豊富な機能と独自UIが魅力のNAS「Synology DiskStation DS212」
SynologyのDiskStation DS212は、2ベイタイプの家庭、小規模オフィス向けNASだ。手頃な価格ながら、非常に豊富な機能を搭載しているのが特徴で、ハードウェアよりもソフトウェアで他社製品との差異化を図っている製品だ。その実力を検証してみた。
●DS213は間に合わず
まず、最初にお詫びしておきたい。本レポート掲載時には、おそらく新製品であるDS 213がリリースされているはずだが、今回、入手が間に合わず、旧機種となるDS 212でのレビューになってしまった。
DS212とDS213との違いは、CPUが1.6GHzから2.0GHzに強化され、メモリがDDR3 256MBからDDR3 512MBに増量されている程度で、基本的な機能に違いはないのだが、これから購入を検討する場合は最新型のDS213を選択することをおすすめする(2012年8月30日時点ではまだ在庫を持つショップがないため待つことをおすすめする)。
こんな書き出しになった裏話をしてしまうと、「そう言えば、SynologyとDroboのNASはまじめに検証したことがないなぁ。レビューネタのストック用に買っておくか」と深く考えずに製品を購入したのが原因だ。その時点で購入可能な最新機種としてDS212を買ったものの、その一週間後にDS213が発表されるというお粗末な結果である。衝動買いとは、実に恐ろしいものだ。
まあ、言い訳はこれくらいにして、結論を先に述べてしまうと、SynologyのNASの完成度は個人的な予想を遙かに上回る良さであった。世界観が独特であること、多機能過ぎてまとまりに欠けることから、好き嫌いは分かれる可能性はあるが、とにかくソフトウェアの作り込みが凝っている。
SynologyのDiskStation DS212。旧機種となってしまったが、最新のファームウェアDSM4.1を利用可能で、機能的には最新機種と遜色ない高い完成度のNASとなっている |
具体的には、DSMと呼ばれるファームウェアはデスクトップを模したグラフィカルなデザインとなっているうえ、機能を拡張するための追加パッケージが多数用意されており、iTunes Server、メディアサーバ、スマートフォン向けの音楽、映像ストリーミング、ウイルス対策、履歴管理可能な1時間おきのバックアップ、VPNサーバー、IPカメラを使った監視などが可能となっている。
また、スマートフォン向けのアプリもiOS/Androidの両方がきちんと用意され、いずれも機能的な過不足もなく、きちんと安定して動作する(安定動作するNAS向けアプリは意外に少ない)。
現状のNASは、パフォーマンスや信頼性を重視する観点から、どちらかというとソフトウェアよりもハードウェアの完成度が問われるケースが多いが、SynologyのNASは、逆にソフトウェアに多くのリソースがつぎ込まれている印象で、これまでのNASとは少し方向性が異なる印象だ。
SynologyのファームウェアDSM。デスクトップを模した独自のUIを採用。機能は豊富だが、使いこなすには、ある程度の慣れが必要 |
●チープに見えるが実用性十分なケース
それでは、実際に製品を見ていこう。まずは外観だが、決して豪華ではないものの、実用性は十分な印象だ。
2ベイタイプのNASとしては、若干大きめな印象で、サイズは高さ165×幅108×奥行き233.2mm。重量は1.25kgとなっている。2ベイNASの一般的な重量は2kg前後なので、やたらと軽いが、その理由は素材が樹脂となっているからだ。
正面 | 側面 | 背面 |
フロントパネルはゴム足によるはめ込み式 | カートリッジも樹脂製だが、HDD固定部はゴムで防振対策をしている |
個人的には、樹脂製のNASは、質感があまり高くないことと、振動や騒音が気になることが多いため、あまり好みではないのだが、本製品は、この軽さは弱点になっていない。
実際にHDDを組み込んで稼働させてみるとわかるのだが、HDDを装着するためのカートリッジには、HDDとの接触面に振動を抑えるためのゴムが装着されているうえ、本体底面にも比較的しっかりとしたゴム製の足が装着されている。これにより、本体に触れるとHDDの振動を感じられるものの、それが不快な音や振動となって、部屋の中に伝わることがないようになっている。
ファンも背面に9.2cmのサイズのものが装着されているが、比較的高い負荷を与えても低回転が維持されるため、まったくといっていいほど音は気にならない。質感としてはチープな印象は否めないものの、実用上の不満につながらないようにしっかりと工夫している印象だ。
インターフェイスに関しては、フロントに写真などのメディアデータ取り込に利用するSDカードスロットとUSB2.0×1が搭載され、背面にはUSB 3.0×2とLAN(1000BASE-T対応)×1が搭載される。2ベイのNASとなるため、バックアップ用や容量拡張用に外付けHDDを接続するケースが考えられるが、この用途にもしっかりと対応できるだろう。
