イベントレポート

KEIKYU OPEN INNOVATION DAY

京急電鉄も舌を巻くスピード感! 「KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM」で高加速する、モビリティ新事業のオープンイノベーション

「われわれにもっともっと刺激を」と原田一之社長

 京浜急行電鉄株式会社(京急電鉄)と株式会社サムライインキュベートは、ベンチャー/スタートアップ企業とのオープンイノベーションによって新規事業の創出を目指す取り組み「KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM(京急アクセラレータープログラム)」の第2期の成果発表会(デモデイ)を8月下旬に都内で開催した。

「KEIKYU OPEN INNOVATION DAY」の会場となったSHINAGAWA GOOS

 デモデイは、京急電鉄が目指すイノベーションエコシステムを紹介するイベント「KEIKYU OPEN INNOVATION DAY」の2日目に行われた。なお、同イベントでは、京急電鉄が7月11日より会員募集を開始したオープンイノベーション拠点「AND ON SHINAGAWA(アンドオン品川)」のキックオフイベントも併せて行われた。

「KEIKYU ACCELERATOR PROGRAM」公式サイト

鉄道会社が、なぜオープンイノベーションを?

 KEIKYU ACCELERATOR PROGRAMは、「Mobility(移動)」「Living・Working(くらし・働き方)」「Retail(買い物)」「Entertainment(観光・レジャー)」「Connectivity(テクノロジーの活用)」のテーマごとに、ベンチャー/スタートアップ企業とともに新たな事業を生み出すことを目指しており、京急グループの事業リソースを生かして新たな顧客を獲得することを目的としている。また、鉄道を軸とした移動インフラや各種サービス、そして沿線地域をつなげていく“地域連携型MaaS”の実現も視野に入れている。

 アクセラレータープログラムは2017年に始まった取り組みで、今回行われた第2期は2018年11月にスタートした。運営担当は、京急電鉄の新規事業企画室だ。国内外のスタートアップ企業への出資やインキュベーションを行うベンチャーキャピタルであり、新事業創出を手がけるサムライインキュベートと協力して実施している。

 成果発表に先立って行われた京急電鉄新規事業企画室の橋本雄太氏の発表によると、アクセラレータープログラムを始めた背景には、沿線の人口減少や、AI・IoT・5Gといったテクノロジーの進化、新たなモビリティの登場などにより、今までにない価値観が広がっているという状況がある。このような中、鉄道会社自身もテクノロジーを活用しながら新しいビジネスモデルを追求する必要があると考えており、今回のアクセラレータープログラムでは「モビリティを軸とした豊かなライフスタイルの創出」というビジョンを掲げている。

京浜急行電鉄株式会社新規事業企画室の橋本雄太氏
ユーザーのニーズに応じた新しいサービスやコンテンツを開発

 橋本氏は、「インフラを整えながら、さまざまなユーザーのニーズに応じてサービスを作ってきたというのがこれまでの鉄道会社の歴史ですが、人々の価値観が変わっていく中で、より多様なニーズに応じた新しいサービスやコンテンツの開発という取り組みに今回はフォーカスしています。また、地域を含めてさまざまな情報をつないでいくというのもMaaSでは重要だと考えています」と語った。

 このような新規事業創出をオープンイノベーションで行う理由は、スピード感を持って同時多発的に事業開発をすることでチャレンジの数を増やして、デジタルトランスフォーメンションの推進や、既存の枠を越えたサービスの統合・連携を図ることを目的としているからだ。なお、同社のオープンイノベーション戦略としては、このアクセラレータープログラムのほかに、イノベーション拠点「AND ON SHINAGAWA」の開設やスタートアップへの投資、さらにスタートアップへの投資を行っているベンチャーキャピタルファンドへの出資などの取り組みを行っている。

京急電鉄が取り組むオープンイノベーション戦略
オープンイノベーション拠点「AND ON SHINAGAWA」

スタートアップ企業5社が、5カ月間をかけて京急グループと事業を共創

 今回の第2期アクセラレータープログラムでは、102件の応募があった。その中から各事業部を交えた議論で30件まで絞り、2019年3月に最終審査会を実施。最終的に5件のスタートアップを採択した。いずれも新しい移動手段や、移動先で人を快適にするためのコンテンツやサービスを生み出している企業だ。5カ月間をかけて京急グループとの事業共創について議論し、実証実験などを実施して仮説・検証を行った。アクセラレータープログラムに参加したグループ会社および事業部門は10社/部門に上る。この5件の詳しい内容は以下の通り。

