イベントレポート

テラテク!お寺のIT活用を一緒に考えませんか?

お寺の困りごと“あるある”をテクノロジーでどう解決する?

「テラテク」で、目指せ!お寺の業務改革~freeeとお坊さんのコラボイベント開催

 寺・神社でのIT技術導入について考えるイベントを、freee株式会社が6月12日に開催した。メカ系設計エンジニアから寺の副住職へと転身した小路竜嗣氏(浄土宗善立寺)らを講師に招き、寺の運営にまつわる実情と、その課題解決にどうITツールを生かすべきか、さまざまな観点から参加者が語り合った。

小路竜嗣氏(浄土宗善立寺副住職)

事務仕事の多さ、人口減、さらには過労死問題まで?! 難題だらけのお寺事情

 イベントのタイトルは「テラテク!お寺のIT活用を一緒に考えませんか?」。寺とテクノロジーの関係を皆で考えていこうという発想のもと、ネーミングしたという。寺のデジタル化に数年来取り組み、オウンドメディアまで運営する小路氏が、クラウド会計サービスに言及していた記事をfreeeの広報担当者がたまたま発見し、それがきっかけとなってイベント開催に至った。

 会場となった東京・五反田のfreee本社内スペースには十数名の参加者が集まった。剃髪した男性の姿が目立ったが、寺に勤務する女性、さらには教会の関係者なども参加していた。イベント後半ではワークショップが開催され、それぞれ寺運営に関する悩みなどを共有していた。

会場となったのはfreee本社のオープンスペース

 講師を務めた小路氏は、工学系の学科で大学院を卒業後、一度はリコーに設計エンジニアとして就職。ただ、交際相手が長野県塩尻市にある善立寺の一人娘だったため、1年ほどで退職。結婚、そして修行を経て、2014年から善立寺で副住職を務めている。

 小路氏は2016年から「寺院デジタル化エバンジェリスト」を名乗り、活動の幅を広げている。ただ、そこで意識しているのは実効性だ。「テラテクとは、お寺の“困りごと”をテクノロジーで解決すること。テクノロジーを使って、お寺で面白いことをやる・変わったことをやるという意味ではない。極めて実務的な発想」(小路氏)。

 実際、寺の運営を巡っては課題が多い。まずは事務仕事の多さ。多くの寺は家族1~2名程度で運営されていて、人的余裕がない。電話応対、書類作成、経理などの作業の一方で、夜・土日にも法事は行われるため、稼働時間も24時間・365日体制に近い。近年は、寺を軸とした地域コミュニティの復権なども叫ばれているが、そのためには時間のやりくりがどうしても必要になってくる。

寺の多くは、いうなれば“家族経営”。事務作業が大きな負担になっている

 「そこでテラテクで事務作業を軽減し、空白の時間、バッファを設けてはどうか。そうすれば、自ずと新しいことに取り組める。寺の家族に急病人が出たときのカバーもできる。」(小路氏)

 人口減も大きな問題だ。20年後、いわゆる「消滅可能性都市」(2010~2040年にかけて20~39歳の若人女性人口が5割以下に減少する市区町村)の域内に存在する宗教法人の数は、全宗教法人の3分の1をゆうに超えるとされ、それはつまり寺の管理者が減ることを意味する。当然、統廃合しない限りは、1人で2つの宗教法人を管理しなければならなくなってくる。

 さらにつきまとってくるのが過労死予備軍の問題である。総務省の就業構造基本調査によれば、週75時間以上勤務などの条件を満たした過労死予備軍の割合について、職業別に分析したところ、調理従事者2.8%、教員4.1%、医師11.1%に対し、宗教家は14.8%と極めて高い数値だった。

 「教員や医師の働き方改革については最近よく話に出てくるが、お寺が困っていることについては誰も知らないのが現実。じゃあ自分で行動を起こさなくてはと、ここ3年がんばってきたが、もちろんIT業界も、お寺が困っているなんて知らない。」(小路氏)

 寺院の関係者がまずは「困りごと」を声に出すこと――これこそがテラテクの第一歩だと、小路氏は参加者に呼び掛けた。

初期投資の少ない“サブスク”が寺の運営に効果あり

 寺の業務効率改善に向けては、既存のITツールを使いこなすのがなんといっても近道だ。デバイスの面では、いまやスマホの高機能化により、個人所有のデバイスで十分仕事ができるようになった。クラウドも普及し、場所や端末への依存が減少した。

 そして、小路氏が特に重要だと指摘するのが、freeeが提供するクラウド会計ソフトなど、各種のサブスクリプション型サービスの台頭である。「今までならITへの初期投資に100万円、200万円とかかっていたが、サブスクなら月1000~2000円で十分に始められる。そして解約が簡単だということも重要。試してみて、自分が求める使い方ができないのなら、止めてしまえばいい」(小路氏)。