背面の9.2cmファン。低回転で動作するため、ほぼ無音 |
●独自UIと多機能さに慣れる必要あり
使い方は、若干、慣れが必要という印象だ。まずは、初期設定だが、ファームウェアはHDDに書き込む方式となるため、HDDを装着して本体起動後、ネットワーク上のPCから付属のユーティリティを使って、「DSM」と呼ばれるファームウェアを書き込む必要がある。手順としては決して難しくはないのだが、はじめてのユーザーは、若干、戸惑う可能性もありそうだ。
初回は専用のユーティリティを利用して、ネットワーク経由で本体にファームウェア(DSM)を書き込む必要がある |
このDSMは、一般的なNASのファームウェアとはかなり方向性が異なるものとなっている。一般的なNASは、古くからあるWebのUI作法に従ったものが多く、サイドメニューやトップメニューから項目を選んで設定するという使い方になるが、DSMは、PCのデスクトップ的なデザインとなっており、スタートボタン的なアイコンから機能を選んだり、コントロールパネル的なウィンドウから設定するといったPCライクな操作となっている。
DSMのUI。左上のボタンからパッケージの設定を開いたり、コントロールパネルから設定をしたりと、PCライクな操作となっている |
このUIは、一見直感的だが、設定したい項目がどこにあるのかがわかりにくかったり、どこをどう操作すればいいのかがあまりナビゲートされないため、はじめは、操作がかなりもどかしい。CPUやメモリの状況を簡単に確認できたり、設定画面とファイル操作用のウィンドウを同時に開いて、切り替えながら作業できるなど、確かに利便性は高いのだが、それに気づくまでには、ある程度の使い込みが必要になる。
ただでさえ、多機能で、どこから設定に手を付けていいのかわからないうえに、UIも独自となるため、かなり好き嫌いが分かれると思われるが、数時間も使っていると次第に作法がわかってくるので、しばらくの我慢が肝心だ。
なお、DSMは正式リリース版は現状4.0となるが、現在、4.1のベータテストが行なわれているため、今回は、4.1 betaを利用することにした。4.1の機能については、こちらのサイト(http://www.synology.com/support/beta_dsm4.1.php?lang=jpn)に詳しく掲載されているが、後述する特徴的な機能の強化が図られている。4.0でも十分すぎるほどに多機能だが、4.0の細かな不満点が改良されており、正式リリースが待ち遠しいファームと言えそうだ。
●ストリーム配信やVPNサーバーも利用可能
機能についてだが、前述したように非常に多機能で、すべて説明することはできないため、主な機能をピックアップして紹介しよう。
・ストレージ管理
まずは、使う前の設定となるストレージの管理だ。本製品には「SHR(Synology Hybrid RAID)」というボリュームのインスタント作成機能が搭載されている。通常のRAIDがHDDの容量単位でボリュームを作成するのと異なり、各HDDに小さなボリュームの塊を作成して冗長化を図るため、異なる容量のHDDを搭載した場合でも効率的に容量を設定することができる。
Synology独自のフォルトトレランス機能(SHR)を搭載。ただし、2ベイモデルでは、通常のRAID1と方式や使える容量は同じ |
たとえば、2TB×2、1TB×1の3本のHDDを利用した場合、通常のRAIDでは1TB×3で2TB相当のRAID5を構成するのが一般的だが、SHRでは、この3本のHDDを利用し、3TBの容量のデータ領域(パリティに2TB利用)を作成できる。
ただし、前述したように、本製品は2ベイ構成となっており、実質的にこの機能の恩恵は受けられない。基本的に構成としても容量としてもRAID1相当の構成のみとなっており、今回は2TB×2のHDDを搭載することで、2TB利用可能な構成で利用した。SHRを活かしたいのであれば、4ベイのDS412などを利用するといいだろう。
なお、iSCSIのターゲットも作成可能となっている。2ベイの低価格NASでiSCSIまでサポートしている機種は多くないので、貴重な存在と言えそうだ。
iSCSIにも対応しており、ターゲットを簡単に設定できる |
・ファイル共有
続いて、基本中の基本となるファイル共有だが、SMB、AFP、NFSの各サービスに対応する。SMBでは、Windowsのオフラインファイルのサポート、Local Master Browserの夕置くかなどのオプション設定が可能になっているうえ、共有フォルダごとに「ごみ箱」を設定したり、暗号化を設定することもできる。また、WindowsのACL対応もしており、作成した共有フォルダに対して、クライアントからプロパティを表示してアクセス権を編集することも可能だ。
共有フォルダの設定画面。オプションも豊富で、ごみ箱やWindows ACLなど、いろいろな機能を利用することができる |
ユーザー管理も、通常のユーザー管理とグループ管理に加え、ユーザーごとに個別に利用を許可するアプリケーション(後述するAudio StationやFile Stationなど)を設定できたり、これらのアプリケーションに対してアップロードやダウンロードの帯域制限をかけることまで可能となっている。
