清水理史の「イニシャルB」

ポータブルルーター+ストレージ+バッテリー 1台3役のアイ・オー・データ機器「WFS-SR01」

 アイ・オー・データ機器から発売された「WFS-SR01」は、バッテリーを内蔵したポータブルルーター兼SDカードリーダーだ。スマートフォンやタブレットのストレージとして利用したり、旅先などの宿泊施設でインターネット接続を共有するのに重宝する製品となっている。

サイズは若干大きめだが多機能

 国内外の旅行や出張時に、宿泊施設の有線インターネット接続環境を複数機器で共有するためにポータブルルーターを持ち歩いているという人も少なくないことだろう。

 今回、アイ・オー・データ機器から発売された「WFS-SR01」は、そんなときの選択肢として検討したい一台。同社の製品カテゴリとしては、メモリーカードリーター/ライターとして分類されており、基本的には、本体に装着したSDメモリーカードに無線LAN経由でアクセスできる製品だが、本体に搭載された100BASE-TX対応のWANポートを利用することでポータブルルーターとしても利用可能となっている。

アイ・オー・データ機器の「WFS-SR01」。バッテリー内蔵のWi-Fiルーター兼Wi-Fi SDメモリーカードリーダー/ライター
正面
側面1
側面2
背面

 同社では、持ち運び可能なルーターとして、「WN-TR2」シリーズや「WN-G150TR」シリーズをラインナップしており、これらの製品と比べると、サイズや重量は遙かに大きく、手のひらにかろうじて収まるレベルだが、以下の表でも分かる通り、SDメモリーカードスロットとバッテリーを内蔵しているのが大きな特徴。単純なポータブルルーターに加えて、ポータブルストレージ、ポータブルバッテリーの3つの役割を兼ね備えたアイテムということになる。

【アイ・オー・データ機器のポケットルーターラインナップ】
WFS-SR01WN-G150TRWN-TR2
参考価格8500円2900円3100円
サイズ(W×D×H)72×98×18mm42×56×16mm22×65×15mm
重量120g25g17g
有線LAN10BASE-T/100BASE-TX
無線LANIEEE802.11n/b/g(150Mbps)
簡単設定-WPS/QRコネクトWPS/QRコネクト
外部メモリーSDメモリー
バッテリー2600mAh

アプリからもPCからも扱いやすい

 購入直後はバッテリー容量が10%以下のため、しばらくの間(満充電までは約4時間)、充電してからではないと電源をオンにできない点に注意は必要だが、使い方自体はシンプルで迷うことはない。基本的な流れは以下のようになる。

    1)SDカードスロットにSDメモリーカードを装着
    2)有線LANポートにインターネット接続用のケーブルを接続
    3)本体側面の電源ボタンを押して起動
    4)本体背面に記載されているSSIDと暗号化キーで端末を接続
    5)端末でブラウザを起動してインターネット接続
    6)「SR01 Manager」アプリを利用してSDにアクセス

 有線LANを利用する限りは、特に本体の設定も変更する必要はなく、電源を入れて、スマートフォンなどから無線LANで接続するだけでいいので、使い方に迷うことはないだろう。

 無料で提供されるスマートフォン向けのアプリ(iOS/Android)の使い勝手も悪くない。起動するだけで、簡単にWFS-SR01に装着したSDメモリーカードのファイルを参照できるうえ、MP3の音楽やMP4の動画なども無線LAN経由で再生することができる。音楽はバックグラウンドでの再生も可能なので、まさにスマートフォンの外部メモリー的に利用することが可能だ。

 ファイルのコピーも複数ファイルを簡単に選択できるうえ、AndroidやiOS端末のローカルストレージも参照できるので、端末とWFS-SR01間で簡単にデータをやり取りすることができる。WFS-SR01の設定も可能で、SSIDやパスワードを変更することも可能だ。

無線LANで接続したスマートフォンから簡単にSDメモリーカードのデータにアクセス可能。音楽や動画(要再生アプリ)なども再生できる
ファイルを複数選択してコピーすることができる。ローカルのフォルダも参照できるのでデータのコピーなどは簡単
写真などをメールやSNSに投稿することもできる

 もちろん、PCからのアクセスもできるようになっており、無線LANで接続したPCから、ブラウザで「http://10.10.10.254」にアクセスすることで、詳細な設定、およびブラウザベースのファイルマネージャーからSDメモリーカードのデータにアクセスできる。さらには、エクスプローラーから「\\10.10.10.254」のようにアクセスすることで、SDメモリーカードのファイルをドラッグアンドドロップで扱うことも可能だ。

 ファイルのブラウズや設定画面の表示などもスピーディで、ストレスを感じないため、通勤や通学時にスマートフォンから参照したいデータを入れて持ち歩いたり、外回りの仕事で使うデータをSDメモリーカードに入れて、タブレットなどから参照するといった使い方も実用的と言えそうだ。

