清水理史の「イニシャルB」
実売3500円のWi-Fiルーターじゃダメですか? Wi-Fi 5で全ポートギガ対応の「HUAWEI WiFI WS5200」を試す
2020年3月23日 06:00
ファーウェイが2018年末に日本市場へ初投入した家庭用Wi-Fiルーターが「HUAWEI Wi-Fi WS5200」だ。最大の特徴は、その価格。Amazon.co.jpでの実売価格は3480円(税込)となっている。規格としては1世代前となるものの、とにかく安く済ませたいという人には魅力的な選択肢だ。その実力を検証してみた。
「3500円」Wi-Fiルーター戦国時代?11acの2バンドMIMOでギガビットLAN
筆者も含めた一部の人を除いて、「通信機器を買う」ことにワクワクする、なんて人は、まあ、あまり多くない。
なので、できることなら、必要最低限のスペックを備えたWi-Fiルーターを、なるべく安く買いたいという人が圧倒的に多いはずだ。
今回は、そんな人のための企画だ。
安いとはいっても、実用に十分なスペックは満たしておいて欲しい。なので、対応する規格はWi-Fi 5ことIEEE 802.11ac、2.4GHzと5GHzのデュアルバンド、通信速度は2ストリームMIMOの867Mbps、有線LANは全ポート1Gbpsという条件で、いくつかの製品をピックアップしてみたのが以下の表だ。
メーカー | 製品 | 価格※1 |
HUAWEI | WS5200 | 3498円※2 |
TP-Link | Archer C6 | 3500円 |
アイ・オー・データ機器 | WN-DX1167GR2 | 3445円 |
エレコム | WRC-1167GHBK | 3852円 |
NECプラットフォームズ | Aterm WG1200CR | 3945円 |
バッファロー | WSR-1166DHPL | 3980円 |
※1 2020年2月26日現在Amazon.co.jp調べ ※2 調査時300円オフクーポンあり
価格順に並べてあるが、あらためて見てみると、3000円台というのはなかなかの激戦区だ。国内外、各メーカーの製品がラインアップし、性能的にも機能的にも横並びで競っている。
とは言え、中でも目立つ存在なのが、今回取り上げるファーウェイの「HUAWEI Wi-Fi WS5200」だ。
調査時には2番手の安さだったが、本稿執筆時は300円オフのクーポンが配布されていて、これを適用すると頭1つ抜け出した安さとなる。
ファーウェイは、2月26日付記事『Huawei、独自規格「Wi-Fi 6+」対応ルーター「WiFi AX3」発表』で詳しく紹介されているように、独自にWi-Fi 6を拡張した「Wi-Fi 6+」という規格と、これに対応する「Wi-Fi AX3」というWi-Fiルーターをリリースしている。つまり、ローエンドとハイエンドの上下方向から、家庭用Wi-Fiルーター市場へと乗り込んできた格好だろうか。
個人的には、Wi-Fi 6+対応の「Wi-Fi AX3」にも興味深々だが、今回は、低価格モデルのWS5200を実際に試してみることにしよう。
清潔感のあるコンパクトなモデル
それでは、実機をチェックしていこう。
本体は横置きタイプで、縦置きや壁掛けはできないが、サイズが205×120×36.8mm(幅×奥行×高さ)と比較的コンパクトで、ホワイトを基調としたカラーが清潔感を感じさせるシンプルなデザインとなっている。
アンテナは外付けタイプが4本搭載されており、開封時は本体上部に折り畳まれているが、背面側へと開く可働式となっている。
本製品は2ストリームMIMO対応なので、アンテナを2.4GHzと5GHzで共用すれば2本で済むはずだが、すべて独立させているあたり、なかなか贅沢な構成だ。
インターフェースはWAN×1、LAN×3だけとシンプルだ。低価格モデルには、有線LANが100Mbps止まりの製品も存在するが、本製品はすべてギガビット対応となっているので、有線がボトルネックになることはない。
Wi-Fiは、前述したようにIEEE 802.11ac準拠で、最大通信速度は5GHz帯が867Mbps、2.4GHz帯が300Mbpsとなっている。
最新規格であるWi-Fi 6は、スマートフォンやPCの一部で対応が進んでいるものの、まだその数が少ないことを考えると、無線のスペックとしては十分とも言えるだろう。
