清水理史の「イニシャルB」

DTCP-IP対応NASがより身近な存在に CPUも強化された2ベイNAS QNAP「TS-231+」

 QNAPから登場した「TS-231+」は、同社NASのラインアップの新世代となる「TS-x32+」シリーズのエントリーモデルだ。最新のCPUを搭載しているほか、国内でのニーズの高いDTCP-IPにも対応しており、通常のデータだけでなく、デジタル放送の録画などにも活用できる。その実力を検証してみた。

ちょうどいいNAS

 サイズも、価格も、機能も、すべてがちょうどいい。

 QNAPから登場したTS-231+は、そんな印象のNASだ。2ベイのサイズはコンパクトで設置場所に困らないし、価格も市場想定価格で3万9800円と手を出しやすい。QNAPのNASは、QTSと呼ばれる共通のOSを採用することで、一部の例外を除いて使える機能も共通だが、その例外の1つとなる「DTCP-IP」にも対応している。

QNAPのTS-231+。2ベイのエントリー向けNASながら、DTCP-IPに対応している

 これまで、同社のラインアップの中でDTCP-IPに対応したモデルは、AV向けのファンレス製品となる「HS-210-D」、および4ベイの「TS-420-D」のみだったが、今回のTS-231+の登場で、ついにDTCP-IP対応のエントリーモデルが登場したことになる。

 HS-210-Dは静音性にもこだわったAV機器的なイメージが強かったが、本製品は、どちらかというとDTCP-IP「も」使えるホームNASという位置付けの製品だ。

 見た目は、型番末尾に「+」がない既存のTS-231シリーズとそっくりで、白を基調としたシンプルなデザインとなっている。HS-210-Dと異なり、ファンも背面に装着されているが、実際に稼働させてみると、静音性は高く、背面に耳を近づければファンの音がかすかに聞こえるという程度。HS-210-Dほど静音性にこだわる必要がなければ、これでも十分という印象だ。

正面
側面
背面
HDDは別売り。フロントから脱着可能なトレイにネジで固定して装着する

 一方、既存のTS-231との違いは、中身に現れる。CPUは、新採用のCortex-A15 Dual Core 1.4GHzへと向上し、メモリも1GBへと倍増している。TS-231はHDDの対応がSATA 3Gb/sだったが、今回のTS-231+で6Gb/sへと進化したのも地味にうれしい。eSATAが省かれているあたりは、よりホームユースを意識してのことかと思われるが、USB 3.0が3ポートあるのでディスクの拡張やバックアップにも困らない。

 正直、これまでのモデルでは、HS-210-Dはちょっと高く、TS-231はDTCP-IP非対応やスペック面に不満があったが、今回の製品では、これらの不満が見事に解消されている印象だ。

スペック表
HS-210-DTS-231+TS-231
価格4万2000円前後3万9800円(市場想定価格)2万8000円前後
CPUMarvel ARM 1.6GHzARM Cortex-A15 dual-core 1.4GHzARM Cortex-A9 dual-core 1.2GHz
浮動小数点演算×
RAM512MB1GB512MB
HDD2ベイ(SATA 3Gb/s)2ベイ(SATA 6Gb/s)2ベイ(SATA 3Gb/s)
LANGigabit×1Gigabit×2Gigabit×2
USBUSB 3.0×1/USB 2.0×2USB 3.0×3USB 3.0×3
eSATA××1
DTCP-IP×

DTCP-IPでテレビのお供に

 注目となるDTCP-IP対応だが、HS-210-Dと同様に、追加アプリの「TwonkyMediaDTCP」によって実現される。

 詳しいインストール方法は、同社のWebページで解説されているので、こちらを参照してほしいが、基本的に「App Center」から同アプリを検索してインストールするだけと簡単に利用できる。

