イベントレポート
ITエンジニア異業種10番勝負
ITエンジニア × 異業種10番勝負!#2「チームワーク vs 管弦楽団」レポート
ITエンジニアはオーケストラ奏者から仕事のヒントを学べるか?
2019年12月20日 06:30
要件定義、チームワーク、プロジェクトマネジメントなどITエンジニアが関わる様々な仕事をテーマに、異業種のプロと元システムエンジニアのミステリー作家が対談し、日々直面する問題や課題解決のヒントを考えてみようというユニークな連続トークイベント「ITエンジニア異業種10番勝負」が、神戸のイベントスペース、デジタル・ケイブで開催されている。
毎回テーマにあわせて、医師、管弦楽団の演奏者など、関西で活躍しているが普段は出会う機会がない異業種のプロを迎え、ミステリー作家の福田和代氏が聞き手となって、リアルな仕事の話からそこで生じる問題や悩みをどう解決しているのかまでを聞き出すというもの。
第2回目は「チームワークvs管弦楽団」をテーマに宝塚歌劇オーケストラのトロンボーン奏者を迎えてトークが行われた。
チームワークに求められるものはオーケストラも同じ?
ゲストの田中裕香氏は東京藝術大学音楽学部を首席卒業し、数々の音楽賞を受賞している実力の持ち主。
宝塚歌劇の前に航空自衛隊航空中央音楽隊に所属していた時にデビュー作(航空謀略サスペンス小説『ヴィズ・ゼロ(青心社)』)の取材で福田氏と出会い、本トークイベントに迎えられた。
高校時代に学んでいたトロンボーンの先生が宝塚歌劇で演奏していたのを聞いた時から同オーケストラの奏者を目指していたと言い、そこにたどり着くまでの波乱万丈な話だけでも十分に面白い内容であった。
オーケストラ奏者の仕事は、指揮者が求める演奏を50人ほどの奏者が各自で練習を重ねながら洗い出し作り出すもので、「隣の音を聴いてサインやジェスチャーを出し合ったり、言葉でもコミュニケーションしながら目指すものに寄せていき、その作業の繰り返しでチームワークが育てられる」という。
指揮者から具体的な指示がなかったり、質問しにくい場合は、コンサートマスター(コンマス)と呼ばれる客席に一番近い場所にいるバイオリン奏者が代わりに指示することもある。
「指揮者の気分を害さないようにしつつ誰もが気持ち良く演奏できるよう、全体を見回してまとめられる信頼力のある人物が担当する」と田中氏は説明する。
福田氏もSE時代、「プロジェクトリーダーが何を求めているかを通訳したり、ムードーメーカーとして全員が気持ちよくプロジェクトに打ち込めるようにする人物がいることで、チーム力が高められたことがあった。」と話し、チームワークには全体をまとめるキーマンの存在が重要かもしれないという話になった。
相手の意見をくみ取り表現するのがプロ
宝塚歌劇オーケストラは舞台の上でクラシックを演奏するのとは大きく異なり、舞台下のオーケストラピットは狭く通常のほぼ半分の20数名で演奏する。作曲家の意見は絶対で、上演期間中50数回以上を最後まで演奏しきれるよう奏者同士で工夫したり、指揮者にも意見を求めたりしながらプロとして質の高い演奏を目指す。
体調不良の団員に替わってリハーサル無しの初見で演奏する場合もあり、マラソン選手並みの体力と持久力も必要とされる。
勝手な解釈はせず指揮者や作曲家の意図をくみ取り、表現できる力ができなければプロとは言えないが、同じ技術力であればいい雰囲気を作れる人の方が必要とされるようで、何よりもチームワーク無しでは成立しない現場だという印象を受けた。
本トークの面白いところは聞き手の福田氏がSE時代の経験談とゲストの話を自然につなげながら、ぐいぐいと深いコメントを引き出すところにある。具体的なノウハウや現場の課題を解決する答えを提示されているわけではないが、日々の仕事に活かせるヒントが沢山あり、後半は会場からも多くの質問が寄せられ、参加者それぞれが気づきにつながる内容になっていた。
もちろんITの現場とは異なるオーケストラならではの話もある。
例えば、中には人とのコミュニケーションが苦手な奏者もいるが、音を聴かせて伝えることができるといった話や、演奏をする時の約束事は楽譜に記号で書かれているので、自分が出来ているかそうでないかは基準があるのではっきりしているという話。
その他にも、宝塚歌劇や航空中央音楽隊でしかない特別な話など、ここだけでしか聞けない話題もいろいろあった。また、福田氏が航空中央音楽隊を取材した時の話や、田中氏が関西の若手プロとトロンボーンのカルテットコンサートを初開催するといった、両者のファンが喜ぶ話題もしっかり用意されていた。
最後には、短いフレーズだが田中氏のトロンボーン演奏も披露され、最後まで盛り上がっていた。
「基礎学習vsスポーツトレーニング」をテーマに元日本ラグビー代表でスポーツ教育学と身体論の研究者の平尾剛氏を招いた第3回目はすでに終了しており、第4回目は「ユーザーインターフェイスvs書店の棚づくり」(講師はジュンク堂書店難波店の福嶋聡氏)をテーマに、神戸市灘区の古本屋ワールドエンズ・ガーデンで1月25日(土)に開催される。