398回:HP流にアレンジされたホームサーバー
「HP MediaSmart Server EX490」


 HPから個人向けのホームサーバー製品「HP MediaSmart Server EX490」が発表された。従来のWindows Home Server搭載機とは一線を画す性能と機能を搭載した製品だ。その実力を検証してみた。

ソリューションを売るHP

 HPからWindows Home Serverを搭載した家庭用のホームサーバー製品「HP MediaSmart Server EX490」が発表された。

Windows Home Serverを搭載したコンシューマー向けホームサーバー「HP SmartServer EX490」。店頭予想価格は5万円を切る程度

 同シリーズの製品は海外では数年前から発売されており、法人向けモデルの「X510 DataVault」も7月に入ってから国内での販売が開始されたが、国内のコンシューマー向け製品としては今回のHP MediaSmart Server EX490(以下EX490)が初の製品となる。

 Windows Home Server搭載機は、すでにAcerやASUSなどから製品が供給されているうえ、「Vail」と呼ばれる次期製品の登場が予告されるなど、国内への新規参入としては少々遅れ気味の印象もあるが、そこはHPならではの勝算があってのことなのだろう。

 実際、本製品は、ホームサーバー製品としては、かなり完成度の高い製品となっている。細部まで作り込まれたハードウェアの設計は単純な汎用品を組み合わせたものとは一線を画す完成度であるうえ、独自のソフトウェアによって強化された機能によって他の製品にはない高い利便性を実現している。

 これまでのWindows Home Server搭載機は、良くも悪くも「Windows Home Server」が主役の製品であったのに対して、EX490は、Windows Home Serverだけでなく、さまざまな独自ソフトウェアがその存在感をしっかりと主張している製品だ。ネットワーク上のPCに保存されている画像や映像ファイルをサーバーに自動的に収集できるようになっているうえ、映像をモバイル端末向けのフォーマットに自動的に変換したり、iPhoneなどからのアクセスも当たり前のようにできるようになっている。

 言うなれば、独自のソフトウェアを含めたトータルのソリューションを提供する製品、それがHP SmartServer EX490という印象だ。

Celeron 450/2GB RAMを搭載

 それでは、実際の製品について見ていこう。まずは、製品の概要について見ていこう。まずは、スペックだが、特長としては比較的パワフルなCPUやメモリが採用されている点が注目される。

 以下に他社の製品も含めたスペックの比較表を掲載する。これまで、Windows Home Server製品はATOM搭載機が主流だったが、本製品では2.2GHz動作のCeleron 450が採用されており、搭載されるメモリも標準で2GBとなっている。



MediaSmartServer EX490X510 Data VaultAspire easyStore H342-S5TS mini
CPUCeleron 450
(2.2GHz)
Single-Core
Pentium E5200 2.5GHz
Dual-Core
Atom D510 1.66GHz
Dual-Core/HT
Atom N280 1.66GHz
Single-Core/HT
RAM2GB2GB1GB1GB
HDD1TB×11TB×21TB×11TB×1
ベイ
(空き)
4(3)4(2)4(3)2(1)
実売
価格
4万9980円前後7万1400円前後5万9000円前後4万9800円前後

CPU-Zの実行結果。LGA775のCeleron 450を搭載。チップセットはG33と表示される

 法人向けのX510 DataVaultのPentium Dual-Core E5200に比べると、シングルコアのCeleron 450は見劣りするものの、ATOM搭載機などに比べると高いパフォーマンスを実現できている。

 以下は、Intel Core i7-860、RAM4GB、HDD1TBを搭載したPCから、EX490上の共有フォルダーをマウントしてCrystalDiskMark3.0dを実行したときの結果だ。比較対象としてASUS TSminiの結果も掲載するが、読込70MB/s、書き込み80MB/sを超える結果は他社製品を大きく引き離しており、LinuxベースのNASなどと比べてもかなり高いパフォーマンスを実現できている。

HP SmartServer EX490でのCrystalDiskMark3.0dの結果
ASUS TSminiでのCrystalDiskMark3.0dの結果

 もちろん、普段、NASとしてファイルを保存したり、バックアップをするといった使い方であれば、ここまでのパフォーマンスは必要ない。このため、Celeron 450はオーバースペックではないかという見方もできるが、このCPUパワーは後述する映像の変換機能で生きてくる。

 単純に高スペックを誇るだけでなく、あらかじめ想定された用途のために、最適なハードウェア構成を選択したという印象だ。

 なお、海外ではX510 DataVaultと同じPentium Dual-Core E5200を搭載したEX495というモデルも販売されているが、現状、国内で提供されるのはEX490のみとなっている。