 用途は大きく3つで、録画、ダビング(コピー/ムーブ)、再生用として利用できる。

録画

 スカパー!用のDTCP-IP対応デジタルチューナーを利用している場合は、番組の録画先としてTS-231+を指定できる。

 スカパー!のチューナー(今回はスカパー!光用のHR-250H)で録画機器登録画面を表示し、そこからネットワーク上のTS-231+を選択する。これで、録画先として登録されるので、スカパー!の番組を直接録画することが可能だ。

 もちろん、録画した番組の再生も可能だ。チューナーから録画番組を指定して再生すれば、自動的にネットワーク上のTS-231+から番組が配信されて再生される。

ダビング

 用途として、おそらく最も多いと思われるのがダビング(コピー/ムーブ)だ。テレビやレコーダーなど、既存の機器で録画したデジタル番組をダビングすることで、保存先をTS-231+に変更することができる。

 テレビやレコーダーなどの容量が不足気味の場合に、長期間保管しておきたい番組などをTS-231+にムーブしておくことなどができる。

 また、テレビなどの一部の機器の中には、DTCP-IPに対応していてもサーバー機能が搭載されていないために、録画した番組をネットワーク上のほかの機器で再生できない場合がある。

 このようなケースでは、TS-231+に番組をコピーすることで、TS-231+経由でほかの部屋のテレビやタブレット(DTCP-IP対応アプリが必要)など、ネットワーク上のほかの機器で番組を見られるようになる。

 ダビング10の回数が減るのと、コピーに時間がかかるのがネックだが、容量不足などに悩んでいる人にとっては、まさに救世主と言えるだろう。

再生

 再生は、上記の録画やダビング後の機能となる。TS-231+に保存されたデジタル番組は、DTCP-IP対応のテレビやPlayStationシリーズなど、ネットワーク経由でほかのDTCP-IP対応機器で再生することができる。

 もちろん、デジタル放送に限らず、一般的な動画も配信できるうえ、写真や音楽などにも対応しているので、通常のメディアサーバーとしても活用するといいだろう。

 HS-210-Dの場合となるが、実際の使い方は、こちらの記事(http://akiba-pc.watch.impress.co.jp/docs/sp/20150420_681319.html)でも詳しく解説しているので、参考にしてほしい。

トランスコードやAppleTVへの配信も可能

 メディア系の機能としては、動画のトランスコード機能が搭載されているのも特徴の1つと言えるだろう。

 File Stationなどのファイル管理機能や後述するスマートフォン向けのアプリ「Qvideo」などを使って、動画ファイルを指定してトランスコードを実行すると、スマートフォンなどに最適なサイズと形式に、バックグラウンドで動画を自動的に変換することができる(DTCP-IPでダビングした動画などは対象外)。

 特定のフォルダーを監視して自動的に動画を変換することもできるが、本製品の場合、CPUが強化されたとは言え、ハードウェアによるアクセラレーションに対応しないため、動画の変換にはかなり時間がかかるので(7分間の動画で約17分)、どうしても変換したい動画だけを選んで、手動で変換する方が適しているだろう。

動画のトランスコードも可能。ただし、ハードウェアアクセラレーションなしのため変換には時間がかかる

 また、「QAirplay Chromecast」アプリをインストールすると、TS-231+に保存した写真や動画をApple TVやChromecastに配信することもできる。ブラウザからTS-231+上の「QAirplay Chromecast」画面を表示して、接続先の機器と表示したいファイルを指定することも可能だが、スマートフォン向けのQfileアプリからファイルを指定することもできる。

 DLNAはテレビからサーバーのコンテンツをのぞきに行く、いわば見る人主導のPull型のメディア再生機能だが、こちらはTS-231+やスマートフォンから表示したいコンテンツを選択するという、見せる人主導のPush型のメディア共有機能と言える(DLNAもスマートフォンをコントローラーとして使えばPushで再生可能)。

