地デジ、PPTP、450Mbps対応の無線LANルーター アイ・オー・データ機器「WN-AG450DGR」


 アイ・オー・データ機器の「WN-AG450DGR」は、USB機器共有、PPTP VPNなど、さまざまな機能を搭載した450Mbps(5GHzのみ)対応の無線LANルーターだ。多機能、高性能で注目の製品を実際にテストしてみた。

単純な通信機器からの脱却

 スマートフォンやタブレット向けの周辺機器として、どのような価値を提供するか?

 最近の無線LANルーターを見ていると、各メーカーがPCに代わるインターネットデバイスに成長しつつあるスマートフォンやタブレットに、どのようにフォーカスすべきか試行錯誤している様子がよくわかる。

 そんな中でも、ここ最近、アグレッシブな動きをしているのがアイ・オー・データ機器だ。もともと、net.USB機能を搭載することで、他社と差異化した製品をリリースしてきた同社だが、この技術を発展させ、ついにはiPhone/iPadへの地デジの配信という機能に対応した無線LANルーターをリリースすることとなった。

アイ・オー・データ機器の「WN-AG450DGR」。IEEE802.11n/a/b/gに対応した450Mbps(5GHzのみ)の無線LANルーター。USBポートにテレビチューナーユニットを接続することでiPhone/iPadで地デジを楽しめる

 無線LANルーターは、PCやスマートフォン、タブレットなどの機器をインターネットに接続するための通信機器だが、この機能への対応によって、iPhone/iPadでテレビを楽しむための周辺機器という一面を追加したことになる。

 しかも、今回取り上げる「WN-AG450DGR」では、外付けのチューナーユニット(GV-MVP/FZ)が必要になるが、3月16日に発表された「Wi-Fi TV(WN-G300TVGR)」では、地デジチューナーユニットが本体に内蔵されており、もはや無線LANルーターと言うべきか、地デジ配信機器と言うべきかが悩ましいほどだ。

 いずれにしても、こういった他の製品にはない機能によって、無線LANルーターという製品ジャンルが進化し、その価値を高めていくことは歓迎したいところなので、ぜひ他社もユニークな製品の投入に挑戦してほしいところだ。


基本機能をチェック

 では、実際の製品を見ていこう。まずは外観だが、これは結構大きい。デザインはアンテナ内蔵でスッキリとしているうえ、比較的スリムな筐体(幅223×奥行き150×高さ34mm)なのだが、縦置きにするとそれなりに背が高く、存在感を主張する。

 その分、背面の装備は豪華だ。WAN×1、LAN×4(すべてGigabit対応)やルーター/APモード切替スイッチに加え、USBポートが2ポートも搭載されている。本製品は、前述したようにUSBポートに地デジチューナーユニット(GV-MVP/FZなど)を装着することで、iPhone/iPadへの地デジ配信が可能だが、これに加えて、簡易NAS機能やnet.USBによるUSB機器共有(いずれか排他)に対応している。

 USBハブを利用しなくても、2台までの機器を装着可能になったのは大きなメリットと言って良さそうだ。

側面背面

 続いて、無線部分についてだが、対応する規格はIEEE802.11n/a(5GHz)とIEEE802.11n/b/g(2.4GHz)となっており、これらの同時通信に対応する。通信速度は、2.4GHz側はデュアルチャネル+2ストリームMIMOの最大300Mbpsだが、5GHz側はデュアルチャネル+3ストリームMIMOによる450Mbpsとなっており、高速な通信が可能となっている。

 ただし、450Mbpsのスペックを活かすには、当然、対応する子機が必要となるが、同社のラインナップには、今のところ450Mbps対応の子機は用意されていない。イーサネット子機がセットになる「WN-AG450DGR-E」も同梱されるのは最大300Mbps対応の「WN-AG300EA」となる。

 このため、この速度を活かすには、450Mbps対応の無線LANを内蔵したノートPCや他社製の子機(ロジテックLAN-W450AN/U2など)が必要になるので注意が必要だ。

 機能面では、前述したnet.USBに加え、フィルタリングサービス(ファミリースマイル悪質サイトブロック)に加え、VPNリモートアクセス(PPTPサーバー)に対応しているのが特徴的だ。特に後者は、これまでコンシューマー向け製品では、バッファローの無線LANルーターにしか搭載されていなかったため、この機能を使いたいユーザーにとっての選択肢が増えたことは歓迎したいところだ。


