第86回:続々と登場するSuper A/G対応機
無線LANは実効40Mbpsの世界に到達か?



 昨年末、アイ・オー・データ機器から、無線LANルータ「WN-APG/BBR」向けとなるSuper A/G対応のベータ版ファームウェアが公開された。果たして、その実力はどれほどのものなのだろうか? また、メーカーのご厚意により、同時にNTT-ME製「MN-WAP54g」用の試作版Super G対応ファームウェアもお借りすることができた。続々と登場するSuper A/G対応製品の実力を再度、検証してみる。





安価な上に高速なアイ・オーの「WN-APG/BBR」

WN-APG/BBR

 現段階では未だベータ版だが、今回、Super A/G対応ファームウェアが登場したことにより、アイ・オー・データ機器の「WN-APG/BBR」は、非常に魅力的な製品になったと言える。もともと、IEEE 802.11a/b/g同時通信に対応した無線LANルータとしては、かなり低価格(無線LANカードセットモデルのWN-APG/BBR-Sで実売25,000円前後)な製品となっており、それだけでも十分に魅力的ではあったが、今回のSuper A/G対応で速度というひとつの弱点を克服することになったからだ。

 実際、以前に本コラムで、WN-APG/BBRとバッファローのWHR2-A54G54のIEEE 802.11a/b/g同時通信機を比較した時は、WN-APG/BBRのパフォーマンスはWHR2-A54G54と比較してワンランク劣るものであった。もちろん、実効速度で20Mbps前後もあれば、実用上は十分と言えるが、より速い製品がほかにあるのであれば、そちらを選ぼうと思う人も少なくなかったはずだ。

 しかし、今回のSuper A/G対応ファームウェアで、この評価は完全に逆転してしまった。WN-APG/BBRは、もはや単に安いだけの無線LANルータではなく、速度的にも最速と言っていいほどの実力を備えている。


Super A/G対応ファームウェア適用後のWN-APG/BBRの設定画面。高度な設定の中で、Super A/GのON/OFFが可能になる

 実際、Super A/G対応ファームウェアで、FTPによる速度計測をしたのが以下の表だ。驚くべきは、テキストファイル(TEXT1)の転送で、実効40Mbpsを計測したことだ。これまで筆者がテストした製品の中でもっとも高速だったのは、NECアクセステクニカのAtermWR7600H(同じくSuper A/G対応ファームウェア利用時)で、テキストファイルの転送で33Mbps前後であったが、これをはるかに凌ぐ結果を叩き出した。FTPの計測結果画面に「5000KB/s」を超える値が表示されたときは、何かの間違いかと疑ったほどだ。

WN-APG/BBRテスト結果
製品名無線規格TEXT1
(20MB)
TEXT2
(24MB)
JPEG
(3.31MB)
MPEG-2
(110MB)
PDF
(3MB)
ZIP
(20MB)
WN-APG/BBRIEEE 802.11a40.46Mbps34.65Mbps26.94Mbps27.35Mbps36.33Mbps27.60Mbps
IEEE 802.11g38.87Mbps31.20Mbps26.15Mbps26.91Mbps33.57Mbps25.05Mbps
※TEXT1はすべての文字を「0」で埋めたテキストファイル
※TEXT2は本コラムの原稿をコピーして24MBにまでサイズを拡大したテキストファイル
※サーバーにはPentium4 3.02GHz、RAM1GB、HDD160GBのPC(XP Pro)を

 クライアントにはCeleron 1.6GHz、RAM512MB、HDD40GBのPC(XP HE)を利用

※FTPサーバーには、3comの3CDaemonを利用
※FTPクライアントには、WindowsXPのコマンドを利用
※すべて128bitのWEPを設定して計測
※クライアント側ではMTU/RWINのパラメータを変更

 サーバーではこれに加えてAFDのレジストリ値も変更済み

※上記条件は以下すべてのテストにて共通

 ただし、40Mbpsオーバーの値を計測できたのは、表中で「TEXT1」と記載しているファイルを転送した場合のみだ。TEXT1は20MBのサイズのテキストファイルだが、中身をすべて「0」で埋めてあるため、Super A/Gの圧縮効果が極めて高く出る。このようなファイルを現実的に扱うことは考えにくい。

 しかしながら、JPEGやMPEG-2、ZIPといった圧縮があまり効かないケースでも26~27Mbps、圧縮が効くケースなら35Mbps前後を計測できたのは立派だ。メーカーが公表している最大40Mbpsという速度もあながち嘘ではないが、実際には実効で35Mbps前後と考えるのが妥当だろう。





あとは使いやすさの追求に期待

 価格と速度、どちらの面を見ても、他社製品を圧倒する実力と言えるWN-APG/BBRだが、使いやすさという面においては、まだ洗練されているとは言い難い面もある。特に、メーカー側として意識してほしい点はセキュリティの設定だ。

 たとえば、NECアクセステクニカの製品などは、ユーティリティの設定手順の中でユーザーにWEPの設定を行わせるように配慮しているし、あらかじめWEPの設定を登録済みの状態で出荷している製品などもある。また、バッファローでも、まだ対応製品は少ないが、「A.O.S.S.」という手軽にセキュリティの設定ができる仕組みをユーザーに提供している。

