清水理史の「イニシャルB」

テレビへのHDMI接続でNASをプレーヤーに
QNAP TurboNASの新ファーム3.8.1を試す

 QNAPのTurboNASシリーズ向けに最新ファーム3.8.1がリリースされた。TS-469 ProなどのHDMI端子を搭載した製品で、ディスプレイ接続によるメディアプレーヤー機能が搭載されたのが大きな特徴だ。裏方の存在だったNASは、リビングの表舞台へと上がれるのだろうか。

リビング進出に名乗りを上げたNAS

 スマートテレビか、HDMI直結の小型Android STBか、ゲーム機か、それともスマートフォン/タブレット+ワイヤレスディスプレイ技術(Miracastなど)の組み合わせか。

 リビングのテレビにインターネット上のさまざまなサービスをプラスするための試みが各分野からさかんに行なわれている。

 そんな中、NASという、これまで裏方の存在だったが製品が、この分野に名乗りを上げてきた。QNAPのTurboNASシリーズだ。

 高い性能と柔軟な拡張性を備えたNASとして高い評価を得ている製品だが、最新のファームウェア3.8.1(2012年12月10日公開)で、「HD Station」と呼ばれる新機能が追加され、HDMIで接続したテレビやディスプレイに「XBMC media player」や「Chrome」などのアプリケーション画面を表示することが可能となった。

最新ファームを適用したQNAP TS-469 Pro。HDMI経由でテレビに画面を表示。XBMCを利用してメディアを再生できる

 そういえば、かつてWindows Home Serverで、外部ディスプレイ接続によるメディア再生機能がサポートされるという噂があったものの立ち消えになってしまった記憶があるが、これが今の時代になって、しかもライバルのNASによって実現されたことになる。

 もちろん、HD Stationを利用できるのは、HDMI出力がサポートされている機種(TS-x69シリーズ、およびTS-x69Lシリーズ)に限られるが、ファームウェアのアップデートと簡単なアプリの追加作業をするだけで、NASをメディアプレーヤーとしても使えるようになるのは大きな魅力だ。

HD Station対応機種
TS-x69シリーズTS-269Pro、TS-469Pro、TS-669Pro、TS-869Pro
TS-x69LシリーズTS-269L、TS-469L、TS-569L、TS-669L、TS-869L

 冒頭で触れたように、テレビでインターネット上のサービスを利用可能にする方法はさまざまなものがあるが、それ自体が広大なストレージ領域を持ち、ローカルに保存されたコンテンツも気軽に再生できるという点では、NASを選ぶというのも面白そうだ。

HD Station+XBMCをインストール

 利用方法は単純だ。まず、QNAPのダウンロードセンター(http://www.qnap.com/jp/index.php?lang=jp&sn=730)から最新の3.8.1をダウンロードするか、設定画面のライブ更新機能を利用して、ファームウェアをアップデートしておく。

 3.7.xからのアップデートの場合、一新されたデザインも目に新鮮だが、設定画面の「アプリケーション」に追加された「HD Station」を選択して、セットアップを開始する。最低限必要なアプリケーションは、HD Station本体とメディアプレーヤーのXBMC(現状はベータ版)だが、加えて、Chrome、Youtube、MyNASもダウンロード可能なため、これらも一緒にインストールしておこう。HD Stationのダウンロードとインストールには、若干時間がかかるので、気長に待つといいだろう。

3.8.1を適用するとアプリケーション画面に「HD Station」が追加される。ここから必要なモジュールを追加インストールする

 インストールが完了すれば、本体側の設定はもはや不要だ。NASの背面に搭載されているHDMIにテレビなどを接続すれば、HD Stationの画面が表示される。USBキーボードとマウスを接続後、言語を選択し、初期設定を完了させれば、HD Stationが利用可能になる。

 なお、今回は、Atom 2.13、RAM 1GBを搭載した4ベイのTS-469 Proを利用した。このNASには、HDMIに加え、D-sub25のVGAポートも搭載されている。試しにVGAポートにディスプレイを接続してみたところ、HD Stationの画面を表示することが可能だった。ただし、VGAポートを利用する場合、当然ながら音声を出力できない。

 同様のVGAポートは、TS-x39やTS-x59シリーズにも搭載されているが、これらがHD Stationの対象機種に含まれていないのも、こうした理由からだろう。

正面
側面
背面

XBMCで音楽、写真、動画を再生

 メディアの再生には、XBMCを利用する。XBMCは、WindowsやLinux、さらにはAndroid版なども存在するクロスプラットフォームのメディアプレーヤーだ。市販のメディアプレーヤーなどでも採用例があるので、使ったことがある人もいるだろう。

 基本的な操作はシンプルだ。起動すると、「天気予報」、「ピクチャ」、「ビデオ」、「ミュージック」、「プログラム」、「システム」というメニューが表示されるので、ここから見たいコンテンツを選べばいい。たとえば、「ピクチャ」を選択すると、TS-469上の「Multimedia」フォルダが表示されるので、ここからNASに保存されている写真を選んで表示すればいい。

 一枚ずつ写真を表示するのはもちろんのこと、スライドショーで表示することも可能だ。操作も軽快で、ストレスを感じるようなことはない。

HD Stationのトップ画面。ここから、XBMCやChromeなどのアプリを起動できる
XBMCのホーム画面。ピクチャやビデオからNASのMultimediaフォルダ上のデータを再生できる