WS5200 | |
実売価格 | 3498円 |
CPU | デュアルコア 800MHz |
メモリ | 128MB |
Wi-Fi対応規格 | IEEE 802.11ac/n/a/g/b |
バンド数 | 2 |
最大速度(2.4GHz) | 300Mbps |
最大速度(5GHz-1) | 867Mbps |
最大速度(5GHz-2) | - |
チャネル(2.4GHz) | 1~13ch |
チャネル(5GH-1) | W52/W53/W56 |
チャネル(5GH-2) | - |
新電波法144ch | - |
MIMOストリーム数 | 2 |
アンテナ | 外付け4本(5GHz帯2本、2.4GHz帯2本) |
WAN | 1000Mbps×1 |
LAN | 1000Mbps×3 |
USB | - |
Bluetooth | - |
IPv6 | △※3 |
MAP-E/DS-Lite | - |
WPA3 | - |
動作モード | ルーター/ブリッジ/リピーター/中継機 |
サイズ(幅×奥行×高さ) | 205×120×36.8mm |
※3 フレッツ光でPPPoE接続の場合、PPPoE接続から取得しようとするため、IPoEで構成不可
スマホでもPCでもセットアップ可能
設定は、PCでもスマートフォンでも行える。
初期設定では、暗号化なしのSSIDが設定されているので、ここに接続し、ウェブブラウザー経由で設定ウィザードを実行する。スマートフォン向けの「Smart Home」アプリも用意されているが、これは利用開始後の管理用で、初期設定はウェブブラウザーで実行するタイプとなる。
初期設定でファームウェアがアップデートされる上、SSIDや管理者パスワードの設定も強制されるので、うっかり暗号化やパスワードなしのままで運用してしまうこともないだろう。
機能面は、エントリーモデルらしくシンプルであまり凝った付加機能は搭載されない。VPNはクライアントとしてのみ構成可能で、DynamicDNSがサポートされるくらいだ。ペアレンタルコントロール機能も搭載されるが、接続時間の制御とウェブフィルタリング(手動でブラックリストを登録)ができる程度となる。
ただし、「Link+」という機能が搭載されており、本製品を複数台利用した場合に、すべての機器で同じSSID、パスワード、ログインパスワード、Wi-Fiタイマー、Wi-Fiブラックリスト/ホワイトリスト、タイムゾーンなどの設定を利用できるようになる。メッシュと明言されているわけではないが、メッシュ的な使い方ができると考えてよさそうだ。
気になった点2つ、MRUの値とIPv6への対応
このようにシンプルな構成の製品だが、実際に使ってみて、気になった点が2つほどあった。
1つはMRUの値だ。
インターネット接続でPPPoEを選択した際、MRUの標準値が「1492」に設定される。気付かずにしばらくの間そのまま使っていたものの、接続の不具合や速度低下などは見られなかった。だが、フレッツの場合、NTT東日本が1454、西日本が1438なので、後から1454に変更しておいた。
もう1つはIPv6の対応だ。
MAP-EやDS-LiteなどのIPv4 over IPv6に対応していないのは、海外製品でよく見られる状況なのであきらめもつくが、せめてIPv6だけでも使おうと思っても利用できないケースがある。
具体的には、IPv6がIPoEで、IPv4がPPPoEのケースだ。IPv6が、本製品ではインターネット接続で設定されているインターフェースでしか有効にならない。このため、IPv4にPPPoEが設定されている場合、IPoEでIPv6が利用可能であっても、本製品ではIPv6のアドレスを取得できない。
もちろん、IPv4がDHCPや固定IPなら、問題なくIPoEでIPv6も利用可能なので、auひかりやNUROなどの回線なら問題ない。
これが影響するのは、IPoEのIPv6の環境で、MAP-EやDS-Liteが使えないため、仕方なくPPPoEでIPv4を利用するという希なケースだ。このため、正直なところ、重箱の隅をつつくような話とも言える。