パフォーマンスをチェック

 続いてパフォーマンスについてだが、性能を100%発揮させるには設定に注意する必要がありそうだ。

 まず、有線のパフォーマンスだが、カタログスペックでは900Mbps以上とされているが、これは標準設定では達成不可能だ。同社の無線LANルーターには、「NATアクセラレータ」と呼ばれるNATのハードウェア処理機能が搭載されているのだが、この機能は標準では無効になっている。

有線スループットのグラフ

 このため、標準設定のソフトウェア処理では200Mbps前後となり、これ以上の速度を出すにはNATアクセラレータを有効にする必要がある。当初、この機能の存在に気づかず、パフォーマンスが出ないことに悩んでしまった。

 ならば、標準で有効にしておけば良いとも思えるのだが、NATアクセラレータを有効にすると、IPv6パススルー機能が使えなくなるという制限がある。これにより、IPv6を利用したサービス(映像配信サービスなど)が使えなくなってしまう。

 よって、IPv6か、速度か、という選択肢になる。標準設定でも200Mbpsは達成できるので、NTTのフレッツなどのように200Mbpsまでのサービスを使うなら、そのまま使うのがよさそうだ。

有線で高いスループットを実現するにはNATアクセラレータを有効にする必要がある

 一方、無線LANのパフォーマンスだが、これは環境や利用する子機との相性によっても変わる可能性があるが、筆者宅での結果は及第点というところだった。ロジテックのLAN-W450AN/U2を利用し、ライバルと言って良いNECアクセステクニカの「AtermWR9500N」と同一条件で比較してみたのが以下のグラフだ。

無線スループットのグラフ

 5GHzの近距離では実効で100Mbps以上のスループットが出ているので優秀だが、2F、3Fでは、なぜかGET(下り)の結果があまりよくなかった。子機として利用したLAN-W450AN/U2との相性ではないかと推測されるので、ここはやはり性能をフルに発揮できる同社製の450Mbps対応子機のリリースを期待したいところだ。

 ただし、こちらも実力をフルに発揮させるには、設定画面での詳細設定が必要になる。WN-AG450DGRでは、2.4GHz、5GHzともに標準では使用する帯域が20MHzのシングルチャネルに固定されている。このため、標準では、2.4GHzの最大速度は144.4Mbps、5GHzは216.7Mbpsとなる。

 2.4GHzに関しては標準で20MHzの製品も少なくないうえ、40MHzに設定しても干渉によって自動的に20MHzに落ちることの方が多いので、20MHz固定でもかまわないが、さすがに最大450Mbpsを謳っている以上、せめて5GHzだけでも20/40MHz自動設定にしておくべきではないだろうか。

 もちろん、40MHz幅にすればそれだけパワーが薄くなるが、状況に応じて20MHzに落とせば済む話だ。標準設定で強制的に速度にキャップしてしまうというのは、若干、抵抗がある。

標準では2.4GHz、5GHzともに20MHz幅に設定されている。450Mbpsで通信するには40MHzに変更する必要がある


新iPadで地デジを楽しむ

 さて、いよいよ本命の機能とも言える地デジ機能を試してみよう。この機能を利用するには、前提条件として、USBポートに接続する地デジチューナーが必要になる。同社のWebサイトによると、現状対応する製品は「テレキング(GV-MVP/FZ)」となっている。同社の直販サイトで9980円で購入できるので、これを入手しておく必要がある。

 設定方法は非常に簡単で、本体側は、背面のUSBポートにGV-MVP/FZを接続(アンテナも接続)しておくだけでいい。本機能は、net.USBの機能を利用するが、この機能は標準で有効になっているため、本体側の設定は不要だ。

USB接続のテレビチューナー「テレキング(GV-MVP/FZ)」を装着することでiPhone/iPadに地デジを配信できる

 続いて、端末側(iPhone 3GS/4/4S、iPad/iPad2、iPod touch 4G)に「テレキングmobile」をインストールする。AppStoreで検索すると無料のアプリが表示されるので、これをインストールすればいい。

 最後に、iPadなどの端末をWN-AG450DGRのSSIDに無線LANで接続し、アプリを起動すれば自動的にテレビが表示される(初回はチャネル設定が必要)。無線LANの接続に関しても、本体背面のQRコードから設定情報を読み取ることができる「QRコネクト」をインストールしておけば暗号キーなどの設定を省けるので、あっけないほど簡単だ。

 起動直後の映像が再生されるまでや、チャンネル切り替え時には10秒前後、バッファの時間が必要になるが、非常にクリアでスムーズな映像が再生できる。これなら、iPadをサブテレビとして十分に活用できそうだ。

