清水理史の「イニシャルB」

「高性能なWi-Fiルーターは電波が強い」は本当か? 法律と技術から読み解くWi-Fiの現実
2026年4月20日 06:00
「高性能なWi-Fiルーターは電波が強い」「外付けアンテナだから電波が飛ぶ」「海外仕様だからハイパワー」――。Wi-Fiに関して、こんな話を耳にしたことがあるかもしれない。
しかし、実際には日本国内で流通するWi-Fiルーターの「電波の強さ」には、明確な「限界」が存在する。Wi-Fiに関連する法律、そして日米の比較データから、Wi-Fiの出力にまつわる噂を検証していこう。
法律に定められた「天井」
「電波が強いWi-Fiルーターはどれか?」。
結論から言えば、電波の送信出力に関して、メーカーやモデルごとの差はほとんどない。もちろん、若干の差はあるが、日本国内で販売されているWi-Fiルーターの電波出力は法的に「ほぼ横並び」というのが現実だ。
これは、日本の「電波法」および総務省令である「無線設備規則」によって、Wi-Fi機器が「小電力データ通信システムの無線局」として厳格に定義されているためだ。特に無線設備規則の「第49条の20」では、2.4GHz帯、5GHz帯(W52/53/56)、6GHz帯の各周波数帯において、送信出力の上限(技術基準)が明確に定められている。
Wi-Fi 7の6GHz帯を例に見てみよう。Wi-Fi 7の6GHz帯は、屋内外どちらでも利用可能なモバイル用途向けの「VLP(Very Low Power)」と屋内専用の「LPI(Low Power Indoor)」の2つの規定があるが、このうちWi-Fiのアクセスポイントに適用されるLPIは、空中線電力(アンテナに入力する電力)および最大等価等方輻射電力(アンテナから出力される電力)が以下のように定められている。
LPIの空中線電力(1MHzあたりの平均)
20MHz → 10mW
40MHz → 5mW
80MHz → 2.5mW
160MHz → 1.25mW
320MHz → 0.625mW
LPIの最大等価等方輻射電力(1MHzあたり)
20MHz → 10mW
40MHz → 5mW
80MHz → 2.5mW
160MHz → 1.25mW
320MHz → 0.625mW
勘のいい人は気づくかもしれないが、これらの値は掛け算すると全て200mWになる。6GHz帯のLPIの場合、この200mWを超えることはできないわけだ(他の周波数帯も基本的に同じだが、5GHz帯のW56のみ最大1Wまで可能なので、出力を上げたいならむしろチャネル選択が重要となる)。
数千円の入門機だろうが、10万円近くにもなる超高級モデルだろうが、日本で「技適」(技術基準適合証明)を取得して販売されている製品は、この制限を逃れることはできない。つまり、「高いルーターほど強力な電波を発射している」ということは基本的にないと言える。
なお、面積(トータルパワー)が最大約200mWで一定なので、20MHz幅と320MHz幅を比べたときに、1MHzあたりの電力は10mW(20MHz幅)対0.625mW(320MHz幅)で16:1になる。よく、「320MHz幅は超高速だが近距離向け」「20MHz幅は低速だが遠くまで届きやすい」と言われるが、これはトータルが200mWに制限されているために発生する現象となる。
外付けも内蔵も出力の上限は同じ
「巨大なアンテナが何本も立っているモデルの方が、電波が飛びそう」というのも、よく聞く話だ。
前述したように、Wi-Fiの電波の出力は、アンテナに入力する空中線電力とアンテナから出力される等価等方輻射電力(E.I.R.P.とも呼ばれる)で規定されているが、これには次のような関係がある。
もちろん、大きなアンテナを採用して「アンテナ利得」を高めれば、計算上は電波の出力を上げることはできる。ただし、前述したように、送信できる電力の最大値(最大等価等方輻射電力/最大E.I.R.P.)が規定されている以上、これを超えることはできない。このためメーカーは、高性能なアンテナを採用する場合、法規制に収めるために、アンテナに入力する電力である「空中線電力」側を絞る調整が必要になる。
