清水理史の「イニシャルB」

DS-Liteルーターを自前で! シングルボードコンピューター「NanoPi R2S」をOpenWrtで使う

 「NanoPi R2S」は、中国のFriendlyELECが発売しているシングルボードコンピューターで、例えるならRaspberry Piのような製品だ。有線LANポートを2基搭載しており、ルーターとして利用するのに適している。

 通常は同社が提供するFriendryWrt、もしくはUbuntuで動作させることが多いが、今回はSnapshot版のOpenWrtを使って、DS-Lite対応のルーターとして構成してみた。

小型のルーターに適したシングルボードコンピューター「NanoPi R2S」

RK3288搭載のギガビット対応デュアルLANボード

 NanoPi R2Sは、RockchipのRK3288(クアッドコアのCortex-A53で1.3GHz)と1GBのメモリを搭載したシングルボードコンピューターだ。

 同製品の最大の特徴は、2基搭載されたLANポート。オンボードのギガビット対応WANポート(RTL8211E)に加え、内部的にUSB 3.0接続されたギガビット対応のLANポート(RTL8153B)を搭載し、これらを使えばルーターとしての構成が可能となっている。

側面
背面

 従来版のNanoPi R1Sと異なりWi-Fiは搭載しなくなったが、有線ポートがそれぞれ最大941Mbpsとフルスピード化されたことで、小型ながら高速な処理が可能な自作ルーターとして利用可能となった。

 筆者は2020年11月ごろに購入(5000円前後)したため、手元にあるのは旧型の筐体(旧製品のNanoPi R1Sと同じイエロー筐体)が採用された製品だが、現在は放熱のためのスリットが入った、より質感の高いブラック筐体へ変わっている。

 後継であるRK3399を採用した最新版「NanoPi R4S」もすでに発売されている。5000円ほど高価とはなるが、用途次第では処理性能の高いR4Sの方を購入するのもいいだろう。

 なお、同様のことはRaspberry Pi4とUSB接続の有線LANアダプターを組み合わせても可能なので、LANポート内蔵のコンパクトさにこだわらないなら、利用者が多くノウハウが豊富なRaspberry Piの利用もお勧めしたいところだ。

FriendryWrtではDS-Liteが動かない

 同製品は、本来であれば専用にカスタマイズされたFriendlyWrt、もしくはUbuntuベースのFriendlyCoreで動作させるようになっている(詳細はFriendlyARM WiKiのNanoPi R2Sの項目を参照)。

本来は専用にカスタマイズされたFriendlyWrtを利用する

 最新版ではDockerが統合され、ルーターとしてだけでなくNextCloudやMinecraft Serverとしても動作させることができるなど、多機能化されているが、今回はそのFriendlyWrtではなく、OpenWrtを利用することにした。

Dockerが最初からインストールされているなど機能が豊富

 当初はFriendlyWrtで利用しようと考えていたが、使ってみると筆者宅の環境で利用している回線ではDS-Lite接続ができなかった。FriendryWrtでもパッケージを追加すればDS-Liteへの対応が可能なのだが、DS-Liteパッケージに必須のkmod-ip6-tunnelモジュールがインストールできなかったためだ。

DS-Liteが使えないのが欠点

 FriendryWrtもバージョンアップが重ねられているため、今後は使えるようになる可能性があるが、本稿執筆時点ではFriendryWrtでいろいろ試行錯誤するより、OpenWrtを使ってしまった方が速そうなので、そちらを利用することにしたというわけだ。

OpenWrtをインストール

 それでは、実際にセットアップしていこう。

 まずはOpenWrtをダウンロードする。前述したように、NanoPi R2SはRK3288を搭載しているが、このチップ向けの安定版は提供されていないため、開発中のSnapshot版を利用する。

 openwrtのダウンロードページから、「Development Snapshot builds」を選択し、「rockchip」「armv8」と選択し、「friendlyarm_nanopi-r2s-ext4-sysupgrade.img.gz」をダウンロードすればいい。

Snapshot版ならNanoPi R2Sで利用可能

 ダウンロードしたファイルはmicroSDカードへ書き込む。ツールはいろいろあるが、今回はRaspberry Pi用の「Raspberry Pi Imager」を利用した。カスタムでダウンロードしたファイルを指定して書き込みを実行するだけと簡単だ。

