イベントレポート
AWS Summit Tokyo 2019
「AWS」サービスローンチから13年、そのアドバンテージとは
機能拡充、クラウド人材育成、機械学習などへの取り組み
2019年6月14日 15:30
AWS(アマゾンウェブサービス)が主催するテクノロジーカンファレンス「AWS Summit Tokyo 2019」が6月12日~14日に幕張メッセで行われ、その初日の基調講演でアマゾンウェブサービスジャパン株式会社代表取締役社長の長崎忠雄氏が登壇。AWSの現況を報告するとともに、AWSのクラウドサービスとしてのアドバンテージをアピールした。
日本政府の「クラウド・バイ・デフォルト原則」で、クラウド利用はさらに拡大へ
長崎氏によれば、AWSの2019年第1四半期の想定収益は308億ドル(約3.3兆円)で、成長率は前年同期との比較で41%に上る。Amazon S3という1つのサービスを皮切りに2006年からスタートした同社のクラウドプラットフォームは、13年たった現在、165以上のサービスを擁し、2018年の1年間だけで1957回もの機能拡張を実施するまでになったという。
AWSのワールドワイドの顧客数は数百万、日本国内だけでも数十万に上る。民間企業だけでなく世界中の4000以上の公共機関や9000以上の教育機関も利用しており、全世界のクラウド利用者数の実に51.8%がAWSを選んでいるというリサーチ会社の調査結果も紹介した。
日本では、2018年に公表された「クラウド・バイ・デフォルト原則」により、政府機関の情報システムの構築においてクラウドサービスの利用が優先される方針が示されている。これを引き合いに、同氏はクラウドサービスの採用が政府・公共機関、民間企業問わず、日本全体でますます加速していくことに期待感を示した。
しかし現在は、クラウドを活用する先端IT技術分野におけるIT人材不足が課題ともなっている。解消には人材育成が不可欠であることから、AWSはそうした面からも支援を始めている。その例として挙げたのが、スタートアップ企業やデベロッパーに対する学びの場提供のために2018年に開設した、無料で利用できるワークスペース「AWS Loft Tokyo」。さらに、どこでも学べるオンラインのデジタルカンファレンス「AWS Innovate」もオープンしている。
教育機関や学生向けには、「AWS Educate」を通じてクラウドコンピューティングの実習環境を無償提供しており、200カ国以上の10万を超える学生が利用している。2019年2月からは日本語化も果たし、すでに日本国内でも50箇所以上の教育機関、3500人の学生らが活用しているとした。
AWSが取り組むテーマとして「デジタライゼーション」「イノベーション」などをコアに据えているとした長崎氏。このうちデジタライゼーションについては、その本質を「ソフトウェアによるビジネスの価値最大化」であると語った。「企業が絶え間なくビジネス価値を高め、顧客にその価値を提供していくためには、スピードと持続性が求められている」と述べ、これまでのハードウェア主体のビジネスからソフトウェア中心のビジネスに移行していく必要があるとした。
その実例として同氏は、エンタープライズITの会社からソフトウェアの会社に転換したという米国の金融機関Capital Oneを挙げた。同社のソフトウェアエンジニアの数は、2011年時点で2500人いるITスタッフのうち40%に過ぎなかったものの、2018年にはITスタッフが9000人に増え、しかもそのうち80%をソフトウェアエンジニアが占めるようになったという。ソフトウェアを軸にすることで「より早く顧客に価値を提供できる今までにないリアルな銀行に」生まれ変わったとしている。
クラウド移行の2つの課題「データベース」と「Windows」、それらを解決するAWSのソリューション
ただ、オンプレミスなどの従来型のシステムからクラウドへの移行へと至る「クラウドジャーニー」は、一筋縄ではいかないことも多い。なかでも大きな課題として挙げられる要素が「データベース」と「Windows」であると同氏。この2点について、AWSではどのようなソリューションを提供しているのかを紹介した。
まずデータベースについては、行と列からなる情報の集合体である従来型のリレーショナルデータベース(RDB)だけでは、あらゆるビジネスをカバーすることが不可能になってきていると話す。データ容量がギガバイトレベルであればまだしも、昨今のテラバイト、ペタバイトクラスになってくるとRDBでは間に合わない。さらに「レイテンシ、同時接続数、スケーラビリティを考えるとRDBでは無理がある」と断言する。
