インタビュー
芸能プロダクションの「アミューズ」がWeb3・メタバース領域のエンタメ新会社を設立、その理由とは?
「クリエイターとエンジニア」がエンタメを作る世界に向けて
2022年8月15日 10:30
6月24日、大手芸能プロダクションの株式会社アミューズは、次世代のエンターテインメント創出を目的とした新会社、株式会社Kulture(カルチャー)の設立を発表した。
Web3・メタバース等を活用した自社サービス/事業/IP開発の推進が目的で、同時にこれらの領域に特化したファンド「KultureFUND(カルチャーファンド)」も立ち上げる。なぜアミューズがWeb3領域に乗り出すのか、代表に就任した白石耕介氏に聞いた。
ファンベース・アーティスト目線でテクノロジーを活用
アミューズといえば、数々の有名ミュージシャン、俳優、モデル、タレントなどを擁する芸能プロダクション。これまでも、オンライン配信やレーベル機能、ファンクラブのシステムなどを独自に開発してきた経緯がある。
ここ最近では、サザンオールスターズの無観客・配信ライブを独自配信サービス「LIVESHIP(ライブシップ)」を含む複数プラットフォームで実施したり、PerfumeやBABYMETALのNFT作品を発表するなど、新しい技術も積極的に取り入れている。
これらのテクノロジーを提供する企業は多々あるが、白石氏は、「エンターテインメントの文脈を分かっていて、アーティストやコンテンツへの向き合い方、そこに対しての愛情がある土台でやっている」と、ファンベースやアーティスト目線が他の企業との大きな違いだと説明した。
その一例として白石氏が挙げたのは、同社のライブ配信サービス「LIVESHIP」の音声ビットレートで、一般的な配信サイトよりも高く設定されている。
「一般の方々は気づかないかもしれませんが、アーティストや音楽が好きな人には音質が評価されており、Twitterなどにもそういった書き込みをいただいています。もちろん高音質にするとコストがかかりますが、アーティストはコンテンツを高品質で届けたいという気持ちが強く、そこはビジネスの経済とは別の軸で考えてやるべきことだと思っています」
LIVESHIPでは他にも、ライブ配信の際に、グッズの販売を同じ画面上でできるよう設計されている。
「他のサイトでは、別のページが開いてしまうのでライブが見れなくなってしまう。僕らは絶対それをやりたくないので、同じ画面の中でショッピングも完結できるような仕組みを実装しました。
また、LIVESHIPはアーティストごとにページのカラーやデザインも変えられます。コンテンツファーストというか、アーティストだったら絶対こう思うだろうをベースに設計しています」
「クリエイターとエンジニア」がエンタメを作る世界に向けて
さらに白石氏は、BTSなどのK-POPがSNSの活用などファンを巻き込んだマーケティングで世界的に成功した例を挙げ、Web3によってさらに大きな変化がアーティストとファンの関係において起こるだろうと予測する。
「これまではプロダクションやレーベル、映画では制作委員会などがプロジェクトの中心でしたが、NFTをはじめとするWeb3の世界では、コンテンツをファンの方たちが直接クリエーターとともに資産として保有する。ファンの方たちをメンバーとして巻き込みながらコンテンツを作っていくトレンドが来ていると思います。
具体的なアイデアはこれからですが、SNSも15年前は今の使われ方が想像できなかったように、Web3の世界もこれからいろいろな大喜利が始まって、今は想像できないような形になっていくのではないでしょうか」
現状のNFTは「エンタメとしては新しい価値を生んでいない」
また、現状のNFTは、大きな金銭的な評価を得ているものの、白石氏によればエンタメとしては新しい価値を生んでいないと指摘する。
「有名なミュージシャンが発行するNFTに高値が付くのは、そのアーティストや作品自体にもともとの価値があるからです。価値にNFTがくっついているだけ。必要なのは、NFTを掛け合わせて初めて生まれる価値です。テクノロジーに詳しい人でないとついてこれないものではなく、広く一般層に刺さるソリューションを目指していきたいと考えています」
新会社を設立したのは「エンジニアとクリエイターの密な関係を作りたいから」
これまでインターネットには様々な技術トレンドがあったものの、昨今注目を集めつつあるNFTやメタバースは、IP(知的財産)が大きな役割を果たしており、これが取り組みを強めている理由だという。
では、アミューズとは別に新会社を設立した意図は、どこにあるのだろうか。
「テック系のトレンド感を自分の体に吸収して推進し、新しい流れを作っていける人材がいないことが課題としてありました。会社にはそれぞれ元々持っている文化があります。プログラマー、エンジニアなどの優秀なテック系人材を受け入れ、生き生きと働いてもらう環境を新たに作りたいという想いから、新会社を設立しました。
これまでの映画やテレビ、音楽のコンテンツではクリエイターとエンジニアが離れた関係でしたが、ゲーム業界ではプログラマーとクリエイターの関係が密で、それが次々と新しい形のゲームを生み出してきました。エンターテインメント業界でも、同じようにIPに近いところでアウトプットを出してくれるエンジニアが増えていくことで、プラスの効果を出していけると思っています」
テック系人材にとっては、IPを持つエンタメに強い業界で働くことは、大きな魅力のはずだ。新会社と同時に設立したファンド「KultureFUND」も、同様に仲間作りの一環と言える。
「新しい技術はスタートアップなど若い会社から出てくるので、ファンドとして出資することで、一緒にプロジェクトを作っていきたい。単に投資してリターンを得るという話ではなくて、仲間になるための出資で、より強固な人間関係の中で一緒にプロジェクトをやっていきたい思いがあります。
今あるコンテンツもいろんな人たちの試行錯誤の上に成り立ってきました。試行錯誤の中で、クリエイターやファンの方たちにとって一番いいものは何か、一緒に考える存在になりたいですね」