清水理史の「イニシャルB」
10Gbpsフル活用で1200MB/s超! これからは中小でもオールフラッシュNAS!
HDDよりも高耐久なSSDを採用
2020年3月30日 06:00
いよいよ「オールフラッシュ」の波がスモールビジネス環境にも到来しそうだ。QNAPのNASの代理店として知られるテックウインドから発売された「AXELBOX(アクセルボックス)」は、全ベイにSSDを搭載し、さらに10Gbpsにまで対応した中小企業向けのオールフラッシュストレージだ。
その速度はもちろんだが、実は耐久性にも優れ、何よりデータをアクティブに活用できるようになる点が特徴だ。その実力を検証してみた。
「アクティブ」なデータ活用につながる中小向けオールフラッシュSSDはWD Red SA500を搭載
この節のポイント
・オールフラッシュがスモールビジネスでも現実的に
・オールフラッシュならNASにデータを保存したままアクティブに活用できる
いよいよ、より小規模かつ、より多様な環境で「オールフラッシュ」のNASを使うことが現実的になりそうだ。
オールフラッシュは、これまでエンタープライズでのデータベース向けや、VDI環境向けのストレージとして使われてきた高級品だ。ストレージを構成するHDDをすべてSSDに置き換えることで、ランダムアクセスを中心としたアクセス性能を大幅に向上させ、従来のHDDを超える超高速なストレージを実現可能となっていた。
しかしながら、ここ数年で3D NAND技術の進展により高密度化されたことで、SSDの大容量化、低価格化が急速に進んだことで、スモールビジネス向けのNASでも、ようやく採用が始まった。
従来も、キャッシュ用または階層化ストレージとして、SSDを採用する製品も一部には存在していた。だが今回、QNAPの代理店として知られるテックウインドから登場した「AXELBOX」は、全てのベイにNAS用SSDであるWestern Digitalの「WD Red SA500」シリーズを搭載。さらにベースとなるQNAPのNASではオプション扱いとなっている10Gbpsのネットワークアダプタまでを標準で搭載し、RAID構成までセッティング済みで出荷される完成品のNASとなっている。
従来、海外製のNASは本体のみで、HDDの取り付けはユーザー自身が行うものが多く、保証が本体とHDDが別となるケースが多かった。しかし、AXELBOXは、完成品ならではのすぐに使える手軽さと、SSDも含めた2年間の標準保証を受けられる点も特徴となる。
デザイン事務所や設計事務所、ビデオ制作などの現場はもちろんのこと、通常のオフィスでも大容量データを組織内で、遅延なく、高速に共有したいというニーズが増えている。オールフラッシュのNASであれば、こうしたデータを単に保管・共有できるだけでなく、NAS上に配置したままネットワーク内でリアルタイムに利用できるわけだ。
従来のNASが、データのストックを目的とした静的なストレージだとすれば、オールフラッシュNASは、言わばデータの利用を目的とした動的なストレージとも言えるかもしれない。
単に速いだけでなく、社内のデータを「アクティブ」に活用できるようになる点こそ、オールフラッシュNASであるAXELBOXのメリットと言えるだろう。
4ベイから使えるオールフラッシュ10Gbps NAS「AXELBOX」シリーズ
この節のポイント
・AXELBOXはQNAP TS-x74シリーズにSSDと10Gbps NICを搭載した完成品
・SSDやNICを組み込んだだけでなく、RAIDなどが構成済みでスグに使える
それではまず、AXELBOXシリーズの概要を見ていこう。
本製品は、QNAPが販売している「TS-x73」シリーズをベースとしている。CPUにはAMD RX-421ND(クアッドコア、2.1GHz)を採用し、QNAP版はHDDレスで販売されている。テックウインドのAXELBOXでは、4ベイ、6ベイ、8ベイの各モデルに、前述の通りSSDと10GBASE-T×2のネットワークアダプタが標準で搭載される。
AXEL-473 | AXEL-673 | AXEL-873 | |
ベースモデル | QNAP TS-473 | QNAP TS-673 | QNAP TS-873 |