秀逸なデザインだが思ったより大きいサイズ

 普段とは少々順番が前後するが、続いて外見について見ていこう。まずは、サイズだが、これは思ったより大きい。

 同社のホームページなどの写真を見ると、縦長でスリムな印象を受けるデザインだが、この写真は実にうまく撮れているもので、実際の見た目はちょっと違う。サイズは幅140mm×高さ250mm×奥行き230~250mmとなっており、奥行きと高さはほとんど同じだ。

正面と背面(左)、側面(右)

 また、奥行きのサイズ表記からもわかる通り、側面から見ると、本体は上部から底面に向けて絞り込まれるような台形となっている。正面から見るとカッコイイのだが、側面、もしくは上部から見ると、若干、シュレッダーのような印象を受けてしまう。設置面積を少なくしたかったのかもしれないが、個人的にはスクウェアでよかったのではないかと感じるところだ。

 ただ、全体的な完成度は極めて高い。開閉式のフロントパネル、内部のカバー、脱着式のHDDカートリッジの前面などは、冷却を考慮してメッシュ構造となっているのだが、このあたりの作り込みが極めて精密で質感が高い。

フロントパネルを開けた様子。メッシュ構造になっているが質感が非常に高いHDDカートリッジもしっかりとした質感。HDDを装着しないときは後部が上げられている

 HDD用のカートリッジも同じだ。低価格のNAS製品はちょっと力を入れれば折れてしまいそうなカートリッジになっている場合もあるが、本製品はプラスチック製ながら厚めの素材が使われており、しっかりとした作りになっている。

 さらに、後部は折り曲げられる構造になっており、HDDを装着しないときは、ここを上に跳ね挙げて内部のエアフローの確保やホコリの流入を防止するカバーの役割をさせることもできるようになっている。

 いやはや、こういった考え方はコンシューマー向け製品では普通はなされない工夫だ。サーバー製品を長く取り扱ってきた同社ならではのノウハウが盛り込まれているのだろう。

 インターフェイスについては、前面にUSB×1、背面にUSB×3、eSATA×1、LAN(10BASE-T/100BASE-TX/1000BASE-T)×1が用意されており、電源ボタンも背面に用意されている。

 また、ファンに関しては背面に8cmが上下に2つ搭載されており、さらに電源ファンが回転している。これにより、内部のHDD、および大型のヒートシンクが装着されているマザーボード上のCPUを冷却するようになっている。

 ファンの回転数は通常時で1200rpm前後となっており、ほとんど音は聞こえてこないほど静かだが、サーバーのステータス画面で確認する限りCPU温度もアイドル時(室温28度)で40度前後に押さえ込まれており、かなり効率的に冷却されている印象だ。

2基のファンと電源ファンの3つで冷却回転数は1200rpm前後。音は非常に静か

 このほか、前面のLEDの明るさも変更できるようになっており、必要最低限のLEDを残して消灯することも可能だ。

 サーバー機は、音が気になったり、LEDが明るすぎると設置場所に困ることもあるのだが、本製品ならどこにでも設置することができるだろう。

設定画面からLEDの明るさを調整できる

豊富なオリジナルソフトを搭載

 続いて機能面について見ていこう。前述した通り、本製品はWindows Home Serverを採用しており、ファイルサーバー、メディアサーバー、バックアップ、リモートアクセスなどのWindows Home Serverの機能が利用可能となっている。

 Windows Home Serverに関しては、次期バージョンのVailのベータ版がすでに公開されており、そのリリースも見えてきていることから、OSとしては製品末期となっている。このため、このタイミングで現行バージョンの製品を購入することは若干の抵抗感もあるかもしれないが、本製品の場合はあまり気にしなくても良いだろう。

 というのは、OSの基本機能以外となるオリジナル機能の完成度が高いため、OSの機能は製品の魅力を構成する要素としては半分程度しかないからだ。

オリジナルのソフトウェアを搭載。設定画面などもきちんとカスタマイズされている

 具体的に、どのようなオリジナル機能が搭載されているのかというと、以下のような点が挙げられる。

【Mac対応】
 Mac用クライアントの提供とTimeMachine対応

【iTunesサーバー機能】
 iTunesサーバーとして動作

【HP Media Collector】
 ネットワーク上のクライアントに保存されているメディアファイルを自動収集

【HP Video Converter】
 モバイル機器などに合わせたサイズと形式にビデオを自動変換

【iPhone/iPod touch対応】
 iStreamというサーバアクセス用のアプリを無償提供

【Media Streamer】
 サーバー上の画像や映像をストリーム配信

【HP Photo Viewer/HP Photo Publisher】
 写真の表示やオンラインアルバムへのアップロード

 これまでのWindows Home Server製品の多くは、同時の機能と言っても、実際はAdd-inがプリンストールされる程度となっており、完全にオリジナルのソフトウェアが搭載されることはあまりなかった。これに対して、EX490は、HPの手によって作り込まれた完全にオリジナルのソフトウェアが豊富に搭載されている。