 WN-APG/BBRでもWPAへの対応など、機能的に不足している訳ではないのだから、これをいかにユーザーに使わせるかという工夫が必要ではないだろうか。本製品はブラウザを利用した初期設定をウィザード形式で実行できるが、この中にWEPの設定画面をワンステップ追加し、そこにユーザーのセキュリティ意識を喚起させるメッセージを加えるだけでも効果的だと考えられる。こういった工夫があれば、個人的にもユーザー層を問わずおすすめできる製品になるだろう。

 とは言え、本コラムの指摘やユーザーからの声が挙がるたびに、すばやく製品を改善してきた実績がある同社なので、このあたりもいずれ改善されていくことだろう。





柔軟な運用が可能な「MN-WAP54g」

 今回、もうひとつ、Super Gに対応したファームウェアを評価することができた。NTT-ME製の802.11g対応無線LANアクセスポイント「MN-WAP54g」用の新ファームウェアだ。公開前のベータ版であるため、参考程度に考えてほしいが、こちらの結果も決して悪くはない。


MN-WAP54g
MN-WAP54gテスト結果
製品名無線方式TEXT1
(20MB)
TEXT2
(24MB)
JPEG
(3.31MB)
MPEG-2
(110MB)
PDF
(3MB)
ZIP
(20MB)
MN-WAP54gIEEE 802.11g30.13Mbps27.02Mbps23.73Mbps23.45Mbps27.52Mbps24.54Mbps

 WN-APG/BBRの結果を見た後だけに、さすがに見劣りする部分もあるが、IEEE 802.11gのみに対応したエントリー向け製品であることを考えれば妥当な数値だ。実効速度で最大30Mbps、平均しても25Mbps前後の速度を実現している。すでに有線ルータを利用している場合などは、この製品を選ぶ価値も高い。

 この製品の特徴は、速度よりもむしろ柔軟な運用ができる点だろう。通常はアクセスポイントとして動作するが、設定を変更することにより、APクライアント(Ethernet接続の子機)、AP間通信(複数APとの通信も可能)、リピータとしても動作する。つまり、必要に応じて、離れた場所にあるLAN同士を接続したり、ネットワーク家電などを含めた無線ネットワークを構築したいケースなどにも対応できるわけだ。


MN-WAP54gの設定画面。通常のアクセスポイントの他に、複数のモードを切り替えて利用できる

 今後、無線LANはPCでの利用に加えて、テレビやHDD&DVDレコーダー、ゲーム機などで利用されるシーンが多くなってくる。こういった将来的な環境の変化までも考慮すれば、この製品を選ぶ価値は高いと言えるだろう。場合によっては、とりあえずアクセスポイントとして利用しておき、アクセスポイントを買い換えたときなどに、MN-WAP54gをクライアント用に設定を変更して使い続けるといったこともできる。製品をなるべく長く使うということを考えれば、そのメリットも見えてくるはずだ。


無線LANは速度競争の時代に突入か?

 以上、今回、新たにSuper A/GやSuper Gに対応した2製品をテストしたので、前回、テストしたNECアクセステクニカのAtermWR7600Hも加えて、その速度をまとめてみた。



 全体として見た場合でも、アイ・オー・データ機器のWN-APG/BBR(IEEE 802.11a)が頭1つ抜けた速度となっていることが確認できる。ただし、圧縮が効かないファイルではAtermWR7600Hとほぼ同等の値となっている部分もあり、一般的な利用においては、その性能は互角と言ってもいいだろう。

 むしろ注目すべきなのは、参考値として掲載したバッファローのWHR2-A54G54だ。採用チップが異なるため、Super A/Gには対応していないのだが、アイ・オー・データ機器やNECアクセステクニカの製品と互角に渡り合うだけの速度を実現している。転送するデータの違いによる速度のバラつきもほとんどない。

 なお、今回は長距離や遮蔽物がある環境での利用も想定して、筆者宅の1Fと2Fでのテストも実施してみたが、ここで優秀な結果を収めたのもWN-APG/BBRだった。IEEE 802.11gでは多少、速度の落ち込みが目立つが、IEEE 802.11aではほとんど速度が低下していない。1Fと2Fというような上下方向の通信においては、外部アンテナの角度が調整できる恩恵がやはり大きいのだろう。



 同様の理由で、MN-WAP54gの特性も良く、こちらもほとんど速度の落ち込みは見られなかった。全体的な結果からもわかるように、筆者宅ではIEEE 802.11gより、IEEE 802.11aの方が高い性能を示す傾向にあるが(おそらく802.11gは干渉などで電波環境があまりよくない)、そんな中でも高い結果を残したMN-WAP54gの性能は高く評価したいところだ。ただし、この結果は、あくまでも筆者宅の結果なので、別の環境であれば、また異なった特性が出る可能性があることを付け加えておく。

 このような結果を見る限り、無線LANの高速化はまだしばらく続きそうな印象を受けた。バッファローの製品のように圧縮機能を使わずとも高速な実効速度を実現できる点を考えれば、Super A/G側もフレームバーストなどの機能の最適化によって、さらに性能を高められる可能性も高い。また、Super A/G非対応(Atheros以外のチップ採用機)でも、圧縮機能を取り入れたり、これとはまったく別の方法でさらなる高速化を実現してくる可能性も否定できない。

 もちろん、実効速度を考えれば、今のままでも十分に事足りるが、もっと高い性能の無線LAN製品が欲しい場合は、今後の動向を見てから実際に製品を購入しても遅くはないかもしれない。


関連情報

2004/1/20 11:09


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。