第88回:「無線LAN倶楽部」のVoIPトライアルを体験
携帯型電話端末の登場でIP電話はどう変わるか?



 NTT-BPが運営する無線LAN倶楽部で、2003年12月16日からVoIPトライアルが開始された。このサービスではPCやPDAなどを使った音声通話が提供されるが、中でも注目なのが、携帯型の電話端末「WiFiPhone」を使った音声通話が可能な点だろう。同社から端末をお借りすることができたので、さっそく外出先と自宅にてテストしてみた。





WiFiPhone

 一般加入電話からの着信や携帯電話への通話が可能になるなど、ここに来てIP電話サービスはかなり使いやすいものになってきた。もちろん、ISDNのような音声通話サービスと比べれば、複数電話番号の割り当てなど、まだまだ至らない点もあるが、普通の電話として利用するには、申しぶんのないサービスになってきたと言っても差し支えないだろう。

 しかし、利用場所が家庭内に限られてしまうことを考えると、IP電話は一般加入電話(固定電話)を置き換えるサービスにすぎないのが現状だ。いくら料金的なメリットがあるとは言っても、場所を問わずに利用できる携帯電話などと比べると、まだまだその魅力は乏しいだろう。理想を言えば、IP電話の料金的なメリットと携帯電話の広範囲な利用を両立させたサービスが望まれるところだ。

 そんな理想的なサービスへの発展を期待させるのが、今回、NTTブロードバンドプラットフォーム(NTT-BP)が試験サービスを開始した無線LAN倶楽部のVoIPトライアルだ。このサービスでは、音声通話用に携帯型の電話端末「WiFiPhone」を2月下旬に提供予定で、これを利用することで、無線LAN倶楽部のエリア内での通話が可能になっている。

 WiFiPhoneには、IEEE 802.11b準拠の無線LANモジュールが内蔵されており、これを利用して無線LAN倶楽部のアクセスポイントに接続。その後は一般的なIP電話と同様に、SIPサーバーに接続することで音声通話を実現している。割り当てられる電話番号は「03」から始まる番号となっているが、ユーザーごとに割り当てた電話番号を同社のゲートウェイで管理しているため、一般加入電話や携帯電話からの着信もインターネット経由で利用できるようになっている(一般加入電話や携帯電話への発信はは有料)。

 携帯版のIP電話と言うか、無線LAN版の携帯電話と言うかは微妙なところだが、外出先でIP電話が利用できるという点においては、非常に画期的なサービスだ。





利用場所は限られる

 早速、実機を外出先に持ち出してテストしてみたが、現状では、利用場所はかなり限られるという印象だ。

 無線LAN倶楽部のサービス提供エリアは、京王電鉄、京浜急行電鉄、相模鉄道、西武鉄道、横浜市営地下鉄沿線の駅および駅周辺スポットが中心となっており、どこでも使えるようなサービス形態ではない。。「Mzone」や「BizPortal」とのローミングも可能なので、これらも加えれば、かなり利用範囲は広がるが、それでも利用可能なエリアは限られる。

 ただし、実際の使い方はカンタンだ。アクセスポイントのESS-IDやWEPキー、SIPサーバーに接続するための情報などがWiFiPhoneにあらかじめ登録されているため、電源を入れるだけで、すぐに利用することができる。実際の通話も携帯電話などとほとんど同じで、相手の電話番号をダイヤルするだけだ。

 試しに、自宅などに電話をかけてみたが、音声品質はクリアで、相手の声が聞きづらいことなども一切なかった。品質的には一般的なIP電話と遜色のないものだと考えて良さそうだ。もちろん、着信も可能で、手持ちの携帯電話からWiFiPhoneの番号に電話をかけてみたところ、こちらも正常に着信し、通話することができた。


渋谷区初台にあるオペラシティー2Fにて通話テストを行なった。無線LAN倶楽部の対応エリアであることを示す目印などを見つけることができなかったのだが、あたりをしばらく歩いているうちにアクセスポイントに接続され、通話可能になった

携帯電話からの着信も無事に受けることができた。外出先で利用しているとは思えないほど、音質はクリアであった

 なお、今回のテストは京王線初台駅の近くにあるオペラシティー2Fにて行なったのだが、同様のテストを新宿駅西口(京王線側)にて行なったときは、アクセスポイントに正常に接続することができなかった。原因は不明だが、新宿駅西口のアクセスポイントが正常に動作していないのではないかと推測される(編集部注:2月下旬開始予定のWiFiPhone試験サービス時には利用可能になる見込み)。