また、ポリシー的な利用として、パスワードの長さや組み合わせなどの強度も設定してユーザーに強制することもできるなど、とにかく機能が盛りだくさんだ。
なお、パフォーマンスについては、以下のようにシーケンシャルリードで40MB/sと小規模環境向けの製品としては妥当な結果となった。決して速くはないが、通常の利用であれば、ストレスなく利用できるだろう。
SMB(左)とiSCSI(右)のCrystalDiskMark 3.0.1cの結果(クライアントはCore i7 860/RAM12GB/HDD1.5TB/Windows 7 Professional) |
このほか、ファイル転送サービスとしての利用も可能となっており、File Stationと呼ばれるブラウザ上のUIから、転送したいファイルを右クリックして「ファイル共有リンク」を選択することで、NASからファイルをダウンロードするためのURLを自動生成できる。
この機能は、DSM4.1から改良されており、従来のDynamic DNSによるアドレスから、「http://gofile.me/xxxxx」という転送URLを利用する方式に変更された。これにより、ホスト名などを隠しながら、より手軽にファイル転送をすることが可能になった。有効期限やパスワードも設定できるので、インターネット上の転送サービスと同等の利便性を確保しながら、よりも高速かつ大容量のファイル転送に活用できるだろう。
個人的には、実際に共有したファイルが、いつ、だれにダウンロードされたかまで管理できるのが理想だが、残念ながらそこまではできない。これは今後の課題として指摘しておきたいところだ。
ファイル転送にも利用可能。有効期限とパスワードも設定可能なうえ、作成した共有リンクをまとめて管理するためのUIも用意されている |
・メディア共有
メディア共有は、パッケージによって提供される機能となっている。標準でインストールされているが機能的には無効になっているので、有効化することで利用可能だ。DLNA対応の家庭用テレビから実際に映像や写真などを再生してみたが、さまざまなフォーマットの映像を問題なく再生することができた。また、iTunesサーバー機能も搭載されており、こちらも有効化することでiTunesから音楽などのメディアを参照して再生することが可能だ。
パッケージセンターからさまざまな機能をダウンロードして追加可能。メディアサーバー関連は標準でインストールされているので、有効化すれば利用できる |
このほか、DSM4.1ベータで提供されるベータ版のパッケージとして、Photo Station、Audio Station、Video Stationと呼ばれる機能も利用可能だ。それぞれ、外出先などからメディアを再生するための機能となっており、PCからブラウザでアクセスしたり、スマートフォン用の専用アプリ(DS File、DS audio、DS Photo+)などからNASのメディアにアクセスすることが可能となっている。
写真を共有するためのPhoto Station。マップ表示などにも対応 |
このアプリは、前述したようにiOS、Androidの両プラットフォームに提供されているうえ、筆者が試した限り、安定して利用できている。この手のアプリを利用する場合、初期設定でNASのURLなどを登録するのが面倒だが、同一LAN上なら自動検出で設定できるうえ、DS Fileに関しては、クイックコネクトIDと呼ばれる自動生成された9桁の数字を接続先として設定しておくだけでアクセスが可能になる。
アプリの機能も充実しており、DS Fileでは、ファイルのプレビュー(Androidは他のアプリにファイルを渡す)、ダウンロード、アップロードが可能なうえ、後述する「Cloud Station」を利用したNAS上のフォルダとスマートフォン上のストレージ領域の同期も可能となっている。音楽を再生するためのDS audioもバックグラウンド再生に対応するなど、非常によくできたアプリとなっている。
なお、アプリに関しては、ビデオを再生するためのDS Videoというアプリも存在するが、現状はiOS版のみの提供で、Android版は提供されていない。また、iOS版も、対応フォーマットの映像にもかかわらず、ビデオが再生できないなど、実用に問題があった。DS Video自体ベータ版の機能なので、これは正式版の登場を待った方がいいだろう。
NASのファイルを参照するためのアプリ「DS File」。iOS版とAndroid版がある。接続は9桁の数字を指定するだけの簡単設定 | ファイルの表示、ダウンロード、アップロード、同期、転送用URL生成など、機能的にかなり充実している |
NAS上の音楽を再生できるDS audio。バックグラウンド再生、再生リストに対応するうえ、ShotCastなどのネットラジオの聴取も可能 |
・パーソナルクラウド機能