「Raspberry Pi imager」を使って書き込み

 OSを書き込んだら、NanoPi R2SmicroSDカードをセットし、WANとLANにケーブルを接続し、最後に電源供給用のUSBケーブルを接続して起動すればいい。

 しばらくすると、OpenWrtが起動し、LAN側がリンクアップしてPCにIPアドレスが割り当てられる。標準では192.168.1.0のネットワークで構成されるので、この範囲のアドレスが割り当てられるはずだ。

GUIをインストールして日本語化

 OpenWrtが起動したら、まずはSSHで接続する。標準ではGUIがインストールされていないため、SSH経由でインストールする必要がある。

 teratermなどのターミナルアプリを利用して、「192.168.1.1」にSSH接続し、標準のroot/passwordでログインする。

SSHでログインして、パスワードを変更。パッケージをアップデートしてから、GUIをインストールする

 まずは、「passwd」コマンドでrootのパスワードを変更し、その後「opkg update」でパッケージの一覧を最新のものへと更新する。

 ここまでの準備ができたら、「opkg install luci」でGUIをインストールすれば完了だ。

 SSHを切断し、LAN内のPCなどからウェブブラウザーで「http://192.168.1.1」へアクセスすれば、OpenWrtの管理画面が表示される。

 最初に基本的な設定を済ませておこう。「System」の「System」でタイムゾーンをAsia/Tokyoに変更し、続いて同じく「System」の「Software」から日本語化パッケージをインストールする。

タイムゾーンを設定

 「Update Lists」で一覧を更新後、「日本語」で検索すると日本語化パッケージが一覧表示されるので、とりあえず「luci-i18n-base-ja」をインストールしておく。

日本語化パッケージをインストールしておく

 OpenWrtでは、機能ごとに日本語化パッケージが用意されているので、baseだけだと完全に日本語化されない。必要に応じて、ほかの日本語パッケージもインストールしておくといいだろう。

DS-Lite接続を設定する

 今回利用したバージョンのOpenWrtでは、標準でIPv6が有効になっていたので、続いてIPv4接続用のDS-Lite接続を構成する。

 「Software」からリストを更新し、「DS-Lite」で検索してパッケージをインストールする。インストールが完了したら、モジュールを認識させるために、OpenWrtをいったん再起動しておこう。

「ds-lite」をインストール

 DS-Lite接続を利用するには、「インターフェース」で「WAN」の設定を編集する。標準では「プロトコル」が「DHCPクライアント」になっているので、これを「Dual-Stack Lite(RFC6333)」に変更し、「DS-Lite AFTRアドレス」に接続先のアドレス(transixの場合は「2404:8e00::feed:100」)を指定しておけばいい。

「インターフェース」で「WAN」の設定を編集
プロトコルを「Dual-Stack Lite(RFC6333)」に変更し、「DS-Lite AFTRアドレス」に接続先アドレスを設定
ベンチ結果は優秀

 これで、接続は完了だ。

 試しにfast.comで速度を計測してみたが、下りで600Mbps、上りで520Mbpsだったので、パフォーマンスは優秀だ。小型の有線LANルーターとしては悪くない印象だろう。

広告ブロック機能など、パッケージが豊富なOpenWrt

 以上、FriendlyElecのNanoPi R2SにSnapshot版のOpenWrtをインストールし、DS-Lite対応のルーターとして構成してみた。

 思ったより簡単にできたので試してみる価値はあるが、1つ注意しなければならないのは、開発中のSnapshot版を使っているという点だ。

 ちょうど本稿を執筆しているタイミングもそうだったが、途中でアップデートされてカーネルのバージョンが変わったりすると、パッケージがインストールできなくなることなどがある。テスト用で使うなら問題ないが、実用環境で使うのは避けた方がいいだろう。

 しかしながら、OpenWrtはパッケージが豊富で、いろいろな機能を後から追加できる。広告ブロック機能などが人気があるようだが、VPNサーバーとして構成するような使い方もできるので、いろいろ試してみるといいだろう。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。