イベントレポート

G空間EXPO2015

ヘッドギア型測位デバイスで位置情報をスポーツに活用、誤差10cmの「ウェアラブルRTKシステム」搭載

 地図や位置情報など、地理空間情報(G空間情報)をテーマとした毎年恒例のイベント「G空間EXPO2015」が東京・お台場の日本科学未来館で開催されている。会期は11月26~28日の3日間、開場時間は10~17時。入場無料(日本科学未来館の常設展の閲覧は入場料が必要)。

G空間EXPO2015の展示ゾーン

 同イベントは、地理空間情報の普及促進および関連産業の発展を目的としたイベント。今年は5回目の開催で、地図や測量、衛星測位システム、GIS(地理情報システム)などに加えて、ウェアラブル機器やVR機器、屋内測位、ドローンなどの最新技術や関連機器・サービスが多数出展されている。

 今年のG空間EXPOは、スポーツ関連の展示や講演が多く見られる。まず、企画展示ゾーンでは、フィットネスバイクによる仮想スタンプラリーシステム「うごスタ」を展示。これは、風景映像を鑑賞しながら仮想的にスタンプラリーを行なうシステムで、G空間EXPOのイベントの1つ「Geoアクティビティフェスタ」において、2014年に優秀賞に選ばれた作品だ。今回はフィットネスバイクを用いた実機を展示しており、試乗も行なえる。

うごスタ

 屋外では、高精度に測位できるスポーツ向けウェアラブルデバイスを試すことができる「スポーツ×G空間 未来スーパー陸上体験」も3日間通して行なわれる。この展示は慶應義塾大学大学院神武研究室と東京海洋大学久保研究室による成果で、誤差10cm程度と、一般的なGPSと比べて高い精度で測位できる「ウェアラブルRTKシステム」を搭載したヘッドギアを装着してフィールドを動き、そのログをリアルタイムに見ることが可能だ。

 「RTK」とは「リアルタイムキネマティック」のことで、正確な位置が分かっている基地局においてリアルタイムに誤差量を計算し、その誤差量を測りたい位置で測位した結果に加味することで正確な位置を検出する技術のこと。今回のヘッドギアに搭載されるRTK受信モジュールには、スイスのユーブロックス社が今秋に提供開始したばかりの新製品を採用しており、従来のプロトタイプに比べて大幅な小型化を実現している。ヘッドギアを実際に装着したところ、それほど重量も感じず、動きやすい。初日は雨が降ったため、このウェアラブル機器の展示だけしか行われなかったが、27・28日は天気が問題なければ人工芝を引いて実際に運動できるようにするとのこと。両日ともに時間は午前11時ごろ~夕方までとなる。

「ウェアラブルRTKシステム」のヘッドギア
ヘッドギア装着者の位置情報を高精度に測位

 このほか展示ゾーンでの見どころとしては、屋内位置情報サービスの実証実験コーナーが挙げられる。G空間EXPOでは毎年、Wi-Fi測位による会場のヒートマップ表示が行われているが、今年はそれに加えて、レーザーレーダーを使った人の流れの計測も行われた。この実証実験は株式会社日立情報通信エンジニアリングおよび株式会社ATR-Promotionsの2社によって行われ、日立情報通信エンジニアリングは5台、ATR-Promotionsは10台のレーザーレーダーのセンサーを会場内の各所に設置し、人の流れをディスプレイ上に表示させている。

 レーザーレーダー方式での人流計測のメリットとしては、スマートフォンやBluetoothタグなどの機器を持っていない人の流れもとらえられる点が挙げられる。店舗の入店率の把握やデッドスペースの有効活用、サイネージとの連携による広告表示など、さまざまな可能性が考えられる。

会場内に設置されたレーダーレーザーのセンサー
人の流れを屋内地図上に表示

 一方、今年の実証実験では、BluetoothタグやAndroid端末などの屋内測位機器を貸し出す「G空間EXPO見学サポート」も提供される。BluetoothタグからはiBeaconに加えて加速度、地磁気のデータを取得し、Android端末からは加速度や角速度、地磁気、GPS、圧力、歩数、回転ベクトル、BLE、Wi-Fiなどのデータを取得して、タグや端末を身に付けた参加者の会場内の位置や歩数、移動距離を分析する。これら取得したデータをもとに、その人が長く滞在したブースや、そのユーザーに似た滞在パターンの人が訪問したブースなどの情報を分析し、その結果を印刷して提供する。