1)ecbo cloak/ecbo Delivery(ecbo株式会社)

 「ecbo cloak」は、荷物を預けたい人と、荷物を預かるスペースを持つ店舗とをつなぐシェアリングサービスだ。ユーザーはアプリの地図上で店の位置を確認して、予約・決済した上で店舗に荷物を預けることができる。ユーザー側はコインロッカーを探す手間が省けるとともに、事前予約により確実に預けることができる。また、コインロッカーに入りきらない大きな荷物を預けることも可能となる。店舗オーナー側にとっては副収入が得られるほか、来店促進にもなり、新規顧客の獲得にもつながる。

 同サービスは2017年に渋谷エリア100店舗でスタートし、2年間で47都道府県・1000店舗以上で利用可能となった。今回のアクセラレータープログラムでは、実証実験中に京急沿線を集中的に店舗開拓し、4カ月強で約3000個の店舗預かりを実現した。これは京急品川駅のコインロッカー口数の50倍に相当する。特に6月にG20開催に伴ってコインロッカーが封鎖されたときには、ecbo cloakの店舗では賄いきれないくらい予約が殺到したという。

 また、今回のアクセラレータープログラムでは、預かった荷物を希望の場所へ配送するサービス「ecbo Delivery」の実証実験も実施した。これは、ecbo cloakと同様に簡単に荷物の当日配送を予約・決済できるサービスで、羽田空港TIC(ツーリストインフォメーションセンター)から品川TIC、さらに都内のecbo cloak加盟店まで荷物を運ぶ仕組みを実装した。最終的には京急の全沿線で、どこでも荷物を配送できる仕組みの実現を目指している。

「ecbo cloak」
京急沿線で3000個以上の荷物預かりを実施
ボタン1つで荷物の配送を申し込める「ecbo Delivery」

2)nearMe.(株式会社NearMe)

 ラストワンマイルの移動問題の解決を目指し、タクシーに乗る前に個人間で同じ方向に行きたい人をマッチングさせる相乗りサービス「nearMe.」を提供する株式会社NearMeは、今回のアクセラレータープログラムにおいて、AIを活用して最適なルートを選ぶことが可能な小型車「スマートシャトル」の実証実験を実施した。

 スマートシャトルには最大9人が搭乗可能で、それぞれの目的地にどのような順番で行けば最適なのかを判断するアルゴリズムを作った。例えば、オンデマンドの事前予約により、異なるホテルで乗客をピックアップしてから空港へ向かうようにすれば、タクシーに1人で乗るよりも低価格で、かつ定時・定路線のバスよりも柔軟に、ホテルと空港間の送迎を実現できる。

 実証実験には京急タクシーが協力。京急EXホテルの品川・高輪および京急EXインの東銀座・秋葉原の4ホテルと羽田空港間で、スマートシャトルを使って好きなところへ自由に行けるというサービスを実施した。ユーザーはアプリから行き先と希望到着時間などを入力して申し込むと、注文の確定を知らせるメールが届く。前日に集合時間と場所を知らせるメールが届くので、ユーザーはそれに従って待ち合わせ場所に行き、そこからいろいろな地点を経由して希望した時間に最終目的地に到着するという流れとなる。

 実証実験を実施したところ、96%の人が満足したという結果が得られた。中には、「足を怪我して移動が大変だったが、このサービスがあったから大変助かった」という声もあったという。同社は今後も継続して協業の検討を進める方針で、すでにホステルと空港送迎サービスで協業をスタートさせている。また、京急沿線で地域シャトルの実証実験を行うことも検討中で、観光シャトルから地域シャトルへの展開も目指している。

「タクシー相乗り」と「スマートシャトル」の2つのサービスを提供
AIを活用して効率的なルーティングを行う
京急グループのホテル4つと羽田空港間で移動サービスを提供
オンラインで簡単に申し込める

3)アイカサ(株式会社Nature Innovation Group)

