iSCSIにも対応した低価格NAS LaCie「LaCie 2big NAS」


 エレコムから、仏LaCie社製のNAS「LaCie 2big NAS」が登場した(8月出荷開始予定)。オリジナリティあふれるデザインと、5万円を切る低価格ながらiSCSIにも対応しているのが特長の製品だ。発売前の試作機で、その実力を検証してみた。

LaCieらしいユニークなNAS

 エレコムから発売されたLaCieの「LaCie 2big NAS」は、いろいろな意味で驚きを与えてくれる製品だ。

 ユニークなデザインはもとより、ヒートシンク構造のアルミ製のボディ、いわゆるNASらしい無骨さを感じさせないユーザーインターフェイス、4TBモデルで5万円以下というリーズナブルな価格、iSCSIターゲット機能など高度な機能の搭載と、これまでのNASとは少し違った切り口となるLaCieらしい特長を備えている。

国内ではエレコムから販売されるLaCieの「LaCie 2big NAS」

 これまで主にMac向けのハードディスク製品を扱ってきたLaCieは、著名なデザイナーとコラボレートしたデザイン重視の製品を数多く世に送り出してきたことで知られているが、今回、NAS市場に進出するにあたっても、しっかりと同社のアイデンティティを製品に詰め込んできたという印象だ。

 NASの市場は、今年に入ってから、地味ながら活気づつある。今回のLaCie、以前に取り上げたWestern Digitalもそうだが、従来の内蔵、およびUSB接続などの外付けHDD製品は、製品としての差異化がもはや難しい状況であり、激しい価格競争に陥りつつある。

 そこで、ネットワーク経由で複数の機器との接続が可能で、さまざまな用途が想定できるNASに活路を見いだすメーカーが増えてきているというわけだ。実際、海外ではIPカメラを利用した監視システムの映像保存用などのNASの用途が広がりつつあるうえ、クラウドの障害などをきっかけにローカルへのデータ保存やバックアップのニーズが高まりつつある。

 また、Windows 8やAndroidタブレットなどのように、ローカルストレージをあまり搭載しないライトウェイトなクライアントの普及も見込まれており、今後、NASの需要が次第に高まる見込みもある。

 もちろん、具体的なニーズに関しては、どのメーカーもまだ手探りという状況だが、今回のLaCieのように自らの強みを武器に、新たにNAS市場に参入するメーカーが増えてきたことで、製品自体の多様化が進み、消費者として製品を選べる環境が整ってきたことは歓迎したいところだ。


想像以上に重いアルミボディ

 それでは、実際の製品について見ていこう。まずは、外観だが、見れば見るほど面白いデザインだ。

 正面に配置されているメタリックブルーの円形のLED兼ボタンは、まるで目玉のようで、シルバーで無機的な印象のボディと相まって、どこか未来的なデザインだ。同様のデザインは、USBやThunderboltなどをインターフェイスに採用した外付けHDDでも採用されているが、NASではフロントパネル中央に吸気口を兼ねたラインがあしらわれており、よりロボティックな印象を受ける。

正面側面背面

 もちろん、デザインに関しては好みがあるので、一概にすばらしいデザインとは言えないが、無骨な印象の製品が多かったこれまでのNASに比べると、かなり異なる世界観を感じることができる。NASは、どちらかというと見えないところにひっそりと設置されるイメージの製品だが、これは目立つところに置くという選択肢もあり得る製品と言えるだろう。

 驚きは、見た目だけでなく、手に取ったときにも感じられる。いや、想像以上に重いのだ。

 LaCie 2big NASの側面は、横方向に溝が入ったいわゆるヒートシンク形状のデザインとなっているが、この部分はアルミ製となっており、手に取るとズシリとかなりの手応えを感じさせる。

