大速度(5GHz)4804Mbps1733Mbps
チャネル(2.4GHz)1-13ch1-13ch
チャネル(5GH)W52/W53/W56W52/W53/W56
新電波法対応144ch
MIMOストリーム数84
アンテナ内蔵(12本)内蔵(8本)
WAN10Gbps×1※11Gbps×1
LAN1Gbps×41Gbps×4
USB
IPv6
MAP-E/DS-Lite
WPA3
動作モードRT/BRRT/BR/CNV
サイズ(幅×奥行×高さ)51.5×215×200mm38×129.5×170mm

※ 設定画面からLANへの切り替えが可能

 最大速度は、5GHz帯が4804Mbps(8ストリーム)、2.4GHz帯が1147Mbps(4ストリーム)となっており、標準では80MHz幅を利用するクワッドチャネルの設定だが、設定画面で「オクタチャネル」の設定をオンにすることで、160MHz幅での通信にも対応する。

 これにより、iPhone 11やGalaxy S10といったWi-Fi 6対応スマートフォンを最大1201Mbps(80MHz/2ストリーム)で接続できるのはもちろん、ノートPCなどでの採用が増えているIntel AX200やKiller AX1650などの160MHz対応モジュール搭載機で、最大2402Mbps(160MHz/2ストリーム)での通信が可能となる。

 Wi-Fi子機側が1201Mbpsや2402Mbpsなのに、Aterm WX6000HPの4804Mbpsはオーバースペックに思えるかもしれないが、Wi-Fi 6は、最大速度が速いだけでなく、OFDMAやMU-MIMOといった技術により、同時通信が快適なのも特徴の1つだ。

 本製品でも、2ストリーム対応の一般的なWi-Fi子機であれば、最大3台までの同時通信をサポートしている。動画をスマートフォンで楽しみつつ、PCでゲームをやったりファイルをダウンロードしたり、といった同時通信が発生しても、それぞれの端末で高い速度を維持できる。

 単に速いだけでなく「同時に速い」のが、Wi-Fi 6対応のAterm WX6000HPの特徴というわけだ。

2020年春から本格化する10Gbpsインターネット接続にも対応

 デザインは、従来のAtermシリーズから、ハイエンドモデルらしい高級感のあるものへと変更されている。

 その最大の特徴は、冒頭でも触れたようにアンテナ内蔵という点なのだが、それによるスッキリとしたデザインと、手ごろなサイズも本製品の魅力だ。縦置きタイプとなるため設置面積も余計に取ることなく、どんな場所にでも違和感なく設置できるだろう。

正面
背面
側面

 有線LANインターフェースは、WAN×1とLAN×4で、LAN側はギガビットまでの対応ながら、WANポートは10GbE対応となっている。

 auひかりやNUROなど、10Gbpsの通信速度を実現可能な高速インターネット接続サービスはすでに提供されているが、NTT東西が提供するフレッツ光でも10Gbps接続サービスが2020年4月から開始予定とされている。

 こうした状況を考えると、WAN側が10Gbpsに対応しているのは大きな魅力となる。現状10Gbpsサービスを利用しているならもちろん、将来的に10Gbpsサービスへ移行した場合にも、Aterm WX6000HPをそのまま使い続けられる。

 なお、10Gbps対応ポートは、WAN/LANの切り替えが可能だ。設定を変更すると、LANの1ポートが代わりにWAN用へと切り替わり、10GbpsのWANポートにNASなどのLAN内の10Gbps対応機器を接続可能となる。

WANポートは10Gbps対応
WANポートとLAN1ポートを入れ替え可能。10GbpsでNASなどに接続することができる

簡単設定の使いやすさはAtermシリーズのまま、IPv6 IPoEにも当然対応

 セットアップは、Atermシリーズらしく、親切で簡単だ。

 Wi-Fiの接続は、付属のQRコードもしくはNFCによって簡単にできるし、本体の設定もスマートフォンからウェブブラウザーを使って簡単に変更できる。

QRコードを読み取ることでスマホを簡単にWi-Fi接続可能
各種設定もスマートフォンのウェブブラウザーから簡単に変更できる

 インターネット接続も、従来のPPPoEに加えて、IPv6 IPoEを利用したMAP-EやDS-Liteに対応する。最近では、回線の混雑による速度低下を避けるため、IPoE方式のIPv6接続サービスを選択する人も増えてきているが、こうしたサービスにしっかり対応するのはありがたい。

 現状、Wi-Fi 6に対応したルーターには海外メーカー製が多い。そして、そのほとんどがMAP-EやDS-Liteには対応していない。前述した10Gbpsサービスの登場もそうだが、やはり日本の事情をしっかりと理解し、その対応が万全な国内メーカー製品は、こうした面での安心感が違う。

 このほか、機能面で特徴的なのは、セキュリティへの配慮だ。

 ファームウェアの自動アップデート機能が新たに搭載され、標準では深夜1時に最新ファームウェアのチェックと更新が自動的に実行されるようになった。

 数年前に流行したマルウェア「Mirai」をきっかけとして、IoT機器のセキュリティ対策の必要性が叫ばれるようになってきたが、この機能によって、今後は、Wi-Fiルーターの脆弱性が放置されることがなくなるはずだ。

 深夜にゲームをやることが多いなら、万が一に備えて更新時間を変更しておくことをお勧めするが、本製品を使っていれば、定期的にファームウェアをチェックして更新するという面倒な作業から解放されることになる。

ファームウェアを自動アップデート可能

 Wi-Fiの暗号化についても、新たにWPA3を選択できるようになった。標準設定のWPA2のままでも安全性は確保できるが、より複雑な仕組みを使って通信を暗号化できるようになる。もちろんWPA3だけではなく、WPA2/WPA3の混在も選べるので、Wi-Fiのプライバシーを気にする場合は、設定を変更しておくといいだろう。

