イベントレポート

働き方改革を成功に導くOffice 365の「コミュニケーション変革」

会社にもう固定電話はいらない? クラウドとスマホで働き方改革 「Skype for Business/Microsoft Teams」で変わるオフィス電話の今

携帯電話3キャリアがPBXのクラウド化に加えた新たな活用を紹介

 会社にもう固定電話はいらないのか?──話題の“働き方改革”に絡め、そんな刺激的なテーマのセミナーが3月23日、都内で開催された。日本マイクロソフト、住友商事マシネックス、KDDI、NTTドコモ、ソフトバンクが登壇し、「Skype for Business」への移行によって新たな活用が実現しつつある企業内のコミュニケーション環境について、実例に基づきながら解説した。

イベントの様子。企業関係者などが多数集まった

「Office 365」と「Skype for Business」でコストを削減しつつ新たな活用を実現

 今回のセミナーのタイトルは「クラウドとスマホでもう電話はいらない? 働き方改革を成功に導くOffice 365の『コミュニケーション変革』~ Skype for Business/Teamsで実現するクラウドVoiceの最新活用~」。実際に話題の中心となったのは、Skype for Businessだ。マイクロソフトのチャットおよびオンライン会議ソリューションであり、最近では「Office 365」の法人向けプランに組み込まれているので、馴染み深い方も多いだろう。

 Skypeというと、文字や音声・ビデオでのチャットをまず連想するが、ビジネス分野に限っていえば、それは必ずしも正しくない。その最たる例が、外線・内線通話システムとの融合だ。

 企業であれば、規模の大小にかかわらず、何らかのかたちで固定電話を導入し、さらには従業員間の内線通話、保留した電話の部署間転送などを実現しているケースが多い。

 しかしこの企業内電話網は、近年のネット環境の普及によって“時代遅れ”になりつつある。有線LANと電話の回線が、言わば二重に敷設されており、ハードウェアとしてのPBX(回線交換機)は、設置やメンテナンスにおけるコスト面で企業の重荷になっているのだ。

 こうした課題を解決するのがSkype for Businessだ。具体的には「CCE(Cloud Connector Edition)」という機能が内蔵されたアプライアンスを用意すれば、従来型のPBXが不要になる。つまり、電話回線をオフィス内に敷設することなく、有線LANベースでこれまで通りの外線発着信・内線通話環境を構築・維持できる。これが大きなコスト削減に繋がることは言うまでもない。

 従来型のIP電話機にも対応しているが、電話機についても、必ずしもオフィスの机上に電話機を置く必要はない。USB接続のハンドセットをPCと組み合わせたり、あるいはスマートフォンでも、外線・内線の種別を問わず音声通話を利用できる。在宅勤務中の従業員にとっても、この上ないソリューションだろう。

 セミナーでは、Skype for Businessを導入することで、こうしたPBXの置き換えにとどまらない活用の最新事情について、より実態に基づいた解説が行われた。

「CCE(Cloud Connector Edition)」機能を内蔵したアプライアンス機器があれば、「Skype for Business」で外線・内線電話の環境を構築できる。これが「クラウドPBX」だ(住友商事マシネックスの資料より)
クラウドPBXが実現すれば、LANの設備さえあれば構内電話回線は不要になる(KDDIの資料より)

Office 365の徹底活用で残業減少!生産性は26%向上、社員満足度が4割改善

 日本マイクロソフト株式会社は、Skype for Businessの提供元であると同時に、Skype for Businessを用いた働き方改革の実践者でもある。同社でユニファイルコミニュケーションビジネスを担当する黄瀬隆律氏(Officeビジネス本部シニアビジネスディベロップメントマネージャー)によれば、2011年の本社移転をきっかけに、自由度の高いオフィスレイアウトを導入。従業員1人1人の自席が固定されない、いわゆる「フリーアドレス」の体制となった。また、勤務時間や勤務場所の融通も利くため、平日日中でもオフィスに人が少ないという。

日本マイクロソフト株式会社Officeビジネス本部シニアビジネスディベロップメントマネージャーの黄瀬隆律氏

 席が固定されていない以上、従来の固定型オフィス電話も存在しない。現に日本マイクロソフト社内にはPBXが存在せず、Skype for Businessによって電話システムを構築している。例えば黄瀬氏に対する外線は、PCとスマートフォンが同時に着信し、席にいるときはPC、離席していたり、PCの電源が切られている場合は、スマートフォンで着信される仕組みだ。