Bluetoothタグ
Android端末
長く滞在したブースをもとにおすすめのブースをリコメンドする

 さらに、この実証実験コーナーでは、株式会社構造計画研究所が扱う、独ベンチャー企業のNavVis社が開発したレーザースキャナーシステム「NavVis M3 Trolley」も展示されていた。同システムは、レーザースキャナーおよび全周カメラを搭載し、移動させながら屋内の点群データを計測できるシステムで、従来は手間がかかっていた屋内の3D地図を効率よく作成できる。

「NAVVIS M3 Trolley」

 屋内測位関連の展示としては、このほかにサイトセンシング株式会社のブースにおいて、薄型のPDR(自律航法)センサーを使った「PDR+」というサービスが紹介されていた。6月に開催された位置情報ビジネスのイベント「ロケーションビジネスジャパン」ではモックしか出品されていなかったが、今回の展示ではPDRセンサーの現物を見ることができる。このPDRセンサーはネームタグとして使えるようにクリップが搭載されており、工場などでスタッフが胸や腰に取り付けることを想定している。

薄型のPDRセンサー
PDRセンサーの内部

 また、超音波による屋内測位システムを提供する株式会社エムティーアイも、G空間EXPOの開催にあわせて、「IntraWave」という新たな超音波測位システムを展示していた。同システムは、誤差30cm以内の高精度な測位が可能で、工場や配送ステーションなど、広く天井の高いスペースでも高精度に測位できる。スピーカーから発生される超音波をスマートフォンで受信し、その位置データをサーバーのデータベースで集中管理することが可能だ。同社ブースでは、同システムの超音波発生装置などが展示されていた。

新サービス「IntraWave」の紹介
超音波発生装置

 このほかに注目されたのが、株式会社GISupplyが展示していた台湾GlobalSat社の「LoRA/GPSシステム」。これは、限定されたエリア内で、GPSで取得した位置情報を無線で送信するシステム。都市部で1km程度まで通信可能だという。携帯電話回線などを使う必要がなく、安価に運用できるのが特徴だ。

「LoRA/GPSシステム」

 また、VR関連のサービスとしては、株式会社ゼンリンがサムスン製のVRヘッドセット「Gear VR」を使った3D浸水シミュレーションシステムを展示していた。同社の3D都市モデルデータを使用したもので、愛知工科大学と共同で開発した。HUDを装着することにより、水没した街に立っているかのような感覚を味わえる。

3D浸水シミュレーションシステム
「Gear VR」を装着

 国際航業株式会社のブースでは、26日にグランドオープンした、地理空間情報技術のウェブミュージアム「Museum of GIS Technology(MoGIST:モジスト)」(http://mogist.kkc.co.jp/)の紹介を行っている。同サイトは、ビギナーから専門家まで幅広く楽しめる地理空間情報技術のポータルサイトで、地理空間情報技術にかかわる専門用語の解説や、子供向けの解説コーナーなどを掲載している。展示ブースではウェアラブルデバイスによるAR/VRの体験コーナーも設置されている。

「MoGIST」の紹介

 国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)のブースでは、大量のディスプレイをつなぎ合わせた人の行動分析の環境シミュレーター「AIST-Service Field Simulator(SFS)」を展示。全方位に並べた画面に店舗などの映像を表示して実環境を再現することにより、レイアウト案やサービスを影響する手順などを評価できる。下部に足の動きを捕捉するセンサーを配置しており、その場で足踏みをすると画面に表示された店舗の映像が動き、施設内をバーチャルに探索できる。

 G空間EXPOではほかにも会期中、独創的なアイデアやユニークな製品を表彰する「Geoアクティビティフェスタ」や、教育をテーマとした「Geoエデュケーションプログラム」、地図・位置情報・衛星技術・測量関連のさまざまな講演やシンポジウム、ワークショップが多数開催される。

(片岡 義明)