 利用するアプリによって、どちらのタイプのメディア共有も可能という点もTS-231+の特徴と言えるだろう。

QAirplay Chromecastアプリをインストールすることで、NASからApple TVやChromecastにメディアを再生できる

豊富なスマートフォン向けアプリ

 スマートフォンからの利用も簡単だ。QNAPのアプリは、年々、改良が重ねられてきたおかげもあり、かなり使いやすくなった。主なアプリは以下のようになっている。

・Qfile:ファイル管理
・Qmanager:動作状況の確認と管理
・Qmusic:音楽の再生
・Qphoto:写真の表示とアップロード
・Qvideo:動画の再生
・Qnote:メモをNAS上に保存(Androidのみ)
・Qget:ダウンロードを管理(Androidのみ)
・Vmobile:監視カメラソリューション
・Qremote:モバイルデバイスをリモコン化

 中でも中心的な役割を果たすのはQfileだ。単にファイルを参照できるだけでなく、スマートフォンで撮影した写真の自動アップロードが可能だ。もちろん、アップロード先にユーザーのホームフォルダーを指定することが可能となっており、プライバシーへの配慮もなされている。

 このほか、便利だと感じたのは、Androidの「共有」機能の設定だ。例えば、ギャラリーで写真を表示後、[共有]をタップし、共有先のアプリとしてQfileを選択したときに、写真をどこのフォルダーにアップロードするかを設定しておくことができる。このため、ほかのアプリからもNAS上にデータを保存することが簡単にできる。

NAS上のファイルを参照できるQfile
写真の自動アップロードやほかのアプリから共有したときの保存先も設定可能

 写真用のQphotoもわかりやすい。写真のアップロード先として、標準で「共有写真」と「プライベートコレクション」があらかじめ登録されており、「共有写真」に写真をアップロードするとNAS上の「Public」に、「プライベートコレクション」に写真をアップロードするとユーザーのホームフォルダーにデータが保存される。

 NASの場合、アップロードしたデータが、どこに保存され、どのユーザーがアクセス可能で、どのサービスから参照されるようになっているか(DLNAで公開されるかどうか)? を確認することが結構重要だが、比較的わかりやすい構成と言えそうだ。

写真用のQphoto。写真のアップロード先として、プライベートな場所とパブリックな場所が明確に分けられている

 このほか、動画用のQvideoを利用することで、前述したように、NAS上の動画を指定してトランスコードを実行することができる。トランスコード済みの動画があれば、再生時に品質を選択できるので、回線状況によって使い分けることが可能だ。

スマートフォンアプリのQvideoからトランスコードを実行可能
トランスコードが完了すれば、動画の再生時に品質を選択できる

NASとしての基本性能も十分

 以上、QNAPの新型NAS「TS-231+」をDTCP-IP機能を中心にチェックしてみたが、DTCP-IP対応の製品が欲しいユーザーには、かなりお買い得な製品と言える。テレビやレコーダーなどの家電製品ほど手軽ではないが、それを補って余りある拡張性を備えており、トランスコードやApple TVなどとの連携にも活用できる。

 もちろん、NASとしての基本性能も優秀だ。以下は、ネットワーク上のPCから共有フォルダーに対してCrystal Disk Mark 5.0.2を実行したときの値だ。CPUやメモリなどの強化が図られているだけあって、100MB/s越えと優秀な値が出ている。LANポートが2ポートあるので、うまくクライアントを振り分ければ、複数端末からのアクセスでも高いスループットが期待できるはずだ。

 機能的には、前述したとおり、QNAPのNASで共通となるQTS4.1の機能がサポートされており、LAN内からの利用はもちろんのこと、外出先からのアクセスも快適にできるようになっている。

 スマートフォン向けのアプリも豊富に用意されており、PCだけでなく、スマートフォンからの利用にもおすすめできる。現状の2ベイNASの中では、機能的にも性能的にも優秀なので、お買い得な製品と言えそうだ。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できる Windows 10 活用編」ほか多数の著書がある。