Skype for BusinessのクラウドPBXによって提供される機能の一覧

 これらはまさに先進性の極地とも言える例だが、実際に成果を生み出している。本社移転前と比較して、社員1人あたりの売り上げで表される“事業生産性”が26%向上した一方、残業時間は5%減り、旅費・交通費も20%削減された。このほか女性離職率の低減やペーパーレスにも繋がった。従業員の反応も上々で、ワークライフバランスが40%改善したことがアンケート調査から分かった。

 働き方改革という言葉からまず認識されるのは、「残業時間の低減」などの働く環境の改善である。ただ、黄瀬氏はそれ自体に頓着することなく、あくまで「生産性の向上」、つまり労働時間あたりの売り上げ増加こそが、働き方改革の目的だと指摘。そこで重要になってくるものが「ユニファイドコミュニケーション」と「インテリジェント(AI)」とした。

日本マイクロソフトの働き方は「ユニファイドコミュニケーション」と「インテリジェント(AI)」を重視

Skype会議で意思決定を迅速化、AIで働き方に“気付き”を

 電話、チャット、音声会議、ビデオ会議などの手段が統合(ユニファイド)され、身近なツールになることの意義は大きい。例えば、5人集まるべき会議が設定されるとして、そのうち1人が出席ができないから日程が延期される……というのはよくある話。しかし、日本マイクロソフトでは、Skypeでのオンライン会議が浸透しており、オフィスに人が集まらなくても全く問題なく会議が実施できる。これにより、まず延期による時間の無駄がなくなる。

 この考え方は、幹部クラスが参加する経営企画会議にも当てはまる。会議に必要な売り上げ指標などは、「Power BI」などを活用して最新の値を取得するため、前もって紙に印刷するなどの準備は不要。また、社長自ら会議の場で現場の営業社員をSkypeで呼び出し、状況を直接ヒアリングし、幹部らとともにその内容をすぐさま経営判断に反映させるなど、徹底したスピードアップをユニファイドコミュニケーションによって実現している。

 そして「インテリジェント(AI)」活用の代表例が「MyAnalytics」だ。やはりOffice 365にて提供される機能の1つで、個人ごとの業務スタイルに対するアドバイスを行ってくれる。例えば、1週間あたりの会議時間はどれくらいか、誰と一緒に多く仕事をしたかといったデータはもちろん、会議中に別件のメールを書いていないか(いわゆる“内職”)、メールのチェックが頻繁すぎることから、企画立案などに必要とされる2時間の集中時間が確保されていないのではないか、といった具体的な指摘もなされる。

 「このほかAI関連の機能では、デザインを提案してくれる『PowerPointデザイナー』の機能が挙げられる。スライドのデザインはAIに任せ、人間はその中身の部分に集中すべきという発想だ。AIが直接仕事を効率化するわけだが、これに対して、MyAnalyticsは働き方に関する気付きを(間接的に)与えてくれる」(黄瀬氏)

具体的な仕事スタイルを提案してくれる「MyAnalytics」

マイクロソフトが標榜する「インテリジェントコミュニケーション」

マイクロソフトが新たに提案している「インテリジェントコミュケーション」

 Skype for Businessの利用者は全世界で増加を続けており、2017年度には約2倍の伸びを記録した。さらに、日本国内での伸びはそれ以上だと黄瀬氏は明かす。この背景には、働き方改革に各社が取り組んでいることがあるのは間違いない。

 日本における働き方の課題は数多くあるが、生産年齢人口の減少は、「質と量」における量の側面での課題だ。この解消には、テレワークの導入をはじめとしたコミュニケーション機能の充実によって、一定の効果があると考えられる。

 ただし、問題はこれだけでない。労働生産性の低さと、労働時間の長さも、国際的な水準と比較して日本は低レベルにある。こういった労働の「質」を、インテリジェント(AI)によって向上させることは、まさに急務となっている。

 つまりコミュニケーションとインテリジェンスは、ビジネスの拡大にあたって、いずれも必須の要素となるわけだ。ならば、この2つを密接に連携させることで、さらなる効果拡大を目指そうというのが、マイクロソフトが新たに掲げる「インテリジェントコミュケーション」構想だ。

 インテリジェントコミュケーションは、ユニファイドコミュニケーションの発展型と位置付けられている。かつては電話やメールが主体だったコミュニケーションが、ビデオ会議が当たり前の状況へと進化しつつあるように、今度はAIが大きな役割を果たす。ビデオ会議の内容を音声認識し、アジェンダや議事録をリアルタイムで表示したり、自動通訳、発言内容を記録したビデオ音声の自動テキスト化などが、実現されていくという。

インテリジェントコミュケーションでは、会議の内容をAIが音声認識し、議事録を自動で作成するといったことが想定されている
ビデオ音声を自動的にテキスト化する技術が利用できるようになるという

企業環境は今後も激変、まずは「クラウド」に移行しては?