これに対してAWSでは、従来型のRDBとして「Amazon Aurora」や「Amazaon RDS」をラインアップしているほか、高速なデータベースとしてレイテンシをミリ秒以下に抑えた「Amazon DynamoDB」、マイクロ秒単位のレイテンシを実現するインメモリデータベース「Amazon ElastiCache」を提供していると紹介した。
それに加えて、大量のデータセットの相関性や傾向を分析するための「Amazon Neptune」、時系列でデータ分析が可能な「Amazon Timestream」など、RDBでは実現不可能な多様なデータベースシステムを用意。大規模な時系列データを管理するデータウェアハウスとしては「Amazon Redshift」があり、継続的なパフォーマンス改善で2年の間に10倍性能を向上させたとする。
クエリ性能が不足しているという顧客向けには、自動でクラスタリングを行ない、複数のクエリを同時実行できる「Amazon Redshift Concurrency Scaling」を提供している。長崎氏は、「1つの種類のDBで全ての顧客の要望を満たすのはもはや現実的ではない」と述べ、企業が目的とするワークロードに最適なデータベースを選べるのがAWSの特徴だと語った。
システム移行におけるもう1つの課題となるWindowsについては、同社は10年以上もの長い年月をかけて環境整備に取り組んできたとも強調する。かつてはサーバー環境として不安視されることも少なくなかったWindowsだが、今やAWSにおけるWindows環境の使用割合は57.7%と過半を占める。さらにAmazon EC2上でWindowsサーバーを稼働させる企業は過去5年で493%増加したと明かす。
同氏はその取り組みの成果の1つとして、2019年3月から東京リージョンでも利用が可能になった新たなサービス「Amazon FSx for Windows File Server」を紹介。Windowsファイルストレージに複数のEC2からマウントが可能なうえ、SMB互換、ハードウェア/ソフトウェアの管理が不要なマネージドサービス、10GB/sのデータスループットと1ミリ秒以下のレイテンシ、各種セキュリティコンプライアンスに準拠、といった充実の機能を実現していることを解説した。
「全ての開発者に機械学習を」――社内向けトレーニングマテリアル日本語版を年内に公開へ
近年トレンドとなっている人工知能、機械学習といった分野においてもAWSでは積極的にサービス展開している。その代表的なものが機械学習基盤となるフルマネージドサービス「Amazon SageMaker」で、開発、学習、推論の3つのステップを1つにまとめたサービスとして2018年から東京リージョンで提供を開始している。
しかしながら、長崎氏いわく「全ての会社にデータサイエンティストがいるわけではない」ことから、機械学習を扱うのは難しいのも確か。そのため同社では「全ての開発者に機械学習を」をAWSのミッションの1つとして掲げ、AWSの社内で活用してきた機械学習に関するトレーニングマテリアルを一般に公開したという。現在は英語版のみだが、2019年内に日本語化して提供する予定だとした。
それに加えて、機械学習の基礎を「誰もが楽しんで学べるキット」として、「AWS DeepRacer」を開発したことも報告。DeepRacerはIntelのデュアルコアプロセッサ、HDビデオカメラ、ジャイロスコープなどを搭載する四輪駆動の自律走行ロボットカーで、作成した強化学習のモデルを用いて規定のコースを速く走らせるのが目的だ。
各国のAWS Summit内で世界大会として開催されている「AWS DeepRacerリーグ」では、誰でも気軽に参加して、そのレースコースでDeepRacerの実機を走らせることができる。最初にウェブ上のシミュレーターでクルマを仮想的に走行させて強化学習を行ない、その強化学習のモデルを用いて実機でのレースに挑戦するという流れになる。
今回のAWS Summit Tokyoでも同リーグが開催されており、ラップタイムで上位10名までに入るとAWS DeepRacerがプレゼントされる。さらに優勝者は米ラスベガスで12月に行なわれる年次イベント「re:Invent2019」に招待され、日本代表として決勝レースを戦う。難しく思われがちな機械学習を、ゲーム感覚で気軽に学ぶことができるイベントになっているわけだ。
長崎氏は、「マシンラーニングのジャーニーはまだ始まったばかり。ただ、テクノロジーとビジネスは今後より密接につながり、先端ITを使いこなすことによって顧客エンゲージメント、イノベーションが起きるスピード、成功の確度は上がる」と訴え、そのテクノロジーを生み出す基盤としてAWSがあり、常に進化し続けていることをアピールした。