 2TBのHDDを2台内蔵しているとはいえ、本体重量は3.5kgもある。低価格なNASにありがちなプラスチック感丸出しの安っぽさとは無縁の高い質感を実現している。

 このボディは、実用性にも大きく寄与している。具体的には熱と振動への対策だ。残念ながら、ファンレスとはなっていないものの、背面に搭載されているファンは小型のものとなっており、ファンの音を最小限に押さえ込んでいる。また、底面の台座の恩恵もあるが、ズシリと重い本体のおかげで、HDDのうなりなどいやな振動がしっかりと押さえ込まれている。

ヒートシンク構造のボディを採用。ファンレスではなく背面に小型のファンを備える

 実際、使ってみると、ベンチマークテストなど高い負荷をかけると、本体もそれなりに熱くなるうえ、ファンがそれなりに回転するが、アイドル時にファンの回転が落ち着けば、音はほとんど気にならなくなる。寝室などに設置すると、かすかにHDDのアクセス音が気になる可能性はあるが、NASとしては十分に静かな製品と言って良いレベルだ。

 また、内部の作りも手が込んでいる。HDDは、付属の工具を使って背面のHDDベイのロックを回転して解除することで引き出すことができるが(ホットスワップ対応)、HDDに装着されているカートリッジも金属製でしっかりとした作りになっている。

 この部分がプラスチックだと放熱に寄与しないので、当たり前といえば当たり前だが、HDDをがっちりとホールドすることで、振動もしっかりと押さえ込んでいるという印象だ。

 個人的に残念なのは、製品のアイデンティティとも言える、フロントの目玉部分の作りだろうか。いかにもプラスチックな質感、押し込んだときのスイッチの間隔や遊びの多さなどは、少々、高級感からかけ離れる。どうせなら、ここまでこだわって作って欲しかったところだ。

HDDのカートリッジの品質も高い唯一残念なのは、アイデンティティとも言える青い目玉。押したときの遊びなどが気になる


グラフィカルなユーザーインターフェイス

 セットアップに関しても、ユニークだ。設定方法自体は、LANケーブルとACアダプタの接続後、電源を入れ、付属のユーティリティからネットワーク上のNASを検索し(省略可能)、設定ページにアクセスするという一般的な流れだが、設定ページ自体のデザインが凝っている。

 管理者カウントの設定とタイムゾーンの初回設定を済ませると、白を基調にしたメインページと、右側と下側のグレーのエリアにウィジェットが配置された設定ページが表示される。

付属のユーティリティを使ってネットワーク上の機器を検索
初期設定で管理者パスワードと日時を設定設定が完了すると右側と下にウィジェットが配置されたUIが表示される

 ウィジェットは、標準で6個配置されており、現在の日付や時刻、設定されているIPアドレスやリンク速度などのネットワーク情報、ドライブの利用情報、そしてユーザー、グループ、共有の3項目それぞれの設定状況や利用状況が表示される。

 一般的なNASのステータスページをウィジェット化して常に表示できるようにしたイメージと考えるといいだろう。どの設定画面を開いていても、現在の利用状況を一目で確認することができる。

 また、場所を変更したり、右下にストックされているアイコンをドラッグすることで、外付けUSBポートやRAID情報、サポート情報など、別のウィジェットと入れ替えることもできる。最近では、凝ったUIを備えるNASも珍しくなくなってきたが、その中でも特徴的なデザインのUIとなっている。

 従来のNASに慣れているユーザーは、左側にメニュー一覧が表示されるデザインの方がなじみやすいかもしれないが、初心者など、先入観がないユーザーにとっては扱いやすいユーザーインターフェイスと言えそうだ。


iSCSIやメディアサーバーなどを有効化

 機能的には、標準では「Public」と「Share」の2つの共有フォルダが用意され、サービスもSMBとAFPが動作するだけとシンプルになっている。

 もちろん、メディアサーバーなどのサービスにも対応しており、設定画面の一般設定から簡単に機能を有効化することができる。おそらくMacからも使いたいというユーザーも多いはずなので、TimeMachine(Lionにも対応)とメルチメディア(iTunes/DLNA両方有効化される)を有効にしておくといいだろう。

