イベントレポート

CEATEC 2024

近接覚センサー+ロボットハンドでキッティング作業の自動化を、Thinkerがデモ

カメラ無しで低コスト、赤外線とAIを活用

ヒト型協働ロボット「NEXTAGE」の右手にThinkerが開発した近接覚センサーを搭載したロボットハンド「Think Hand F」を装着した

 大阪大学発のスタートアップ企業であるThinkerは、ヒト型協働ロボット「NEXTAGE(ネクステージ)」を展開するカワダロボティクスと共同で、キッティング作業の自動化を可能にするロボットシステムのプロトタイプを開発。CEATEC 2024のネクストジェネレーションパークのThinkerブースで展示した。

 製造分野におけるキッティング工程の自動化に貢献できるほか、食品や医薬品、化粧品などの生産や、研究開発現場などでの活用も想定している。

「近接覚センサー」のベンチャーと、ロボティクスのメーカーが協業

Thinkerの代表取締役兼CEOの藤本弘道氏(左)と、カワダロボティクス 営業部営業課の寺﨑清課長(右)

 Thinkerは、大阪大学大学院基礎工学研究科の小山佳祐助教が開発した「近接覚センサー」の販売や、同製品を活用したソリューション提案を行う企業で、小山助教は、Thinkerの取締役を務めている。また、CEOの藤本弘道CEOは、パナソニックグループの社内ベンチャーであるATOUN(アトウン)で、アシストスーツの開発を行ってきた経緯がある。

 一方、カワダロボティクスは、建築現場で利用する歩行用ロボットの開発でスタートし、その後、製造現場のセル生産などに活用できるロボットを開発。現在につながっている。

 ヒト型協働ロボット「NEXTAGE」は、2009年に発売して以降、数100におよぶ現場で稼働。電子電気部品業界や自動車業界、化粧品や食品メーカーなどにおいて活用されているという。頭部のステレオビジョンと、手先カメラによる画像認識機能を備えており、周囲の対象物を認識しながら双腕で作業を行うことができる。これにより、人の作業環境をそのまま活用し、柔軟性の高い自動化を実現することができるという。

近接覚センサーを搭載したロボットハンドでキッティングをデモ

 今回の展示では、カワダロボティクスの「NEXTAGE」を使用し、右手に、Thinkerが開発した近接覚センサーを搭載したロボットハンド「Think Hand F」を装着。特定のプロダクトの組み立てに必要な部品や材料などを揃えて準備するキッティング作業を自動化する様子をデモストレーションした。

ロボットハンド「Think Hand F」
【近接覚センサー+ロボットハンドのデモ】

 具体的には、カードを取りだし、ハンドからハンドに手渡したあと、ビニール袋を開けて、そのなかにカードを挿入。近接覚センサーの特徴を生かして、ばら積みされたネジを、まさぐりながら1本掴み、それをビニール袋に入れる作業を、3つの異なるネジで行い、袋を閉め、指定の場所に置くという動作を自動的に行った。

Think Hand Fがカードを受け取る
カードをビニール袋に入れる様子
Think Hand Fは、ネジが入った箱のなかからまさぐって1本取り出すことができる
カードやネジなどをビニール袋に入れてトレイに置く作業を自動化している

 Thinkerの近接覚センサーは、カメラを用いることなく、赤外線とAIを組み合わせて、高分解能なセンシングを行い、モノの位置と形を、非接触で、高速に把握することができるのが特徴だ。高額なシステムになりやすいカメラでの画像認識が不要であり、自動化システムのトータルコストを低減できる。

Thinkerの近接覚センサー
近接覚センサーをケーシングした防塵タイプも用意した(上)

 また、鏡面や透明物質の取り扱いが可能であったり、現場環境に応じた臨機応変なピックアップが可能になったりといった特徴を持つ。ティーチングの時間や労力を大幅に軽減できるため、迅速な導入や、様々な範囲への柔軟な適用が可能になる。

 また、Think Hand Fでは、柔軟な関節と、3次元の変位計測が可能な近接覚センサーを組み合わせることで、カメラだけに頼らず対象物の形に合わせて、掴み上げることを可能にしている。

ポイントは「異なる種類の部品を柔軟に扱える」こと

 Thinkerの代表取締役兼CEOの藤本弘道氏は、「これまでは、キッティングの自動化が検討されてきたが、異なる種類の部品を柔軟に扱うことができるロボットハンドがなかったこと、それに対応しようとするとシステムが大型化してしまうことが、キッティングの自動化を実現する際に大きなハードルとなっていた。Think Hand Fでは、様々な形状のネジや、うずらの卵などの柔らかい食品なども取り上げることができる。また、近接覚センサーでは、まさぐって取るという部分も、ティーチングレスで行えるようになっている。従来のキッティングの自動化における課題解決を図ることができる」と語った。

 カワダロボティクスのNEXTAGEは、化粧箱の組み立てや個箱詰めなどの工程で活用されているほか、製造工程の組み立てでも利用されているケースが多いという。

 だが、現場を見ると、いつくかの課題が残っているという。

 カワダロボティクス 営業部営業課の寺﨑清課長は、「数多い部品がある現場では、キッティング作業を人手で行っているケースが多い。また、現場にロボットを導入したあとに、対象となる部品が変更になった場合に、ロボットに動作を覚え込ませる必要があるが、プログラミングの知識がなく、苦労している現場もある。NEXTAGEでは、プログラミングの知識がなくとも誰でも簡単に操作できるという特徴を持つが、Thinkerの近接覚センサーによるセンシング機能や、柔らかいものを掴んだり、まさぐって取ったりする機能を使うことで、同じような形状の部品は、新たに学習させずに、そのまま使えてしまうというメリットがある。使いやすさの点で一歩進化させることができる。現場の困りごとに対応できる範囲が広がる」と述べた。

 Think Hand Fは、NEXTAGEのサードパーティー製パートナーオプションに新たに対応したという。SIerを通じた販売などにつながることになりそうだ。

 Thinkerでは、カワダロボティクスとともに現場での実証に取り組み、キッティングの自動化に向けた取り組みを進めていく考えを示している。