テラテクの実現性は高まっている。スマホの普及は特に追い風だ

 小規模で運営される寺の場合は、紙の電子化なども不十分なケースがままある。従来の書類をスキャナーで電子化し、DropboxやOneDriveで保存・共有するといった、ごく初歩的なところから始めるのも1つの方法だ。その先には、古文書をスキャンし、Photoshopで修正するといった運用も見込める。

書類の電子化は、寺にとってもメリットが多い

 また、防犯カメラもクラウド型・サブスク型で利用できるようになってきた。神奈川県横須賀市にある浄楽寺は、家族運営の寺院ながら国指定の重要文化財が5体もあるため、夜間の防犯が課題だった。しかし、こうした防犯カメラの導入により、夜間なにか物音がしたとき「まずは枕元のスマホで外回りを確認する」といったことが可能になった。

クラウド防犯カメラの活用例

 社会的に注目されるテクノロジーであれば、それは寺にとっても有効なものとなりうる。例えば熊本の阿蘇神社では、熊本地震で被害を受けた社殿をドローンで撮影。その画像をYouTubeで公開し、寄付を募った事例がある。

 RPA(Robotic Process Automation)もまた、小路氏が期待をかける分野だ。それこそ寺であれば、法要の出欠ハガキから住所・氏名などを読みとり、Excelへ集計できるようになれば事務負担の大幅低減へと繋がる。

 小路氏はまとめとして「寺の困りごとを解決するためには、まず声に出すことが重要」だと改めて強調する。「最初のうちは無我夢中でいろいろな方に話を聞き回っていたが、話をしてみると『こんないいものがあるよ』『そのことは○○さんが詳しいから聞いてみて』という具合に広がっていき、助けてくれる人が見つかる。誰かがやってくれるだろうではなく、お寺の一人一人が声を上げていくことが変わるきっかけになるだろう」(小路氏)。

 なお、こうした困りごとを共有するため、小路氏はTwitterでハッシュタグ「#テラテク」が付いたツイートに対してレスポンスする活動を行っていくという。

お寺と会計~freeeの宗教法人対応状況は?

 小路氏に続いて、税理士法人ゆびすいの赤田貴志氏(東京支店支店長・社員税理士)が、宗教法人と会計について解説した。

赤田貴志氏(税理士法人ゆびすい東京支店支店長・社員税理士)

 宗教法人は、その収益規模や事業内容によって、所轄官庁に提出すべき会計書類が増減する。その条件になっているのが「法人としての年収が8000万円を超えるか」「収益事業を行っているか」。例えば、収益事業は行っていないが法人年収が8000万円を超えれば収支計算書の作成が必要だし、法人年収が8000万円以内でも収益事業を行っていれば、貸借対照表なども追加で必要になってくる(編注:お守りやおみくじの販売は喜捨金扱いとなり、収益事業に該当しないケースが多いようだ)。

 このように小規模法人の事務作業を軽減するための制度はあるもの、かといって「帳簿の作成」までは免除されていない。領収書の整理や出納帳への記入は行わねばならず、つまり、宗教法人であっても会計事務をおろそかにすることはできないと赤田氏は指摘する。

宗教法人の条件役員名簿財産目録収支計算書貸借対照表申告書
収益事業は行っていない
法人年収が8千万円以内
収益事業は行っていない
法人年収が8千万円超
法人年収が8千万円以内
収益事業を行っている

宗教法人が作成・提出しなければならない会計書類の内訳。法人としての年収が8000万円を超えるか、収益事業を行っているかによって変わってくる(参考:文化庁「所轄庁へ提出する書類とは」

 手書きで帳簿をつけている寺であれば、まずはそれらの入力をExcel化するだけでも大きな前進となるが、やはりfreeeのような専門の会計ツールにはメリットも多い。特にクラウド型ツールの場合は、寺の関係者と税理士間でのデータ共有がスムーズになる。寺では日常的な記帳を行いつつ、税理士が適宜作成の支援を行うことも可能になる。

 ただし、freeeでは現状、ソフト単体では宗教法人の会計に対応していない。とはいえ、2016年4月にはNPO対応の会計キットを、2019年1月にはfreeeとゆびすいの共同で「社会福祉法人 with freee」をリリースするなど、公益法人対応を強めている。赤田氏は「そういった状況なので、もしかすると今後、freeeも宗教法人対応をしてくれるかも……? ぜひ今後に期待したい」と、それとなく(?)freee関係者に呼び掛けていた。

 なお、寺がテーマのイベントはfreeeとして今回が初。さらなる同調者を集めるべく、freeeの広報担当者は今後、第2回、第3回と継続的な開催を模索していくという。