第16回:速度だけを強調したルーターはもう古い
NetVolante RT56vに見るルーターの新しい方向性



 最近のルータは、低価格化、高速化が進むのみで、個性的な製品が出てこない。もはやルータも没個性の時代か? などと考えはじめていたところ、VoIP、VPNなど他社ルータには見られない新機能を搭載したヤマハの「NetVolante RT56v」が登場した。今回、7月下旬の発売を前に試作機を借りることができたので、早速、VoIP、VPNなどの新機能を中心にレビューをお届けしよう。





数多くの新機能を搭載

 ヤマハのNetVolanteと言えば、ISDNルータの時代から通好みのルータとして知られていた製品だ。高い安定性、コマンドを駆使することであらゆる設定が可能な柔軟性、セキュリティレベルを選択するだけで7段階の設定が可能なファイアウォール機能など、その特徴は多岐にわたっており、本格的な機能を持つルータとしてハイエンドユーザーに愛用されてきた。

 今回登場したRT56vは、このような従来のNetVolanteの特徴を受け継ぎながら、さらに進化した製品だ。ほぼ同じ仕様となる製品としては、すでにRTA55iが店頭販売開始されているが、RTA55iはISDN回線に対応することで、ISDNによる音声通話やISDNをバックアップ回線として利用できるなど、ビジネスユーザー向けの製品となっている。これに対して、RT56vはISDN機能を省くことで、よりコンシューマーユーザーに身近な製品構成となっているのが特徴だ。

 RT56vは、基本的にはRTA55i、そして前モデルとなるRTA54iの機能を踏襲しているが、さらに以下のような新機能を搭載している。中でも注目したいのは、最後の2つの機能だ。VoIP、VPNなどの機能は、他社製のコンシューマー向け製品にはあまり見られなかった機能だ。これまで企業向けなどのハイエンドルータのみでサポートされていたこれらの機能が、手軽に利用できるメリットは大きい。今回は、この2つの機能を中心に実際の使用感をレポートしていこう。

  • スループットの向上
    12Mbpsのスループットを実現しADSLや10MbpsのFTTHに対応
  • ファイアウォール機能の強化
    従来の静的/動的フィルタに加え不正アクセス検知機能を搭載
  • Universal Plug and Play(UPnP)対応
    Windows Messengerを利用可能
  • VoIP対応
    SIPを採用することでNetVolante同士でのインターネット電話が可能
  • VPN対応
    PPTPサーバー機能を搭載し、外部からの安全なリモートアクセスを実現





NetVolante同士でのインターネット電話が可能

 今回のRT56vで、ひときわ目を引くのがVoIP(Voice Over IP)機能だ。いわゆるインターネット電話だが、これは、現在、かなり高い注目を集めているインターネット関連のキーワードのひとつだ。すでに、いくつかの事業者によってサービスが開始されているので、すでに利用したことがある読者も多いだろう。

 ただし、RT56vのインターネット電話機能は、一般的に呼ばれている「インターネット電話」とは少しイメージが異なる。もちろん、技術的にIPを使って音声を伝送するという技術面では同じだが、一般電話への通話はサポートされておらず(アナログ回線に接続し、本体をスルー状態にすれば通常の回線で通話は可能)、利用環境が限定されている。RT56vでインターネット電話機能を使うための要件は以下の通りだ。

  • ADSLなどのブロードバンド環境を利用していること
  • グローバルIPアドレスが提供される環境で利用すること
  • 発信者と着信者の両方の環境にNetVolanteシリーズが設置されていること
 つまり、基本的にNetVolante同士での通話となる。異なる2拠点にRT56vを設置することで、双方のRT56v同士でVoIPの機能が利用可能になり、その間でインターネット電話での無料通話が可能となるわけだ。このため、イメージ的には「電話」というよりは、2拠点間を音声で結ぶ「ホットライン」に近いものと言える。各国の首脳同士が重要な会話をするときには、ホットラインと呼ばれる専用電話を利用するが、これと同じような機能が利用できることになる。