 いずれも地味な機能ではあるが、現在市場に出回っているWi-Fi 6対応機で、このようにファームウェアの自動アップデートやWPA3への対応をしっかりと実現している機種は、実はあまり多くない。

 本製品の特徴は安定通信だが、こうしたセキュリティ機能によって、安心して使える点も大きな魅力と言えるだろう。

WPA3にも対応している

最大1.59Gbps! 長距離も500Mbpsオーバーと速い

 気になるパフォーマンスだが、かなり優秀だ。

 以下は、木造3階建ての筆者宅の1階にAterm WX6000HPを設置し、各階でiPerf3による速度を測定した結果だ。前述したように、本製品は10Gbps対応ポートが標準ではWANに設定されているので、まずはそのままWAN側として利用した。インターネット回線には10Gbpsのauひかりを接続し、iPerf3測定用のサーバーは1Gbpsで接続している。

 なお、筆者宅のテスト環境では、160MHz時にW52のチャネルを利用した場合に通信が安定しなかったため、手動で100ch(W56)に固定した状態でテストを実施している。同様に160MHz時に通信が安定しにくいときは、設定画面で「オートチャネルセレクト」をオフにし、W56(100chなど)を手動で選択しておくことをお勧めしたい。

インターネット回線の速度。Wi-Fi 6接続(2402Mbps)のPCから下りで、1656.53Mbpsで通信できている
iPerfテスト(10Gbps WAN接続時)
iPerfテスト(10Gbps WAN接続時)
1F2F3F入口3F窓際
160MHz-ONIntel AX200上り944891632421
下り945869799550
iPhone 11上り549357172112
下り791629412221
160MHz-OFFIntel AX200上り946782559387
下り852830610506
iPhone 11上り627479305156
下り874686511311

 続いて、設定画面でWAN/LANを入れ替え、LAN側に10GbpsでiPerf3テスト用のNASを接続した場合の結果だ。

iPerfテスト(10Gbps LAN接続時)
iPerfテスト(10Gbps LAN接続時)
1F2F3F入口3F窓際
160MHz-ONIntel AX200上り1430929546434
下り15901170836588
iPhone 11上り588456219183
下り864668436312
160MHz-OFFIntel AX200上り913731556454
下り888798675531
iPhone 11上り591485280168
下り885683463314

 上記の表とグラフでは、データが多すぎて見にくいため、今回はポイントとなる部分のみをピックアップしていこう。

10Gbpsポート使い分けの比較
10Gbpsポート使い分けの比較
1F2F3F入口3F窓際
10G WAN945869799550
10G LAN15901170836588

 まずは、10Gbpsポートの使い分けの比較だ。「10G LAN」ではテスト用のNASが10Gbpsで接続され、「10G WAN」ではNASが1Gbpsで接続される。後者では、1Gbpsの有線がボトルネックになってしまうが、前者ではNASに対して、最大で1590Mbpsで通信することができた。

 NASに保存された動画を見るとか、写真を大量に保存する必要があるといった場合は、10Gbps対応ポートをLANとして利用することで、通信速度を1.5倍ほど向上させることができる。

 次は、160MHz幅時の状況だ。80MHz時(クワッドチャネル:標準設定)でも最大888Mbpsなのでかなり速いのだが、160MHz幅(オクタチャネル)を有効にすると、最大1590Mbpsと大幅にスピードアップする。

160MHz ON/OFFの比較
160MHz ON/OFFの比較
1F2F3F入口3F窓際
160MHz ON15901170836588
160MHz OFF888798675531

 160MHz幅は、5GHz帯のチャネルを8チャネル分占有するので、外部からの干渉を受ける可能性が高く、長距離の通信も不利だと思われたが、今回のテストでは2階や3階でも結果は良好で、最も遠い3階端でも588Mbpsと、かなり高い値が実現できた。

 冒頭で触れた3直交アンテナの効果が発揮されているのか通信も安定しており、iPerf3を複数回実行した場合でも、値にバラツキが少ない。

 3階端で500Mbpsオーバーというのは、中継機やメッシュWi-Fiなど、複数の機器を設置した場合に見られる速度だが、これを1台で実現できているのだから、恐れ入る。

 マンションなど5GHz帯の電波が届きにくい環境では結果が変わる可能性はあるにせよ、単体のWi-Fi 6ルーターとしては、現時点でかなり高い実力を持った製品と言えそうだ。

見た目以上の「豪腕」機

 以上、NECプラットフォームズのAterm WX6000HPを実際にテストしてみたが、同社が長年取り組んできたアンテナ技術がかなり活きている印象だ。

 従来のWi-Fi 5では、規格上の速度やLAN側の速度に限界があったが、その制約が外れたおかげで、アンテナの素性の良さが、プラスαのスピードとしてパフォーマンスに顕著に表れていると言える。性能としてはかなり上位に位置する製品だ。

 欲を言えば「10Gbpsをもう1ポート」と言いたくなるが、一般家庭では、10Gbpsのインターネット接続と10GbpsのNASを同時に使う可能性は比較的小さい。今後普及が期待される10Gbps回線サービスでは、ホームゲートウェイなどでルーター機能が提供されるのが一般的なので、10GbpsのWANはそちらに任せ、本機をアクセスポイントモードにしてLANに10Gpbsで接続しておく、という手もある。

 実売3万9403円という価格を見れば、現状でもコストに対しての性能は十分すぎるほど高いので、Wi-Fi 6ルーターを検討している場合は、非常に有力な候補となるだろう。

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(協力:NECプラットフォームズ株式会社)

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。