イベントレポート

香港エレクトロニクス・フェア

「ほぼ家電量販店」な展示イベント?「スマート杖」から「完全ワイヤレスヘッドフォン」まで盛りだくさんの「香港エレクトロニクス・フェア」レポート

~出展社の目線から見た魅力とは?~

 香港コンベンション&エキシビション・センター(HKCEC)で開催されたエレクトロニクス展示会「Hong Kong Electronics Fair(Autumn Edtion) & electronicAsia」(以下、香港エレクトロニクス・フェア)。年2回開催されるこのイベントの開催日は曜日に関係なく日付で決まっており、秋の開催日は「10月13日から16日」の4日間。そのため2019年は13日日曜日からのスタートとなった。

香港エレクトロニクス・フェアが開催された香港コンベンション&エキシビション・センター(HKCEC)

 おりしも香港はデモが沈静化するどころか過激化しており、毎週末はデモのため住民も外出を控えるような状況。そんな週末スタートの香港エレクトロニクス・フェアは、デモを考慮してプログラムのいくつかが変更になるという事態はあったものの、展示会自体は滞りなく開催された。

まるで家電量販店?のような展示フロア構成「一歩先」の展示品も……

 会場となるHKCECは、1、3、5の奇数階が展示エリア、2、4の偶数階がミーティングエリアという構造になっており、香港エレクトロニクス・フェアの展示はこの奇数階すべてを使って開催。同時開催の「electronicAsia」はこのうち5階の半分の面積で開催されている。

会場は5階立て。1階から入って上の階へと移動していく流れ

 展示ブースはフロアごとジャンルで分類されており、もっともアクセスのしやすい1階には「Digital Entertainment」「Home Tech」など、一般向けかつすでに完成された製品が並ぶ。

 一方、 electronicAsiaを含む5階エリアは基板やコネクタ、ケーブルなど電子機器のパーツが中心。3階はその中間といったところで、ゲーム関連アクセサリーなどが多く展示されていた。

1階はすでに完成された「製品」が数多く展示
夏頃に日本で飛ぶように売れたハンディ扇風機も

 大まかに言うなら1階は家電量販店、5階は秋葉原の電子パーツショップ、といったラインアップ。とはいえ展示エリアの規模は店舗とは比べものにならない広さで、日本では売っているようでまだ売っていないような「一歩先行く」製品も多い。

 会場では日本のメーカーやバイヤーと思われる参加者も数多く見かけており、今回の香港エレクトロニクス・フェアを通じて日本にお目見えする製品も多いのだろう。

Nintendo Switch向けの小型コントローラ「8BitDo Lite」も展示

 また、1階にあるTech Hallには、スタートアップのみが出展できるエリア「スタートアップゾーン」が設けられており、開発中の製品も含めて新規の製品が数多く展示されている。

 基本的にはハードウェアが中心の展示会だが、スタートアップゾーンではWebサービスやソリューションなども多く展示されているのが特色だ。このスタートアップゾーンについては別記事で詳しく紹介したい。

スタートアップ限定の出店エリア「スタートアップゾーン」

「完全ワイヤレス」なイヤホン・ヘッドセットが多数展示なぜか人気の電動歯ブラシ……

 香港エレクトロニクス・フェアは、最新のトレンドを取り入れつつ、すでに一般向けに発売できるような完成された製品が中心のトレード・ショーだ。

 ここで展示されていた製品をバイヤーが仕入れ、日本向けに販売するということも多く、今後のトレンドをいち早く見届けることができる場所でもある。

多数展示されていた「完全ワイレス」なイヤホン、ヘッドセット

 香港エレクトロニクス・フェアで多く見られたのは完全ワイヤレスイヤフォンやヘッドセット。日本でも大手メーカーや海外メーカーはもちろんのこと、クラウドファンディングを通じてさまざまな完全ワイヤレスが販売されているが、香港エレクトロニクス・フェアではもはや完全ワイヤレスが当たり前であるかのような状況。