 利用環境が限定されることで、残念に思う読者もいるかもしれない。それこそ、通信事業者が提供しているようなインターネット電話を使いたいユーザーにとっては、趣旨が違うものとなってしまうだろう。しかし、この方式にもメリットが存在する。基本的にNetVolanteシリーズを購入すれば利用できる機能なので、利用登録や基本料金は一切かからない。もちろん通話も無料だ。また、インターネットが利用可能な環境であれば利用環境は問わないので、どのような通信事業者を利用している場合でも利用可能となる。

 このため、地方に住む両親との会話に利用する、遠距離恋愛などに利用する、本社と支店を結ぶような内線通話的な利用をするなど、利用環境が明確になっている場合は、即座に、しかも手軽にインターネット電話環境を構築することができる。「インターネット電話」とひとくくりにまとめてしまうと、一般電話への通話が不可欠のように思われてしまうかもしれないが、このようなホットライン的な利用方法もニーズはある。この点が理解できれば、RT56vの存在意義も見えてくるだろう。





音声は非常にクリア

 さて、実際の利用方法だが、まず物理的な接続を行なう。RT56vの本体には3つのアナログポートが搭載されているので、ここに一般の電話機を接続しておく。続いて、ブラウザなどで設定ページを開いて、インターネット電話の設定を行なう。アナログポートの設定でインターネット電話機能を利用可能にし、続いて「ネットボランチDNS」サービスの登録を行なえばよい。


背面には、WANポートと4ポートのハブ、そしてLINEポートとTEL1~3ポートが装備される。インターネット電話を利用する場合は、このTELポートに一般の電話機を接続すればよい。なお、LINEにアナログ回線を接続すれば、一般の電話の利用も可能となる

 このネットボランチDNSが、インターネット電話の肝となる機能だ。RT56vに電話機を接続しただけでは、相手の番号として何を指定すればよいのかわからない。IPアドレスを指定することでも電話をかけることが可能だろうが、それでは使いにくいうえ、IPアドレスが接続ごとに変わる場合などに対処できない。そこで、いわゆるダイナミックDNSサービスと同様の機能となるネットボランチDNSサービスを利用することになる。ここにユーザー名や自分のIPアドレスを登録すると、インターネット電話用の電話番号が発行されるので、この番号をダイヤルすればよいわけだ。

 実際に電話をするときは、発行された番号を「##」に続けてダイヤルする。すると相手先のRT56vに接続された電話機が鳴るので、通常の電話と同じように受話器を上げることで通話が可能となる。実際に筆者の自宅と編集部の間で利用してみたが、音質は非常にクリアで通常の電話とほとんど区別できないレベルだった。また、音声通話中にインターネットに接続しても音声が途切れるなどの不具合はなかった。ちなみに、テストに利用した回線は両方ともADSLで、自宅側は下り2Mbps、上り800kbps程度の速度、編集部側は下り4Mbps、上り1Mbps程度の速度の環境となっている。音声は64Kbps無圧縮で転送されているので、それほど通信速度が高くない環境でも十分に実用範囲だろう。


インターネット電話を利用するには、アナログポートに接続した電話機の設定が必要。「インターネット電話を利用する」に設定し、電話ユーザー名を登録する

インターネット電話の肝となる「ネットボランチDNS」サービス。電話ユーザー名やIPアドレスがヤマハのサーバーに登録されることで、電話番号が割り当てられる

 ただし、インターネット電話関連の設定項目がいくつかに分散しているうえ、独自の用語が多数登場するので、多少設定に迷うことも少なくない。これは、メニュー周りの複雑さはヤマハのルータに共通する欠点とも言えるので、これはもう少しわかりやすく改善してほしいポイントだ。





VPNで自宅へのリモートアクセス環境を実現

 RT56vのもうひとつの目玉となる機能が、VPNによるリモートアクセスサーバー機能だ。RT56vには、VPNサーバー機能が搭載されており、PPTPによって外部からリモートアクセスすることが可能となっている。