 今後の企業間コミュニケーションを考える上で、大きな課題になりそうなのが、2020年代前半から中盤にかけて予定されているISDNサービスの終了、そして固定電話のオールIP化だ。電話局側の設備が大幅に刷新されるため、企業側のシステムに与える影響も大きい。具体的なスケジュールも少しずつ明らかになっており、こうした点からも担当者の悩みは尽きない。

 さらに企業文化の面で言えば、1980年代以降に生まれた「Y世代」「Z世代」が会社を支える中核層へと育ちつつあることが挙げられる。彼らは幼少期~思春期から携帯電話やインターネットに慣れ親しんだいわゆる「デジタルネイティブ」で、固定電話の重要度が相対的に低い。

 こういったことからも、企業はそのコミュニケーション形態について改めて考え直さなければならない時期に来ている。

仕事環境は激変しつつある。これまで固定電話が中心だった社内コミュニケーションも、今後変わっていく

 マイクロソフトは、すでにインテリジェントコミュニケーション構想を打ち出すなど、

こうした変化に向けて積極的な姿勢を打ち出している。今後はインテリジェント(AI)を備えた新しいSkype基盤のコミュニケーション機能をSkype for Business ではなく「Microsoft Temas」で提供していく計画を発表している。AIスピーカーならぬ、AI電話機やAI会議端末なども、続々リリースされる予定だ。

 情勢はめまぐるしく動いているが、果たして企業はどのタイミングで動き出せば良いのか? 「多くの方から『いつやればいいのか?』と聞かれるが、これは正直言って分からない。待てば待つほど新機能が出ていく実情はある。その新機能のほとんどはクラウドによって実現される。まずはクラウド環境への移行を検討してみては」(黄瀬氏)

住友商事マシネックスが考えるSkype for Businessの「三種の神器」

 続いては、住友商事マシネックス株式会社の高橋勇太氏(ICTソリューション部UCソリューションチーム主任)が登壇。「Office 365での働き方改革を成功に導く三種の神器」と題して講演を行った。

住友商事マシネックス株式会社ICTソリューション部UCソリューションチーム主任の高橋勇太氏

 同社には、Skype for Businessの前身にあたる「Office Communications Server(OCS)」「Lync」も含め、マイクロソフトのコミュニケーション製品を長らく取り扱ってきた実績がある。その経験から「CCE(Cloud Connector Edition)」「Skype Room System」「Skype Operations Framework」がSkype for Businessにおける三種の神器だと説明する。

 CCEは前述の通り「Skype for Businessで電話」「クラウドPBX」を体現するゲートウェイ機器だ。「ただし、従来のPBXの単なる置き換えではない。プレゼンス、チャット、ビデオ会議、Outlook連携など、各種機能が並ぶ中の1つに電話を位置付けるための製品」と高橋氏は強調する。

 2つ目のSkype Room Systemは、会議室などへの常設を想定したハードウェアだ。Skypeというと個人PCから利用するイメージが強いが、Skype Room Systemがあれば、部屋単位かつ1つの設備で、複数人が同時にSkype会議を行える。本格的なビデオ会議システムの代替になるというわけだ。

 そしてSkype Operations Frameworkは、Skypeに最適なネットワーク品質を確保するための検証ソリューション。Skypeを巡っては、実際に導入したものの品質面で疑問を呈するユーザーが少なからずいるという。Skype Operations Frameworkでは、各種のツールなどを活用してネットワーク上の問題点などをクラウドPBXの本格導入前に検出できる。

Skype for Businessにおける三種の神器として「CCE(Cloud Connector Edition)」「Skype Room System」「Skype Operations Framework」を紹介

KDDIもSIerとしてSkypeの外線機能を猛プッシュ

 続いて登壇したKDDI株式会社の新谷陽一郎氏(ソリューション推進本部 IPコミュニケーション部マネージャー)は、総務省の調査結果を例示。ここ6年ほどで人々の通話時間が半減している事実を指摘した。

KDDI株式会社ソリューション推進本部 IPコミュニケーション部マネージャーの新谷陽一郎氏

 この6年という年数は、一般的なPBXの耐用年数でもある。つまり、この先さらに利用頻度が低くなっていくであろう音声電話のために、その専用ハードウェアである従来型PBXを買い直すべきかは、検討の余地があると訴える。