サービスは最低限のものだけが起動。必要に応じて有効化する

 LaCie 2big NASの特長の1つとなるiSCSIに関しても、設定は非常に簡単だ。設定画面でドライブの情報を表示すると、「iSCSIドライブ」という項目が表示される。この右側にある設定アイコンをクリックし、「iSCSIサイズを変更しました」という少々違和感のある日本語を選択すると、ドライブの総容量のうちiSCSIターゲットとしてどれくらいの領域を割り当てるかを設定できる。

 スライダーバーで容量を選択後、設定を反映し、クライアントからLaCie 2big NASのIPアドレスを指定してiSCSIターゲットを検索すると、自動的に接続され、NAS上に設定した領域をローカルHDDと同様に扱えるようになる。標準ではFAT32でフォーマットされるが、クライアントにマウント後、NTFSなどでフォーマットし直すことも可能だ。

iSCSIの設定。容量を設定するだけと簡単に利用できる

 気になるパフォーマンスだが、以下がSMBとiSCSIのドライブに対してクライアントからCrystalDiskMark3.0.1bを実行したときの値だ。SMBの方が若干、値が良いが、Arm系プロセッサを採用した低価格のNASとしては、十分な速度と言えそうだ。

 なお、今回の製品では2TB×2のHDD(今回試用した製品ではSeagate ST2000DM001×2)でRAID1を構成した状態でテストしているが、製品版ではRAID0、RAID1のどちらで出荷されるかが、現時点では未定だ。あくまでも参考値として考えて欲しい。

ファイル共有(SMB)でのCrystalDiskMark3.0.1bの測定結果(左)とiSCSIでの測定結果。Core i7 860/RAM16GB/Samsung 2TB HDD/Intel Desktop CT 1000BASE-T/Windows 7 Professional 64bitのPCから実行したときの値


iPhone版アプリを使ったアクセスも可能

 このほか特徴的な機能としては、リモートアクセス機能が挙げられる。UPnPによるポート設定や本製品用の「LaCie MyNAS」と呼ばれるサービスに対応しており、「http://mynas.lacie.com/任意の名前」という名前で外出先から自宅のNASに手軽にアクセスすることができる。

 PCからブラウザでアクセスし、ファイルブラウザー経由でファイルを参照したり、アップロードすることができるのはもちろんのこと、iOS向けに無償で提供されている「LaCie MyNAS」というアプリを利用することで、iPhoneやiPadからもNASのデータを利用できる。

 写真のアップロードや音楽のバックグラウンド再生も可能となっており、便利に使える印象だ。簡単なリモートアクセス環境として利用するのに適しているだろう。

iOS向けの無償アプリを利用することで外出先からのアクセスも可能
リモートアクセスの設定は簡単。名前解決用のサービスも無償で提供されるPCからはブラウザのファイルマネージャも利用可能

 なお、今回のレビューでは英語版のアプリを利用したが、6月末に日本語版のアプリが提供される予定となってる。おそらく本コラムが掲載された時点では日本語版の利用が可能になっていることだろう。また、Android向けのアプリは現状提供されていないが、今後の提供も予定されているという。

 以上、LaCieの「LaCie 2big NAS」を実際に使ってみたが、個性的なデザインとユーザーインターフェイスが気に入れば、悪くない選択肢ではないかと言える。4TBモデルで5万円以下という価格帯で、iSCSIが利用でき、リモートアクセス機能なども充実しており、実用性はなかなか高い。消費電力も低く、ベンチマークテスト時で22W、アイドル時は16W前後であった。

 特に、iSCSIは法人向けの用途だけでなく、家庭などで薄型ノートやタブレットなどのパーソナルストレージとして活用できるうえ、Windows 8の登場後にはHyper-V 3.0のディスク領域としてクライアントサイドの仮想化などでも活用することができる。iSCSI対応のNASを手元に用意しておきたいという人には、おすすめの製品と言えそうだ。



関連情報



2012/7/3 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。