ベイ数 | 4 | 6 | 8 |
CPU | AMD RX-421ND (クアッドコア、2.1GHz) | ← | ← |
メモリ | 8GB | 16GB | ← |
1Gbpsポート | 4 | ← | ← |
10Gbpsポート | 2 | ← | ← |
USB3.0 | 4 | ← | ← |
サイズ(幅×奥行×高さ) | 188.2×199.3 ×279.6mm | 188.2×264.3 ×279.6mm | 188.2×329.3 ×279.6mm |
搭載されるSSDは、前述した通りWestern Ditigal製のWD Red SA500 SATA SSD。2.5インチHDD形状で、以下のようにSSD単体の容量の違いにより、複数のモデルが用意されている。
もちろん、単に組み込まれているだけではない。SSDは同時に2台まで故障してもデータを保持可能なRAID 6で構成済みとなっている。また、NAS用OSであるQTSの機能「SSDエキストラオーバープロビジョニング」を活用し、全容量をボリュームに割り当てず、10%の予備領域がある状態であらかじめ構成されている。
SSDは、一般に広く知られている通り、その仕組み上、書き込み回数に上限がある。AXELBOXでは、搭載されたSSDの総容量のうち90%のみをボリュームとしてデータ保存用に構成し、残りの10%を書き込み制限時の代替用として確保することで、SSDの寿命を延長することができるようになっているわけだ。
実際の寿命は使い方によっても異なってくるが、10%のエキストラオーバープロビジョニング設定により、寿命が尽きるまでの書き込み総容量について、一般的には1.2倍にまで高められるとされている。
自分でSSDを構成するとなると、RAIDのレベルやエキストラオーバープロビジョニングの設定などで迷ってしまうだろう。AXELBOXなら、こうした構成に迷う必要がないことも大きな魅力だ。
今回検証に用いた「AXEL-473/4TB」では、1TB×4のSSDがRAID 6で構成される。市場想定価格(税別)は29万9000円前後だ。
モデル | ベイ数 | SSD構成 | 実効容量※ |
AXEL-473/4TB | 4ベイ | 1TB×4 | 約1.53TB |
AXEL-473/8TB | 2TB×4 | 約3.15TB | |
AXEL-473/16TB | 4TB×4 | 約6.39TB | |
AXEL-673/6TB | 6ベイ | 1TB×6 | 約3.15TB |
AXEL-673/12TB | 2TB×6 | 約6.39TB | |
AXEL-673/24TB | 4TB×6 | 約12.96TB | |
AXEL-873/8TB | 8ベイ | 1TB×8 | 約4.77TB |
AXEL-873/16TB | 2TB×8 | 約9.72TB | |
AXEL-873/32TB | 4TB×8 | 約19.53TB |
※RAID 6構成、エキストラオーバープロビジョニング領域:10%設定時
続いてネットワーク周りを見ていこう。TS-x73シリーズには、標準で1Gbps対応のLANポートが4つ搭載されているが、加えて上部のPCIeスロットにオプションのネットワークアダプタ「QXG-10G2T-107」が搭載されている。
このQXG-10G2T-107は、Aquantia AQC107Sを採用した2ポート仕様のNBASE-T(10/5/2.5/1Gbpsおよび100Mbps)対応カードだ。オプションとなるので、本来は本体カバーを開けて取り付け作業をする必要があるが、AXELBOXは組み込み済みで出荷されるため、こうした手間が掛からない。
オールフラッシュの高速なストレージ性能を活かすには、1Gbpsのネットワークでは完全に力不足となるため、10Gbpsのネットワークは必須だ。しかも2ポートの仕様なので、片方のポートを10Gbpsスイッチ経由でLANに接続し、もう片方のポートを使って仮想サーバーのホストに直結して、仮想マシンのストレージとして使うといった活用ができる。
同じ10Gbps対応でも、1ポートではなく2ポート使えるというのが、本製品の大きな魅力と言えるだろう。