 これに対して、Skype for Businessの外線・内線機能は、1拠点に対して1UサイズのCCE対応アプライアンスを1台用意するだけで準備は完了。室内配線はLANだけ(電話線不要)で済み、ユーザーが必ずしも自席に固定された電話機を使う必要もない。自宅からのテレワークなど、インターネットに繋がる環境であれば、どこでも内線相当の電話機能が使える。

 電話は社内コミュニケーションにおいて必須のツールであり続けるとした上で、Skypeと電話を統合すれば、結果として“Skypeにログインしていない社員”を減らす効果が大きいと新谷氏は指摘する。もちろん管理者側から見ても、人員の配置転換などにともなう電話工事の手間が減少するのはメリットだ。

「せっかく導入したSkype for Businessの利用率が上がらず、使われない」という悩みは、外線機能の統合が1つの答えになりそうだ。Skypeにログインしなければ電話の発着信ができない以上、ログイン率は当然上がる。在籍確認やチャットの機能も利用しやすくなるだろう

 KDDIは固定・携帯どちらも手がける通信事業者であり、ともすればSkype for Businessは競合製品と見られかねない。しかし新谷氏はあくまで「KDDIはSIerの立場である」と強調。顧客ニーズを最優先した、最適な提案を行うとしている。

NTTドコモの内線ソリューションがテレワークを支援

 NTTドコモ株式会社の岸川雄紀氏(第1法人営業部主査)は、特にテレワークに関して解説。テレワークは、出産・育児・介護など何らかの理由でオフィスに出勤できなかったり、外回り営業を効率的に行うための手段として期待されている。ドコモはまさにこのテレワークを全社的に実践しているが、それでも情報漏えいへの不安や、管理者による部下の監督においてなど、課題も多いという。

NTTドコモ株式会社第1法人営業部主査の岸川雄紀氏

 NTTドコモの「オフィスリンク+」は、携帯電話を活用した内線ソリューションだ。外出先でもスマートフォンで内線を受けられるのが最大の特徴だが、さらにクラウド電話帳とも連携。Skypeのプレゼンス情報もこの電話帳から確認でき、相手の状況に応じて電話を掛けるのか、メールを送るのかといった判断もできる。

 スマートフォンで内線を取れるとなれば、四六時中電話が掛かってきそうな心配もあるが、業務終了後にモードを切り替えるなどの措置を執れば、携帯電話を鳴らさずに社内へ電話を転送することも可能だ。

 オフィスリンク+では、このほかにも、取引先情報をスマートフォンに残さないといったセキュリティ対策を実施済み。また、会社の固定回線を経由するなど、通話経路を最適化して自動で通話料金を削減することも可能だ。利用者・管理者の双方にメリットのあるサービスだと岸川氏はアピールする。

「オフィスリンク+」では、利用者の使い勝手はもちろん、管理者・経営者にも嬉しい機能を盛り込んだ

ソフトバンクならクラウドPBXがカンタンに試せる

 ソフトバンクもまた、働き方改革に取り組む企業だ。登壇したソフトバンク株式会社の小杉拓也氏(SE第一統括部UCサービス第2部部長)によれば、コアタイムのない「スーパーフレックスタイム」の導入、在宅勤務の適用範囲拡大などが社内で進められているという。

ソフトバンク株式会社SE第一統括部UCサービス第2部部長の小杉拓也氏

 当然、社内・社外でのコミュニケーションスタイルも変えていかねばならない。その1つの解がSkype for Businessとなる。特にPBXのクラウド化は、高価なハードウェアとしてのPBXが不要になり、初期投資を大幅に抑えられる。これだけでも企業にとって大きなモチベーションとなる。

 しかし小杉氏はこれに加え、発着信履歴や通話内容などをまとめて「音声データ」として扱えることも、加えてメリットになると指摘。BIツールを使って経営指標と通話量の相関を調べたり、通話内容を音声認識し、例えば見積書を自動作成するなど、さまざまな応用が考えられる。

 ソフトバンクでは、Skype for BusinessのクラウドPBX機能を月額制・最低利用期間3カ月とするプランを用意。小杉氏は「PBXを『買う』のではなく、(試用を兼ねた)『サービス』として、まず利用してみてはどうか」と、発想の転換を呼び掛けた。

クラウドPBXで通話(音声)の履歴や内容をデータ化しておけば、AIによる音声認識、BIツールでの分析などにも発展させられる