甲斐祐樹の Work From ____

第1回:「ちば割テレワーク」担当者に聞く

千葉市内のホテル、テレワークプランが最大3千円割引

 いまだ続く新型コロナウイルス感染症の影響を大きく受けている業界の1つが旅行業界だ。観光庁が7月17日に発表した主要旅行業者の旅行取扱状況速報では、5月の総取扱額が前年同期比と比べて2.4%、つまり97.6%減と、大幅に減少している。

 不振にあえぐ旅行業界に向けて、このたび千葉市が宿泊施設向けの施策として打ち出したのが「ちば割テレワーク」だ。これは宿泊施設がビジネス利用者をターゲットとして日中の時間帯に提供するテレワークプランに対して市が割引分を負担し、3密を防ぐことができるテレワーク施設として安価に活用できるというもの。千葉県内に居住する人(勤務先の地域は問わない)が、テレワークを目的とする場合に利用できる。

「ちば割テレワーク」のウェブサイト

 対象となるのは千葉市内の宿泊施設24カ所(7月19日現在。その後、サービスを終了している施設あり)で、対象のプランに対して最大で3000円が割り引かれる。なお、支払いの最低金額として1000円(税別)が設定されており、元が3000円のプランであっても1000円の支払いは必要だ。テレワークプランの金額は3000円から5000円程度が多く、この補助金を適用することで1000円から2000円程度での利用が可能になる。

 ちば割テレワークを利用する場合は、対象の宿泊施設が用意する対象プランから申し込みが必要。フロントで専用のチケットに記入することで割引を適用できる。料金は割引が適用された金額での支払いとなり、あとからキャッシュバックを受けるといった手間は必要ない。

「ちば割テレワーク」対象施設の1つである「ホテルポートプラザちば」。千葉市役所から徒歩圏内にある
対象プランで渡されるチケットに記入することで割引が受けられる
対象プランのシングルルーム(写真は一例)
部屋内のテーブルで作業できる
テーブルのコンセント
室内Wi-Fi。速度は上り/下りとも数十Mbpsと業務には十分
卓上のテレビをサブディスプレイとして利用(HDMIケーブルは用意されていない)

「必要な社会インフラ」である宿泊施設を救うための取り組み

 ちば割テレワークは4月28日から開始。当初は6月30日に終了予定だったが、期間を9月30日へと延長した。この取り組みについて千葉市経済農政局経済部観光MICE企画課主査の矢田崇史氏に話を伺った。

千葉市経済農政局経済部観光MICE企画課主査の矢田崇史氏

 矢田氏が所属する観光MICE企画課は、部署名の通り「MICE」(Meeting、Incentive Travel、Convention、Exhibition/Eventの頭文字を使った造語、企業が主体となる催事の総称)振興に取り組む部署だ。宿泊や飲食を伴うなど、通常の観光に比べて消費額が多いMICEを誘致・支援することにより、経済を活性化させることを目的とする。

 千葉市は、国際的な大規模イベントも数多く開催される「幕張メッセ」を有するほか、近隣には東京ディズニーリゾート、成田国際空港といった施設も存在するなど、MICEで言う「C」や「E」の要素が強い地域だ。市としてもMICEという言葉が生まれるより前、30年以上前からこの分野に取り組んでおり、花火大会やレッドブル・エアレースといった大規模イベントも開催されてきた。

 千葉市のMICE事業において要の1つとなるのが、前述の幕張メッセだ。国内最大級の面積を誇る幕張メッセでは多数の来場者を見込む大型イベントが数多く開催されており、来場者のための宿泊施設も多い。千葉市としてもこうした宿泊施設とは常日頃から交流を持っているが、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて3月から4月の稼働率が大幅に下がっているとの話を耳にした。

 「イベントやテーマパークも自粛や規模縮小をしているが、今後、復活を目指していくに当たって、大規模イベントを開催するためには、宿泊施設の位置付けは重要。必要な社会インフラとして維持するために何か支援できることはないかと考える中で、テレワークプランの話を聞き、これを支援することでホテルを下支えできないか、と考えた。」(矢田氏)

最優先のスピードで施策を実現。予算の続く限り続けていく

 宿泊施設の大幅な不振を踏まえてこの事業はスピードを最優先し、千葉市の緊急経済対策第1弾として、約2週間程度の準備期間で実現。「新型コロナウイルス感染症対策ということで、普段の市役所の業務とは違うスピード感で実現できた」。市内のホテルには市と委託事業者で声掛けを行い、ターゲットとなるビジネス利用者に対してこの施策をPR、利用者の増加を図っている。

 宿泊施設の支援を目的として、「Stay CHIBAキャンペーン《ちば割》」も実施。こちらは千葉市内のホテルを対象として、1万円を上限に宿泊施設のプランを最大50%割り引くというもの。対象は1名または2名だが、家族利用の場合は人数制限は設けない。旅行はもちろん、旅行を楽しみながら仕事も進める“ワーケーション”としての利用も可能だ。なお、新型コロナウイルス感染拡大の傾向を踏まえ、利用対象者は千葉県内在住者のみとなっている。

「Stay CHIBAキャンペーン《ちば割》」のウェブサイト

 ちば割テレワークの導入により、テレワークプランの利用者は1.5~2倍程度に伸びたという。ただし、新型コロナウイルス以前に比べると大幅な利用減であることは変わらず、依然として宿泊施設は厳しい状態だ。当初は6月30日で終わる予定だったこの施策も、新型コロナウイルス感染症の影響が続く現状を鑑みて9月30日まで延長。「ホテルとしては、この事業が終わってもテレワークプランは販売したいということだった。市としても可能な限り支援を続けていきたい」。

この連載について

ビジネスパーソンが仕事をする/できる場所が多様化しています。従来からの企業の自社オフィスやシェアオフィス/コワーキングスペースはもとより、コロナ禍で広まった在宅勤務(Work From Home)、ホテルやカラオケボックスのテレワークプラン、さらにはお寺や銭湯まで(!?)。この連載では、そうしたざまざまな「Work From ○○」の事例や、実際にそこで仕事をしている人・企業の取り組みなどを、フリーランスライター・甲斐祐樹がレポートします。

甲斐 祐樹

フリーランスライター。Impress Watch記者時代にネットワーク関連を担当していたこともあり、動画配信サービスやスマートスピーカーなどが興味分野。家電ベンチャー「Shiftall」を退職して現在は人生二度目のフリーランス生活。個人ブログは「カイ士伝」