 音楽関連の展示エリアでは、1列ごとに数ブース、時には隣同士で完全ワイヤレスを展示し合っているような状況だった。

会場は完全ワイヤレスのイヤフォンやヘッドセットが数多く並んでいた
USB Type-Cのコンセントやバッテリーも多数、なぜか人気の電動歯ブラシ

 USB Type-Cの普及に合わせてUSBタイプのコンセントやバッテリーも多数展示されており、こちらはどの階でも展示ブースが数多く見られた。また、意外な存在だったのが電動歯ブラシで、会場の至るところで電動歯ブラシが展示されていた。

USBタイプの充電関連機器はType-AとType-C両対応の製品が多かった
なぜか会場の至るところで見られた電動歯ブラシ。完全ワイヤレスほどではないが1つのトレンドだった
スマート家電は電球やコンセントが中心

 スマート家電の展示も多く、こちらは大きなブースを構えた企業が目立った。といっても日本で販売されているものと大きな違いはなく、スマート電球やスマートコンセントなどが主流だ。

 国内のスマート家電はまだまだ珍しいレベルで、取り扱い企業も片手で数えられる程度だが、今後こうしたスマート家電も日本にどんどん展開されていくのだろう。

スマート家電は照明やコンセント、カメラが中心
「杖」をスマート化して家族と共有、加速度センサー、GPS、SIM……

 厳密には家電、ではないものの、興味深い取り組みとしてスマートスティックも展示されていた。杖に加速度センサーとGPS、SIMスロットを搭載し、持ち主が転倒した際など杖が大きな衝撃を受けると携帯電話回線を通じて家族へ連絡する仕組み。大容量バッテリーも搭載し、1カ月程度は充電不要という。

杖に加速度センサーやGPSを搭載したスマートスティック
SIMスロットを搭載、単独で通信できる

 また、香港エレクトロニクス・フェアは製品を仕入れるだけでなく、自社製品を開発してくれる会社や工場を探す場でもある。そのため自社でOEMやODMの製品を開発できることを強くアピールする企業が見られるのもこのイベントならではの特徴だ。

OEM/ODMに強いことをアピール

ブースの見落としが少ない整理整頓された会場レイアウト

 前述の通り、香港エレクトロニクス・フェアは製品の仕入れや開発先を探すためのトレードショーのため、展示内容について新しさや斬新さという要素は正直薄いのだが、その一方で筆者が参加して感じたのは、出展社にとっての配慮が行き届いた展示会である、ということだ。

 その1つは、展示が非常に見やすいレイアウトであること。前述の通り香港エレクトロニクス・フェアはHKCECのみが会場となっており、1階から5階までを順に見ていけば完結することに加えて、展示エリアは一部を除き大型ブースが少なくほぼ格子状に構成されているため、端から順番に見ていけばほぼ見落としがない。

 日本の展示会では企業規模によって展示エリアが大きく異なり、1小間の小規模ブースのそばに10小間近い大規模ブースが隣接していることも少なくない。

 結果として構造が迷路のようになっており、順番に回っていたはずなのに1列飛ばしていた、という経験をした人も少なくないだろう。

開場したばかりの展示会場。ほぼすべての通路が端から端まで見渡せる

 大規模ながら1カ所に集約されているのも魅力だ。1月にラスベガスで行われるCESは大規模がゆえに会場も点在しており、別の会場に行くのに徒歩で10分以上歩くということも多い。

 必然的に「一度見た会場はもう見ない」ということにもなりやすく、規模ゆえの展示数も手伝ってこちらも「見逃し」が起きる可能性は大きい。

 展示会場を案内する細やかな配慮も行き届いている。展示エリアはすべてカーペットが敷き詰められており、別会場への行き方が都度都度表示されるため、端から会場を見ていって反対側に付くとまた別の会場の案内がある、というかたちでスムーズに会場を移動できる。

会場内はカーペットが敷き詰められ、別会場の案内も細かく表記

 また、長時間歩き回る大規模展示会において、足に負担がかかりにくいカーペットがすべてのエリアで使われているのも嬉しい配慮だ。コンクリートむき出しの展示会を1日中回った経験を持つ人なら、このありがたさがわかってもらえるだろう。

 カーペットには別会場への行き方だけでなく、今いる会場の説明もQRコードとともに表示されている。スマートフォンやパンフレットで場所を確認しながら歩きつつ、詳細が知りたい時にはQRコードを読み取れば周囲の情報がすぐにわかる。