 正直、このコストを考えると、1TBモデルながら4万9980円という価格が信じられないほどだ。

Macとの混在環境でもOK

 それでは、前述した機能のうち、おもなものについて見ていこう。まずは、Macの機能について見ていこう。EX490には、Mac用のクライアントソフトウェアも用意されており、付属のCDからクライアントソフトをインストールすることで、MacからEX490を利用することが可能となる。

 共有フォルダーへのアクセスはもちろんのこと、クライアントソフトと一緒にインストールされるリモートデスクトップクライアントによってサーバーのコンソール画面を表示して管理をすることもできるうえ、TimeMachineを利用したサーバーへのバックアップも利用できる。

Mac版のクライアントソフトを利用可能。リモートデスクトップクライアントを利用したサーバーの管理なども可能TimeMachineを利用したバックアップにも対応する

 iPhoneやiPadの登場で、Mac OS Xを採用したPC環境を追加したユーザーも少なくないかもしれないが、こういった混在環境でのファイル共有やバックアップ環境をEX490で一手に引き受けることができるわけだ。

 また、iTunesサーバー機能も搭載されており、サーバー上に保存した音楽などをiTunesを利用して再生することもできる。LinuxベースのNASでは、このようなMac対応を特長としている製品もいくつか存在するが、Mac用のクライアントソフトやセットアップの手軽さなどを含めて、ここまでしっかりとしたMac対応がなされている製品は珍しいと言えるだろう。

 このほか、iPhone、iPod Touch向けに「iStream」というアプリも提供されており、これを利用することで、家庭内の無線LAN経由や外出先から、自宅のEX490にアクセスすることもできる。

 アクセス可能なファイルは、「ビデオ」、「ピクチャー」、「ミュージック」に限られるため、用途としてはメディア再生に限られるが、外出先で自宅のEX490の写真や音楽を再生することができる。

 なお、ビデオに関しては、無線LAN接続の場合のみ再生可能だが、後述する変換機能と組み合わせることで、iPhoneやiPod Touchで映像を再生することが可能だ。

iPhone用アプリ「iStream」が無償で提供され、サーバー上のメディアにアクセスできる

自動的にメディアファイルを収集

 今回、EX490を使ってみて、個人的にもっとも感心したのは、「HP Media Collector」と呼ばれる機能だ。

 この機能は、文字通り、メディアファイルを収集するための機能で、ネットワーク上のクライアントから自動的に写真、音楽、ビデオの各ファイルを収集し、サーバー上に保存することができる機能となっている。

 利用するにはあらかじめサーバーのコンソール画面から、収集対象にしたいPCを選択しておく必要があるが、一旦有効にしておけば、あとは定期的にPCが監視され、自動的に新しいファイルが収集されるようになっている。

PCを指定することで、PC上の画像、音楽、映像ファイルを自動的にサーバーにコピーできるサーバー側での整理方法によっては、写真や音楽などのファイルの重複を避けることもできる

 標準では「マイピクチャ」、「ピクチャ」、「パブリックピクチャ」など、OS側で標準でファイルが保存される場所が監視対象となっているが、ハードディスク全体を指定したり、特定のフォルダーを指定することも可能となっており、家庭内のPCに散在しているメディアデータをサーバーに集約することが可能となっている。

 この機能が便利なのは、ユーザーは何も意識する必要がないという点だ。Windows Home Serverのバックアップ機能もそうだが、バックアップを実行したり、データをサーバーに保存するという作業は、ユーザーにとって決して楽しい作業ではない。このため、理想は、ユーザーが意識せずに、自動的に面倒な作業をしてくれることだ。これを「HP Media Collector」は実現してくれる。

 しかも、賢いことに、音楽ファイルなど収集方法で「アーティスト/アルバム別」を指定すれば、各PCに保存されているファイルのうち重複するもののコピーを回避することができる(フォルダ構造で収集すれば意図的に重複させることも可能)。これにより、同じデータが複数のPCに存在する場合でも、サーバーのハードディスク領域をムダに消費することがない。

