イベントレポート

ARM Tech Symposia 2016

「すべてがデジタル化される世界で、すべてにARMのCPUが付く」ソフトバンク宮内謙氏が講演

 CPU設計大手のARMが2日、年次イベント「ARM Tech Symposia 2016」を都内で開催した。3本の基調講演のうち「Industry Keynote」では、9月にARMの買収を完了したソフトバンクグループ株式会社の代表取締役副社長であり、ソフトバンク株式会社代表取締役社長兼CEOである宮内謙氏が登壇し、ARMとIoTを中心としたソフトバンクグループのビジョンを語った。それに先立って行われたアーム株式会社代表取締役社長の内海弦氏の開会あいさつをとあわせてレポートする。

IoTは製品の種になるビジネス

 内海氏は「今年は衝撃的だった」とソフトバンクによる買収に触れ、「わくわくしている」と語った。

 そして「IoTはお金にならないのではないか」という声を紹介。それに対して「コンシューマー製品はたくさん売れることが成功だが、IoTのビジネスはまた違う。スマートメーターはヒットするといった性質の製品ではない」と反論。種になる技術であり、数量や実態が表に出ない技術だと語った。

 「昔は『ARMって売れますか?』と言われたが、それに戻ったようなものだ。ARMのIP(知的所有権)は、チップベンダーに使われて、製品に使われ、市場に出て、ソフトウェアが乗って、初めて生きる」と、パートナーによる製品へのエコシステムの重要性を説いた。

ARM Tech Symposia 2016
アーム株式会社代表取締役社長の内海弦氏

「すべてがデジタル化される世界で、すべてにARMのCPUが付く」

 宮内氏は冒頭、「ARMが我々のグループカンパニーになったことを喜んでいる。ARMは我々のコアカンパニーになる」とあいさつした。

 宮内氏は現在のスマートフォン時代について、「パソコンからスマホにシフトしたことで、ビジネスにもシフトが起こった」として、AirbnbやUber、SoFiなどを挙げ、「スマートフォンによって生まれたバリューだ」と語った。そして、その背景として「CPU」「ストレージ」「モバイルネットワーク」の指数的進化が示された。

 「こうしたインフラが全部そろったいま、次の時代はIoTだと思っている」と宮内氏は述べた。

 ここでIoTに関するいくつかの予測データが紹介された。インターネットにつながるデバイスの数でIoTは2018年にモバイルを超え、2035年には1兆個になるという予測だ。「1個が1カ月に1円の料金を払っても1兆円になる」とそのビジネスモデルの変化を指摘した。さらに、同じく2035年には1カ月あたりのIoTデータ量が2015年の2450倍の2.3ZBになるという予測も示した。

 「すべてがデジタル化される世界で、すべてにARMのCPUが付く」と宮内氏。さらにこうしたIoTのビッグデータにAIを加えて、ディープラーニングにより処理することで自動運転などを実現する。「テクノロジーの進化がビジネスモデルを進化させる」と氏は語った。

ソフトバンクグループ株式会社代表取締役副社長/ソフトバンク株式会社代表取締役社長兼CEOの宮内謙氏
CPUの進化
ストレージの進化
モバイルネットワークの進化

ARMによるベアメタルクラウド「Packet」12月16日に日本上陸

 ここで少し話題を変えて、ARMとソフトバンクのシナジーの例として、サーバーCPU分野が語られた。ソフトバンクグループが9月に出資を発表したパブリッククラウドのスタートアップ「Packet」は、ARMアーキテクチャのCPUによるベアメタル(物理サーバー)クラウドとして11月末にサービスを開始した。ARM CPUにより消費電力は10分の1に、ラック集約率は3倍になったとのことで、2週間で400社が利用した。

 Packetには現在ニューヨーク、シリコンバレー、アムステルダムの3つのデータセンターがある。この講演の場で、さらに4つめの東京データセンターが12月16日にサービスを開始することが発表された。ちなみに、同社サイトでは新データセンターは「TOKYO, JP (NRT1)」と表記されている。

 ここでIoTとデータの話に戻る。IoTで大事なのはデータの処理とセキュリティである宮内氏は語り、「1兆を超えるIoTデバイスで人類の進化を加速させる」と述べた。「AIはどんどん賢くなり、いまは特化型AIだが、やがて汎用AIが出てくるだろう」。

 その糸口としてデータとテクノロジーがある。「そのベースとなるのがARMのCPUの広がりだ」と宮内氏は講演を締め括った。

パブリッククラウドのスタートアップ「Packet」。ソフトバンクグループが2016年9月に出資を発表
ARM CPUによるベアメタルクラウドサービス
米国で400社が利用、12月16日に東京データセンター開始