実際の製品の空中線電力がどれくらいなのかは、技適の情報を検索すると簡単にわかる。
この値を製品ごとに比べてみるとなかなか興味深い。下表は、ASUSの「GT-BE19000AI(発売予定)」、NECプラットフォームズの「Aterm 19000T12BE」、バッファローの「WXR18000BE10P」の空中線電力をまとめたものだ。値は、「1MHzあたりの電力→帯域幅をかけたトータルの電力」という記述をしている。
バッファロー WXR18000BE10Pは、外付けの巨大なアンテナを利用できる分、空中線電力は81mW前後と控えめ。これに対して、内蔵アンテナのAtermは117mW前後とバッファローよりも空中線電力が高くなっている。アンテナの形状を考慮して入力される電力に違いがあることがわかる。
ちなみに、ASUS GT-BE19000AIは巨大な外付けアンテナを搭載しているため、アンテナでも十分な利得が期待できそうだが、空中線電力が127mW前後と、アンテナ内蔵のAtermよりも高い。上限の200mWギリギリまで攻め込んだ調整をしているのではないかと想像できる。
つまり、アンテナで稼いだ分だけ入力する電力を抑える必要があるため、トータルのパワーは基本的に外付けアンテナだろうが、内蔵アンテナだろうが変わらないことになる。
ただし、外付けアンテナは、受信(PC→アクセスポイントの上り方向)で有利なうえ、指向性の調整やMIMO(複数アンテナによる通信)効率、さらには「アンテナ間の物理的距離」を確保することで通信を安定させるという実装面でもメリットがある。
日米比較――理論上の到達距離は「2.24倍」の差
これまでの2つの説の「ない」「変わらない」という結論と異なり、最後の「海外モデルのルーターは電波が強いのか?」という話は、基本的にその通りと考えていい。
以下は、米国(FCC)の6GHz帯の基準だ。日本では許可されてないSPモードが利用可能なほか、LPIに関してはアクセスポイント向けとクライアント向けで規定が分かれている。
SPモードは、米国でもAFC(Automated Frequency Coordination)が必要で、スマホアプリでGPSなどの位置情報を取得し、許可された地域でのみ有効化される機能となるが、何とトータル36dBm(最大4W相当で23dBm/MHz。20MHz幅時に4W出せるが、40MHz以上でも上限は4W)もの出力が許可される。
さて、このうちのLPI(アクセスポイント向け)の値を日本と比較したのが以下の表になる。
理論上、自由空間における電波の到達距離は「電力の平方根」に比例するため、米国モデルは日本の2.24倍の距離まで届くことがわかる。もちろん、理論上の話で、実際は遮蔽物などの影響も関係するが、基本的には、これが「海外モデルは飛ぶ」と言われる理由となる。
こうした値を見ると、米国モデルを日本国内で使用することが厳格に禁止されていることにも納得ができる。
ただし、LPIで比較した場合、米国モデルは、トータル30dBm(1W)と5dBm/MHz(3.16mW/MHz)の制約の両方を満たす必要があるため、帯域幅が狭い状況だと、日本のモデルの方が有利なケースがある。具体的には、80MHz幅以上なら米国モデルが有利だが、20MHz幅(米国は63.2mW)や40MHz幅(126.4mW)に関しては、日本の規制の方がトータルのパワー(200mW)で上回ることが可能だ。
理由を知って賢く選ぼう
以上、Wi-Fiの「送信出力」についての疑問を法律や技術的な観点から解説した。基本的に機種ごとの「電波の飛び」は同等となるうえ、外付けアンテナが有利なのは別の理由で、外付けアンテナだから「電波が飛ぶ」ということもないと考えていい。
米国モデルに関してはうらやましい限りではあるが、厳しい「出力制限」があるからこそメーカーが設計を工夫しているうえ、アンテナ内蔵の製品が主流になっているのも、もちろん市場のニーズが高いからだが、技術的にそこまで出力にこだわる必要がないという理由もあるだろう。
なので、電波が強いかどうか、というよりは、使いやすさや付加的な機能などを基準に製品を選ぶ方がよさそうだ。









