イベントレポート
ジャパンアミューズメントエキスポ2023
SKY-HI日高光啓氏とセガ杉野社長が語る「SNS時代のファンとのコミュニケーション」
オンラインとオフラインは「区切りではなくグラデーション」
2023年2月13日 06:30
幕張メッセで開催された「ジャパンアミューズメントエキスポ2023(JAEPO2023)」ビジネスデーで2月10日、セガのブースにおいて「SNS時代ならではのファンとの新たなコミュニケーション」と題したスペシャルトークセッションが開催された。株式会社セガ代表取締役社長COOの杉野行雄氏と、ラッパーのSKY-HIとしても活動する株式会社BMSG代表取締役CEOの日高光啓氏が登壇。notoプロデューサーの徳力基彦氏をモデレーターに迎えて、SNS時代のファンとの向き合い方や取り組みについて語った。
大反響のBE:FIRSTコラボは、「THE FIRST」を見ていたプライズ担当がきっかけ
このスペシャルセッションは、BMSGの所属アーティストであるBE:FIRSTとセガがコラボレーションした一連の企画を受けて行われたもの。セガでは、BE:FIRSTメンバーのくまのぬいぐるみというプライズ、プリクラ、UFOキャッチャー向けアプリ「Prize ON」のBE:FIRSTキャンペーンという3つの施策を取り組んだが、いずれも非常に大きな成果を上げており、ぬいぐるみのプライズについては他の景品と比較して1000%を超える圧倒的な売上を誇っているという。
杉野氏によれば、BE:FIRSTを輩出したオーディション番組「THE FIRST」をプライズ担当のスタッフが見ていたことから、このコラボレーションが生まれたとのこと。「(THE FIRSTは)すごい熱量のある番組で、これはぜひ何か一緒にやらせていただきたい」と感じた杉野氏は、BE:FIRSTがデビューするより前のオーディション段階でBMSGにコンタクトを取ったという経緯を明かした。
日高氏は、「BMSGのような新興の会社にとって、意志や信念、フットワークの軽さはあるが、一方で無いものは信頼と実績」と前置きし、「世間一般は、やはり有名なもの・売れているものを認識するもので、それが信頼にもつながると考えていた」とコメント。セガについては「誰でも知っている大企業で、歴史と実績がある中で挑戦を続けている、恐れず言うならエラーを辞さないという印象があった」との感想を述べ、「ゲームセンターという全国に店舗を持つ方とご一緒できることはとてもありがたいお話だった」と感謝の意を示した。
今回のスペシャルトークセッションも、セガの現場スタッフの要望を受けて開催。杉野氏は「コラボレーションの反響が大きかったのはもちろんだが、日高社長のストーリーや考え方が我々のプロダクトやビジョンと共鳴しているところもある」と説明。自身もBMSGのファンだという徳力氏は「YouTubeにアップロードされているTHE FIRSTの1話だけでも見て欲しい。その冒頭だけでも見ると、なぜ担当の方がお声掛けしようと思ったかがイメージできるだろう」と補足した。
インターネットで発信されないのは存在しないのも同じ
2社それぞれのコラボレーションに対する振り返りに続き、「SNS時代におけるファンとのコミュニケーション」をテーマとしたトークがスタート。日高氏はこのテーマについて「国民全員が発信者の時代になってからさらに5年10年が経っており、(インターネットで)発信されないと存在しないのも一緒。BMSGのスタッフとも『この時代にストリーミング配信されていない音源は、もう存在しないのと一緒だ』と話している」と語った。
一方、ファンがSNSでアーティストに関する情報発信をしようとすると、ついて回りがちなのが肖像権の話だ。日高氏は「日本は肖像権に対して守りに入る傾向が強いが、それはインターネットができる以前の法律に則って作られていて、なぜ肖像権を守っているの?と質問すると『そういう決まりだから』と返ってくることがほとんど」という業界の現状を説明。「スタートアップは解決可能な課題を解決していくために生まれるものだと思っている。(スタートアップである)BMSGとして日本の音楽業界で解決したい課題は、肖像権の締め付けをしないということが一番大きい」とした。
実際に、BMSGではテレビ番組として放送されたTHE FIRST全編をYouTubeで配信しているほか、BE:FIRSTに続くボーイズグループ「MAZZEL」のドキュメンタリーはYouTubeのみで配信。さらにファンによるアーティストの応援動画もSNSを中心に大量に拡散されている。こうした状況について日高氏は「できたばかりの会社であるBMSGがこれだけ多くのリーチを生むことができたのは、ファンからファンの方への情報発信が一番大きく、確実に成績につながっている」と、ファンへの感謝を示した。
