第108回:ボタン1つで無線LANが安心して使える時代に
より「やさしく」進化したAtermWR6600H



 NECアクセステクニカから、IEEE 802.11a/b/gに準拠した無線LANルータ「AtermWR6600H」が発売された。従来のAtermシリーズは、どちらかというと「堅実」なイメージだったが、今回は「やさしさ」が強調された製品へと大きく変化している。注目の「らくらく無線スタート」を中心に、その実力を検証してみる。





デザインを一新したAtermシリーズ

新デザインを採用した「AtermWR6600H」

 今回発売されたAtermWR6600Hで、Atermシリーズのイメージは大きく変化させられた。これまでの同社の製品はデザインをはじめとして、豊富な機能や安定性から、「カタい」イメージが連想された。これに対して、光沢のある塗装を身にまとい、曲線によって構成されたAterm WR6600Hは、従来とは正反対にやわらかく、やさしいイメージを感じさせるデザインだ。

 PCやネットワーク家電、そして年末に登場するであろう携帯型ゲーム機など、無線LANに対応する製品が次第に増えつつある中、そろそろリビングへの進出というのを真剣に考え始めたのだろう。従来の製品に比べれば、リビングなどの生活感がある場所に設置しても違和感がないデザインに十分仕上がったと感じられる。





デザインだけでなく機能も「やさしく」進化

 もちろん、「やさしく」なったのはデザインだけではない。WR6600Hでは、その機能も飛躍的に「やさしく」なった。中でも特徴的なのは、「らくらく無線スタート」と呼ばれる新機能が搭載された点だ。

 この機能は、暗号化を含めた無線LANの設定を手軽に行なうためのものだ。同様の機能としては、バッファローが「AOSS」として先行して市場に投入しているが、多少、内容に違いはあるものの、これとほぼ同じものだと考えてもらって差し支えないだろう。通常、無線LANの接続設定を行なうには、アクセスポイントにWEPなどの暗号化設定を行ない、それをクライアント側にも設定するという手順が必要になるが、「らくらく無線スタート」では、この手順をほぼ自動化することができる。

 具体的な使い方はこうだ。まずWR6600Hを設置して電源を入れる。続いて、クライアントとなるPCにドライバやユーティリティをインストールし、無線LANカードを装着する。そして、無線LANユーティリティである「サテライトマネージャ」のメニューから、「らくらく無線スタート」を起動する(初期設定時は自動的に起動)。

 すると、音声ガイドともに画面にメッセージが表示され、親機(アクセスポイント)の「らくらく無線スタートボタン」を押すように促される。指示通りにアクセスポイント背面のボタンを長押しすると、クライアントがアクセスポイントを検出して設定を開始する。

 さらにもう一度ボタンを押すように指示されるので、アクセスポイントのランプがオレンジに変化するまでボタンを押すと、無線LANの接続に必要な設定がアクセスポイントとクライアントとの間で自動的にやり取りされ、接続が確立するというわけだ。


サテライトマネージャから「らくらく無線スタート」を起動。音声ガイドで設定方法が案内される


指示に従って、本体背面の「SET」というボタンを押す


クライアントから親機を発見できると、続けてもう一度ボタンを押すように指示される


もう一度ボタンを長押しすると、アクセスポイントとクライアントの間で設定情報がやり取りされ、暗号化を含めたアクセスポイントへの接続設定が完了する

 この設定は非常に楽だ。ユーザーは、暗号化の概念や設定方法などを一切考慮する必要がない。アクセスポイントのボタンを2回押すだけで、暗号化を含めた接続設定が完了してしまう。無線LANを初めて使うユーザーでも手軽に設定できることだろう。

 もちろん、従来の無線LAN機器でも、アクセスポイントを設置し、クライアントに無線LANカードを装着すれば、すぐに無線LANの通信が可能な製品も存在した。しかし、これらの多くは、暗号化の設定を無視しているものがほとんどだった。いわば、これまでは、「手軽さ」と「安全性」は相反する存在だったと言えるだろう。これに対して、「らくらく無線スタート」では、この相反する存在が見事に両立されている。単に手軽に設定できるだけでなく、暗号化によって安心して使えるというメリットは大きいだろう。





バッファローの「AOSS」との違いは?