外出先からNASのデータを利用するためのパーソナルクラウド機能も実に完成度が高い。現状、まだベータ版のパッケージとなるが、「Cloud Station」を有効にし、クライアントに同期用のソフトウェアをインストールすると、PC上の特定のフォルダ(標準ではドキュメント下のCloudStationフォルダ)がリアルタイムでNAS上と同期されるようになる。
PCにクライアントソフト「Cloud Station」をインストールすると、指定したフォルダを自動的にNAS上の自分のhomeフォルダの「CloudStation」フォルダと同期する |
もちろん、同一LAN内にPCが存在している場合だけでなく、WAN環境でも利用可能で、PC上でファイルを更新すれば即座にNAS上に反映され、逆にNAS上でファイルが更新されればこれまた即座にPCにも反映される。DropBoxやSkyDriveの同期機能とほぼ同等の機能と考えてもらうとわかりやすいだろう。
残念ながら1GB以上のファイルは同期されないという制限があるものの、反映が非常にスピーディなうえ、前述したDS Fileを使ってスマートフォン上ともフォルダを同期することができたり、「同期」の欠点であるファイルの削除や意図しない更新への対策もきちんとなされている点に感心させられた。
また、同期の場合、対象の端末からファイルを削除すると、それがNASや他のクライアントにも反映されるため、間違ってファイルを削除すると取り返しがつかなくなるが、Cloud Stationでは同期したファイルが履歴で管理されており、削除したファイルを元に戻したり、以前に同期されたタイミングの内容に書き戻すことが自由にできる。
削除したファイルも復元可能なうえ、履歴も管理されるため任意の時点に復元可能 |
単に、どこからでも、どんな端末からでもアクセスできるだけでなく、ファイルを安全に扱えるという点がプラスされた画期的なサービスと言えるだろう。ここまでできるNASやアプライアンス機器は、筆者が知る限り、ほかにはない。
このほか、VPNサーバー機能もパッケージで追加することが可能だ(PPTPとOpenVPN)。PPTPに関しては、MS-CHAP v2の脆弱性が話題になるなど、慎重に利用する必要があるものの、前述したスマートフォンアプリなどとの組み合わせることで安全な利用が可能だ(VPNではなくHTTPSアクセスも利用可能)。
PPTP/Open VPNのVPNサーバー機能も搭載 |
・バックアップ
最後に、「Time Backup」と呼ばれる機能についても紹介しておこう。これは、NAS版のTimeMachineと言ったところだ。DS212にUSB HDDなどデータのバックアップ先となるストレージを装着し(別のDS212にネットワーク経由でのバックアップも可能)、Time Backupからバックアップしたい共有フォルダと、そのスケジュール(標準では1時間おき)を設定しておく。
すると、共有フォルダのデータが1時間おきの履歴として自動的にバックアップされ、任意のファイルを任意の時点へといつでも復元することが可能となる。USB HDDや別のNASにデータをバックアップできる製品はいろいろあるが、1時間おきという高い頻度の履歴まで管理できるのは、まさに本製品ならではの機能だ。実によく考えられていると感心してしまった。
指定した共有フォルダのデータを任意の時点に復元できるTime Backup。1時間おきに自動的にバックアップを作成できる |
●機能を整理して使いこなすのが難しい
以上、Synologyの2ベイNAS DiskStation DS212を試してみたが、今まで、NASでこれができればいいのに……、もっとこうなって欲しい……、と感じていた機能が、ことごとく実現されていることに驚かされた印象だ。個人的には、ほぼ理想型に近いNASであると言っても過言ではない。
ただし、今回取り上げた機能ですら一部にすぎず、もっと多くの機能があること、さらに各機能が複雑に関連し合っており、ユーザー設定で利用するサービスを有効にしたり、外出先からアクセスできるようにするために他の機能で設定しなければならないなど、使い方が非常に複雑になっている。
たとえば、同じ機能でも、インストールはパッケージマネージャから行なって、利用は専用URLからのアクセス、設定はDSMの左上のアイコンから表示されるメニューからと、複数画面に設定が散在しているのも困りものだ。
幸い、UIは日本語化されているうえ、ヘルプも日本語で参照できるため、これを読み込んで使えば、各機能を正常に動作させることができるのだが、おそらく何も見ずに設定画面だけいじっていると、機能がうまく使えずに困ったことにもなりかねない。
体系的に機能を整理し、具体的にどのようなフローで設定すればいいのかというガイドが決定的に欠けていることが、本製品の唯一にして、最大の欠点と言える。機能的には、最強といってもいいほどのNASなのだから、この点にもっと注力することが、今後の課題と言えるだろう。
関連情報
2012/9/4 06:00
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