実はHDDより高耐久で、メンテの計画もしやすいSSD
この節のポイント
・可動部品がないSSDはHDDより高耐久
・故障はゼロではないがメンテナンスを計画しやすい
・コンシューマー向けより高耐久なNAS向けSSD WD Redを採用
このように、テックウインドの手によって、さまざまな最適化が施されたAXELBOXだが、「そもそもNASのストレージがSSDで大丈夫なのか?」と心配する人もいることだろう。
前述した通り、SSDの仕組み上、書き込み容量に上限があることは事実だ。しかし、トータルの耐久性を見ると、実はSSDは優秀なのだ。
以下は、AXELBOXに搭載されているWD Red SA500 SATA SSDと、同じくWestern Ditigal製のNAS用HDD「WD Red NAS HDD」のスペックを比較した表だ(いずれも1TBモデルの場合)。
WD Red SA500 NAS SSD | WD Red NAS HDD | |
モデル | WDS500G1R0A/B | WD10EFRX |
容量 | 1TB | ← |
インターフェース | SATA III 6Gbps | ← |
転送速度 | 560MB/s | 150MB/s |
信頼性(MTTF/MTBF) | 200万時間(MTTF) | 100万時間(MTBF) |
TBW | 350 | - |
Workload Rate | - | 180TB/年 |
注目したいのはMTTF/MTBFの値だ。SSDはMTTF(平均故障寿命:故障した個体を交換する場合のモデル)、HDDはMTBF(平均故障間隔:故障した個体が修復可能なモデル)となるが、これはSSDの方が長い。
オールフラッシュNASの場合、SSDの書き込み制限は、前述したエキストラオーバープロビジョニングの技術などで緩和できる上、利用状況をきちんと分析していれば寿命をあらかじめ計算しやすいので、計画的なメンテナンスによって回避することも可能だ。
一方、HDDの場合、SSDのような仕組み上の制限というより、予測できない故障に対応しなければならない。もちろん、SSDでも想定外の故障は発生するが、その可能性はHDDに比べれば極めて低い。
「高耐久」とひと口で済ませてしまうと誤解を生みやすいが、一定期間でSSDを交換しながら安定的に運用するなど、メンテナンスを計画しやすいのは、間違いなくSSDの方だと言えるだろう。
また、HDDは、回転するプラッタや、データを読み取るためのアームなどの可動部品が多く、非常に複雑な構造をしている。一方、SSDはNAND型フラッシュメモリを中心としたチップのみで構成され、可動部品は存在しない。HDDの故障は、こうした可動部分が原因となることが多く、この点も差になっている。
なお、同じSSDでも、コンシューマー向けではなく、NAS向けのWD Redが搭載されている点にも注目したい。以下の表はWestern Digitalのコンシューマー向けSATA SSD「WD Blue 3D NAND SATA SSD」とスペックを比較したものだ(いずれも1TBモデル)。
WD Red SA500 NAS SATA SSD | WD Blue 3D NAND SATA SSD | |
インターフェース | SATA III 6Gbps | ← |
シーケンシャル読み取り | 560MB/s | 560MB/s |
シーケンシャル書き込み | 530MB/s | 530MB/s |
ランダム読み取り(IOPS) | 95000 | 95000 |
ランダム書き込み(IOPS) | 85000 | 84000 |
耐久性(TBW※) | 600 | 400 |
平均消費電力 | 60mW | 60mW |
信頼性(MTTF) | 200万時間 | 175万時間 |
※JEDEC client workload(JESD219)
パフォーマンス面はほぼ互角ながら、耐久性(TBW)が異なる点に注目したい。
TBWはTeraBytes Writtenの略で、SSDの書き換え可能なデータ量を表す値だ。前述した書き換え寿命に関連するもので、一定の条件で書き換えをした場合の総容量を示している。
ざっくり言ってしまえば、寿命までにトータルでどれくらいのデータを書き込めるかを示す。