 会場内で行われるプレゼンテーションでも、冒頭のQRコードを読み取ることで登壇者のプロフィールなどをすぐに把握でき、参加者への配慮が至るところでなされていると感じた。

会場説明をカーペットにQRコードで表示
プレゼンテーションの冒頭には登壇者情報などが記載されたPDFをQRで配布

 「SMALL ORDERS」という取り組みも興味深い。名前の通り少ロットでの取引を対象とした展示内容で、1階に用意されたショーケースにはさまざまな製品を静的展示するとともに、製品の価格やMOQ(最低発注数量)」が記載されている。

 気になる製品があればブースを訪問してもいいし、直接連絡を取って注文してもいい。香港エレクトロニクス・フェアに出展していなくてもこのブースの展示は可能という間口の広さも面白いところだ。

SMALL ORDERS
すべての製品に価格とMOQ、出展している場合はブース番号が記載されている

出展者と来場者とのコミュニケーションを促す施策も多数展開

 運営者であるHKTDCが提供するスマートフォンアプリでは、2年前からBluetoothを使った入退場システムを搭載。

 通常、会場内では別のフロアなどで出入りする際参加証のQRコードをスタッフが読み取るのだが、アプリをインストールしている場合は読み取りの必要なく通路を通るだけでいいという仕組みだ。

Bluetoothを使った入退場システム
Bluetooth入場用の専用レーンが設けられている

 ただ、残念ながらほとんどの参加者は参加証に表示されたQR読み取りを利用していたほか、Bluetoothで入場しようとしてエラーが表示され、スタッフとやりとりしていた参加者も数人ほど見かけた。大規模なイベントにおいてBluetoothの難しさを感じた一面だったが、意欲的な取り組みとしては評価したい。

 出展者とのコミュニケーションとしては、すべてのブースにHKTDCが用意した名刺入れが置かれており、このQRコードから簡単に出展社の概要を確認できる。

 バイヤー中心のイベントということもあって、商談せずに名刺だけ置いていく、という参加者も多く、どのブースでも「ここに名刺を入れておけばいい」というのが共通化されているのはわかりやすい。

出店ブースに配られる専用の名刺入れ。QRコードから出展企業の詳細も確認できる

 今回は世界各国のメディアを対象としたプレスツアーということもあり、初日の夜に開催された交流イベントにも参加できた。

 こちらも趣向が凝らされており、参加者には「出展社」「バイヤー」などの職種ごとにシールが配られ、違う色のシールを交換して4種類を集めると商品がもらえる。シール交換をきっかけとして来場者に話しかける、というのが目的だ。

初日に開催された交流イベント
自分と異なる色のシールを集めると賞品がもらえる

 あくまで限られた招待客向けのイベントだが、参加者とのコミュニケーションを促進する配慮が面白い。こうした企画は日本だと配布したはいいもののあまり参加者が受け身であまり使われない、といういうことも多いのだが、会場ではこのシールをきっかけにコミュニケーションを図っている参加者の姿が多数見受けられた。

出展者に配慮された魅力的な構成。世界へアピールする貴重な場

 なお、エレクトロニクスの展示会として香港エレクトロニクス・フェアはCESを始めとする米国・欧州のイベントに比べて知名度はさほど高くはないというのが実情だ。

 しかしながら展示会の規模は他イベントに引けを取らず、日本からアクセスしやすいため参加のコストも低い。また、実際に参加してみると会場のレイアウトや細やかな会場の配慮など、出展社にとっても魅力的な構成と感じた。

 香港で開催されるイベントのため出展者は当然ながら香港や中国の企業が多いのだが、バイヤーを始めとする来場者は世界各国からやってくる。

 自社の製品を海外でアピールしたい、という企業にとっては、コストをかけずアピールできる香港エレクトロニクス・フェアは活用のしがいがあるのではないだろうか。

 特に起業したばかりで資金もかけられないスタートアップにとっても、数年前から力をいれているスタートアップ試作は魅力的だ。スタートアップ施策については別記事で紹介する予定なのでそちらを読んで欲しい。