 1日70円という低価格で借りられる傘のシェアリングサービス「アイカサ」。借りられるスポット(アイカサスポット)は現在、約400カ所あり、約4万5000人のユーザーが利用している。アプリのダウンロード不要で、LINE内で使用することが可能。地図上でアイカサスポットの場所と借りられる本数をチェックした上で現地に行き、傘に貼り付けられたQRコードを読み込んで利用を開始する。返却するときは、アイカサスポットに掲示された返却用QRを読み取り、傘を畳んで返却する。

 今回のプロジェクトでは、品川駅周辺に11カ所のアイカサスポットを設置し、ウィング高輪においてクーポン配信を行ったほか、京急プレミアムポイントとの連携も行い、利用者データの収集や分析、利用者へのアンケートなども実施した。また、京急オリジナルデザインの傘も製造した。この結果、ウィング高輪のEASTで借りた傘を、すぐ近くのWESTのスポットで返却するユーザーや、都内のほかのエリアで借りた傘を品川で返すユーザーなど、さまざまな利用実態を把握し、集客の導線作りに役立っていることが確認できた。

 今後はオフィスへのスポットの設置なども検討するほか、京急沿線の各駅に設置することも目指している。駅に設置することで、ユーザーは傘を持たずに手ぶらで電車に乗り、降りたらまた借りるという、雨の日の新しい利用スタイルを提案している。また、モバイルバッテリーのシェアリングサービスなど、他サービスとのコラボレーションも進めていく方針だ。

「アイカサ」
品川駅周辺にアイカサスポットを設置
商業施設への導線構築を検証
他サービスとコラボしたシェアリングステーションも設置

4)triplaチャットボットサービス/triplaホテルブッキング(tripla株式会社)

 「triplaチャットボットサービス」は、ホテルなどのウェブサイトに設置するチャットボットサービスだ。5言語に対応しており、さまざまな国からの問い合わせに対してAIが回答する仕組みを提供する。AIが回答できない場合はオペレーターによる回答も可能で、現在、シティホテルやビジネスホテル、旅館、レストラン、レンタカー、鉄道会社など、500施設が採用している。同サービスは初期費用無料で、FAQの登録などもtripla側で行う。

 今回のアクセラレータープログラムでは、このチャットボットサービスを京急EXイン15施設に導入し、1カ月で3204人から問い合わせが来た。また、AIの自動回答率についても、83%の質問に対して多言語で回答することができた。例えば、「羽田空港とホテル間のアクセス方法を教えてください」という問い合わせは125人から寄せられ、この質問に対しては京急の乗り換えを含む案内や京急バスの案内を行った。

 もう1つの実証実験として、クラウド型の宿泊予約システム「triplaホテルブッキング」も導入した。同システムを京急EXイン2施設に導入することで、宿泊施設はドメインを遷移させることなく、OTA(オンライン旅行会社)並みの使い勝手の良さで予約できる。こちらについては、1カ月で300件の予約が入り、予約コンバージョンは業界平均を上回る率を実現したという。

 今後の予定としては、チャットボットサービスについてはAI回答比率の改善およびチャットデータの詳細分析によるCRM/CS向上などを図る。また、ホテルブッキングについては、京急から指摘された50カ所の修正・改修を行った上で、導入施設の増加の可能性を討議する。将来的には、鉄道やレンタカー、レストラン、アクティビティなど、旅行サービス全般のレコメンデーションと予約システムとの連携を目指している。

「triplaチャットボットサービス」
「triplaホテルブッキング」

5)AirX(株式会社AirX)

 ヘリコプターの事業を展開する株式会社AirXは、今回のアクセラレータープログラムにおいて、三浦半島エリアにおけるエアーモビリティを活用した観光プランを共創する。具体的には、三浦半島内の京急グループのホテル近くにヘリポートを臨時に開設し、ヘリ送迎やヘリクルージングプランの体験を企画する。また、告知用ウェブサイトを開設し、ユーザーの申し込み率やSNSでの拡散率などを追ってフィードバックを収集する。現在、サービス開始に向けて住民説明会や意見交換会などを実施しており、年末から年明けにかけて実証を行うことを目指している。

 品川から三浦へは、ヘリコプターを使うことで片道20分で訪れることが可能で、料金は片道3万5000円程度を目指している。また、相乗りなどのシステムを導入することでさらなる低価格化も目指している。三浦半島と都心部とを結ぶ新たな移動プラットフォームを開発することにより、マリーナや漁港、ホテルなど、着陸したあとの観光資源に行きやすい環境を実現し、住む場所や働く場所、遊ぶ場所を拡大しけるような世界を目指している。