背面のQRコードを読み取ることで手軽に設定可能テレキングmobileを利用することで、iPadで地デジを楽しめる

 ただし、どこでも快適に、というわけにはいかない。無線LANの電波状況によっては、映像が音声が途切れ途切れになったり、完全に再生できなくなるケースもある。その基準を明らかにするのは難しい面もあるが、筆者が自宅で試してみた感じでは、iPadなどのデバイスからSpeedtest.netなどの速度計測を実施した際に、4Mbps以下になるような場合は、映像の再生に難がある印象だった(iPad/iPhoneの無線LANはシングルチャネル、MIMOなしの最大65Mbps)。

 この際、やはりUploadに比べて、Downloadの値が低くなる傾向が見られるので、もしかすると、このあたりがWN-AG450DGRのウィークポイントなのかもしれない。

 このため、WN-AG450DGR、もしくは今後登場するWi-Fi TVで、テレビを楽しむのであれば、テレビを見たい場所から現状のアクセスポイントに対してのスループットを計測し、4Mbps以下であったら、慎重に検討した方がよさそうだ。

 ちなみに、この機能も設定や使い方によっては、利用が制限される場合があるので注意が必要だ。前述したように、本機能は、WN-AG450DGRに搭載されているnet.USB機能によって実現されている。

 このため、本体設定でUSBポートをNASモードに変更するとテレビチューナーは利用できなくなる(排他)。また、net.USBではデバイスを利用できる端末が常に1台に制限されるので、ネットワーク上に複数の端末が存在している場合、どれか1台の端末がチューナーに接続していると、他の端末からはテレビを視聴できない。このあたりの仕組みもある程度頭にいれながら、この機能を使うとよさそうだ。

NASモードで利用したときのディスクアクセス速度。ディスク(SSD)にはIntel X25M 80GBを利用


PPTP経由ではTVは見られない

 最後に、PPTPサーバー機能についても触れておこう。一般的には、あまり使わない機能かもしれないが、SOHOなどの環境では意外に重宝する機能となる。

 設定自体は、設定用のWebページで、機能を有効にし、ログインに利用するユーザーとパスワード、認証方式などを設定するだけと、さほど難しくない。ルーターモードだけでなく、アクセスポイントモードでも利用可能となっており(APモードの場合はLAN設定でデフォルトゲートウェイの設定を忘れずに)、手軽に利用できる印象だ。

 3ユーザーまで接続可能だが、アカウントは1つしか設定できないので、小規模な事務所などで利用する場合は、運用に工夫が必要だ。

PPTPサーバー機能を搭載。アクセスポイントモードでも利用できる

 実際に試してみたところ、なぜかWindows 8 Consumer Previewからの認証に失敗してしまったが、Windows 7やiPadなどから問題なく接続することができた。

 となると、iPadでPPTPで接続すれば、テレキングmobileも使えるのでは? と思うのが心情だが、残念ながらこれはできない。iPadでPPTP接続後、テレキングmobileを起動しても、「チューナーが見つかりません」となり映像は再生できない。

 PPTP経由の場合、net.USBの機能そのものが利用できないので、この点はあきらめた方がよさそうだ。

 ちなみに、WN-AG450DGRと同じネットワーク上に、別のアクセスポイントを設置し、このアクセスポイント経由でiPadを接続した場合は、地デジを視聴することはできる。このため、筆者宅では、前述したようにWN-AG450DGRに接続した場合はテレビが再生できないケースでも、別の無線LANルーターに経由でWN-AG450DGRの地デジチューナーを利用した場合はテレビが再生できてしまうという現象が見られた。

 せっかくの機能が、無線のスループット(特に下り)に足を引っ張られているようで、非常にもったいない印象だ。


細部のブラッシュアップを

 以上、アイ・オー・データ機器のWN-AG450DGRを実際に試してみたが、地デジチューナーを使える点は、非常に面白いが、設定やパフォーマンス面の課題で、今ひとつ実力を発揮できない印象だ。安定性を重視するためにあえて標準設定を変更している面もあるが、ハイエンドの無線LANルーターとして見ると、やはり物足りないところだ。

 使いやすさとしては、WAN側の機器や状態によって自動的にインターネット接続や動作モードが切り替わったり、QRコードによる接続設定が可能だったりと、かなり工夫されているので、本稿で指摘した細かな点が余計に目立つ印象だ。

 とはいえ、こういった本線からちょっと外れたおもしろい製品をリリースできるのは、アイ・オー・データ機器にしか期待できないので、こまかなブラッシュアップとともに、よりアグレッシブな製品のリリースを期待したいところだ。



関連情報



2012/3/27 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。