 もちろん、すべてのファイルを収集できるわけではない。写真はjpg/gif/tif/pct、音楽はmp3/wma/m4a/aac/wav/プレイリスト (m3u、wpl)/アルバム アート、ビデオはAVI/MOV/m4v/MPEG/MP2/WMV/FLV/DIVX/DVR-MS/M2TS/VOBとなっている。これ以外の形式のファイルは自動的に収集されないので注意が必要だ。

 なお、この機能の利用時にはプライバシーに注意する必要があるだろう。EX490のクライアントに設定されてさえいれば、コンソールから任意のPCの収集を設定することができてしまう。家族で個別のPCを利用している場合などは、意図しないファイルが収集され、ネットワーク上に公開されることにもなりかねないので注意した方がいいだろう。

モバイル向けのビデオを自動生成

 最後に、ビデオの自動変換機能である「HP Video Converter」について見ていこう。この機能は、選択した共有フォルダーを監視し、対象となるファイルが保存されたときに、自動的に指定したサイズ/ビットレートのビデオ(出力形式はH.264/AAC固定)に変換する機能だ。

 標準ではフルとモバイルの2種類のプロファイルが用意されているが、「iPod/Zune(320×240/512kbps)」、「PSP(480×270/1024kbps)」、「iPhone(480×320/1024kbps)」、「HD720(1280×720(6144kbps)」などの設定が用意されているうえ、サイズやビットレートを指定することもできるので、さまざまな再生する機器に合ったビデオファイルを自動的に生成することができる。

サイズやビットレートを指定して映像を自動変換できるHP Video Converter対応しない形式のファイルではエラーが発生する

 このように変換されたファイルは、前述したiStreamを使ってiPhoneなどで再生したり、PCからブラウザを利用してストリーム再生することが可能となっており、手軽にビデオを楽しむことができるようになっている。

 変換元としてサポートされているビデオ形式は以下のように豊富だが、残念ながらMTSコンテナのH.264などはサポートされない。このため、国内のデジタルビデオカメラなどで採用されているハイビジョン形式のビデオなどは変換することができない。同様に、MTSファイルは、前述したHP Media Collectorでも収集されない。


コンテナビデオオーディオ
AVIDivX (4、5、6)mp3
AVIDivX (4、5、6)aac
AVIXviDmp3
AVIXviDaac
WMVWMV、VC1WMA
MPGMPEG-1、MPEG-2mp2、PCM、AC3
AVIMJPEGADPCM、PCM
VOBMPEG-2AC3、ADPCM、PCM
MOVMJPEG-A、BPCM
MP4、M4VAVC (h264)AAC
MP4、M4VMPEG-4AAC
DVR-MSMPEG-2AC3

 ビデオのファイル形式は多種多様であるため、すべてサポートするのは難しいが、このようなホームサーバーを使う層、もしくはこれから使いたいと考えている層のユーザーにとって、ハイビジョンのビデオカメラで撮影したデータというのは、まさにサーバーで管理したいデータの1つだろう。

 現状、このようなデータは、PC上に保存されているか、Blu-rayなどのレコーダーに取り込んで保存しているケースが多い。レコーダーはDLNAに対応するなど、ネットワーク対応が進んでいることもあり、用途としてはEX490と競合する部分もある。今後、家電がライバルになる可能性もあることを考えると、このようなユーザーがよく利用するファイルへの対応ができていないのは少々残念なところだ。

お買い得感は非常に高い

 このように、HPのコンシューマー向けホームサーバー機「HP MediaSmart Server EX490」を実際に使ってみたが、製品としての完成度は非常に高いうえ、価格もリーズナブルなため、お買い得感はかなり高い製品と言える。

 MediaCollectorやVideo Conberを目当てに購入する場合は、どのような形式のソースを扱いたいかを購入前に確認しておく必要があるが、通常のファイルサーバーやバックアップサーバーとして考えても、パフォーマンスの高さや拡張性の高さ、さらにMac対応など、既存製品と比較したときのアドバンテージは高い。

ヘルプが充実しているため使い方に迷わない

 また、地味ながら、オンラインヘルプが非常に充実しているのも大きな魅力の1つだ。設定に困るようなことがあっても、ヘルプボタンを押せば、かなり丁寧な解説を見ることができる。わかりやすさに課題を抱えていたWindows Home Server搭載機としては画期的な進歩と言える。

 今後、コンシューマー向けのホームサーバー、およびNASを評価する際のひとつの基準となりそうな製品だ。


関連情報

2010/7/13 11:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。