肖像権による「締め付け」がないことはリスクにもなり得るが、日高氏はそこから生まれるチャンスに比べてリスクはさほど大きくはないと考える。「(肖像権で締め付けて何もしない)ノーチャンス・ノーリスクと、(肖像権で締め付けない)ハイチャンス・ローリスクだったら、後者を取る」。
クリエイターもファンであることが重要
セガのSNSに対するスタンスについて杉野氏は「ファンとのつながりは、やはりストーリーが重要」とコメント。「ヨーロッパではファンと一緒にゲームを作る動きがある。日本でもゲームセンターには(稼働前に事前プレーできる)ロケテストという文化があるが、最近ではロケテストで寄せられたユーザーの意見をどのように取り入れるかを重要視している」との施策を紹介した。
また、セガの「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」(プロセカ)を例に挙げ、「初音ミクはUGCにおいて二次利用の常識を破ってきたコンテンツ」と高く評価。「プロセカもファンと一緒に作ってきたゲーム。ファンという言葉がクリエイターなのかストリーマーなのかビューワーなのかは分からないが、言えることはやはり仲間だということ」と、ファンとコンテンツを共に作る重要さを語った。
日高氏が「優秀なクリエイターは元々ファンである」と続けると、杉野氏はIP(知的財産権、主にキャラクターなどの知的財産)に対する自社の取り組みについて説明。「このIPでゲームを作ってくださいという相談はよく来るが、まず最初にやるのはそのIPのファンを探すこと。クリエイターの中でコンテンツが好きな人がいないとやらないし、めちゃくちゃ好きで絶対やりますという人がいるのが第一歩」と、クリエイターがファンでもあることを重視しているとした。
「オン」の話題は「オフ」から生まれることがほとんど。オンとオフは区切りではなく、つながっている
ファンとのコミュニケーションに続くテーマは「オンラインとオフラインの関係性について」。徳力氏が「SNSというとオンラインのイメージが強いが、今回の提携で面白いのはオフライン側のセガと、オンラインで人気のあるBMSGが組んでいるところにある」と前置きしながら、杉野氏にオンラインとオフラインの位置付けについて質問した。
杉野氏は「これは概念的なところもあるので伝わるか難しいかもしれない」と前置いた上で、「オンライン上での伝わり方は、ゲームセンターに近いイメージ」と自説を披露。「同じゲームにある一定の思いを持った方、同じプライズに一定の思いを持った方同士で、偶然の中でいろんな喜怒哀楽などの想いが生まれることが、僕がゲームセンターが好きな理由」との思いを述べ、「最近では帰り道にスマートフォンで検索したり思いをアップロードしたりと、リアルの場で生まれた出会いや熱量がオンラインで続いていく感じが好きだ」と語った。
この話を踏まえて日高氏は「オンとオフと言うと区切っているように思えるが、実際にはグラデーションではあるけれどつながっている」とコメント。「SNSで話題になるものの8割か9割は、オフラインの盛り上がりがSNSで増幅しているだけで、オンとオフがきっちり区別がつくものではないし、オンラインとオフラインどちらかにしかない良さというのはあまりないと思う」と指摘した。
徳力氏が「今回の取り組みが面白いのは、BE:FIRSTファンの方のオフ会がセガのマシンで行われていること、行列してファンの間で会話が生まれて、ある意味、BE:FISRTのオフィシャルショップがアミューズメントストアの中にある状態だと聞いている」と語ると、日高氏は「同じものを好きな人と会うのはめちゃくちゃうれしい」との思いを語り、「若者を中心に多種多様な人が集まるゲームセンターという場所で話題を作ることができたら、オフラインの盛り上がりがオンラインを通じて大きなコミュニティになっていく」との期待を示した。
アーティストにとってファンは仲間でありチームメイト
3つ目にしてメインテーマでもある「ファンの力を最大化するために取り組みたいこと」に入る前に徳力氏は、BMSGのウェブサイトに掲載されているファン向けのメッセージを紹介。「本来であればしてはいけないことが書いてあるところに、この範囲なら例外的にできる、例えば応援のためならアーティストの写真やロゴをSNSに投稿してもいいということが書いてある。これは日本ではとても画期的」と高く評価した。