 設定はこちらもそれほど難しくない。接続設定の画面から、新規登録を行ない、接続の種類で「PPTPを使用したリモートアクセスVPNサーバ」を選択し、接続先の作成を進めていけばよい。ただし、作成可能なVPNにはいくつかの種類があり、リモートアクセス型に加え、LAN間接続型も存在する。企業ユーザーなどが支店間を接続した場合などはこちらを利用するとよいだろう。また、リモートアクセス型の場合、単純にユーザー名とパスワードを認証する「Anonymous」方式に加え、ユーザー名とパスワードに加えて接続相手のIPアドレス(もしくはホスト名)を認証できる「PP」方式も選択できる。接続元となるPCの利用環境が定まっていない場合は前者、固定IPアドレスなどが利用できる環境では後者と使い分けるとよいだろう。なお、どの方式も暗号化にはRC4を利用している。

 今回は、外出先から自由にアクセスすることを目的にAnonymous方式で接続を作成してみたが、Windows XPのVPNクライアントを利用して、無事に自宅のネットワークに接続することができ、テストとしてリモートデスクトップを利用してみたところ、何の問題もなく普段利用しているPCに接続することができた。

 ただし、ファイル共有を行なうためには、この他にも設定が必要となる。RT56vには、標準でLAN側のフィルタにNetBIOSを拒否する設定がなされているので、これを無効にしておかないとファイル共有を行なうことはできない。また、この設定を無効にした場合でも今度は名前解決はできないという問題もあるので注意したい。今回はテストで利用するため、VPNクライアントのTCP/IP設定でLMHOSTSを有効にすることで名前解決できるようにしたが、その設定をしない場合は「\\192.168.0.100\share」のようにIPアドレスを指定してアクセスする必要がある。このあたりは、RASなどで外部から接続する際と同じような設定が必要になるので注意が必要だろう。

 しかしながら、ファイル共有を行なうためにLAN側のフィルタを無効にすることはあまり推奨できない。リモートデスクトップなどは何の設定も変更せずに利用できるので、通常はこちらを使った方がよいだろう。


VPNサーバーの設定はウィザード形式でカンタンに行なうことができる。リモートアクセス型のVPNでは、ユーザ認証の方式なども設定することができる

今回はAnonymous方式でリモートアクセスVPNサーバーを設定した。登録したユーザー名とパスワードでの認証が可能となる。クライアントにはWindows標準のVPNクライアントが利用可能




これからのルータメーカーはソリューションを提供する時代

 このように、RT56vには、インターネット電話、VPNサーバーという他社製のルータにはない特徴を備えている。もちろん、これらは誰にでも便利な機能と言うわけではないが、その便利さが理解できるユーザーには貴重なものであり、今後、インターネットを「活用」するという段階に至ったときには大きな武器となる。

 冒頭でも述べた通り、最近のルータは速度ばかりを強調し、そのほかに個性的機能を備えない製品が多い。いわば、これらのルータは単にインターネットに接続するためだけの機器だ。もちろん、ルータをそれだけの機器としてとらえるのも悪くはないだろう。しかし、今後は、このような単機能なルータは淘汰されていくと予想できる。ユーザーにインターネットを活用させるための具体的な方向性を示し、それを実現するための機能をしっかりと備えていかいないと生き残っていくのは難しいだろう。

 そういう意味では、今後、ルータメーカーは単なるネットワーク機器メーカーではなく、ルータを起点としたインターネットソリューションを提供するベンダーとして生まれ変わるべきだ。ブロードバンド、常時接続環境を使えば、こんなに便利なことができる。それを実現するために、このような製品を開発しました。というしっかりとした方向性をユーザーに示すべきだろう。

 もちろん、RT56vにも欠点はある。価格が高い、スループットが低いために100MbpsのFTTH回線を活かしきれない、メニュー周りが複雑という点などだ。しかし、RT56vは、インターネット電話やVPNで、このようなひとつの方向性を示した良い例だと言える。これは、ぜひとも他社にも見習って欲しいポイントだ。インターネット、そしてブロードバンド環境をどのように活用できるのかをぜひとも我々に提案して欲しいところだ。


関連情報

2002/6/25 11:22


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。