三浦半島にてヘリクルージングプランを実施

スタートアップ企業の“スピード感”、アクセラレータープログラムを通じて実感

 5件のうち実証実験を行ったのは4件で、メディア掲載件数は20件以上。さらに、スタートアップと京急グループとのコミュニケーションには「Slack」を導入し、週に1回程度のミーティングのほかにもオンラインで活発に意見交換し、Slackのメッセージ件数は2019年4月~8月まで5000件を超えたという。

 今回のデモデイでは、これら5件に対して、来場者による投票が最も多かったチームに「オーディエンス賞」が、審査員からの評価が最も高かったチームに「社長賞」が贈られた。オーディエンス賞を受賞したのはNearMeで、社長賞に選ばれたのはecbo。ecboのbizdev/執行役員を務める猪瀬雅寛氏は受賞コメントとして、「今回のアクセラレータープログラムはあくまでもテストマーケティングなので、今後、社会実装して、持続可能なサービスを作っていけるように頑張っていきたい」と語った。

 また、京急電鉄取締役社長の原田一之氏は総評として、「今回、それぞれの企業様からの提案に、もっと深掘りをしていって、来年から当たり前に実装され、いろいろなところで展開される――そんな世界を私どもも期待していますし、しっかりと応援したいと思います。今回参加していただいた企業の皆様と一緒に京急の各部署が取り組んだ中で、最も重要だと感じたのはスピード感だと思います。どんどんスピード感を持って事業を行わないと、時代に取り残されてしまう。われわれは今、それを一所懸命に勉強させていただいてると思っていますので、ぜひわれわれにもっともっと刺激を与えていただきたいと思っています」と語った。

ecbo株式会社執行役員の猪瀬雅寛氏
京浜急行電鉄株式会社取締役社長の原田一之氏

三浦半島の“登山客”増加に効果も、2017年から参加の「ヤマップ」が協業を継続

 デモデイでは、このほかの事業共創の事例として、街に特化したコミュニティプラットフォーム「PIAZZA」を提供するPIAZZA株式会社や、外貨を電子マネーに交換できるサービス「ポケットチェンジ」およびオリジナルの電子マネーを発行・管理できるプラットフォーム「ポケペイ(ポケットチェンジPAY)」を提供する株式会社ポケットチェンジ、登山向け地図アプリ「YAMAP」を提供する株式会社ヤマップの3社の取り組みも発表された。

 このうちヤマップは、三浦半島における登山を盛り上げるためのプロジェクトとして、三浦の山をアピールするための動画を作成したほか、「三浦アルプス」のトレッキングの推奨コースを紹介する地図を作製して駅で配布した。また、カシオやヤマハ、ソニーなどさまざまな企業の協力を得て、アウトドアスマートウォッチや電動アシストバイク、テントサウナなど多彩なアクティビティを楽しめるイベントを1泊2日で開催した。さらに限定特典として、「三浦アルプス」または「大楠山・三浦富士ロングトレイル」のどちらかを踏破した人にオリジナルピンバッジをプレゼントした。このような取り組みの結果、YAMAP上の活動記録によると、三浦半島を訪れた人が3倍以上に伸びたという。

 今後の取り組みとしては、「ワンランク上の山旅で山と街を巡る」というコンセプトの実現を目指している。例えば、登山する前に早朝から営業しているカフェを訪れたり、登山口に近いベーカリーに立ち寄って山頂で食べるランチを調達したり、下山後にオーガニック農園レストランに立ち寄るなど、山と地域のグルメを掛け合わせて山旅を充実させることを提案する。また、電動アシストのマウンテンバイクが山遊びの可能性を広げるものと考えており、三浦半島の自然スポットをつなぐ移動手段としても提案している。

 ヤマップは、KEIKYU ACCELERATOR PROGRAMの第1期アクセラレータープログラムの採択企業でもあり、アクセラレータープログラムが終了したあとも協業を続けている。今回発表された第2期アクセラレータープログラムの採択企業についても、引き続き京急電鉄と連携してさまざまな取り組みを進めていく予定だ。

「YAMAP」のアプリ
トレッキングコースの地図を作製
1泊2日のイベントを実施