とは言え、他社製品は、こうした対応をしっかりと理解して、例外的な環境にもきちんと対応できるように製品を作り込んでいる場合もある。もう少し、日本ならではの特殊な環境にも対応できるようになってくれると、個人的にはうれしい。
アンテナを立てない方がいいケースもある
気になる性能は、悪くはないものの、環境によってはアンテナの向きに工夫が必要と言えそうだ。
まずは、以下のグラフを見て欲しい。いつも通り、木造3階建ての筆者宅にて、1階に本製品を設置し、各フロアでiPerf3による速度を計測した結果だ。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | ||
Intel AX200 | 上り | 530 | 273 | 134 | 106 |
下り | 600 | 260 | 109 | 90.9 | |
iPhone 11 | 上り | 407 | 214 | 78 | ― |
下り | 512 | 204 | 73 | ― |
※サーバー:Synology DS1517+(1Gbps接続)
Intel AX200を搭載したPCの場合、1階で下り600Mbps、3階窓際でも100Mbpsで通信できており、十分な性能と言える。
しかしながら、iPhone 11では長距離の結果が良くない。3階窓際では、5GHzの電波を掴むことができず(2.4GHzなら接続可能)、値の計測ができなかった。
そこで、いろいろ試行錯誤してみた結果、アンテナの向きが問題であることが分かった。
冒頭でも触れた通り、本製品は4本の外付けアンテナが搭載されており、出荷時は本体に畳まれているアンテナを起こして垂直に立てて利用する。上記の結果は、アンテナを垂直に立てた場合の値であったため、筆者宅のような上下の方向をカバーし切れなかったようだ。
このため、アンテナ向きを変え、もう一度テストしてみた。具体的にはアンテナを出荷時状態と同じように本体に折り畳んだままにして、上方向へと向けてみた。
1F | 2F | 3F入口 | 3F窓際 | ||
垂直 | 上り | 407 | 214 | 78 | ― |
下り | 512 | 204 | 73 | ― | |
斜め | 上り | 365 | 224 | 104 | 60 |
下り | 522 | 242 | 135 | 119 |
この場合、アンテナを立てたときは通信できなかった3階窓際でも問題なく通信できるようになった(その代わり水平方向に若干弱くなる可能性があるが……)。
このように、環境によってはアンテナを畳んだままの方が快適な場合もある。だいぶ違和感はあるが、アンテナがかさばらない分、コンパクトとも言える。
3498円は安いがクセがある
以上、ファーウェイの「HUAWEI WiFI WS5200」を実際に試してみたが、実売3498円という価格を考えると、十分な性能と言える。
Amazon.co.jpの口コミ情報を見ると、SYSLOGのダウンロードファイルがZIPなのにtarで圧縮されているとか、SYSLOGに記録されるIPアドレスの一部が伏せ字になる(192.***.*.4など)という報告があり、個人的にも確認してみたが、確かにその通りだった。
追跡調査をしたいSYSLOGのアドレスが伏せ字になるというのは、なかなか理解し難い仕様なので、このあたりは改善を求めたいところだ。
また、ブリッジモード(AP)で利用した際に、UPLINKがWANポートに限られ、そのWANポートに割り当てられるIPアドレスが固定で設定できないという投稿もあったが、こちらもその通りであることが確認できた。
いずれも実用上大きな問題があるわけではないが、本稿でも指定した部分に加え、こうした通常の製品とは異なる点などから、少々クセのある製品とは言える。
今後、ファーウェイが日本の家庭向けルーター市場で地位を築けるかどうかは、こうした細かな日本ユーザーの指摘を、どこまで製品に反映していけるかにかかっていると言えそうだ。
【お詫びと訂正 3月24日 18:16】
記事初出時、NTT西日本のフレッツにおけるMRUの標準値に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。
誤:フレッツの場合、NTT東日本が1454、西日本が1438なので、後から1454に変更しておいた。
正:フレッツの標準値である1454へ、後から変更しておいた。