清水理史の「イニシャルB」

USB起動でエラー!? Arm版Windows 11のISOイメージを使ったクリーンインストールを試した顛末

Lenovo Yoga Slim 7x Gen9にWindows 11をクリーンインストールしてみた

 11月15日、マイクロソフトのウェブサイトでArm版WindowsのISOイメージの配布が開始された。主に仮想マシンの作成用と位置付けられているが、USBメディアを手動で作成してSnapdragon X Elite搭載PCなどへのクリーンインストールにも利用できる。

 ただし、筆者の手元のLenovo Yoga Slim 7x Gen9では、USBメディアの起動やネットワーク接続などにハードルがあり、簡単には利用できなかった。いろいろ試した検証結果を紹介する。

基本的には仮想マシン向け

 Arm版Windows 11のISOイメージが公開された。

▼ISOイメージのダウンロードサイト
ArmベースPC用Windows 11のダウンロード

 ダウンロードサイトには下図のような注意書きがあるうえ、x86版のようなWindows 11 メディア作成ツール(Media Creation Tool)も提供されないため、仮想マシン以外での利用は苦労しそうではある。が、クリーンインストールを早速試してみた。

Arm版Windows 11 ISOイメージのダウンロードサイト。「サポートされているハードウェア上に ISO ファイルを使用して Windows 11 on Arm 仮想マシンを作成するか、DVD または USB フラッシュ ドライブを使用せずに Windows 11 on Arm を直接インストールするユーザーが対象です」といった注意書きがある

▼ISOイメージに関する説明
Windows 11 Arm ISOファイルの概要

 公式サイトから読み取れる注意点としては、以下の2点が課題となる。

  • USBメディアは自分で作る必要がある
  • 各種ドライバーの適用にネットワーク接続が必要
メディアを手動で作成する必要があるうえ、ネットワーク接続にも注意が必要

 前者は簡単に解決できそうに思えるが(詳細は後述するが、環境によっては面倒)、後者はおそらくSnapdragon X Eliteプラットフォームで採用されているQualcomm FastConnect 7800のドライバーが含まれていないことを暗に示しているのだろう。

 Windows 11のインストールでネットワークを認識しないというのは、新しいプラットフォームではよくあることなので、事前にドライバーを準備しておくか、安価かつWindowsのInBOXドライバーで動作する汎用的なUSB接続の有線LANアダプターを用意しておけば何とかなりそうだ。

「EFI USB Device boot failed」で起動せず

 というわけで、上記サイトからISOイメージをダウンロードし、超定番の「Rufus(バージョン4.6)」でインストール用USBメディアを作成してみた。

▼Rufasのダウンロード
Rufus

 設定はすべて標準のままで、Windows 11のセットアップオプションとして、メモリやセキュアブート、TPMなどの要件削除と、オンラインアカウントの要件削除を有効にしておいた(結論から言えば起動しないので、設定はどうでもいい……)。

 対象として利用したPCは、筆者がWi-Fi 7の検証目的で購入したLenovo「Yoga Slim 7x Gen9」だ。

 早速、USBメディアを装着してブートしてみたのだが、「EFI USB Device boot failed」というエラー画面が表示され、ブートに失敗した。ここから、アレコレ検証が始まるのでダイジェストで紹介する。

 なお、今回の問題が、筆者の環境(Yoga Slim 7x Gen9)だけで発生するのか、他のSnapdragon X Elite搭載機でも発生するのかは不明だ。個人的には、UEFIの問題っぽいので機種固有の問題のように思っている。

USBメディアから起動できない

検証1:メディアを変える

 最初はシンプルな書き込みエラーかと思ったので、別のUSBメディアを用意して書き込みをやり直した。しかし、結果、作成環境を変えたり、新品のUSBメディアを使ったりと、3本ほど試したが、いずれも結果は同じだった。

検証2:セキュアブートを無効化する

 どうやら、セキュアブート関連のエラーのようなので、UEFIでセキュアブートを「Disabled」で無効化して試してみた。今度は、上記のエラーは発生しなかったものの、起動時のロゴ画面で動作が停止し、そのまま、いくら待ってもブートしなかった。

セキュアブートを無効にしたがブートしなかった

検証3:メディア作成環境を変えてみる

 上記USBメディアは、x86環境で作成したため、その影響もゼロではないのかも? と考え、念のためYoga Slim 7x Gen9のArm環境で、Arm版Rufusを使ってメディアを作成してみた。しかし、結果は同じ。セキュアブートオンで「EFI USB Device boot failed」、セキュアブートオフで起動不可となった。

検証4:そもそもUSBブートしない?

 かたくなにUSBでブートしないので、まずはUSBブートそのものが可能かどうかを確認した。Yoga Slim 7x Gen9上で、Windowsのメンテナンス用の「回復ドライブ」を作成し、このUSBメディアでブートしてみた。すると、問題なくUSBメディアからブートし、回復環境が起動した。そもそもUSBメディアでの起動はできるようだ。

 そこで、Rufusで作成したUSBメディアと回復ドライブのUSBメディアを比べてみたところ、ファイルシステムが異なる点に気付いた。Rufusで作成したメディアはNTFS、回復ドライブはFAT32でフォーマットされている。どうやら、この差が影響していると考えられる。

起動できないRufus作成メディアはNTFS
USBブート可能な回復ディスクはFAT32

 そこで、RufusでFAT32を指定してUSBメディアを作成しようとしたのだが、設定画面の[ファイルシステム]で[NTFS]以外が選択できない。

 x86版のWindows 11もそうだが、ISOイメージに含まれるファイルの中に4GBを超えるもの(具体的には約4.6GBの¥source¥install.wim)が含まれており、この影響でNTFS以外選択できなくなっているのだ。