自宅や他事業者のホットスポットでも利用可能

 WiFiPhoneの特徴としては、無線LAN倶楽部のスポットの他に、自宅でも利用できる点も挙げられる。そこで、試しに自宅でも利用してみたが、通話自体は問題なく可能だった。WiFiPhoneでは、ESS-IDやWEPキーをユーザーが自由に変更することが可能となっているので、これを自宅のアクセスポイントの情報に変更するだけで、外出先と同様に音声通話が利用できるわけだ。


ESS-IDやWEPの設定などを変更可能。自宅にあるアクセスポイントの情報を登録すれば、自宅からも音声通話を利用できる

 ただし、筆者宅の環境では、アクセスポイントへの接続は正常に行なわれるのだが、まれにSIPサーバーへの接続に失敗することがあった。いろいろ原因をしらべてみると、どうやら他事業者のIP電話用アダプタが原因のようであった。筆者宅ではNTT東日本のVoIPアダプタを利用して、ぷららの「ぷららフォン for flet's」を利用しているのだが、このVoIPアダプタが先に起動している場合、かなりの確率でWiFiPhoneでSIPサーバーへの接続に失敗した。

 WiFiPhoneで先にSIPサーバーに接続し、その後でVoIPアダプタを起動すると問題なかったため、順番によってうまくいく場合と失敗する場合があるようだ。どちらの機器もSIPサーバーに接続する際にルーターのNATを越えるための処理を行なうのだが、利用する機器や状況によっては、この処理がうまくいかないケースがあるのではないだろうか。

 また、これは事業者として推奨している利用方法ではないのだが、あくまでテストの一環として、Yahoo! BBが提供している公衆無線Lサービス「Yahoo! BBモバイル」でも試してみたところ、こちらでもWiFiPhoneが利用可能だった。他事業者の公衆無線LANサービスでSSLによる認証が必要な場合、このIDやパスワードをWiFiPhoneに登録することで、通信を確立、SIPサーバーに接続することができた。

 しかしながら、この場合、音声品質はかなり劣る印象で、ブツブツと何度も通話が切れる現象に見舞われた。加えて、SSL認証時には、SIPサーバーへの接続が確立されるまでに約5分ほどの時間が必要であった。


SSLによる認証も可能だが、認証には非常に時間がかかった。合計6ステップで行なわれるSSLの認証に、各1分程度の時間を要してしまうため、使えるようになるまでかなり待たされる

SSLの認証が成功すると、画面下にカギのマークが表示される。ここまでたどり着けば、普通に通話することが可能だ

 このように、WiFiPhoneは、自宅や他の事業者のホットスポットでの利用も不可能ではないのだが、いろいろと制約がある点には注意が必要だろう。そもそも、自宅や他の事業者のホットスポットで利用する場合、WiFiPhoneでいちいちESS-IDやWEPキーなどの情報を変更しなければならないのも面倒で、そのたびに携帯電話の文字入力と同じ要領でESS-IDなどを入力しなければならない。複数のアクセスポイントを登録することが可能で、それを手軽に切り替えられるようにならない限り、同社が提供するエリア以外での利用は現実的ではなさそうだ。





エリアの拡大と端末の改良が望まれる

 以上、さまざまな場所でWiFiPhoneを実際に利用してみたが、やはり問題になりそうなのは利用場所が限られる点だと言えそうだ。確かに外出先でもIP電話が利用できるのは便利なのだが、この電話を利用するためには、対応エリアを事前に確認し、そこまで出かけていかなければならない。着信に至っては、相手が電話をかけたときに、運良く対応エリアにいない限り、受けることすらできない。もっと対応エリアが拡大されるか、他事業者とのローミングが進まない限りは、発信専用端末として割り切って使うしかないだろう。

 また、端末の完成度も高いとは言い難い。連続通話時間は約3.6時間で、連続待受時間は約23時間と、無線LANを利用していることを考えれば電池の持ちは優秀だが、今時の携帯電話と比較するよりも家庭用電話機の子機と同等と考えていいだろう。詳しくは本サイトの特集で解説されているので、そちらを参照してほしい。

 もちろん、携帯電話と直接対決するような機器ではないのも確かであり、その点では今後、無線関係の機能を強化してほしいところだ。前述したように複数のアクセスポイントを登録できるようになれば、自宅や会社などでも手軽に利用できるようになる。また、セキュリティ機能に関しても、現状は64/128bitのWEPのみなので、AESとまでは言わないので、せめてTKIPには対応して欲しいとも感じた。

 非常に画期的なサービスではあるのだが、これによってIP電話の使い方が劇的に変わるかと言われると、サービス提供エリアの問題などを考えれば、現時点ではそこまでの期待はできそうにないという印象だ。端末、サービス内容ともに、今後の改良を期待したいところだ。


関連情報

2004/2/10 10:58


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。