 このほか、無線LAN経由でのインターネット接続も可能だ。設定画面でインターネット接続を無線LANに変更後、接続先のアクセスポイントを指定すると、無線LANブリッジとして動作するようになる。最近では、ホテルのインターネット接続環境に無線LANが利用されることもあるので重宝しそうだ。

PCのブラウザーからも設定画面にアクセス可能
ブラウザー上からファイルも操作できる
もちろんエクスプローラーからも参照可能

通信機器としての機能が若干弱い

 前述したように、手軽にインターネット接続を提供しつつ、SDメモリーカードのデータも共有できるWFS-SR01だが、ポータブルルーターとして見ると、若干、機能的に物足りない印象もある。

 まず、前掲した表にも記載したが、無線LANの接続設定が手動設定のみとなっている。同社のポータブルルーターの他機種で、WPSやQRコードによる設定方法がサポートされていることを考えると、本製品で同様の設定ができないのは残念だ。

 続いて、困ったのがPPTPだ。実際に試してみたところ、どうやらPPTPが通らない。プロトコルにPPTPを使うかどうかは企業によって異なるかもしれないが、出張先からVPNで社内のネットワークに接続したいというケースは多々あるので、これができないと困るという人もいることだろう。ルーター関連の設置としては、DHCPサーバーのオン/オフと、DDNSの設定が可能となっているが、フィルタ関連の機能などもなく、ルーターとして見ると、若干、機能が物足りない印象だ。

 同様に、セキュリティ関連の機能も物足りない。セキュリティに関しては、「セキュリティに関するご注意」という案内がパッケージに同梱されており、設定画面にアクセスするためのアカウント(admin)にパスワードを設定すること(標準はパスワードなし)、ルーターとして利用する際にはSDメモリーカードを抜いておくことが記載されている。

同梱の用紙にセキュリティに関する注意が記載されている

 前者は理解できるとして、後者が何のために記載されているのか疑問だったのだが、使ってみてわかった。WAN側からも制限なしにWFS-SR01にアクセスできてしまうのだ。

 たとえば、宿泊施設側から192.168.0.10のIPアドレスがWFS-SR01のWANポートに割り当てられたとしよう。この場合、宿泊施設側で同じく192.168.0.xのアドレスを利用しているユーザーから、WAN側の「http://192.168.0.10」や「\\192.168.0.10」を指定してアクセスされると、設定画面や共有フォルダーが表示されてしまう。もちろん、事前にユーザー認証はかかるが、標準のadmin/パスワードなしで使っていたとしたら無防備となってしまうの要注意だ。

 また、WFS-SR01に接続している端末同士での通信も基本的にスルーとなる。たとえば、同室の同僚とWFS-SR01でインターネット接続を共有する場合、同僚の端末からWFS-SR01のSDメモリーにアクセスできるのは当然として、端末間で通信することも制限されない。

 理想としては、マルチSSIDで、SSID間の通信を遮断したり、ゲスト側SSIDからはSDカードにアクセスできないようにしてくれるとありがたいのだが、残念ながらそこまではできない仕様だ。

 同社が分類した「メモリーカードリーター/ライター」というカテゴリの製品だと割り切ったとしても、複数ユーザーでSDメモリーカードのデータを共有するという用途を考えれば、こういった機能は必要なはずだ。できれば、ユーザーを作成して、フォルダごとにアクセス権を設定できるようにしてくれれば、Wi-Fiストレージとしては、なおありがたかったところだ。

充電できるのは便利

 このように、手軽な半面、セキュリティ設定や運用に注意が必要な製品と言えるが、本製品の3つ目の特徴であるバッテリーを内蔵している点は、やはり便利だ。

 単純に電源が確保できない場所でもSDメモリーカードのデータを参照できるので、通勤や通学中の電車の中、会議室などでも手軽に利用できるうえ、本体側面に用意されたUSBポートを利用して、スマートフォンを充電しながら利用することができる(公称連続使用時間はSDカードのみで6.5時間)。

 スマートフォンのバッテリー切れに備えた緊急電池としても使えるが、外出先でUSBポートが1つしか確保できない場合でも、WFS-SR01に給電しながら、同時にスマートフォンなどに電源を供給することができる。

 USBポートは、充電だけでなく、USBメモリーやUSBハードディスクを接続してデータを共有するためにも利用できるため、欲を言えば、サイズにこだわらず2ポートくらいUSBポートを用意してくれるとありがたいところだが、その場合、バッテリー容量や供給電力をどうまかなうかが課題になってきそうだ。

 というわけで、アイ・オー・データ機器のWFS-SR01だが、製品の特性を理解して使えば、ポータブルルーター+Wi-Fi SDメモリーカードリーダー/ライター+モバイルバッテリーという1台3役というメリットを享受することができるが、ルーターとして公共のネットワークに標準設定でつなぐのは若干不安がある。

 個人的には、パーソナルユースに限ったWi-Fi SDメモリーカードリーダー/ライター兼モバイルバッテリーと、割り切って使うことをおすすめしたい製品だ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。