表の値はいずれもJEDEC client workload JESD219(1日8時間の利用を想定した場合)の値なので、NASで利用する場合は値は低くなるはずだが、いずれにせよコンシューマー向けのWD Blueよりも、NAS向けのWD Redの方が、TBWの値も、MTTFの値も高いことが分かるだろう。
容量 | TBW | MTTF | |
WDS500G1R0A/B | 500GB | 350 | 200万時間 |
WDS100T1R0A/B | 1TB | 600 | 200万時間 |
WDS200T1R0A/B | 2TB | 1300 | 200万時間 |
WDS400T1R0A | 4TB | 2500 | 200万時間 |
10Gbpsフル活用の1200MB/sオーバーを実現
この節のポイント
・シーケンシャルリード1238.53MB/s
・書き込みとランダムの性能が特に高い
前置きが長くなったが、実際に製品を使ってみよう。
前述した通り、本製品は組み込み済みの完成品として納品されるので、開封後に電源をつなげば、すぐに利用可能だ。
同梱の用紙に記載されている初期設定の管理者アカウントのパスワードを使って、ネットワーク内のクライアントからNASへアクセスし、管理者パスワードの変更やユーザーの作成、共有フォルダーの権限設定などをするだけなので、納品後から数時間で稼働を開始できるはずだ。
SSDの恩恵は、操作性の面で影響が大きい。管理画面の表示や操作、アプリの追加などが非常にスムーズで、キビキビとした操作感が印象的だ。
当然ながら、パフォーマンスは非常に優秀だ。10Gbps対応のネットワークカード(Intel X540-T1)を搭載したWindows 10デスクトップPCから、NAS上の共有フォルダーに対してCrystalDiskMark 7.0.0を実行したところ、右の画面のように、シーケンシャル読み込みで1238.53MB/sをマークした。
参考までにHDDを搭載した別の10Gbps対応NASの結果も掲載するが、キャッシュが効くせいだろうか、読み込みは互角となるものの、書き込みが2倍程度高く、RND4KQ32T16の値も読み込みで3倍、書き込みで6倍ほど高い結果となった。
SSDの恩恵で高速化されたランダムアクセスと書き込みの能力が、10Gbpsのネットワークでフルに発揮できているという印象だ。
なお、参考までにiSCSI接続時の値も掲載しておく。仮想マシンのストレージとして使うような場合でも、速度面の不満はないだろう。
5年または3年の保守サービスで保証も充実アクセス音や振動も皆無
以上、テックウインドのAXELBOXを実際に試してみたが、オールフラッシュ+10Gbpsの高性能NASらしく、非常に高速かつ快適な製品と言えそうだ。
SSDの耐久性も実は高いことが明らかで、不意の故障に悩まされることなく、計画的な運用ができるのも大きな魅力だ。
また、すぐ使える状態で出荷されるのもテックウインド製ならではのメリットで、さらに保証が充実している点も見逃せない。標準では2年間の保証となるが、3年または5年のデリバリー保守サービス、3年または5年のオンサイト保守サービスも用意されており、安心して利用することができる。
このほか、地味にいい点として、静かである点も見逃せない。HDDのようなアクセス音や振動が皆無で、かなり近づかないと動作しているのかどうかすら、判断ができないほど静かだ。
既存のNASと置き換えるのであれば、6~8ベイで、2TBもしくは8TBのSSDを搭載した大容量モデルをお勧めするが、今回取り上げた4ベイの4TBモデルでも、容量は限られるものの、SSDの高速な環境を使えるメリットは大きい。
例えば、既存のHDD NASと併用し、保管目的の静的なデータ、もしくは読み込みメインのデータはHDD NASに、共同編集などを目的としたアクティブなデータはAXELBOXに保存するというように、2種類のNASを使い分けるのも1つの手だ。
ギガビットのNASに限界を感じることが少しでもあれば、単に10Gbps化するだけでなく、同時にSSD化もできるAXELBOXの利用を検討するといいだろう。
(協力:テックウインド)