 再生できる形式も豊富で、たとえばビデオの場合、試した限りでもflv/mts/ts/mkv/mov/mp4など、ほとんどのファイルを再生することができた。早送りや巻き戻しなどの操作も問題なくできたうえ、途中で再生を停止した場合に次回レジューム再生することも可能だった。試しに、ビデオカメラで撮影した1440×1080のAVCHD(MTS)ファイルを再生してみたが、スムーズに再生できた。

 なお、メーカーによると、720Pの動画で、一部ノイズが入る現象が見られるとのことだ。確認してみたところ、確かに場面の切り替えや動きの速い映像で、この現象が見られた。ただし、720Pの映像は、ローカルのファイルとして扱う機会はさほど多くない。他の解像度の映像では、この現象は見られないので、あまり気にする必要はなさそうだ。

 もちろん、ローカルのファイルだけでなく、ネットワーク上のファイルも再生可能だ。メディアのロケーションとして、Windowsのファイル共有やDLNAサーバーなどを指定することもできる。そもそも本体が大容量のNASなので、他の機器のファイルをローカルに集約してしまった方が効率的だが、複数NASを利用している場合などでもメディアを一元管理できるのはメリットと言えそうだ。

ネットワーク上の他のサーバーのデータも再生可能。XBMCでメディアを一元管理できる

 また、豊富なアドオンを利用できるのもXBMCの特徴の1つだ。XBMCのメニューからオンラインでアドオンを追加することが可能となっており、ビデオであれば、「Apple iTunes Podcasts」、「CBSnews.com」、「IGN.com」など、インターネット上の動画サービスを、音楽であれば「Shutcast」などのインターネットラジオを追加して楽しむことができる。

 オンラインで入手できるサービスは、海外のものがほとんどとなるが、radikoやニコニコ動画など、国内のサービス向けのプラグインを作成しているユーザーも存在するため、手動でアドインを追加すれば利用可能だ。なかなか実用性の高いアプリと言ってよさそうだ。

Podcastやcnetなどのコンテンツを再生できるアドオンが利用可能
ミュージックのアドオンにはshoutcastなども用意される

スマートフォンやリモコンでも操作可能

 このように多機能なQNAPのHD Stationだが、リビングのテレビなどに接続して利用する場合、問題になるのが操作環境だ。USBポートに接続したキーボードやマウスを利用することはできるが、動画などをリラックスした体勢で楽しみたい場合は、少々不便だ。

 もちろん、この対策もきちんとなされている。本稿の執筆時点では、まだ公開されていないが、iOS向けに「QRemote」と呼ばれるリモコンアプリが提供され、同じネットワークにTS-469とiOS端末を接続することによって、手元からの操作でXBMCをコントロールすることができる。

iOS向けのアプリを利用することで、XBMCをコントロールできる
画面上のボタンやフリックによるマウス操作のほか、ショートカットでアプリを起動することも可能
キーボードも利用できるが日本語入力には対応しない

 ショートカットでXBMCやChromeなどのアプリを直接起動したり、リモコン的に方向ボタンで操作したり、画面のタッチ操作でマウスカーソルを移動できたり、キーボード入力ができるなど、このアプリを利用すれば、ほとんどの操作ができる。ワイヤレスのキーボードやマウスを使うのも手だが、リビングで使うなら、QRemoteの利用が圧倒的に便利だ。

 なお、現時点では、QRemoteだけでなく、HD Station全体で日本語入力がサポートされていない。Webの検索に限っては、Googleの入力予測機能によって、英語だけでもほとんどの検索が事足りてしまうが、Youtubeの検索などは英語を使う必要がある。また、Youtubeにサインインしてもお気に入りなどが表示されなかった。まだ、完全な日本語対応とは言えないようだ。

 このほか、操作に関しては、Windows Media Center用のリモコンを使えるのも特徴となっている。QNAP TS-469 Proは、本体前面に赤外線ポートを内蔵しており、同社製のリモコンでの操作に対応しているが、HD Stationの設定を変更することで、Media Center用リモコンを利用できる。たまたま手元にあったMicrosoft製のMedia Center用リモコンを試してみたが、問題なく利用することができた。

 ただし、リモコンはChromeやYoutubeで利用できないため、基本的にはQRemoteを利用した方が快適だ。iPhoneだけでなく、iPad、iPod touchでもQRemoteを利用できるうえ、XBMCはAirPlayにも対応している。リモコンとして利用しつつ、iOS端末上の動画や写真、音楽をXBMC経由でテレビに表示できるので、これを活用するのが効率的だろう。

iOS版アプリのほか、Windows Media Center用のリモコンも利用可能。受光部はTS-469 Proに内蔵されている

テレビの側にNASを

 以上、QNAPの最新ファームで追加されたHD Stationの機能を実際に利用してみたが、ローカルで再生できると、スピーディなうえ、DLNAの互換性なども気にしなくて済むため、非常に快適な印象だ。アドオンによってインターネット上のコンテンツも楽しめるうえ、アプリやリモコンを使った操作環境も整っているメリットも大きい。

 テレビの側に設置するとなると、今回試用したTS-469 Proでは少々大きく、2ベイのTS-269 Proあたりを選びたいところだが、いずれにせよ、今回のHD StationによってリビングにNASを設置することが現実味を帯びてきた印象だ。QNAPのNASは、静音性にも優れているため、リビングに設置しても動作音がほとんど気にならないというメリットもある。

 また、今回はXBMC、Chrome、Youtube、MyNASのみが提供されているが、今後、同様のアプリケーションが追加されていけば、もっと使いやすくなることが期待できる。映像配信サービスなどを利用することが可能になったり、簡単なゲームなどが楽しめるようになれば、よりリビングに設置する意義が出てくる。ぜひ、そうなることを期待したいところだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。