 なお、前述したように、同様の技術は先行してバッファローのAOSSで実現されているが、らくらく無線LANスタートとの違いはいくつかある。最大の違いは、暗号化の設定の方法だ。AOSSでは、設定時に暗号キーを自動生成するが、「らくらく無線スタート」では本体に設定された値を利用する。WR6600Hでは機器ごとに固有の暗号キーが出荷時に設定済みとなっており(後から変更することも可能)、これがクライアントにそのまま設定される。どちらかというと、「らくらく無線スタート」によって、アクセスポイントからクライアントに設定がダウンロードするというイメージだ。

 また、AOSSでは、ネットワーク上に複数台のクライアントが存在する場合、各クライアントがサポートする暗号化方式を自動的に検出し、共通して使える最強の暗号化方式を自動的に選択できる。たとえば、最新のクライアントばかりならAES、802.11bが混在していればWEPというように、そのレベルを自動的に調整してくれるわけだ。しかし、「らくらく無線スタート」では、この機能もサポートされない。前述したように、アクセスポイントからクライアントに設定をダウンロードするというイメージのため、アクセスポイント側で設定されている暗号化方式がそのままクライアントにも適用されることになる。

 仕組みとしてはAOSSの方が高度だが、一般的なユーザーにしてみれば、この差はそれほど考慮する必要はないだろう。どちらもボタンを押すだけで、手軽に設定できるという点に変わりはない。AOSSや「らくらく無線スタート」などの機能が搭載されているか、されていないかでは大きな違いはあるが、搭載されている機能の内容までは、さほど気にする必要はなさそうだ。





無線速度も向上

 このほか、「フレッツ・スクウェア」への接続設定が自動的に登録されるなど、とにかく使いやすく進化したWR6600Hだが、性能面も大幅に向上している。

 テストとして、無線LANの速度をFTPで計測してみたのが以下の表だ。以前に、本コラムで従来機種となるWR7600Hをテストしたときとはサーバーの環境が異なるので、直接比較するわけにはいかないが、おおむね30Mbps前後と以前に比べて高い速度を計測することができた。Super A/Gの圧縮効果が出やすいテキストファイルなどでは最大48Mbpsとかなり高い速度を実現できている。おそらく、内部の処理性能がかなり向上しているのだろう。

無線方式Super A/G20MB ZIPファイル20MB TEXTファイル
GETPUTGETPUT
802.11a使用しない24.17Mbps25.89Mbps24.28Mbps25.58Mbps
使用する(圧縮なし)33.61Mbps28.76Mbps32.09Mbps28.73Mbps
使用する(圧縮あり)28.01Mbps29.23Mbps48.71Mbps41.47Mbps
802.11g使用しない22.84Mbps24.77Mbps23.94Mbps26.04Mbps
使用する(圧縮なし)30.40Mbps27.92Mbps30.54Mbps28.12Mbps
使用する(圧縮あり)27.67Mbps28.61Mbps46.50Mbps40.21Mbps
※暗号化には両機種ともAESを使用
※FTPにて計測
※サーバーにはPentium4 1.8GHz、RAM512Mを搭載したLinuxを使用(ProFTPd)
※クライアントにはCeleron 1.6GHz、RAM512Mを搭載したWindows XP Home搭載機を使用(コマンドプロンプトのFTP)

 これまでのAtermシリーズは、速度面において、他社製品に一歩譲る面があったが、ようやくこれで追いついたという印象だ。実効30Mbpsに近い値であれば、実用上も困ることはない。使いやすさに加えて、性能もワンランク向上したと言って良いだろう。

 このように、新しくなったAterm WR6600Hは、性能の向上はもちろんのこと、特に初心者にやさしい製品になったと思われる。本製品はIEEE 802.11a/b/gの切替え式となっており、同時通信には対応しないが、その分、価格が低く抑えられているので、お買得感もかなり高い(PCカードタイプ子機のセットで実売18,000円前後)。今後、IEEE 802.11a/b/gの同時通信に対応したAterm WR7800Hの登場も予定されているが、一般家庭などでは同時通信にこだわる必要性もそれほど高くないであろうし、、価格面から考えればむしろ積極的にWR6600Hをおすすめしたいところだ。


関連情報

2004/7/6 11:27


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。