また、BMSGのメッセージを日高氏がTwitterに投稿したツイートも紹介し、「ガイドラインで書き切れない本音をTwitterで出すという技を使っている」と解説。「従来の価値観ならアーティストの写っている写真をSNSにアップするときに肖像権を心配したり、関係ない人から指摘されることもあるが、日高社長の投稿で雰囲気が大きく変わった」と語った。
日高氏は「全てのテーマに通じるかもしれないが、本質を見失わないことが重要」と語り、「即時的な話題や人気、お金が目的になってしまうと間違いなく良くない。それが本質的に何のためにあるかを考えていくと自ずと答は出るはず」と語り、「言葉を選ばず言うと、啓蒙する責任はあると思っている」との意思を示した。
また、ファンに対する業界のこれまでの姿勢は「お客様は神様という精神だったり、逆に顧客を金づるのように著しく下に見るような二極化がされていたが、それはどちらも違うと思っている」と日高氏は指摘。「たくさん喋れば喋るほど齟齬やズレは生まれるが、そのコミュニケーションを諦めずに行っていけば、アーティストにもファンにとっても幸せなファンダムが生まれる」との考えを示した。
徳力氏が「企業はファンというと受け身のファンを想像するかもしれないが、日高さんの言うファンは仲間という存在」と話題を振ると、日高氏は「アーティストがいてスタッフがいてプロデューサーがいて、その中にファンがいて、というチームとして、それぞれの幸せや欲しいものがあり、それを最大公約数ではなくかけ算で生み出していける関係は諦めないでやり続けたい」とコメント。杉野氏は「ちゃんと責任者がストーリーを持って語ることが素晴らしい」と評した。
革命や変革は地道な「1」の積み重ね。ファンの積み重ねが大きな力に
徳力氏がセガのこれからの取り組みについて質問すると、杉野氏は「世界には30億人のゲーム人口がある。その30億人の人から100円もらえれば3000億円の売上になるが、100円以上の価値あるものを提供して30億人の思い出に残ることが素晴らしい」とコメント。「僕がゲーム業界に入ったのは、世界中の人に居場所を作りたいという想いがある」と続け、「ファンの力を最大化するという偉そうなことは言えないが、ひとりひとりの心にきちんと価値あるものを30億人まで届けられれば、それがファンの最大化になるのかなと思っている」との考えを示した。
世界を目指すBMSGとして、ファンの力は海外進出にも大きな影響があるという。BE:FISRTはデビューシングル「Gifted.」がBillboardグローバルチャート「Hot Trending Songs」で日本人アーティストとしては異例となる1位を獲得するなど海外でも記録を残しているが、日高氏は「1つのグループが世界で1回1位を取ったくらいでは、国内以外でのインパクトには至っていない」と、現状を厳しく分析する一方で、「ファンの作り出す『1』の積み重ねの数字は、海外の人が見たときに信頼になる」とコメント。「海外のアーティストがこのアーティストと組んでみようと思う信頼の寄る辺は、どれだけRTされているか、どれだけTikTokで使われているかだ」との状況を踏まえ、「ファンの方々が作った数字が、20年前のオリコンチャートのような信頼度につながっている」とファンへの感謝を示した。
スペシャルトークセッションの最後に日高氏は「革命や変革とかイノベーションや大躍進とかいったものは地道な『1』の積み重ねで出来ていく。その積み重ねをたくさんやられて今も挑戦し続けているセガさんとこういう機会が得られたのはうれしい」と語り、「芸能に変革の時が来ていると感じている人が多いというのは、そういう(変革の時が来ているという)ことだと思う。今後も派手に大胆に地道に地味にやっていこうと思うので力を貸して欲しい」と会場の参加者に呼び掛けた。
杉野氏は、セッション冒頭の日高氏の発言を踏まえ、「ゲームの世界も、ゲームをプレーしてくれる人がいなければ作っていないのと一緒であり、プレーヤーさんが遊んでくれてゲームが完成する」とコメント。JAEPO2023ビジネスデーに参加しているゲームセンターの運営者に向けて「ぜひセガのゲームをお店に使っていただいて、一緒にゲームとして完成させていただければいなと思っている」と要望を述べるとともに、今後、BMSGの新たなコンテンツが出たときは「その裏側やコンテキストも理解しながら一緒にファンに伝えていって欲しい」との期待を語った。