RufusではNTFSしか選択できない
install.wimのサイズが4GBを超えている

手動でFAT32のArm版Windows 11インストールUSBメディアを作る

 というわけで、Rufusでのメディアの作成をあきらめ、手動でFAT32フォーマットのインストール用USBメディアを作成することにした。

 なお、この作業は、x86版Windows 11で実行した。Arm版Windows 11のクリーンインストールが必要になるのは、故障やSSD交換など、Arm環境が使えないケースも考えられる。その際に、同じArm環境を用意しなければならないと厳しいので、x86環境で作成したメディアでもクリーンインストールできることを確認したかったのが、その理由だ。

手順1:作業用フォルダーにファイルをコピーする

 まずは、作業環境を作成する。ダウンロードしたArm版Windows 11のISOイメージをエクスプローラーからマウントし、作業用フォルダーにすべてのファイルをコピーしておく。隠しファイルなどはないので、そのまま全選択してコピーすればいい。

今回は、「E:tmpUSB_SOURCE」を作業フォルダーとして、ここにすべてコピーした

手順2:DISMコマンドで分割する

 続いて、ターミナルを管理者権限で起動。「install.wim」がある「sources」フォルダーに移動する。今回の例であれば、「cd ¥tmp¥USB_SOURCE¥sources」で移動できる。その後、以下のコマンドを入力し、install.wimファイルを、3GBごとに分割する。

Dism /Split-Image /ImageFile:.install.wim /SWMFile:.install.swm /FileSize:3000

 この操作により、「install.wim」ファイルが「install.swm」と「install2.swm」の2つのファイルに分割される。分割されたら、元の「install.wim」ファイルは不要なので削除しておく。

ファイルを分割したら、4GB越えの元ファイル「install.wim」は削除しておく

手順3:FAT32のUSBメディアを用意する

 続いて、USBメディアを用意する。PCに接続後、エクスプローラーからドライブを選択して、FAT32でフォーマットしておけばいい。

USBメディアをFAT32でフォーマットしておく

手順4:USBメディアをブート可能に設定する

 メディアが用意できたら、同じく、ターミナルを管理者権限で起動し、以下のコマンドを実行する([x:]はUSBメディアのドライブを指定)。これでインストーラーを起動できるようにマスターブートコードを書き換えることができる。

bootsect /nt60 x:
USBメディアのドライブを指定して、マスターブートレコードを書き換える

手順5:USBメディアにファイルをコピーする

 最後に、分割したinstall.swmとinstall2.swmを含む(元のinstall.wimは不要)Windows 11のインストーラーファイルをFAT32でブート可能にしたUSBメディアにコピーする。すべてのファイルを選択してコピーすれば完了だ。

作業フォルダーのファイルをすべてUSBメディアにコピーする

クリーンインストール実行

 準備ができたら、USBメディアを装着し、PCを起動すればいいのだが、冒頭でも触れたように、注意が必要なのはネットワーク接続だ。

 今回のArm版Windows 11のインストールメディアには、2024年6月に発売されたArm版Copilot+ PCに搭載されているWi-Fi(Qualcomm FastConnect 7800)向けドライバーが含まれていない。このため、初期セットアップでネットワーク接続が要求される。

 最近のWindows 11対応PCは、ドライバーやファームウェアなどもWindows Update経由で配布するケースが多いため、セットアップ時にネットワークを認識しないと、詰んでしまう。

Wi-Fi(FastConnect 7800)が認識されないため、ネットワーク接続が要求される

 上記の手順5でUSBメディアにFastConnect 7800用ドライバーもコピーしておく手もあるのだが、今回のLenovo Yoga Slim 7x Gen9のように、サポートサイトにWi-Fiドライバーが公開されていない場合もある。

USBメディアにWi-Fiドライバーを含めるなど、この画面でドライバーをインストールできればWi-Fi接続でもセットアップできる。今回はDellが公開しているFastConnect 7800用ドライバーを利用した

 このため、今回は、有線LANアダプターとしてPLANEXの「UE-1000T-U3(ASIX AX88179搭載)」を接続した。USB Type-A接続の製品なので、USB Type-Cからの変換コネクターが必要だが、Windows 11にドライバーが含まれているため、セットアップ時でも問題なく認識する(この画面で装着しても大丈夫)。なるべく「枯れた」有線LANアダプターを使うことをおすすめする。

Windows標準ドライバーで動作するUSB接続LANアダプターを利用。Type-Cで接続する場合は変換アダプターも必要

 ネットワーク接続さえ確保できれば、あとは通常のWindows 11のインストールと同じだ。セットアップ中のWindows Updateでドライバーが適用されたと推測されるが、セットアップ完了後は、以下の画面のように不明なデバイスなしでインストールが完了した。

すべてのデバイスが認識した状態でセットアップできた

思った以上の苦労

 というわけで、Arm版Windows 11をクリーンインストールしてみたが、思った以上に苦労した。ブート時のエラーは、筆者宅の環境というか、特定機種での現象のように思えるが、同じような現象に悩まされている人の参考になれば幸いだ。

 とりあえず、これで、いつでもクリーンインストールできる安心感が得られたのは大きい。

 もちろん、メーカーのリカバリーメディアを使った方が話は早いのだが、メーカーによっては1回しかリカバリーメディアが作れないなどの制約があるため、いざというときでも、クリーンインストールという汎用的な方法が残されている安心感は大きい。

 今後、リコールのテストでInsiderに登録することを考えると、チャネルの切り替えが必要になる可能性もある。そんなときにもクリーンインストールが活躍することになりそうだ。

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清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。YouTube「清水理史の『イニシャルB』チャンネル」で動画も配信中